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遠子(桜井都)

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 若菜の碁(笛)(アンダートリオ)。

 パチリ、と硬質の音が盤上に響いた。
 黒石を置いた結人は目線だけで相手の表情を窺う。対戦相手の一馬は口端を上げ、眉間に皺まで寄せている。

(…わかりやすい奴だよなー、一馬って)

 笑わないよう注意しながら、結人は内心くすぐったくなるような思いを堪えた。
 勝てる。
 心地よいその予感に浸りかけ、理性の部分で油断するなと自身を叱咤する。

「…結人、ニヤけてると逆転されるよ」

 そこに近くで見ていたもう一人の声が入った。
 未だルールに明るくない結人と一馬の調停役になっている英士は結人の微細な表情を見事読み取っている。

「英士うっせーよ、ほれ一馬早く打て」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「まあいくらお前が考えたところでこの若菜サマにゃ勝てねえよー」
「そういう台詞は俺に一度でも勝ってから言うんだね、結人。一馬、焦らなくていいから、ゆっくり考えてごらん? ほら右上のあのへんとか」
「コラ英士教えんなタコ!」

 結人の非難もしれっとした態度で無視する英士。ふんふんとうなずきながらレクチャーされる一馬。
 やや置いていかれた気がした結人の行動は早かった。
 盤上に両手を広げがしゃがしゃと掻き回す。

「ああもうやめ! どうせ俺の勝ちでいいだろ!」
「げ! 何すんだよ結人! まだわかんねーだろ!」
「いーんだよ! だいたい人の手借りた時点でお前の負け!」
「…っざけんなよ! そんなの結人の屁理屈じゃねえか!」
「知るか!」
「なんでお前いつもそうなんだよ! 負けそうだといつも逃げやがって!」
「誰が逃げてんだよ! 一馬みてーなヘタレに言われたくねえし!」
「俺だって結人みたいな卑怯者にそんなん言われたくねえよ!」

「いい加減にしなよ、二人とも!!」

 ヒートアップした二人に、怒りを孕んだ流水の声が掛けられた。
 額に皺を寄せ睨むのはごく当然の英士少年だ。ぴたりと残りの怒鳴り合いが止む。

「…一馬、俺が口出ししたのが一番悪かった。これからは一人で考えて。でも結人、まだ対局中なんだから一馬が負けを宣言するまて待つのがマナーだよ」
「…………」
「…………」
「二人とも、返事は」
「……おう」
「……はーい」

 よし、と英士は小さく頷きながらそう口に出した。

「じゃあさっきのところまで並べ直すから、決着つくまでちゃんとやりなよ」
「…英士、覚えてんのか?」
「まあね。俺は勝ったほうと対戦するから頑張りなね」
「じゃあ負けたほう一日下僕な! 結人様って呼べよ一馬!」
「ば…っ、もう勝ったつもりかよ!」
「トーゼン。ヘタレ一馬に負けるかよー。俺は天下の結人様だぜ?」
「俺だって負けねえよ!」
「…どっちでもいいけど、二人とも人んちではもうちょっと静かにしなよ…」








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 友人の林朱音ちゃんが描いてくれたもの。

 すごい楽しそうだ若菜。

 題して若菜の碁。
 今年初めてパソ子の前でキーボードばしばし叩きながら笑いました。
 アンタ最高です林さん。何で若菜くんそんな楽しそうなのー!
 まあそんな感じでなぞらえてみたよ☆ というのが本日の一品。
 実際英士さんが教えてんのは一馬ですが。だって英士さんじゃ多分一馬に味方するんだと思って。出来の悪い子はほっとけないお母さん体質の郭少年。兄弟喧嘩も調停するぜお母さん。

 そんな林さんとは、昨日の司馬くん小ネタを差し出し、見返りとして笛のアンダートリオを頂く約束をしていました(詳しくは彼女のところの日記8月1日参照)。
 確か、

 林:「司馬ピノ書いてくれたらアンダートリオ描くよ」
 桜:「アンダートリオ描いてくれたら司馬ピノ書くよ」

 ザ・平行線。
 終いには「よしじゃあサイトに同時アップで決着をつけよう!」ということに。
 それが昨日(7日)。
 互いに無事サイトに各課題更新。
 や、私がもらったアンダートリオはもうちょっと普通に素敵(失礼)でしたよ!(林さんちの貢ぎ物ページ参照)ありがとうありがとう。
 そっちもにしゃりと笑ったのですが、大爆笑したのは若菜の碁だったので。

