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遠子(桜井都)

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 この空のどこかにて(テニス)(不二とリョーマ)。

 今もきっとどこかで。









「毎日暑いねえ、越前くん」

 唐突にほのぼのした口調で話し掛けられ、越前リョーマは不覚にも心臓が飛び跳ねる感覚を味わった。
 一年恒例のボール拾いの合間に振り返ってみれば、日陰ではタオル片手に三年生の不二が笑っている。

「…そうッスね」

 日陰にいるくせに何を言うか。
 口調とは裏腹の、嫌そうに細められたリョーマの目に不二はにこりと笑う。

「東京でこんなじゃ、九州はもっと熱いと思わない?」
「…そうなんスか?」
「ああそっか、越前くんは日本育ちじゃないんだっけ」
「緯度と経度の違いぐらいで何となく想像は出来ますケド」

 安直に物知らずだと言われた気がしたリョーマがそう言い返したが、不二は相変わらず不可思議な笑みをたたえた表情を崩さない。
 蝉が鳴くにはまだ早い初夏。それでもコートを照らす太陽は鋭さの度合いが春とは比較にならない。

「九州かあ。おみやげはやっぱりシロクマかなあ」
「…九州に白熊なんているわけ」
「いるよ」
「そんな」
「いるんだってば」
「…………」

 真顔で言い募られ、ついうっかりそうですかと納得してしまいかけた自分をリョーマは内心で叱咤する。このペースに負けるな。

「あ、信じてないね」
「……………」
「いいよ、手塚にちゃんと買ってきてもらうから」
「…買えるものじゃ」
「買えるって」

 どうやって飛行機に乗せるんですかセンパイ。
 ふと白い熊に跨って帰ってくる金太郎もどきの部長の姿を想像してしまい、リョーマは笑うより先にむなしくなった。面倒だ。

「…んじゃ、部長が戻ってきたら俺にも見せて下さい」
「うん。今度手塚に電話したとき越前くんの分も頼んでおくよ」
「ヨロシクオネガイシマス」

 ちょうどそこでリョーマのラケットの反面一杯にボールが乗った。落とさぬようバランスを保って歩き始めると、不二の声が背中に掛かった。

「同じ太陽でも、九州は多分日の出とか日没とか時間が違うんだろうね」
「……………」
「同じ空の下っていっても不思議だよね」

 それは、言葉通り不思議そうな声音が半分と、少し寂しそうなものが半分。
 自分でもよくわからないうちにリョーマはそっと振り向いた。
 不二は、空を仰いで笑っていた。


「…元気なら、それでいいんだけどね」


 元気ですか。
 怪我の具合はどうですか。
 今、どんなことをしていますか。

 ふと気になるのは、どこかにいる君の上にもある空を見たとき。


「元気ですよ」


 慰めよりも随分現実的なリョーマの声音だった。

 日増しに強くなる夏の気配。
 今もきっとあの人はどこかで。






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 手塚のいないテニスになんて興味ねえぜと言わんばかりの桜井さんです。
 手塚が戻ってきてあの目障りなH帝メンバーがいなくなってくれたら、またテニスも再ハマりするかもしれないんですけどね(真ん中ぐらいが暴言です桜井さん)。
 ああでも鳳くんだけは可愛いと思えるかもしれない。A部は消え(以下自主規制)。

 しろくま。
 よくコンビニとかで「九州名物」と書かれている、私には適当なフルーツが入った練乳かき氷にしか思えない氷菓子です。本当に九州名物なのか。
 しかし「〜ッス」というと、いかんせん藤代口調みたいに無駄に「!」をつけたくなる。

 うわーんレポートが終わらないよう。

2003年07月06日(日)

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