うんうん悩んでいたら、一週間が過ぎてしまいました。 感銘はうけたものの、はて、どうまとめたらよいかとなると、遠浅の海でばた足しているみたいです。 それでも、少しばかり形になった(と思う)ので、載せたいと思います。
先の表日記に書きました通り、あるジャーナリストの作文技術の本を読んで、文章にも「書く技術」というものがあるのだなと感心しました。 そのジャーナリストを含む二人の作家が偶然、“話すようには書けない”と書いています。 理由はなるほど得心がいくものです。
「話すように書け」………は、しません。
話し言葉の間の置き方・開け方・縮め方は人それぞれで、個々人においてもその時々の気分や環境あるいは時間的に急いているかどうかで、話しの進め方等が、ちがってきます。
1. 話し言葉とは
ある作家よると話し言葉は大別して
◆会話態 ◆講話態 ◆ゆるやかな講話態 …の3つにわかれるそうです。
1.1. 話し言葉をそのまま書いてみると、どうなるか....
まずは、手本の作文技術の本から抜粋してみましょう。
●おはよおございますあれるすかなおはよおございますどおもるすらしいなはいどなたですかあどおもおはよおございますしつれえしますじつわはあじつわわたしこおゆうものなんですが
これは、保険外交員のような立場の人がセールスに訪問したときの会話(うち内面の独り言を含む)の始まりです。 標準語にほぼ近い形で書いてもこのようになります。
独白のセリフ以外には、1人以上の対象者がいて対話をすることになりますから、実際に話しをするときには、こんなにわかりにくいことはありません。
書いても分かり易くするためには様々な技術を使うことになります。
さきの口語体をわかりやすく書きますと…
○ 「おはようございます」 (あれ、留守かな) 「おはようございます」 (どうも留守らしいな) 「はい。どなたですか」 「あ、どうも。おはようございます。失礼します。実は・・・・・」 「はぁ?」 「実は私こういうものなんですが・・・・・」 これならわかりやすいでしょう。 ★ここで使われた技術は、次の九種類です。
1)発音通りに書かれているのを、現代口語文の約束に従うカナづかいに改めた。 2)直接話法の部分はカギカッコの中に入れた。 3)独白の部分はマルカッコの中に入れた。 4)句点(マル)で文を切った。 5)段落(改行)を使って、話者の交替を明らかにした。 6)漢字を使って、わかち書きの効果を出した。 7)リーダー(・・・・・)を2カ所で使って、言葉が中途半端であることを示した。 8)疑問符を使って、それが疑問の気持ちを表す文であることを示した。 9)読点(テン)で文を更に区切った。
なんでもないように見えながら九種類もの「技術」が使い分けられているからこそ、わかり易い文章に変化したのです。
1.2. 英文の場合
英文の場合をみてみましょう。
アーネスト=ヘミングウェイ『老人と海』の冒頭
●HewasanoldmanwhofishedaloneinaskifftheGulfStreamandhehadgoneeightyfourdaysnowwithouttakingafish.
なにがなにやら、わかりません。 これを単語にわかち書きしますと…
○He was an old man who fished alone in a skiff the Gulf Stream and he had gone eighty-four day snow without taking a fish.
さらにつきつめて、わけても全部大文字にしますと…
◎HE WAS AN OLD MAN WHO FISHED ALONE IN A SKIFF IN THE GULF STREAM AND HE HAD GONE FIGHTY-FOUR DAYS NOW WITHOUT TAKING A FISH.
