オレたちは、今、IL奪還というお仕事で、無限城にきています。 なんとなく、もうあと少しでマクベスの元にたどり着くって所です。
原爆っていうのが何なのか、オレにはよくわかんないけれど。 それがもし爆発でもしたら、たくさんの人が犠牲になって死んでしまうのです。 それとILっていうのがどう関係あるのか、いまいちよくわかんないんだけど。 大変なコトになってしまうってことだけは、オレにだってわかります。 だから、とにかくマクベスは止めなくちゃいけないのです。
それはそうと。 マクベスの作るバーチャルは、すごいです。 本物そっくりなのです。 ちょっとやそっとじゃ、見分けがつかないくらいなのですが、だから余計に赤屍さんが大量に現れた時は、もう気を失いそうになってしまいました。 1人でも充分怖いのに、あんなにたくさんいたら、卒倒してしまいます・・!
「銀ちゃん、こっちよ!」 ヘブンさんが、そんな混乱しているオレを、別のドアから呼んでくれて、キキイッパツ! オレは、赤屍さんの大群から逃れることができました。 ありがとう、ヘブンさん! きれいなだけじゃなくて、イザって時には頼りにもなる仲介屋さんなのです。
が、まさかそれまでバーチャルだったなんて! 妙な殺気に振り返ると、そのヘブンさんが、オレに向かってナイフを振りかざしていました!
ひ、ひぇ・・・。
怯んで反応が、100分の1秒くらい遅れたと思った瞬間。
「ボケッとしてんじゃねえぞ、銀次ィ!」
グワッシャ・・・!!
「ば、蛮ちゃん・・!」
蛮ちゃんは、あっというまにヘブンさんのバーチャルを壁にたたきつけて殺害してしまいました。
「うわああ、蛮ちゃんがヘブンさんを殺害したああぁぁ」 「アホ! 見りゃわかんだろ! バーチャルに決まってんだろうが!」
オレ、本当にヘブンさんが殺害されたのかと・・・! 心臓ばくばくしました。 絵的には、とっても怖かったです。
でも・・。 いくらバーチャルでも、そんな容赦なく出来るもんなんでしょうか。
「行くぞ、銀次!」 「う、うん!」
もしも、オレのバーチャルでもそうなのかなーと、なんとなく思ってみたりします。 赤屍さんはそりゃもう、嬉しそうに楽しそうに、オレを切り刻んでましたけど・・! 蛮ちゃんも、スネークバイト炸裂で、オレはどんどんコロされていくのでしょうか・・・。
それを見るのって、なんかやだな。 あんま、見たくない。 蛮ちゃんが、オレを殺すとこなんて、やっぱ絶対に見たくない。
誰だってそうだよね? 大好きな人が、いくら本当の自分じゃないにしたって、自分を殺すとこなんか、普通は見たくないものでしょう。
ああ、どうか。 願わくば、蛮ちゃんの前にオレのバーチャルが現れたりしませんように。
―― って、言ってるそばから、これってアリなんでしょうか!
だ〜か〜らー! お願いしてるんだけど!
マクベス〜〜!!!!
わーん、やめてよおお!!
なんか一気に広いとこに出たかと思ったら、部屋中のオレです、オレ!! オレだらけです!! 100人はいると思われます!
※そうです、オレだって100ぐらいなら数えられるのです! (そういう問題じゃありません)
・・・蛮ちゃ〜ん。
あの。 これ、全部やっつけちゃうんですか?? 赤屍さんみたいに。 スネークバイトで全部・・・。
やだな。 すごくやだな・・。
見たくない。 見たくないよう・・・。
あ、オレ、目つぶってようかな? それともここはオレが戦って、蛮ちゃんに先に行ってもらえば・・・。 でも、オレのバーチャルってことは、電撃はきかないってことだよね・・? 余計元気になっちゃうだけだもん。 ってことは、オレが戦ったって意味ないのです。
どうしよう。
やっぱり、どうしても耐えられない気がしてきました。 吐き気まで、しちゃいます。 蛮ちゃん、オレ、泣きそうです。
「ったく・・・。1人だけでも手がかかりやがるのによー。んなに、銀次ばっかいて、どーするよ?」
蛮ちゃんは、独り言みたいにブツブツ言ってます。 声、怒ってるみたいです。 そっと横から、顔を盗み見ました。 言いつつ、なんか、どこか嬉しそうです。
やっぱ、ここは一つ、一気に全員皆殺し・・・・なのでしょうか? でも、そうしないと、ここを突破できないしね? 邪眼、使い切っちゃったしね?
