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遠子(桜井都)

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 無音(ガンダムシード)(キラフレ)。

 帰ってきてしばらくは事後処理に終われ、振り返る暇がなかった。
 忙しさは一時の感情を忘れさせる。そんなありきたりのことを思いながら、どうしても立ち止まることを拒んでいた。
 止まったら、あの笑顔ばかり胸によみがえってしまいそうで。


 ―――キラ。


 無邪気だった少女。平和だった日、気まぐれでも笑いかけてくれたことがただ嬉しかった。
 それだけだったあの日々はもう戻らない。

「…なくしたものばっかりだよ」

 薄い闇の天井をキラは見上げていた。
 考えたくないと思うのに、思い浮かぶのは途方もない量の思い出ばかりだ。

「…フレイ」

 向かうべき相手がもういないその名。何度も何度も心に描き、呼び掛け叫んだ。
 届かないかもしれないと思いながら手を伸ばした。いつか、届くことを祈っていた。


 
「フレイ」



 この世界は、君が願ったものに少しでも近付いているだろうか。

 そうであっても、そうでなくても、やるべきことは一つだとキラは目を閉じた。
 生きなければならない。明日のために、自分のために。
 日々は続いていく。嫌でも非情でも、生きる者にはそれを続ける義務がある。

 薄闇に呟いた言葉は意味を成さず、ただの音として消えた。









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 なんだこの短さは。

 …薄々知ってたんですけどね、最後の最後でいなくなるって。
 多分きっと仮に生き残ってたとしても、キラがラクスよりも彼女を選ぶとかそういうことにはならなかったかもしれないんですけどね。
 …フレイ………。
 それでも生きてて欲しかったなあ、と今はただ思います。
 フラガさんも。マリューさんは最後まで信じて待ってたよ。帰ってあげて欲しかったよ。

2003年09月27日(土)



 冬の朝に(最遊記)(江流と光明三蔵法師)。

 十五夜から二月も過ぎれば、風に冬の刃が混じり始める。
 日課でもある庭の掃き清めのため、身の丈ほどもある竹箒を手に少年が庭先へ降りてくる。金鳳花のような繊細な金髪が身ごなしに合わせて揺れた。
 じきに、掃除の必要がなくなるだろう。曇天の空を目を細めて見上げながら、少年は身に纏う葉の大半が消えている山木と、来るべき冬を思った。
 そしてふと視線を下ろしたとき、彼は意外なものを見ることになる。

「…師匠」
「おはようございます、江流」

 早いですね。
 そう微笑みながら告げた師に、少年は半ば呆れた。

「何やってるんですか、こんな寒いところで」
「いえね、冬だなあ、と」
「まだ秋ですよ。薄着でこんなところにいないで、早く中へ入って下さい。風邪でも引かれたら困ります」
「まあそう言わず」

 師は物腰こそ柔らかでも頑として意思を変えない。いつものことだとわかっていたが、それでも少年は息を吐いた。

「冬には冬を味わう。それもいいものですよ?」
「…寒い中わざわざ出て来るのがですか?」

 自分は絶対御免だと言いたげな弟子に師は柔和に笑む。

「あるべきものが、あるべき様にある。それを確かめる。冬の寒さを受け入れるからこそ、春のありがたみがわかるというものです」
「…………」

 そうして師は空を見上げた。少年もそれに倣う。
 曇天の冷たい空は無感動なほど何も変わらない。しかしこの冷たさが冬への始まりとなり、やがて来る春を待つ気持ちを生ませる。
 少年は、師の言葉の意味を考えていた。
 今はまだ寒さしか感じ取れない冬の朝。自分はまだ幼いのだと言われた気がした。けれど、そのうちこの朝にも意味を求めて受け止める日が来るのだろうか。この師のように。
 そうなれたらいい。いつか、この人のようになれたら。
 二人はただ黙って空を見ていた。





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 えーあーうー……気分転換? 最遊記です。
 久々すぎてすっかり口調を忘れております江流さんと師匠。絶対どっか違う…。
 やっぱりコミックス最初から読み直すべきだったか。
 外伝読み直してたらなんかふと久々に書くかー、という気分になったのです。書いたっていううちに入らない短さですが。

2003年09月14日(日)



 遅刻者の釈明と解決術(SO3)(フェイトとソフィア)。

 その日は新記録を更新した。








「ごめんソフィア! おくれ――

 彼のお決まりの言葉は、不機嫌に満ちた少女の顔を見た途端舌の先で凍りついた。

「……………」

 への字に引き結ばれた唇。どう好意的に解釈しても、怒気がないと言えば嘘になる表情は、彼女の可愛らしい顔立ちを妙に大人びて見せていた。
 大学からは徒歩十分の本屋の前で、高校の制服を着ている年下の幼馴染みに彼は一瞬怯んだ。

「ご、ごめん…」
「…いま、何時?」
「…三時半、過ぎ…かな?」
「三限が終わったらすぐ行くって言ったくせに!」

 三十分以上待たされて、笑ってくれる女性はまずいない。
 ごく一般論を痛切に感じながらフェイトは頭を下げた。

「ごめん! 三限がいつもより早く終わって、ちょっとだけのつもりで…」
「どうせまた友達とゲームの話でもしてたんでしょ! フェイトっていつもそう!」
「ごめん! ほんとごめん!」
「ごめんで済んだら連邦警察だっていらない!」

