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風太
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2002年12月31日(火)
ココロの指定席2


「蛮ちゃん!!」
「おう、銀次」
「おかえりー! 何も言わずにどっか行っちゃったから心配したんだよお」
ホンキートンクに入るなり、子犬が尻尾を振って飼い主を見つけて駆け寄ってくるような、満面の笑みで腕に抱きついてくる銀次を、蛮がやれやれ・・という顔で見つめた。
「大のオトコが、んなことで、いちいち心配すんじゃねーよ」
「アンタが、ほってくからでしょー」
横から、カウンターに頬杖をついて、ヘブンが呆れたように言う。
「よお、ヘブン。おっ、何だよ仕事かぁ?」
「ちょっと、士度クンのことで話があっただけよ。そしたら、銀ちゃんが”蛮ちゃんがいない〜”って」
「だって、こんな時だし・・。心配だったんだもん・・」
「ちょっといなくなったからって、本当にテメーはよー・・」
コドモのような目で見つめてくる銀次に、蛮がコツンとその頭を拳で殴りつつも、やさしい目をして笑みを浮かべる。
それに、安心したように銀次が笑った。
「ちょっとやーね! アンタたちって! 何、人前で堂々とオトコ同士でいちゃついてんのよ!!」
蛮の後ろから扉を開けて入ってくるなり、いきなり目に入ってきた蛮と銀次のじゃれている姿に、ムッとしたように卑弥呼が怒鳴る。
「あら、レディポイズン。蛮クンと一緒だったの?」
「別にィ。ちょっとソコで会っただけよ」
「ふうん」
「ちょっと何よ、仲介屋! 喧嘩売ろうっての!」
「喧嘩って、アタシは別に何も言ってないじゃない!」
「今なんか、言いたげにさ!」
いきなり、噛み付きだしたオンナ二人に、ぎょっとしたように慌てて銀次が(よせばいいのに)止めに入る。
「ちょ、ちょっと二人とも、なんで会っていきなり喧嘩すんのー。仲良くしようよ、ねっ。卑弥呼ちゃんも」
「気安く呼ばないでよね! だいたい、なんでアンタに”卑弥呼ちゃん”なんて呼ばれなきゃなんないのよ! 気持ち悪い!」
「き、気持ち悪・・」
「ああ、もう、アンタのそういう間抜けツラ見てっと、なんかむっしょーに腹がたってくるわ!!」
「・・・かなり機嫌悪いわね。アンタ・・ オトコにでもフラれたの?」
「うるさい! 関係ないでしょ、この乳デカ女!」
「な、なんですってええ! それは、胸のナイもんのヒガミってもんでしょーが!!」
「何ィ!?」
「やる気?!」
「上等じゃない! オモテ出なさいよぉ、オモテー!!」
「・・・・・あ、あの」
「いいから、ほっとけ、銀次」
「え、でも、蛮ちゃん」
「いいからいいから。んじゃな、波児」
「お、おい蛮! なんとかしてくれよ、おい!」
波児の助けを求める声をシカトして、銀次の腕をひっぱって蛮がとっとと店を立ち去るべく、扉に手をかける。
「で、でも蛮ちゃん」
「おら行くぜ、銀次」
「あ、でも、なんで卑弥呼ちゃん、あんなに怒って・・・」
「知らねーよ。ハタ日なんじゃねーのかあ?」
「は・・・?」
「ほら、オンナはよー、月に一回・・」
「蛮―――!!!」
蛮の台詞にかぶるようにして、真っ赤になった卑弥呼が怒号を上げる。
蛮はそれにけらけら笑いながら、銀次をひっぱったまま、店の外に出た。
「怖ぇ・・。おら、行くぜ」
「え? うん・・・」
まだ何か言いたげな銀次の後ろで、物が壊れる派手な音がして、波児の悲鳴がこだました。