覚悟を決めるしかありません。 そんなことを言っている間にも、怖い顔をしてオレたちを睨んでいる100人のオレのバーチャルたちは、今にも電撃を出しそうです。
深呼吸。
・・・よし、あとは邪魔になんないとこに下がって、目を閉じておけば・・・。
「ぎーんじv」
「へ?」
蛮ちゃんが、いきなり百人くらいのオレのバーチャルに向かって呼びました。
・・・はい?
いつもの、というより、ちょっとオレがふてくされたりした時に言ってくれる、ご機嫌とり(ゆえに滅多に聞くことのできない)の呼び方です。
なぜに?
と思った途端。
100人のオレが一斉に、にぱっ!!と笑いました。
「蛮ちゃん!」 「蛮ちゃ〜ん」 「ばんちゃあん」 「ばーんちゃんv」 「蛮ちゃああん」
口々に蛮ちゃんを呼びながら、すんごく嬉しそうに蛮ちゃんに近づいてきます。
こ、怖・・・・!
ば、蛮ちゃん、ここはオレにまかして逃げて〜!と言おうとしたのですが、蛮ちゃんはさも嬉しげに、次々と蛮ちゃんの首に抱きついたり、腕にしがみついたりするオレを好きにさせています。
「あ、あの・・・」
はっきり言って、こわいです。 自分が、蛮ちゃんに甘えたり、すりよったり、背中に飛びついたりしている様を見るのは初めてなもんですから! しかも、それがたくさんいるのです。
お、オレっていつも、蛮ちゃんにこんななの???
こんなに、こんなに、やたらめったら、甘えてる??
は、は、は、恥ずかしくない・・・・・??
「ああ! もうウゼェな」
ほ、ほら、蛮ちゃん、怒ってるよ。 面倒臭そうだよ。 やめた方がいいよ。 今に、ゴン!って鉄拳がとんでくるから。
「しゃーねえな! まとめて面倒みっか」
「はい?」
蛮ちゃんが、100人のオレに向かって言います。
「いっしょに来っか?」
「うん!」 「うん!!」 「うん!!!」 「うん・・っ!」 「うんっ」
そんなにみんなで返事しなくても。
「んじゃあ、ついてきな・・!」
「わーい」 「わぁい」 「わあい」 「わーぃい」 「わぁーい」 「わあい、わぁい」」
え、ちょっと・・!
ちょ、ちょっと、待って! そそそれは、オレの蛮ちゃんでしょうに!! いくら、オレのバーチャルでも、オレの蛮ちゃんとらないでよ〜! あ、でも本当はオレだから、とられたことにはならないの??? でも、バーチャルってのはオレだけどオレじゃないわけで、でもデータはオレだから、やっぱオレ??? ああ、わかんない〜!!
「おい、ぼけっとしてるそこの銀次もついてきな!」
「え? オレ? オレのこと?」
「おうよ、行くぞー!」
「はーい」 「はい」 「はあい」 「はーい」 「はい」 「はあい」
なんか頭が混乱するオレをよそに、100人のオレを周囲にぞろぞろとはべらせて、蛮ちゃんが歩き出します。
「なーんか、こういうのも悪くねえなあ」
ハーレム状態だぜ。 とか、何とか言ってるのが聞こえたけど。
は、はーれむ?
悪くねえって! わ、悪いよ、これからてんとう虫くんでどうやって寝るの・・! 第一さ、 蛮ちゃんに甘えたくても、順番なかなか回ってこないし〜!
ごはんだって、今までもろくにあたってなかったのに、101分の1になっちゃうんだー! ってことは、トロとかウニとか、どーなんの! 蛮ちゃんと、二個ずつにしてたアレは、いったい! 2個を101人で割るの? ムリムリ、そんなの絶対無理! オレ、計算できないし! どっちにしたって、1人余るから、もしかしてオレはガリだけ?! 焼き肉だって、オレが焼いてるそばから、そばから、みんな食っていっちゃうんだ〜! オレのバーチャルだもん、きっとたくさん食べるにちがいないよ! ショートケーキだって、イチゴ絶対食べられないじゃないー! 今までだって、オレ好きなの知ってて、蛮ちゃん、すぐに取っちゃうし! コーヒーだってさ、 デラックス弁当だってさ、 ハンバーガーだってさ。
あたんないよ、 あたんないよ、きっと!
どーなんの、オレ!
・・・って。 オレ、さっきから食べることばかりです・・・。 ああ、もう。
まあね、こんな風に大勢で暮らすのも、確かに悪くはないけど・・。 でも大半がオレ、っていうのはちょっといやです。 せめて、この半分くらいが蛮ちゃんだったら、いいのですが!
