(マガジン18号の激しくネタバレSSです! まだマガジン読んでない方で、ネタバレはイヤー!という方は絶対読まないでくださいねv!)
「やめろ、銀次!!」
叫ぶなり、雷帝化したヤツの回りでピシッ!とプラズマが弾けた。 「あ・・・」という声に、オレの声が届いたかと思った瞬間。
「ウワアアアアア・・・・ッ!!」
ヤツの身体から放出された凄まじい雷が、辺り一面を、その強烈な閃光で真っ白に覆った。
「やべえ・・! 卑弥呼、加速香だ!!」 「蛮・・! あんたは!?」 「オレの事は心配ねえ! 早くしろ!!」 「わかったわ・・!」
次の瞬間、轟音とともに大爆発が起こり、オレはその中心にいながら、火を噴いて崩れていく床に、ゆっくりと足を掬われるようにして気を失っていく銀次を両腕に抱きとめ、猛然と業火の中を脱出した。
振り返れば、その背後で「羅網楼」が、上半分を炎に包まれたまま崩れ落ちていくのが見えた。 爆発は、むろん、そこだけでは収まりきらず、チャイナストリートの至るところで火の手が上がっている。
「蛮・・!」 「卑弥呼。無事だったか」 「何とかね。けど、いったい・・・。ここまで凄いことになっちゃうなんて、コイツ・・。いったいどうしちゃったの?」 「・・・ああ。とりあえず、ここにいちゃヤべえな・・。路地裏に回っか」 「うん」
細い薄汚れた路地裏に回り、銀次を腕に抱いたまま、建物の影に座り込む。 1つ大きな通りを挟んだ繁華街は、消化活動を行う消防車やパトカーのサイレンが鳴り響き、その音を聞いているだけで頭の奥がぎりっと嫌なカンジに痛んだ。
「・・ねえ、蛮・・」 「悪ィけどよ、卑弥呼」 「・・え?」 「被害状況、見てきてくんねえか? ケガ人とか、それから・・」 言葉を濁したオレを見て、言いたい事を悟ったらしい沈痛な面持ちで卑弥呼が頷く。 「わかったわ・・」 「頼むな」
路地の外へと駆けていく卑弥呼を見送り、それから腕の中でぐったりしている銀次を見下ろす。 立てた片方の膝の上に上体をもたらせかけ、できるだけ楽な姿勢を取れるように足を伸ばさせて、頭を胸に抱き寄せる。 エネルギーの過剰な放出のせいか、抱いた身体はひどく冷たかった。
青白い顔を見つめ、額にかかる前髪をそっと指先で掻き上げる。 薄く開いた唇も、色を無くして白い。
「バカ野郎が・・・」
あれほど言っておいたじゃねえか。 「雷帝」は諸刃の剣だと。 敵を灼き尽くし消滅させる代わりに、てめえの身体も同時に灼き尽くすんだと。 目に見える傷は雷帝化で治せても、目に見えねえ無数の傷をテメエの心と身体につけるんだと。 ちゃんと、教えておいたじゃねーかよ。
『猿マワシの依頼受けるのは、いーけどよ。テメエ、わかってんな。今度もちゃんとオレとの約束をだな』 『わかってるよ、蛮ちゃん! マリンレッドの時もちゃんとナらずに切り抜けられたし、だーいじょうぶだよ!』 『あん時ゃあ、その分オレが・・! ・・まーいいけどよ。わかってんなら』 『うん!』 『けどな。銀次・・』 『うん?』 『これだけは、覚えてとけ。”雷帝化”はテメエにとっちゃ”諸刃の剣”だっつーことをな』 『もろは・・?』 『あ? ・・だからよ、一方ではプラスになるが、逆にその他方ではマイナスになる危険を持ってことだ。わかっか?』 『うん・・』 『”雷帝化”することでテメエは無敵になれっけど、その分、テメエの身体への負担も大きい。無限城の外なら尚更だ。一回全身虚脱で入院したろ?』 『あ、でもアレは、電線に感電したら直ったよ?』 『毎回、そうじゃすまねえってことだ。今にテメエの身体は”雷帝化”によってコワされる。そうなってからじゃ、遅・・! 聞いてんのか、テメエ! 何ニタニタしてやがるんだよ!』 『だってー! オレ、嬉しい!! 蛮ちゃんが、そんなにオレのこと考えてくれてるなんてさー!』 『あーのなー・・』 『蛮ちゃん、大好き!!』 『うわ、運転してる最中に抱きつくなっての! だから、わかったのかよ!? もし、命に関わるような事になったりしたら・・』 『うん! わかったよ、蛮ちゃん! オレ、ナらないでも勝てるように頑張るから! 』 『・・・本当にわかったのか?』 『うん、わかったってば! 雷帝化は、”モロヘイヤ”なんだよね!!』 『ちっともわかってねーじゃねえか! ”諸刃の剣”だっつーんだ、このボケがぁ!!』 『いだだだだ〜!! ごめ゛んなさ〜い゛!!』
オレが。 そばにいてやりゃ、よかったな・・・? 特に、相手がオンナとくりゃあ、余計に危なっかしいのによ。
何、言われたよ? あんなになっちまうぐれえだから、相当、心も身体もダメージを受けたんだろ。 何があった・・?
