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遠子(桜井都)

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 嫁取り物語(多分私信)。

 あまり乗り気ではない結婚話に悩みながら、葵王子は城下へと行ってみました。
 折しも天気の良い初夏。城から街の大通りへと続く坂道を下るうちに、王子の首筋にもしっとりと汗が滲みます。

(…どうしよう…)

 綺麗に晴れた天気だというのに、葵王子の心は薄曇りの日のようでした。
 父王から勧められた縁談は一応丁重にお断りはしましたが、あの相手の様子ではそれ以降も他の話を持って来られそうです。

 しかも、今回お相手として立候補してきた隣国の明美姫といえば積極的な性格で有名です。たとえ葵王子にその気がなくとも、なしくずしに押し掛け見合いぐらい平気でセッティングしてくれそうな予感がします。

 参った。
 王子の気持ちはそれでした。
 どうせお嫁さんにするなら、噂の明美姫よりずっと華奢で可愛らしくかつ太陽のような明るさを持つ人がいいのです。
 そう、たとえば。

「こんにちはっ! お花どうですか?」

 街角で、にっこり笑って明るい色の花を差し出すこの子のような。
 ぼんやり考え事をしていた葵王子は、気付けば街で一番活気に満ちた市場通りに来ていたことにも気付いていませんでした。
 葵王子に、黄色いガーベラの花を差し出したのは背の低い花売りの子でした。


(見つけた)


 そんな感じで、葵王子は比乃と出会ったのでした。









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 人様に便乗ネタ。
 ごめんなさい。た、楽しかったから、つい…(遁走)(私信)。
 うーん、日記でイラスト見たときから「おお何つーか私好みだわ!」と拳握って設定ぐだぐだ考えてたんだけどね、ね?

 えーと、一応林さんとこの、ギャラリーページ、司馬くんコスプレ部屋王子バージョンにあったものの続きです(注:勝手に)。
 遅れたけど二周年おめでとー!! もうちょっとマシなお祝いのネタでおめでとうは言うべきだった…。
 人様のネタに便乗してなんていうかほんとすみません。朱音さんご、ごめ…ッ。
 …身内という言葉を免罪符に使う私はたぶん卑怯者です。

 うーん不破くんコスのGK司馬くんでも(書いて)楽しかったのかもしれませんが、GKって周囲のDFにすごく声張り上げて指示出すわけですよ。
 司馬きゅん、喋らせたくない。
 …というのが私の個人的な意見。
 まあ書くならピノをFWにして、司馬くんが相手のボールを止めたあとのフィード(前線にボールを戻すアレ)で、司馬→ピノのGKとFWの息のあった連携を書いても間違いなく楽しかったと思います。
 ミスフルにサッカーやらせるなら、牛尾部長はMFで司令塔がいいです! 10番だ!
 犬飼くんもMF。猿野はFW。普段いがみ合ってるけど、試合中の本当に大事なときにいきなりアイコンタクトで通じ合っちゃって試合終わったあとに喧嘩するんですよ。ええ私その二人のカップリングにぜんっぜん興味ないですけど。
 しかしピノがサッカーするなら野球以上に体格に問題あるよねえ。ポスト的には椎名くんですかね。じゃあ黒川くんみたいに負け試合のあと頭にタオル乗せて泣き顔隠してくれるのは司馬く(もういい)。

 あーコスプレネタって楽しいなあ(注:私の中でメイドはコスプレにもう入りません)。

2003年06月30日(月)



 閑話(笛)(アンダートリオ)

 それは郭英士の一言で始まった。








「結人、ドコモって何の略だか知ってる?」

 日曜日の午後12時半。冬のグラウンドの端で、ささやかな太陽と束の間の休憩時間を満喫していたのはいつもの三人組だった。
 郭英士、真田一馬、若菜結人。
 仲良し三人組は東京選抜でも大抵一緒だ。
 割り箸片手に突然持ち出された問い掛けに、結人は思いきり顔をしかめた。

「は? 何言ってんだよ英士」
「いやね、ちょっと人から聞いたものだから、これは是非結人に教えてあげなきゃなあって思って」

 にこりと英士は微笑んだ。常の彼らしくない愛想の良さで。
 それを見てびくりと身を竦めたのは弁当箱のコロッケを口に運ぼうとしていた一馬のほうだ。笑顔の行き先である結人は全く意に介していない。

