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遠子(桜井都)

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 アイズインザスナイパー(ホイッスル!パラレル)(三上亮)

 漆黒の闇の中をただ独り。










 暗い路地裏を、影が一つ走り抜けて行った。
 足下で鳴る水音は夕暮れ時に降った雨の名残だ。蹴散らし、水の雫を服の裾に跳ね上げながら行くその影の持ち主はちっと短く舌打ちした。

「あっちだ!!」

 背中から聞こえる声。さらにそれに応える複数の声。
 確実に追ってきている。
 青年はそれを嫌でも悟らずにはいられず、走る速度は緩めないまま顔をしかめた。

「しつけえってんだよ…!!」

 己が招いたミスとはいえ、思わず悪態が飛び出た。
 今夜の標的は想像より随分と権力も財力もある人物だったらしく、追跡者の数は一向に減る様子を見せない。それどころか時間を経るごとに増えていく。彼らにしても、警護する対象をああ易々と殺害されたのだから、せめて加害者だけでも確保しなければ面子が立たないのだろう。
 しかしまた、スナイパーの彼にボディガードたちの面子を守る義務も義理もない。

「いたぞ!」

 すぐ手前の角を曲がりかけたとき、正面にカンテラの明かりが見えた。

「やべ…ッ」

 即座に身を引き、それまでの路地に戻ろうとしたが半歩の差で間に合わなかった。
 パシュッ、と風を切り裂く音と同時に、短い矢尻が目の真横をかすめていくのをかろうじて眼球だけを手のひらで守りながら見る。
 こめかみのあたりに熱くぬめる血液が流れる感触がしたが、拭っている余裕はなかった。
 顎をしたたり落ちる血が、足下の水に溶けた。

「ちきしょ…ッ!」

 こんなはずじゃなかった。
 手負いとなっても尚走るのを止めず、三上はただ己の迂闊な失態を呪った。
 掴まるわけにはいかない。殺人は死罪に近い刑罰が与えられるのがこの街の刑法だ。しかし自身の命にも限らず、彼が捕らえられることで余波を被る存在がいる。
 守らなければならない人がいる。
 殺人を犯して、罪を重ねて、他人を傷つけても、守りたい人がいる。
 路地裏を飛び出し、雨の夜だというのに人混みの多い酒場通りに紛れ込む。
 幾人かの酔っ払いとぶつかったが、謝罪する暇などない。追っ手を撒くためにもわざと人の多い方向に向かい、ようやく大丈夫だと判断出来た頃には雨はもう止んでいた。
 足を止め、人目につかないよう家々の隙間に入りながら、壁に背を預けた。

(…みっともねえの…)

 何という様だ。
 濡れた前髪を手で掻き上げたとき、ちりりと傷が痛んだ。雨だけではない液体に手のひらがベタつく感触がある。
 ここに来て急激な披露が三上を襲った。
 冷たい雨は体力を必要以上に奪う。いつまでもここにいるのは危険だと思いつつ、その場に腰を下ろすと動けなくなった。
 右足を楽なかたちに伸ばし、ふと思って空を見上げる。
 曇った真夜中の空。今日は満月のはずだったが、厚い雲に阻まれてその光はここまで届いていない。星も見えない暗い夜。
 あいつは元気だろうかと、不意に思った。
 こんな冷たい夜に、寂しさや辛さに泣いていなければいいと思った。
 目を閉じ、息を吐いたそのときだった。


「…誰かいるのか?」


 一声と共に、カンテラの光が三上を照らし出した。
 まずいと三上は咄嗟に身を引き、顔の前に腕を翳す。

「……………」

 相手は三上とそう歳の変わらない青年だった。今の三上の視線の高さの影響だけではなく、一見して長身だということが知れる。
 追っ手だろうかと一瞬のうちに考えたが、こんな間抜けな聞き方をする奴があの面子の中にいたとは考えにくい。

「…怪我してるのか?」

 炎に照らされた三上の頬を見、相手は表情に険しさを増した。
 よろけないよう注意して、壁に手を当てながら三上は立ち上がる。

「別に。ほっとけよ」
「ほっとけない」

 言葉と同時に、横をすり抜けようとした腕を掴まれる。
 強い力だった。振り解くことを諦め、三上は昂然と顎を上げて相手を睨む。

「離せ」
「医者がいる」
「は?」
「知り合いに医者がいるんだ。…どんな患者でも、相手のプライバシーを厳守する腕のいい医者だ」
「…別に、この程度何てことねえよ」
「でも放っておいたら俺の後味が悪い」

 人が良いようで手前勝手な言い草を三上は鼻で笑った。

「てめえの自己満足に付き合ってられるかよ。離せ」
「素直じゃないな」

 不意に笑われて、三上は少なからず鼻白んだ。何なんだこいつ。

「…お前、誰だよ」
「渋沢克朗。偶然ここを通りかかった善良な一般市民だ」
「ああ、ただの酔っ払いか」
「失礼な」

 それで、とその渋沢は三上に問い掛けた。

「そっちの名前は? 俺は名乗ったんだ。そっちも言わなきゃフェアじゃない」
「悪ィけど、俺は公平さを重んじるほどイイ奴じゃねえよ」

 ようやく掴まれた腕を解放させることに成功した三上は、相手を無視して歩き出した。帰らなければならない。
 背中の向こうから声がした。

「…じゃあ、次に会えたら名前を教えてくれるか?」
「は?」
「賭をしよう。会えたら俺の勝ちだ。そしたら話をしてくれ」
「…何の」
「真夜中に出歩く理由だ」
「……!!」

 ばっと勢いよく振り返る。渋沢は先ほどの場から一歩も動かず三上を見ていた。

「じゃあ、またな」

 夜の闇の中でもはっきりわかるほど、にっこりと笑って渋沢は踵を返した。
 三上は呆然とそれを見送り、足音が消えてから気の抜けた呟きを漏らした。

「何だ…あいつ」



 それが二人の出会いだった。







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 意味不明。
 でもいいの。これで私は勝ったから!(判定として微妙)

 きっかけは某Kザキさん(さっぱり某じゃない)から。

>童実野町の某ビルを毎日磨きまくってる清掃員。
>裏の顔は「掃除屋」という異名を持つスナイパーなんだって。内緒だよ?

 という注釈つきの三上コスプレイラストが提示されたから。
 ああ元ネタはポップンさ。
 全然違うものになったけどね!(上参照)(清掃員…?)
 でもとりあえず第一関門「三上でスナイパー」は貫徹されたと思います。ハイ私の勝ち!
 ツッコミどころはお前は三上を美化しすぎだだと思います。自覚あるよ。
 あとなんで渋沢がいるんだ、とかね。イエス趣味。そして続きを書く気は当たり前のようにない。

2003年04月20日(日)

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