今日は、歯医者のジィちゃん先生に頼まれていたカセットテープを渡しに行った。
歯医者のジィちゃん先生は、無類の『小林秀雄』ずきで、その書籍は殆ど蒐集している。
ちょっとした文学雑誌の対談や講演まで蒐集していて、私に「ワープロに打ち直して…。」と頼まれることもしばしばある。
そんな時は、チェックを兼ねて予備にコピーをするので私自身も文書のストックが増えてしまった。
私が若い頃は、何の興味も持てず難解なだけの文書だったが今となっては人間の根幹に即した小林秀雄の思想は財産だ。
さて、歯医者のジィちゃん先生に頼まれたカセット・テープは小林秀雄の講演を録音したもの… 確か二巻セット合計5個だか10個だか全集で買うと2万円もするシロモノである。
歯医者のジィちゃん先生は「“信じること と 知ること”の講演だけでエエねん…あとは持ってるし…。」と言っていた。
さて、バラで売っているのかな…。
私:「いちおうネットで検索してみるけれど、バラで買うのは難しいと思うよ。小林秀雄好きは多いから市場に出回らぬかも知れぬ。セットならあるけれど、2万円もするしなぁ…。(^^;;;」
ジィちゃん先生:「そうかー。(-"-; 2万円のんしか無いんかー。どうしても無かったら、先生がんばるわー!(*゚皿゚)ニカっ」
先生… 何をがんばるのかしらんけれど、患者から暴利をむさぼるのは止めてくれよ。(笑)
さて、ネットで検索してみると偶然に1件だけヒットした中古カセット♪ 幸い保存状態は良いそうなので、スグに購入 2巻セットで¥1,800 +送料等 いやー、安く上がりましたな…。 しゃっしゃっしゃっ♪(゜▼゜*)
まずは、音質をチェックせねばなりませねん。 チェックを兼ねて、MDにダビング♪(←ちゃっかり者と人は言う)
ええナー。 深いなぁ…、小林秀雄は。
講演の中で、民俗学の『柳田国男』の作品に触れている箇所がある。
私も以前読んで、あまりにも生々しい情感が辛かったので深く精神に突き刺さったいる実話がある。 口述筆記というのだろうか、 柳田国男がある囚人から聞いた話しだ。
その囚人は山で炭焼きをしてまかないをたてていた。
囚人には男の子の幼子と、そして同い年の貰い子の女の子の子供がいた。 女房はとうに亡くなっていない。
山で木を焼いて炭にしてそれを町に持っていって売るわけだが、そうそう売れない。 貧しい暮らしだ。 とうとう最後の米も底をついたというのに、その日も売れなかった。
ひもじい思いをしているであろう幼子の顔を見るのが辛くて、炭焼きは帰ってくるなり昼寝した。
起きると辺り一面、真っ赤な夕焼けである。
幼子達は何をしているのか?様子をのぞきに行くと、男の子がナタを一生懸命研いでいる。そばで女の子がしゃがみ込んで、ナタが研がれるのを見つめている。
そして、男の子はこう言った。
「おっとう!これで、僕たちの首を切ってくれ。」
そして、女の子と二人して土間の入り口玄関の扉の引き戸のみぞを枕代わりに寝っ転がった。
炭焼きは、ただ夕焼けの紅さに「クラクラッ!」と目眩がして、一瞬我を忘れてナタを振り下ろした。
自分も死のうと思って死にきれず、うろうろしているところを警察に捕まって逮捕されたわけです。
で、この話しを表面的に受け止めると単なる『残虐物語』となってしまうのですが、本当はそうじゃない。
子供達は、ひじょうに親おもいで「自分達が死ねば少なくとも2人の食い扶持が減る。おっとう一人だったら何とか飢えをしのげるのではないか?」
そう、二人で相談して決めた優しくも辛い選択だったわけです。
…この話しを知るたった一人の人間が柳田国男だった。
その当時、流行の恋愛物語への柳田国男の警鐘だったと小林秀雄は言う。
人間は確かに知識も必要だけれど、もっともっと深く物事を知ることが大切だと言っているんではないかな…と思う。
そんな話しを歯医者のジィちゃん先生としていた。
* 小林秀雄
小林秀雄【こばやしひでお】(1902−1945)東京生まれ。東京帝国大学仏文科卒業後、評論家として活躍し、近代批評の確立者といわれる。主な著書に『ゴッホの手紙』『考えるヒント』等がある。
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