スタスタと行ってしまう蛮を追いかけて、スバルの駐車場所まで辿り着くと、さっさと運転席に滑り込む蛮に慌てて銀次もそのサイドシートに転がり込む。
そう、自分の指定席に。
「何、慌ててんだよ?」
「え? だって・・。置いてかれるかと」
「バカ。置いきゃしねーだろ?」
「・・うん」
いつになくやさしく言われて、銀次がちょっと驚いた顔をして、シートに坐ってベルトを締める。
蛮は、どこに行くとも告げるわけでもなく、車を発進させた。
走り出す車の中で、銀次が蛮を見ながら、ちょっと悲しそうに言う。
「ねー、蛮ちゃん」
「あ?」
「卑弥呼ちゃんはさー、どうしてあんなにオレのこと嫌うのかなー?」
唐突な問いに、蛮が驚いたように銀次を見る。
「別に。単に虫の居所が悪かっただけだろ?」
あっさり返され、ちょっともじもじしながら、銀次が蛮を見た。
「・・でもさー。あ、、さっきまで一緒だったんでしょ? 何か言ってた?オレのこと」
「いや、仕事のハナシしてただけだ。色々、あんだよ、運び屋業界ってヤツもな」
「そっか・・・。でもさ、卑弥呼ちゃんってさ、蛮ちゃんのコト好きなんだよね?」
またしても唐突な問いに、蛮が思わずアクセルを踏み込んでしまい、車がギギィインといきなりスピードを増す。
何をいきなし言いやがるんだ?
卑弥呼よりも、精神年齢じゃ全然お子サマの癖しやがってよ・・!
と、内心焦りつつ、思わず怒鳴る。
「あ゛あ゛?! 何言ってんだ、テメー! んなわけねーだろ、アイツとオレとは兄妹みてーなもんだしよ!」
「でもほら、蛮ちゃんが、そうでも卑弥呼ちゃんはさー・・。だから、いつも一緒にいるオレが疎ましいっていうかさー オレがいるから、蛮ちゃんと二人きりになれないし・・」
・・・へえ、オメエにしちゃ、えらくマトモな考察だ。
まあ、そんなとこもあるだろーが、本質的にゃそういうコトじゃなくて、だな。
言いかけて、次の銀次の一言に、蛮ががっくりと肩を落とした。
「蛮ちゃんも、オレがジャマな時あったら、遠慮しないで言ってよね? オレ、鈍感だから気がつかなくてさ」
・・・・ほら、やっぱりはき違えてやがる・・・。
卑弥呼が仮にオレに惚れてるとして、そんで八つ当たりされてるってのは、確かにテメエが原因なんだが、なんでそういう結論になるよ?
オレの気持ちがどっち向いてるとか、そういうハナシにゃ、ならねーか?
この鈍感!
「いてっ!! な、なんで、いきなり殴るの〜!」
「なんか、ムカついた」
「なんかって、ねえ・・・!」
殴られた頭を押さえて蛮の方に身体を向けて、銀次がちょっと何かに気づいたような顔になる。
後部座席から、卑弥呼の香水の匂いがする・・。
・・あれ? オレいなかったのに、何で後部座席?? 
隣に坐らなかったのかな?卑弥呼ちゃん。
思って、つい、不思議そうな顔で蛮を見た。
「・・・・んだよ」
「え・・・・あの」
「言いたいことがあったら、はっきり言いやがれ!」
怒鳴られて、思わずビクついて、ついつい思っていることがそのまま口から出てしまう。
「あ・・・あの、蛮ちゃん。蛮ちゃんて、オレいない時も、誰かスバルに乗せる時は、ココに誰も座らせないんだって、ヘブンさんが言ってたけど・・・? それって」
銀次の口からついて出た言葉に、蛮が思わずムッとなる。
・・・ヘブンのヤツ、余計なことを・・!
思いきし、チチ揉むぞ、テメー。
事実とはいえ、本当のことだけに、誰かに指摘されるとどうにもこうにも腹が立つ。
「運転してる時に、隣に誰かいやがると気が散んだよ!」
「え〜!ってことは、オレも後ろに行った方が・・」
「だ〜! そうじゃなくてよ!」
「だって、気が散るって」
「だからよ、最後まで聞けって、このドあほ!! テメエ以外のヤツがそこに坐ると、なんかわかんねーけど苛ついちまうって、そう言いたいんだよ、オレは!!」
蛮にがなられて、銀次がきょとんと目を丸くする。
「オレは・・・いいの?」
「ったりめーだろが」
「なんで?」
「なんでって。テメエの指定席だろが、ソコは!」
言うだけ言って照れたように、暗くなってきた運転席側の窓にフイと顔を背ける蛮に、銀次が呆然としたようにそれを見つめ、それからゆっくりと笑顔になる。
「・・・蛮ちゃん・・」
「オレ様の隣にそうやって居すわってられんのは、テメーぐれえのもんだ。光栄に思えよ」
「うん!」
ハンドルを右にきりながら、隣のシートをちらっと見る。
・・たく、嬉しそうな顔しやがって。意味わかってんのかよ?
それから、たぶん銀次のことだから、訊きたくてもきっと聞いてこないであろうコトも、ついでだからと一緒に答える。
「卑弥呼んことは・・・・オレにとっちゃあ、親友の忘れ形見みてえなもんだから」
「うん・・」
「気にすんな」
「蛮ちゃん・・」
「あれで、結構テメエのことは気にいってんだ。意地っ張りなのと、ちょっとヤキモチやいてやがるだけさ」
「・・・うん。だったらいいけど・・・・ あ、でも、きっとそうだね」
「ああ」
蛮の言葉なら何でも信じると、そう言いたげに頷く銀次にやさしい瞳を返して蛮が言う。
「なあ、銀次」
「ん?」
「オレの隣は、テメエの指定席だっつったろ?」
「うん!」
「誰かに譲れとか言われても、安請け合いすんじゃねーぞ。オレは、ぜってぇに、オメー以外のナビなんていらねーんだかんな!」
蛮の強い言葉に、弾かれるように銀次が頷く。
「うん!!」
それに満足げに笑みを返すと、蛮がハンドルを持つ手を持ち替えて、左手でくしゃくしゃと銀次の髪を掻き混ぜた。
そして、思う。
ま、ナビっつっても、地図もロクに読めやしねーんだけど。
どっちが北か南かもよくわかってねえしよ。
それでもいいんだ、そういうポンコツナビでも、コイツがいいんだ。
どんなに狭い車で、肩の触れ合うくらいの距離にいても、1人で乗ってる以上に、銀次の隣でハンドルを握るのは心地がいい。
「蛮ちゃん・・」
「あ?」
「あんがとね?」
「何言ってんだ、バーカ」
肩をすぼめるようにして、ちょっと頬を染めて満面の笑顔の相棒に、蛮はやさしげに微笑むとコン!とその頭をこづくと、照れ隠しのようにアクセルを踏み込んだ。