 怒りのあまり泣きそうになっているソフィアに、フェイトは今度こそ狼狽した。
 自分の趣味に関することに没頭すると、つい相手との約束を疎かにしてしまう癖はいいかげんどうにかしないとと思っているくせに、直せない。ましてや長い付き合いの幼馴染み。このぐらいはいつものことだと、つい甘えてしまう。

「本当にごめん! 何でもするから…」
「そんな言葉に騙されない! ゲームでもバスケでも何でも勝手にしてれば!!」
「え、ちょっとソフィア…」
「帰る!」

 踵を返したソフィアの勢いに合わせ、その肩を越えた髪も揺れた。
 慌ててフェイトはその後を追う。怒っていようと、自分より背の低い年下の女の子だ。追いつくのはわけない。

「ソフィア、あのさ」
「…どうせ、私のことなんてすっかり忘れてたんでしょ」
「忘れてなんか…」
「忘れてた、絶対。…いつもそうだもん」

 下りのエスカレーターに足を踏み入れたところで、彼の先を行く少女がぽつりと最後のつぶやきを洩らした。

「……ごめん」
「…………」

 動く階段の上から見た幼馴染みの背の小ささに、フェイトはうなだれかけた。
 これ以上の言い訳をすれば本当に見限られそうな気がした。

「…どうしたら、許してもらえるかな」
「知らない。自分で考えれば」

 振り返らない小さな頭が、エスカレーターの終着と共に髪を揺らして歩き出す。
 大抵はちょっと怒ってもすぐに許してくれる彼女が、こちらを見もしないあたりからその怒気の大きさを彼は悟るよりほかなかった。

「…ソフィア、あの」
「帰るんだから、ついてこないで」
「いや、あの、うち隣じゃ…」
「あっち行って」

 その言葉が最後通牒に思え、フェイトはとりあえず立ち止まった。
 どうしようもない気持ちで人込みに消えていく後ろ姿を見送る覚悟を決める。
 けれど彼女は、彼の足音が止まってから一分も経たないうちに足を止めた。

「…ソフィア?」
「…お腹空いた」
「え、あ、じゃあ何か食べて帰ろうか? おごるから」
「…もともとバイト代入ったからごちそうするって言い出したの、フェイトじゃない」
「あ……」
「…やっぱり、忘れてたんだ」

 今度こそソフィアが泣き出しそうな声になった。
 顔が見えない分不安になったフェイトは慌てて近寄り、顔を覗き込む。

「そんなことないって! ちゃんと覚えてるよ」
「…ほんとに?」
「本当に。ね、だからもう怒んないでさ、何か食べ行こう?」
「…………」

 その大きな瞳で、ソフィアはフェイトをじっと見つめた。
 ここが最良のタイミングだとこれまでの経験から知っているフェイトは、そっと笑って手を差し出す。

「ね、ソフィア」
「…………」

 ソフィアは幼馴染みの顔と手を片方づつ見る。
 逡巡の末、ゆっくりと彼女は彼の手に触れた。

「…もう待ってあげないからね」
「うん、気をつける」

 生真面目にうなずいたフェイトは、どうにか許されたことにほっとする。
 自分より小さい手のひらを痛くない程度の力で包み、肩の力を抜いた。

「さて、じゃあ何食べる?」

 途端に雰囲気を和ませて笑う幼馴染みに、ソフィアは本当に反省しているのだろうかと若干不安になったが、ためいきではなく笑みで彼に応える。

「…とりあえず、座って食べれるところ。立ちっぱなしで脚疲れちゃった」
「…ごめん」
「もういいよ。でもほんとに次はやだからね」
「うん」

 フェイトが神妙な顔つきになる。その顔に弱い自分を、ソフィアは嫌というほど知っている。

「行こ?」

 小さく笑い、互いの手を強く握り直す。
 切れない絆、繋いだ手。

 それはまだ、平穏を信じていた頃の話。








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 久々日記。そしてスターオーシャン。
 三日ほど前から3をやっております。なかなか面白いと言いたいようで、微妙にゲームバランスどうなってんじゃいと言いたいゲームです。

 で、フェイトとソフィア。
 年齢差つき幼馴染み、としか取り説の人物紹介ではわからなかったのですが、ゲーム開始十分で幼馴染み以上恋人未満と確定。私の中ではほぼ決定。
 だって会話がただのバカップルなんだー!
 本人たちは微妙に否定しようが、口喧嘩はただの痴話喧嘩。そんな大学生と女子高生。年上のほうがときどき情けないようで、ときどき男の子。
 えらく久し振りに、名前が和風ではない人を書いた気がします。

 思い返せば三週間ぐらい日記を書いていなかったようで。
 その間も色々なことがありましたが、書くのも長ったらしいので割愛。
 身内の人たちはきっと神咲さんの日記で私の生存確認をしてもらえたんじゃないかと。
 そんな彼女に「毎日日記書かないの?」とか言いくさった奴が三週間放置。なかなか笑えない。姉さん最近頑張ってるね。
 私も毎日頑張らねばならないんですけども、ここは日常を書く日記ではなくあくまでもメインは小ネタであるため、ネタがないときは止まりがちみたい(言い訳)。
 人生って世知辛い(そんなことで悟ったように言うな)。

2003年09月02日(火)

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