まったくよ。無限城で育ったというのに、テメエは、つまんねーとこで純粋培養だかんな。 また、蜘蛛オンナに騙されたか? いい加減おぼえやがれ。 誰もがテメエみてえに、やさしい、あったけえ心を持ってるわけじゃねえ。 テメエのソレが、まっすぐに、届いていかねえヤツだっていんだ。 その度、傷ついてズタボロになってくテメエを見なきゃならねえ、オレのツラさもちったぁわかれよ?
思いつつ、そっと背中に腕を回して体ごと抱きしめる。 「銀次・・」 愛おしむように、やさしく髪を撫でて、冷たい頬にそっと唇を寄せる。 「銀次・・・」
ずっとこうしててやりてえよ。 テメエの心の傷が癒えるまで。 奪還の仕事なんか、蹴散らして、よ。
コドモみてえな無垢なカオで、寝息をたてているオマエが今はつれぇよ。 出来ることならこのまま、この際何も起こらなかったことにして、事が収まるまでずっと眠らせておいてやりてーな・・。
思って、自分でおかしくなる。 いつからこんな甘ぇ男になっちまったんだろう、オレは。
それでも。 体温が奪われただけで、命まで奪われてかなくてよかった・・。 業火の中で崩れ落ちていくオマエを見た時は、マジでぞっとした。 まさか、オマエを失うのかと・・・・。 力の解放で、オマエの身体まで溶けて消えてしまうんじゃねえかと。 正直、怖かった。
どっちにしても。 あんな無茶な力の放出をしては、当分、フツーに電撃すら出せねえだろう。
こんな状態で。 連れてくわけにゃ、いかねーな・・。
第一、この街の惨状を見て、コイツが正気でいられるワケがねえ。 平気そうなツラしてやがっても、落ち込む時はとことん落ち込みやがるから。 それを気取られないようにしてりゃ、余計にそこに付け入られるスキも出来る。 ・・・・危険すぎんな。
とにかく、この爆発で、死人が出てねえことを祈るばかりだ。 もしも、罪のねえ一般人が犠牲になったりしてたら、ましてやそれがオンナや子供だったら、 コイツは一生苦しんで生きてかなきゃなんねえ。 それだけは、どうか・・・。 そんな背負い切れねえような重い荷物を、テメエにだけは担がせたくねえから。
そんな風に、オマエが悲しむ姿なんざ見たかねぇんだよ・・。
「ったく・・・。どこまで、メンドーかけやがんだか・・・」
「・・・!」 近づいてくる足音と卑弥呼の気配に、そっと地の上に銀次を寝かせる。 ずっと抱いててやりてえけどな。 ま、そういうワケにもいかねーかんな。
「蛮・・」 「卑弥呼。どうよ? 被害状況は、よ」 「うん。とりあえず、死者が出てないのが不幸中の幸いだったって。怪我人もほとんどが軽傷で、なんだかこれだけの大爆発の割には、被害に遭った人が・・・ くわしい数まではわかんないけど、少ない方でよかったって。でも、建物の損壊はかなり酷いわ。それと火事がまだ・・。建物が入り組んでるから、消火活動がおっつかないらしくて、新たに応援の放水車が来てた。」 「そっか・・・」
それでも、死人が出なかった事に、とりあえずは心から安堵する。 卑弥呼も、オレが一番知りたかった事を察していたらしく、ほっとした顔で少し離れて横に腰掛けた。
「それより・・・コイツ、大丈夫なの?」 「ああ・・。たぶんな」
あんま大丈夫でもねえだろうが。
それにしても。 雷帝化しても、無限城にいた時以外ではコイツはある程度、力の制御が出来てやがったはずだ。 にも、かかわらず。 こんな大規模に被害が出るほど、制御不可能なくらいの力を出し切ってしてしまうなぞ、どうしても府に落ちねえな。 やっぱ、”裏”が動き出してやがんのか・・。
んなら。 尚のこと。
今のままの、テメエじゃ駄目だ。
「ん・・・・」
小さく身じろぎして、銀次がゆっくりと目を開ける。
「あ・・・れ・・・ ここは・・・?」 不安げにあたりを見回し、オレに気がついて、問うようにオレを見る。
「蛮ちゃん・・・」 「・・・・・・」 「そっか・・・ オレ・・・ また雷帝になったんだ・・・ 雷帝になって―― それで・・・」
何も言わないオレに全てを察したのか、愕然としたように、炎の上がる街を見上げる。
痛ぇな・・・。
「銀次ィ・・」
それでも。 テメエに、してやんなきゃなんねえことがある。
ちっとばかり、キツイが。 我慢しろよ。
「!?」
――ガッ!!