・・・スバルが、夕闇の街の中に消えていく。





「しかし、アンタもまー、惚れた相手が悪かったわよねぇ・・」
「あ、あたしは別にさー!」
「まーしょーがないじゃない。アイツらは、二人で1人みたいなとこあるからー」
「・・・・・・・・・・」
「でも、まー。アンタもさあ、レディポイズン。けっこうカワイイんだし、もーちょっとその意地っぱりで気の強いとこ何とかしたらさあ、なかなかイケてると思うけどなー」
「そ、そう? そう・・かな」
「そうよ! これからよ、これから! これからアンタが、どんどんイイ女になってきゃあ、そのうち蛮クンも振り向いてくれるわよ」
「う。うん・・!」
「ま。今夜は飲み明かしましょーよー つきあって上げるからさあ」
「そ、そうね。アンタ、見かけによらずにいいヒトよね、仲介屋!」
「見かけによらずは、余計だけどねー」
すっかり夜も深まって、あれからなんだかんだと言いつつ、酒を開けだしたオンナ二人は、同じような会話をぐるぐる繰り返しつつ、すっかり上機嫌に出来上がりつつある。
「ねー、これからさあ、アイツらも呼び出してやんないー?」
「おっ、ソレいいわねえ、仲介屋! 呼び出して、たんまり飲ませちゃおうかー」
「そうよ、それで、オトコ二人の赤裸々な日常生活を聞き出すのよ・・!」
「ば、ばっかじゃないの、何言ってんのよ、このオンナー!」
「だってさあ、オンナ寄せ付けない上に、車で二人で生活してんのよお、絶対アヤシイって!」
「やめてよお、ヤラシイわねー、アンタってー!」
「何もヤラシイことなんか言ってないじゃーん、何考えてるのよお、アンタってば。ひゃははは・・・」


妙なことで盛り上がり、しかもすっかり壊れている女二人に、カウンターの波児はすっかり声を掛けそびれたまま、隅から隅まで読み尽くした新聞を、また1面から読み出して、深々とため息をついた。

「というか、お二人さん・・・。とっくに閉店時間は過ぎてるんだけどな・・・・」








END
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長いわりには、中身のないハナシですみません〜!
2002年最後に書いたのがコレかと思うと、ちょっとなんだか・・・。
基本的に卑弥呼ちゃんは好きなんですよv
つか、ヘブンとの組み合わせが好きv 
いや別に、CPとかそういうのではなく!(笑)
単にオンナ二人で、結構喧嘩しつつも仲がイイみたいな感じでv
卑弥呼とヘブンの、蛮銀ウォッチングみたいなハナシもまた書いてみたいなあv
ええっと、このハナシでは何が書きたかったかというと、卑弥呼ちゃんに銀ちゃんをノロケる蛮ちゃんと、いつも女の子がのっても絶対スバルのサイドシートは銀ちゃんが坐ることから、あそこって銀ちゃんの指定席なんだなあと思ったことと。
(つか、蛮ちゃんが銀ちゃん以外すわらせないってコトだもんね、そこんとこ萌えv
銀ちゃんはきっと女の子にゆずると思うんだよねー ヘブンにしても卑弥呼にしても夏実ちゃんにしても。
でも蛮ちゃんが、「テメエはそこに坐ってろ!」とか言うんじゃないかなーと、勝手に思ってみたりして)
銀ちゃんのことも、何気に妹的に心を許している卑弥呼ちゃんには、いろいろ話してくれるんじゃないかなあと。
ま、卑弥呼ちゃんにはいいメイワクなハナシでしたが(笑)

なんだか締まりのないお話でスミマセン・・。反省。