 で、翌日の今日は確か以前の約束では昨日の反省会(という名の感想会)のはずだったのですが、飲みたい気分の桜井さん林さんと一緒に飲み屋へゴー。
 いろいろ、喋った気がします。
 一番いろんな意味で危険なのは「某テニスの某H帝はともかく目障りなのよ!」という発言だったかもしれません。ええ当然私が言いましたとも。だって(以下自主規制)。
 暴言アリのトークは身内でなきゃ出来ません(そんなにH帝が嫌いか)(大好きの真後ろに位置するぜ)。

 そして、勢いにまかせ林さんに三上(:笛)を描いてもらうことに!(決定)
 うふふふふ絡んだりすねたりふくれたり「みかみミカミ三上みきゃみ」と言い続けた甲斐がありました(林さん大迷惑)。
 そんなわけで頑張ってね林さんミカミアキラをー!
 私はせこせこ藤代書くから!(私信)
 あと「林さんに笠井竹巳を認識してもらう会」を発足しようかな、とか。
 まあそりゃ普通に読んだ限りで笠井くんを認識している人は稀ではないかと。

 しかしオフラインで笛オタトークを出来る人があの人以外いるなんて、激しく新鮮です(あの人=神咲さん)(固定)。

2003年08月08日(金)



 青空と君と(ミスフル)(司馬と比乃)

 世界は広くて、なんだか飲み込まれそうだった。










 青い空に、白い紙飛行機が飛んで行った。
 同じかたちの淡い影が屋上の床を滑り、ドアをくぐったばかりの司馬は顔を上に向ける。予想通りの姿が給水搭の上で脚をぶらつかせていた。

「あ、シバくーん。やほー」

 膝の上に何枚もの紙を広げ、比乃が手を振る。
 必然的に見上げることになった司馬が表情を和ませる気配がわかると、比乃はさらに嬉しそうに笑った。

「いい天気だよねー。見て見て、紙ヒコーキ!」

 いえい、と言いながら比乃は新たに作った白いそれを司馬のほうに見せた。
 見上げる司馬からは笑う比乃と白い紙飛行機が青空に浮かんでいるようにも見える。

「司馬くんもおいでよー」

 気軽な口調で誘われたが、司馬はひかえめな笑みで首を横に振った。比乃のような軽量級だけならまだしも、狭い給水搭の上に自分まで上ってはうっかりタンクを踏み抜いてしまいそうだ。
 何より、普段は見下ろしてしまう相手の笑顔を青空とセットで見上げるのもそう悪くない。

「そっかー、じゃあ見てて。いくよー」

 小さな掛け声と共に、比乃の手から飛行機が飛んだ。
 宙を切って飛ぶ白い紙飛行機。
 青い空にこの上なくよく映えるそれは、迷いなく真っ直ぐ飛び続け、やがて屋上のフェンスも越えて行った。
 その軌跡をすべて目で追い、太陽の眩しさに瞳を細めた司馬の上に明るい声がかかる。

「よく飛んだでしょ?」

 己の功績を自慢する子供の声。
 司馬が笑ってそれを肯定すると、比乃が全開の笑顔を見せた。
 よく笑う比乃には、青い空がよく似合う。見上げたままの司馬はそんなことを思う。

 ああどうかと、願うならこんな日が相応しい。
 どうか、君がいつまでもそんな風に笑っていてくれないかと。

 青い空に雲が見える。
 笑ってくれる人がいるだけで幸せなのだと思えた午後。









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 …短い。
 林さんこの交換物「司馬と比乃」でしたー!
 私はこの見返りに笛のアンダートリオを頂くのです!(その割にはなんだか短いよー…)(ゴメン)。

 珍しく司馬くん視点オンリー。
 しかし喋らないキャラというせいか、端から見たら比乃くん一人芝居に…。
 しかも実は紙飛行機ネタは以前から三上(:笛)で書こうとしていたのですが、比乃にしたら三上より可愛いだろうなあ、ということで書いてみました☆ という裏話。
 三上くんは成績が良くなかった古典のテストで紙飛行機を折り、飛ばして「ああせいせいした」と思った直後に、「あんな点のテスト用紙誰かに見られたら…!」と青ざめて探しに行く話でした。おバカさん。

2003年08月07日(木)

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