いきなり、思いきり殴りつけられて、吹っ飛んだ銀次が驚いたように瞳を見開いてオレを見る。 「・・・蛮ちゃん!?」 「テメェ、調子こいてんじゃねえぞ。あんなガスタンクみてーな危なっかしい違法ビルん中で雷帝なんぞになりやがって!!」 「で、でも殺されかけたし・・・自分でも、何がなんだか・・」 「いいワケすんな!!」 殴られ怒鳴りつけられて、見る見る涙が滲むでっかい目に、心の奥がずきんと痛む。
無限城で初めて出会ったあの日を最後に。 一度だって、こんな風にはテメエに手を挙げたことなんてなかったから。 コッチだってな。 テメエを殴った手が痛ぇんだ。 ばかやろう・・。
抱きしめてやることなんか、いくらでも出来る。 甘やかすことも、今更たやすい。 だけど、それで何になる。 つらかったな、よしよしと、頭を撫でてやって、それでテメエの傷は癒えるのか。
克ちてえんだろ、雷帝に。 だったら、向き合え。 逃げずに、オレに殴られた意味を考えろ。
「オメーは来んな」
「えっ・・・」
「足手まといだ」
「そんな・・。もう、大丈夫だよ!! 身体もなんともないし・・・」
なんともあるだろーが。 自分のコトぐれぇ気がつきやがれ、アホが。
「だったら電撃トバしてみろ。おもいっきし」 ぐっと銀次の手首を掴んで、自分の胸元に引き寄せる。 「え・・・」 「いいからやれよ」 「ちょ・・ちょっと蛮」 「ウルセー だまってろ。やれよ銀次。それとも嬢ちゃん奪り還すってのは口だけか?」 「う・・・」
バカ銀次。 そこまで言わすな、オレ様に。
キツイ台詞に、歯を食いしばるカオが痛々しい。
・・怖ぇかよ、銀次? 電撃が出来なくなってりゃ、テメエはまったくの丸腰状態だ。 まさか、そんなこと・・と恐れを抱いているのが手に取るようにオレにゃわかる。 オレを電撃でブッ飛ばすことより、オレが自信満々にそう言ってることに怯えている。 もしも、本当にそうだったら・・と。
かわいそうによ・・・。
なんて。 オレは今、どんなカオをしてるのだろう。 まさかコッチのが泣きそうな顔してんじゃねーだろな?
銀次が唸るように声を上げながら、オレの胸にある手に力を集中させる。 本来ならこんな距離で、しかも心臓の近くに思いきしの電撃を喰らえば、こっちの命すら危ないとこだ。
・・・が。 予想通り、銀次の身体から、電撃は放たれなかった。
「電撃が―― 出ない・・・」 力がなくなってしまったことに愕然とする顔に、震える瞳に、追い打ちを掛けるように言い放つ。
「どうした。そんだけか?」
まだ・・と言うより先に、掴んでいた銀次の腕の振り払うようにして、路地の向こうにその身体ごとふっ飛ばした。 ゴミ箱がひっくり返り、ゴミがそちこちに散乱する。
おあつらえむきだ。 冷たい言葉を吐き捨てられるにゃ。 似合いすぎな、惨めったらしいシチュエーションだぜ。
「失せろ」
「テメエは、使いモンになんねーよ」
――― 銀次の瞳から、光が消えた。
見ちゃ、いられねえ・・。
力無くへたり込む銀次に背を向け、歩き出す。
「蛮ちゃあああああああん!!」
オレを呼んで、泣き叫ぶ声が背中から刃のように突き刺さる。 捨てられたとでも、思ってやがるのか。
何が「力がなくなったら、一緒にはいられないの?」だ! アホが。
コッチだって、 大概、ギリギリなんだぞ? テメエの泣きっ面見て、オレが嬉しいとでも思うのか。 けども、そうでも言わなきゃ、テメエ無理してでもついてくるじゃねーのか? 駆け寄って、「とっとと来い、このバカ!」と手を差し伸べたら、きっと犬みてーに飛びついてくるんだろうが。
テメエの身体がそんなじゃなかったら、 この先に底のない危険が待ってるとかじゃねえんなら。 力があろうがなかろうが、そんなことは関係ねえだろ。 テメエ以外に、オレの隣はいらねぇんだ。 どこへだって道連れにして、力の足んねえ分は、オレが必ず守ってやる。
けどよ、今は・・・。