「ドコモー? ドコモって、ドコモ?」
「そう。NTTドコモ」
「ドコモがドコモで何なんだよ」

 ドコモドコモと繰り返すその名は、日本最大手のモバイバル通信企業だ。そのぐらい一馬でもわかる。しかし、英士の言いたいことの意図がわからない。
 こういうときは黙っているに限る。
 これまで散々二人の間で痛い目に遭ってきた一馬は学習能力がついていた。
 ふっと英士が笑った。

「そのドコモ、何の略を取ってそう読んでるんだと思う?」
「え、ドコモってそれが会社名じゃねえの!?」

 食いついた。
 冷凍コロッケを口のなかで噛み砕きながら、一馬はまたしても英士の手口に乗った親友の片割れを、しみじみといい奴だと思った。
 結人は軽薄そうな印象とは裏腹に計算高いところがあるが、自分の知らない情報に弱いという欠点がある。ちょっと興味を惹かれることを出されると飛びつくのだ。

(それがまた、英士だから上手くいくんだよなあ…)

 赤の他人とは思えぬ精神的な繋がりを持つ自分たちにとって、互いの言葉というものはそのまま信用してしまう。
 それを使ってときどき結人をおちょくる英士も、何度やられても懲りない結人も一馬はすごいと日々痛感してきた。
 ちなみに一番引っかかりやすい一馬で英士が遊ばないのは、一馬では手応えがなさすぎるという英士自身の趣向の問題だった。
 英士はさっきの笑みをより深め、不敵そうな顔を作った。


「そう、ドコモって携帯電話関係がすごいところだよね。それで、携帯電話って文字通り携帯するために開発されたもので、初期の頃は高額だったり維持費が高かったりして、なかなか普通の人は買えなかったでしょ。でもやっぱり必要なときになかったら困ったり、逆のこともあったんだ。
 その点を踏まえて社名を決めるときに出されたキャッチフレーズがあって、その
 『どうしても
  困ったときに
  持っていけ』
 っていう宣伝文句の略なんだよ」

 どうしても 困ったときに 持っていけ

 『do』
 『co』
 『mo』


 英士は自信に満ちあふれていた。
 一馬は吹き出すのをこらえた。
 結人は一瞬で冷めた顔になった。

「…おい、英士」
「なにかな、結人」
「お前またウソついてんだろ!」
「ついてないついてない。今度は本当だよ。昨日学校の友人に教えてもらってね、あんまりに意外だったから結人たちにも教えようと思ったんだ」

 英士は心底から大真面目に言っているようだった。
 訝しげな顔をしている結人が、信頼と疑心の狭間で揺れ動いていた。
 それを見ている一馬も、英士がこれほど真剣に言っているのなら本当なのだろうかと信じかけていた。

「面白いでしょ? あの会社がこんなギャグみたいな方法で名前決めたなんて」

 畳みかける郭英士。嘘くさい微笑は消え、相手を説得させる真摯さが垣間見えた。

「…マジで?」
「本当だってば。気になるなら、そのあたりの…そうだな、上原とか桜庭とかにも言ってきてみれば? 知ってるかもよ? 案外風祭が物知りだから本当だって証明してくれるかもしれないし」

 第三者を出すことで、英士は結人にそこまでの自信があるのだと暗黙的に伝えた。
 一馬は最初から何も言えなかった。
 まんまと英士の語る情報に引っかかった結人は、とうとう納得してしまった。

「っへー、俺そんなん知らなかった!」
「でしょ? ちょっと意外で間抜けな企業裏話だよね」
「おもしれー! 後で他のヤツらにも教えてやろー」

 愉快な新情報を得た結人は機嫌よく笑っていた。
 それを見ている英士が、口許をほんのかすかに上げ、にやりとほくそ笑むのを一馬は見た。

「えええええええ英士?」
「ん? 何かな、一馬? 一馬は知ってたよね、『どうしても困ったときに持っていけ』って」

 にっこり。

「…………………」
「知ってたよね?」

 微笑の圧力。
 耐えきれなかった一馬がこくこくと頷くと英士は満足げな顔を見せた。







 数分後、若菜少年不在の場での郭少年の言。

「あんなの嘘に決まってるでしょ。
 どうしても困ったときに持っていけ? 非常時にしか使わない携帯電話作ったところで使う人すごく限られるって、ちょっと考えればすぐにわかるのにね。そもそも普通に考えてあんなのあるわけないでしょ。信じちゃう結人の将来が心配だよ。
 でも結人が言いふらせば、多分桜庭とか上原とかも信じるでしょ。風祭なんて素直だからそのまま鵜呑みにしそうだし、そこから小岩とかにも伝わって、面白いことになりそうだよね。
 一馬は人の話を全部鵜呑みにしちゃダメだよ。嘘つきが嘘つかないって言ってること自体が嘘なんだから。
 え? ドコモ? 確か日本語の「どこでも」をヒントにしたとかじゃなかったっけ?」