これもまた、わかりにくいです。
なぜか?それは大文字がみな同じような形で、そろった大きさだからです。小文字であればoldとかfishedとかgoneとかいうように、上や下に突き出た棒や線があるため、印象が違ってくるからです。このように目で見て違った“絵”が並んでいくほど、パッと一目でわかるようになります。
2.さらっと基本
1)節を先に、句をあとに。
速く走る。 ライトを消して走る。 止まらずに走る。
これを、もし句の「速く」を先にして
速くライトを消して止まらずに走る。
…とすると、なんだか「ライトを消す」ことを「速く」するかのように読まれるおそれがあります。
この場合…
ライトを消して止まらずに速く走る。
…にすると、誤解が少ないです。
2)長い修飾語ほど先に、短いほどあとに。
a)明日はたぶん大雨になるのではないかと私は思った。 b) 私は明日はたぶん大雨になるのではないかと思った。
この二つなら、a)の方がイライラしなくて読めます。
3)大状況・重要内容ほど先に。
a) 初夏の雨がもえる若葉に豊かな潤いを与えた。 b) 豊かな潤いを萌える若葉に初夏の雨が与えた。
この二つなら、b) の座りがとっても悪いです。
4)親和度(なじみ)の強弱による配置転換
初夏のみどりに→もえる若葉が→全体を包む。
これは直列的だが、次のように並列にかかる場合は親和度の強い単語(「みどり」と「もえる」)を遠ざけるようにします。
初夏のみどりが → 照り映えた。 もえる夕日に
つまり「もえる・・・・・」の方を次のように先にするという前述の結論となります。
もえる夕日に初夏のみどりが照り映えた。
3. 文章のお医者様
■外国にはドラマドクターという肩書きの学者さんがいるらしいです 彼は古今東西の戯曲によく通じていて、その知識をもとに新作脚本の病患を指摘し、治療法を教えてくれるらしい。ブロードウェイ辺りではかなり重宝されているそうな。 また、古代中国には文医者なるものが存在したそうです。 乾隆44年(安永8年1779)刊行の『正文典』という書物には文の病として…
軽(ケイ)…重みなし、貫禄不足 俗(ゾク)…趣味がよくない 疎(ソ) …荒っぽく、語の使用法がピント外れ 枯(コ) …魅力がない 尖(セン)…枝葉にこだわり、まとまりがない 晦(カイ)…文意不明 瑣(サ) …こまかくて、こせついている 猥(ワイ)…くどい 浮(フ) …うわすべり シ乏(ボウ・漢字変換で出てこない。これで勘弁しテクダサイ。さんずいに貧乏のボウ)…漠然としていて今様ではない 略(リャク)…万事に雑で、意味不明 粗(ソ)…はずみがない 月半(バン・これも漢字変換一文字で出ません。月へんに半分の半。)…内容がふたしか 砕(サイ)…話しがあちこち、意味が通らない 冗(ジョウ)…むだ多し 陋(ロウ)…てらっていて、いやしい 浅(セン)…含意にとぼしく、深みなし 渋(ジュウ)…勢いがない 穢(オ)…流露感がない 俚(リ)…下品 排(ハイ)…盛り沢山すぎて、ことばに輝きなし 緩(カン)…しまりがない 巍(ギ)…万事に大袈裟 寛(カン)…だらだら、でれでれ 訐(カン)…強すぎる表現 短(タン)…文章の中心思想に深みがない 散(サン)…散漫 嫩(ドン)…生煮え、不消化
…などが挙げられ、それぞれ対応療法が掲げられているそうです。
いや〜な汗を脇の下のかきます。
…かといって、【これこそ、完璧】な作品を果たして自分自身がお手本として書いたとしても、それは自分の血肉たりえない。
歴代の偉大な作家のなかには「これでもか!」というほど、一文が長い長い作風の方もいらっしゃいますし…。
かといって単純明快な(私も陥りがちな)紋切り型は使い古されてしまっています。
導き出した答は「基本は自分の内面から発する」もののようです。
自己の精神が豊かになればなるほど、自ずと表現方法も変化に富み、自分なりの文章が出来上がるのではないでしょうか。
以上、(あくまでも)ちょろりんと書籍等により抜粋し、改良しておまけに自分の意見までくっつけてみましたが、(あくまでも)モノを書く行為自体、自然発露的なものですので他者から云々言われることもないな…とも思います。
いかがでしょうか〜。
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