一旦立ち止まると、銀次を待ってしまいそうな自分がいて、それを振り切るように大股に足早に歩いている後ろから、追いついてきた卑弥呼が呼ぶ。 「蛮・・!」 「・・・・・」 うるせえ。 「ちょっと、蛮」 ウルセエっつってんだろ。 何度も呼ばれて、うるさげに返事を返す。 「・・あ?」 卑弥呼がその振り返った顔に、ため息をついて肩をすくめる。 「どうでもいいけど。カッコつけといて、今更落ち込まないでよね」 「んだと! べ、別にオレはな・・!」 「よく、あんな事言えたもんだわね」 「・・・しゃあねーだろ。足手まといになるヤツを連れていけるようなトコじゃねえ」 「そりゃそうだけど」 「文句があんなら、テメエも別に着いてくるこたぁねえんだぜ?」 「文句があったって、あたしも一応仕事なんだからしようがないでしょ」 「・・・・ケッ」
「でもさ」 「・・・・あ?」 「あんたって本当に」 「・・・んだよ」 「アイツのことが大事なのね?」 「・・・何言ってんだ。このオンナはよ」 「切り捨てる気だったら、あんた、ワザワザあんな事言ったりしないでしょ?」 「・・・・誰がアイツを切り捨てるなんつったよ・・」 「あ、そう」 不機嫌に睨みつけると、あっさりと返された。 それに小さく舌打ちしつつ、さっさと話の矛先を変える。 「・・あ、それよか卑弥呼。猿マワシのヤロー、えれーヤツまで仕事依頼したって話じゃねーか」 「あ、赤屍のこと?」 「ちっと連絡しとけ。どーせ、嬢ちゃん見つからねーうちは運ぶモンもなくて、今ヒマしてやがんだろ?」 「いいけど。なんて?」 「ホンキートンクにウゼェ虫が行きやがるだろーから、始末しとけってな。チャイナストリート焼いといて、体調不良だからって見逃してくれるよーなヤツらじゃねえだろ?」 「つまり天野銀次を護って、体調戻ったら運んで来いってワケなのね?」 「誰も、んなこと言ってねーだろが!!」 「はいはい」 呆れ顔でケイタイを取り出す卑弥呼を横目で見つつ、銀次を置いてきたチャイナストリートを肩ごしにちらりと振り返る。
銀次の叫びが聞こえる。
まだ泣いてやがるのかよ・・。 とっとと、帰れよ、バカ。 糸巻きも、何してやがる。 さっさと連れてけってんだよ。 そこにいちゃあ、危ねえだろーが。
ぎーんじー?
銀次。
泣くな・・・。
いつまでも、泣いてんじゃねーよ。アホが。
ちゃんと待っててやっからよ。
腹いっぱいになって、 ココロもカラダも元気になったら、
しっかり追いかけて来い。
いいな・・!
GETBACKERSの"S"は、1人じゃねーって意味なんだからよ。 テメエがいねえとよ。
1人じゃ、カッコつかねーんだよ。
わかったかよ、このボケ・・!
END
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 思い切りネタバレでスミマセン! どーしても、どーしても書きたかったので! 実はこういうネタで、夏コミ用の本の小説を考えていた私なのですが。 まさか原作に先を越されるとは・・! 夏コミ本に何を書けと!?(いや、そういう問題では・・)
しかし、スゴイです。 なんだかマガジン18を読んで、こんなに想われてる銀ちゃんが、ちょっと羨ましかった。 でもでも、もしかして「冷たすぎるよ、蛮ちゃん!」と非難が飛んでは蛮ちゃんがかわいそう・・と、つい応援SSみたいになってしまいました。 ちなみに、銀ちゃんが「ん・・・」と気がつくところから、「蛮ちゃああああん!!」の叫びまでは、原作そのまんまです。 どんどん同人の上をいく原作! 最後で赤屍さん登場なのは、実際は、誰が寄越したのかは、まだわかんないです。 でも、電気出せなくなってることを知ってたし、士度が仕事依頼してたのを卑弥呼ちゃんが知ってるはずだから、もしかして・・・とも思ったのですが。アリスちゃん(博士)とかだったら、かなりイヤ・・・。 こればっかはわかりません。同時にいくつも仕事掛け持ちしちゃう働き者のバネさんですから! ・・・・ちょっと間違ってる? (くわしい感想は、感想ニッキで・・。って、まだ語るのですか、私!)
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