 友情とは時にひねくれた愛情表現になる。
 その日一馬が悟ったのは、構わずにはいられない英士の結人への愛だった。


 ちなみにその後、東京選抜内でドコモ名称の話が流れに流れ、飛葉中のキャプテンが「バカだよお前ら」と一笑に付し、武蔵野森のキャプテンが正解を伝えることで噂の沈静を得た。






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 きっと杉原くんは正解を知らずとも違うことぐらいは見抜き「でも面白いからほっとこう」と微笑みで知らない振りを、黒川くんと木田あたりが「…そんなわけない」と内心でツッコミを。
 藤代そのまま信じ、帰寮して笠井に報告。呆れられる。
 渋沢「こいつら素直で(ばかで)可愛いなあ」と杉原とは別の意味でチームメイトを微笑んで見守る。そろそろマズいと思った頃、友人三上にネットで調べてもらった正解を教える。
 椎名、最初からばかばかしいと無視。彼の携帯はきっとドコモ。
 噂の出元を知りつつも、嘘だとは言えない真田。
 自分のささやかな発言で思った以上の効果を得て至極ご満悦の首謀者。
 やっぱり嘘だったと知った瞬間「英士のばかやろうーッ!」と泣いて去った若菜少年。

 どうしても困ったときに持って行けなんて言い出したのはここの人ですよ
 今日そんな会話したの。

 今日は久々にMステを観たので、キンキネタでもいいかと思ったんですがうまいのが浮かびませんでした(注:決してキンキの二人を書こうとしたわけではない)。
 心に夢を君には愛を。
 司馬くんで書いてみたいなあ。
 いつも彼が聞いている洋楽系ではなく、ピノくんに「シバくんこれ僕のオススメだよ!」と言われて渡されるキンキキッズのCD。趣味の範疇でなくても聞いてみる司馬くん。相互理解に努める律儀者。
 なぜピノのオススメがキンキなのかは謎。モー娘。じゃあんまりだと思って(あまり変わらないよ桜井さん)。

 司馬くんたちに関しては林さんと以前約束した放課後ドキドキ☆デート話を書きますよ、そのうち(曖昧なこと言う前にさっさと書け)。

2003年06月20日(金)



 秒読み開始(笛)(若菜と真田)

 奴が来る。









 日本の特徴その一。

「四季がある!」
「日本って縦長の国だもんな」

 あとは? と、社会科のレポートを前に、真田一馬は助けとなる友人に目で訴えた。

「あとはアレだろ、ほら、梅雨があるってヤツ」

 テーブルの向かいにいる若菜結人は窓の外を指さしながら答えた。
 独特の音を鳴らしながら大地を潤していく6月の雨が、彼らの外の世界に存在している。梅雨入り宣言はそう遠い日のことでもなさそうだ。

「梅雨って日本しかないんだっけ?」
「だろ。他はー…、乾期とか雨期とかってカンジじゃん」
「…なんか理由なきゃ書けねーじゃん!」
「あーうるさー。そういうのは英士の領分! 俺にはわからん!」

 自分の聞きかじりの知識だと暴露して、結人は言葉を投げ捨てた。明日提出の宿題を抱えている一馬はシャーペン片手に恨めしげな顔だ。

「…お前が手伝ってやるっつったんだぞ」
「俺に英士と同じこと出来るわけねーじゃん」

 アテにした自分がバカだった。一馬は内心そう思ったが、この雨空の日にひとり黙々と宿題と対峙する勤勉さが自分になかったことも確かだ。
 一馬は喋りながらでも地味に進めていく決意を固めた。

「そういや梅雨かー。やだなー、雨降ると試合延期とかなるからなー。ついでに朝髪すげえことになるしなー」
「ふーん…」

 止まない雨を見ながら、結人は心底鬱陶しそうな声を上げた。
 対して一馬は結人から貰ったヒントを元に、教科書の文章をレポート用紙に書き写す方向に思考が回っている。返事は自然と力のないものになった。

「だいたい6月ってのが俺に似合わないんだよ。一馬もそう思わね?」
「ん…」
「だよな! ジメジメジメジメとだーもーうぜー…って、聞けよ一馬!」
「聞いてる聞いてる」
「ウソつけ! …お前そういう言い方ばっか英士に似やがってさー。どうせ俺はいつも仲間ハズレだし、いいさ、お前と英士だけでまいんち仲良くしてやがれ」

