![](http://img.enpitu.ne.jp/space.gif) |
![](http://img.enpitu.ne.jp/space.gif) |
■■■
■■
■ 奇縁。
母が、嫌いだった。 いつも父に付き従うだけの、母が嫌いだった。 …今も嫌いだよ。だけど。 母が、好きだ。とても好きだ。 大切だ。…やりきれないけど、それでも、親なんだ。 嫌というほどに、思い知らされた。
父は、私が弟に襲われた事を知らない。 父は、私が変質者に襲われた事も知らない。 母は、知っている。 けれど…何も変わっちゃいない。 私の部屋には、申し訳程度の鍵がついただけ。 それも、あけようと思えば簡単にあけられる。 意味のない、形だけの対策。 …父にばれるからだ。急にそんな事をすれば。 父は夢にも思っていない。 私と弟の間に、そんな事があったなど。 母は、考えたに違いない。 その頃、険悪だった父と弟の中は、良いものになっていたから。 こんなこと、でそれをまた悪化させるのはよくない。 と。 …そう、私の身に起こったのは、 「こんなこと」の一言でかたづけられた。 私が我慢すれば、全て丸くおさまるのだから、と。 母は、無言で、そう言っていた。
私が変質者に襲われた時、 家に入る前に身支度を整え、笑う練習をした。 それからいつも通りに帰宅し、シャワーをした。 男の臭いがずっとこびり付いているようで、ひどく気分が悪い。 乱暴に突っ込まれた所がヒリヒリと痛んだので、念入りに洗った。 涙は、でなかった。 その、次の日ぐらいだっただろうか。 ふとした事で母と口論になり、私は自分の身に起こった事をぶちまけた。 母は茫然とし、会話はそれっきりになった。 だが、それだけだった。 警察や、病院に行こう、とは終ぞ言われなかった。 そしてそのまま、それはなかったことになった。 ソレが起こってからの三日か四日、私には記憶がない。
私は、もうあきらめる事にしていた。 母も父も、弟も。嫌いにはなれない。 だけど、諦めよう。 私は感情を処理する事を覚え、 家族の前で自分を見せる事をやめた。 心など、許せるはずもなかった。
ただ、母に関しては。 あの日、喧嘩をしたあの日。 母は私に打ち明けてくれた。 母もまた兄から、ソレを受けたのだと。 …私は許せなくなった。皆同じだと思った。 同時に、母を理解した。 母は四十年誰にもそれを言わなかった。私の父にも。 誰にも言えずに、ずっとそれを一人で抱えていたのだ。 どれ程、辛かっただろうか。 母の叔父に対する態度を思い出し、胸が痛んだ。 同時に、叔父に対する憎しみもこみ上げてきた。 この事は、私と母しか知らない。
父には、申し訳なく思う。 今自分が働くようになり、少しだけ父の偉大さが理解出来る気がする。 父は私が誰かと結婚し、子供をもうけ、幸せな家庭を築くものだと信じている。 …孫の顔を見せてあげられない事に、私の心は少しだけ痛む。 けれど、いつか父にも言おうと思う。言わなければならない。 父が理解してくれなくてもいい。勘当されても構わない。 私が歩もうとしている道は、理解出来ない道だから。 けれど、私はそれを幸せだと感じている。 この先に待っている痛みも、絶望も、孤独も。 すべてをひっくるめても、幸せだ、と思っている。 それが、自分を納得させるための強がりでもいい。 私の幸せは、私が決める。 …だから、その時は… 黙って、私の話を聞いてください。
2004年11月16日(火)
|
|
![](http://img.enpitu.ne.jp/space.gif) |