・・・・・・・。
けど。
蛮ちゃんは、次々に甘えてくオレに、口では迷惑そうにしながらも、目はずっとやさしいです。
いつも、こんな風にオレをみてくれたの? そんな包み込むような、やさしい目、してたの? ゴン!って、殴る時も、そんなやさしい顔で笑ってたんだ。
「んだよ、抱きつくなよ」 言いつつ、嬉しそうです。
「暑苦しいっての」 でも、迷惑そうじゃないのです。
「重ぇよ」 けど、笑っているのです。
「こら、どこさわってんだよ」 それでも好きにさせてくれます。
「バーカ」 優しい目、優しい声。
オレ、しあわせです。 いつも、こんなにしあわせそうに、 蛮ちゃんに甘えて、たわむれて、 蛮ちゃんに、やさしい目で見てもらって、 頭、くしゃくしゃ撫でられて。
・・・すごく、しあわせです。
なのに。
泣きたいのは、どうしてでしょう?
泣きたいっていうか・・・。
他のオレに混じって笑ってるケド、本当は泣きたいです。
蛮ちゃん・・・。
蛮ちゃん。
オレはここだよ。
本当の。
本当の、オレはここだよ。
笑ってるけど、
本当は、
そばにいけなくて、
そばにいきたくて、
とても、淋しい。
とても、
とても、
とても淋しいんだよ、蛮ちゃん・・・。
「なぁに泣いてんだよ? ぎーんじ?」
・・・え・・・?
「こら、そこのホンモノ。泣いてねぇで、とっととオレの隣に来いっての!」
蛮ちゃんが、突然振り返って、オレに向かって手を差し出しました。 ぱあっと、目の前のオレのバーチャルたちが二手に分かれて、オレの前に道を作ってくれます。
「蛮ちゃん・・・」
オレが、わかるの? オレ、だって、みんなと同じように、笑ってたよ? 心の中では泣いてたけど、オレ、ちゃんと顔はしっかり笑ってたよ?
そんなオレをよそに、蛮ちゃんは今度はオレだけを真っ直ぐに見つめて、こう言ってくれたのです。
「やっぱ、銀次は1人で充分だよなァ」
その途端。 100人のオレが、まるでオレを映す鏡のようににこっと嬉しそうに微笑んで、それから、ブワァ・・ッ!と一瞬で、一斉にその場から消えてしまったのです。
え? どうして・・?
呆然としているオレに、蛮ちゃんがそばに歩み寄ってきました。 ゴン!
「いてっ!」 「バーカ、何やってんだ、テメエは!」 「あ・・・うん」 「ったくなあ、ホンモノがバーチャルに遠慮してどーするよ?」 「え、だって・・。蛮ちゃん、楽しそうだったし」 「ホンモノほっぽって行って、バーチャルとつるんで楽しくたって、しょうがねえだろが?」 「うん・・」 「そういうコトを、テメエはあのパソコン小僧に伝えにいくんじゃねーのか?」 「そ、そうだけど・・・」 「だったら、もっとピシっとしろ!」 「う、うん」 「おら、行くぞ!」 「うん・・!」
叱りつけるように言いながらも、蛮ちゃんはオレの手をひっぱってくれます。
そうです、 そういうことを、マクベスに伝えなきゃいけないのに。 大事なことを、忘れてました。 思い出させてくれて、ありがとう。蛮ちゃん。
オレは、いつまでもダメですね。 蛮ちゃんは、初めて会った時といっしょで、いつもちゃんと自分の立っている足下をしっかり確認しているのです。 本当のことをいつもちゃんと見分ける、鋭くて、それでいて暖かい目を持っているのです。
オレも、しっかりしなくちゃ。 マクベスの目をさまさせられるくらい、しっかりするんだ。
でも、その前に。 一つだけ、聞いていいですか? 蛮ちゃん。
「ねえ、蛮ちゃん」 「あ・・?」 「あんなにたくさんオレのバーチャルが居た中で、どうして本物のオレがわかったの?」
不思議そうに尋ねるオレを振り返って、蛮ちゃんは、吸いかけの煙草を指に取って、さもおかしそうに笑って教えてくれました。
「テメエが、一番間抜けヅラしてやがったからな」
END
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アニメ感想ニッキの中でちょこっと書いたショートコントをSSに書き直してみました。 いや、結構愉しかったのでv ちょっとシリアスにもなってしまいましたが。
これで、「101匹蛮ちゃん」とかも一瞬考えましたが・・・。 怖くなって、やめました。 ・・・銀ちゃん、壊れちゃいそうです・・。(いろんな意味で) でもって101人蛮ちゃんの、「銀ちゃんの争奪バトル」とかに発展していきそうだし! 今夜は誰が銀次の相手をするか!とか・・・。はははは・・・。(渇いた笑い)
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