 放っておくと部屋の隅でぶつぶつ言いそうな結人に、ようやく一区切りついた一馬が顔を上げる。

「え? 悪い、なんつった?」
「…………いや、もう、いい」

 一人芝居ほど切ないものはない。結人はそれを痛感してひきつった笑みを洩らした。
 それからきょとんとしている一馬に、普通に笑ってやる。

「雨、早く止めばいいよな」
「そうだな」

 言葉の内にあるのは『早くサッカーがしたい』だったけれど、それはお互い言わなくても通じる気持ちだった。おそらくここにいないもう一人にも。
 練習も試合も、晴れているからといって楽しいことだけではない。けれどこうして離れてみると、不意の瞬間に恋しくなる。
 二人の心はすでに梅雨の向こうの夏に飛んでいた。









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 まあどうせなら、例の私認サイトイラストに影響されてみましたということで。
 なんか不完全燃焼くさい上に、もう梅雨入りしてますけども。

 私認サイトさまはこちら
 7月カレンダーはシゲかもしれなくても渋沢を外さないことを切に願っておりますとも樋口先生!
 11月は当然水野でよろしく!

2003年06月15日(日)



 雨の音(笛)(渋沢と三上)

 雨が降ったら母さんが。










「…じゃのめって一体何だ?」

 突然疑問の声が聞こえてきて、渋沢克朗は数学のノートから顔を上げた。
 同室の三上亮が窓ガラスに額がつくほど顔を近づけて外を見ている。

「じゃのめ?」
「歌であるじゃん。あめあめ降れ降れ母さんが、って」

 アレ。
 そう続けた三上の、滅多に聞けない歌声に渋沢は軽く目を瞠った。
 童謡の些細な旋律とはいえまさか歌うとは思わなかった。

「…じゃのめでお迎え嬉しいな?」
「おう」

 こくりと三上の黒い後頭部がうなずいた。
 三上は結露が見える窓ガラスに指を伸ばし、暇そうに落書きしていた。
 その甲に比べてやや長い指が、曇ったガラスに「ジャノメ」と文字を綴る。

「じゃのめ…蛇の目、って書くんじゃなかったか?」
「ヘビ?」
「ああ。母さんから聞いたことがある」

 渋沢は言いながら、記憶の奥底をたぐり寄せる。
 小学生の頃今の三上と同じ疑問を抱いたことがある。
 しとしとと静かに降る雨の音に渋沢は記憶を集中させた。

「…ああ、思い出した。傘の種類なんだそうだ」
「蛇の目してんのか?」
「柄とかじゃないか? 昔、女の人が使う傘って言ったら蛇の目傘だったらしい」
「ふーん」

 相槌を打った三上の指先が、今度は「蛇の目」と漢字交じりでガラス窓に滑らされた。

「…雨が降ったら、母親が傘持って迎えに来てくれるってことか」

 蛇の目でお迎え嬉しいな。
 そう続けた歌声が聞こえたような気がして、渋沢は身を伸ばしてさっきからずっと三上が見ている窓の下を覗いてみた。
 寮の庭先にある水色の紫陽花。まだ花の色づき方が浅いその庭木の前に、傘が二つ並んでいた。透明なビニール傘と、小さな赤い傘。
 しっかりとその下で手を繋いでいる若い母親と黄色い長靴の女の子。
 友人はそれを見て、あの歌を思い出したのだと渋沢は知る。
 雨が降ってきたからと、母親がわざわざ迎えに出てきてくれる嬉しさ。小さな子にありがちな単純さだ。けれど自分たちはそれを待つほど、もう幼くはなく。
 ゆっくりと渋沢は伸ばした身体を元の椅子の上に戻す。
 雨の日の親子を見る三上の目が、懐かしさと微笑ましさを伴って彼女らに注がれている。
 日頃はどうにもひねくれた言動を取る三上にも人並みにやさしい顔が出来るのだな、と渋沢は内心失礼なことを考えた。
 きっと、彼にも家族が雨の日に迎えに来てくれた覚えがあるのだ。
 そしてそれは彼にとって優しい家族の思い出で。
 今よりずっと素直で、背も小さかっただろう友人の姿を想定して、渋沢は思わず笑った。











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 じゃのめって傘のことなんだって。
 母と叔母に教えてもらいました。
 蛇の目傘の情報はこちら。傘屋さんで見つけました。

2003年06月03日(火)

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