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2024年05月25日(土)
小林建樹『25th anniversary』

小林建樹『25th anniversary』@Com.Cafe 音倉


で、狼狽したので何をリクエストすればいいか訳がわからなくなって(だってどれをやってくれてもうれしいじゃん)なんだか普段でもやる確率が高いものとか書いてしまった……家に帰ってディスコグラフィーを眺め乍らじっくり考えたかった〜。

そう、「ミモザ」やったんですよ。個人的にはこの曲、“世界の全部が入っている曲”として高橋徹也さんの「犬と老人」と同じ箱に入っているのです。曲も素晴らしいんですが、とにかくいつも歌詞に打ちのめされる。ひとはこんなに達観し、でも諦観ではなく、全てを受け入れることが出来るのだろうか。悔しさや苦しさを抱えたまま、そんな思いに至ることが出来るのか。この曲が最後に収録されている『Music Man』は、小林さんがメジャーレーベルに在籍していた最後のオリジナルアルバム(その後カヴァーミニアルバム、ベスト盤を出してメジャーからは離れる)。最後がこの曲だったことで、当時はいろいろ考えた。ある世界への別れのようなものなのか。だとしたら、新しい世界はどこにあるのか。などなど。

20年以上経って知り、驚いたことは、この曲が『Music Man』のなかでいちばん最初にレコーディングされたものだったということ。この日のライヴで話してくれた。キティレコードは池尻大橋にあったこと、神戸から出てきたばかりで、東京のことも社会のことも知らなかったこと。「池尻大橋って、渋谷からすぐのところなのに閑静で」「住宅街の間に、ぽつ、ぽつ、とお店がある。看板とかもなくてね。あ、お店やん! 入っていいんやって」「地元(神戸)は、なんていうか、お店もドサーッってある感じなんで(笑)」「おしゃれやなあ、って」。そこにあったキティのAスタジオはとても広かった。30人くらい入る、オーケストラの録音も出来る。ストリングスアレンジがあった「進化」もここで録った。レコーディングの合間にバスケットをして(!)遊んだこともあったそう。

そして「ミモザ」は、その広いスタジオにグランドピアノを一台置いて録った。いい曲が出来た、いいものが録れたという手応えがあり、アルバムもきっといいものになる、と思ったそうです。この曲は惜別ではなく、ある種の旅立ちをも描いた曲だったのかもしれない。今になって、そう思えたことがうれしくもあった。

今回は『25th anniversary』というタイトル。前回が『25周年、一緒に楽しみましょう!』というタイトルで、なんだか被っているけれど、今年はアニバーサリーイヤーですからね。それにちなんでか昔話なんかもしてくれたんですが、メジャー時代についてくれたNくんというマネジャーの話が面白すぎた。「もうダメですわー、ぼく死ぬんですわー」が口癖で、キャンペーンで地方に行ったときホテルの部屋から出てこなくて、電話したら「手が真っ青なんです、もう死ぬんです」といわれたと。手を見せてもらったらホントに真っ青。「どうしたん!?」とよくよく見たら、ジーンズの色写りだったと(笑)。ジーンズの裾で手を擦るのが癖だったんですって。すごいオチだな。こちらからすると小林さんも相当なイメージなんですが(失礼)それに輪をかけて強烈なキャラクター。死ななくてよかったね。健康ってだいじね。

そこで今回は健康について考え込んでしまいました。心身ともにヘルシーであること、そしてアーティストの健康とは?

小林さんのライヴが大好きなのは、リカバリの過程にすら聴きごたえがあることなんです。心身ともに絶好調、は理想ですが、人間いつでもそうであるなんて無理な話。では、そうじゃないときどうするのか。小林さんはライヴ当日にピークパフォーマンスを持っていくため、日々のコンディショニングに非常に気を遣っているように感じます。セットリストをはじめライヴの構成、進行をしっかり決め、当日何を話すかきちんと決めている(以前MCの練習もするといっていた)。しかしライヴはいきものなので、様々な要因で自分のペースを乱されることがある。そのときこの全身音楽家は、どう対応するか。

この日はギターパートにそれが顕著でした。1曲目、何が原因かは判りませんが、ギターのストロークと歌のタイミングにちょっとした乱れが生まれた。それでも演奏をやめず、飛行機が強風に煽られ乍ら着陸するように最後迄演奏。素人目にはあらら? くらいな印象でしたが、その余波が2曲目にも続きました。始まったばかりなのに顔に汗が吹き出し、涙のように頬を流れていく。しばらくして落ち着いたか、その後は順調でしたが、最初のMCで「いやー、すごい練習したんですけど。自分ではすごく練習してるつもりなんですけどまだまだなのかな」などといっていた。以前「緊張しいなんです」といっていたし、内心とても焦っていたのかもしれない。

でも、小林さんの魅力はこの揺れやズレにこそあると思っているのです。ステージ上で四苦八苦する様子を見たい訳じゃないですよ! 演者自身のチューニングやBPMの変化を目の当たりに出来る。便宜上ミスタッチと書きますが、そのミスがミスにならないように演奏をリアルタイムで変化させていく。それが面白いし、ライヴの醍醐味でもあります。そうそう、この日はギターチューニングの話も興味深かった。Gといってた気がするので3弦かな? チューニングを低めにしている、というか緩めているのだそう。何故なら切れやすいからなんですって。それに合わせて声も微分音で鳴らしているように感じる。音符がジャストで移行しない。この日のMCで話していた「ギターのミュート」もそうですが、所謂“音符で表せないもの”を実演することの凄みを感じる。オンドマルトノの話もされてましたが、カッティングやスタッカートによって生まれるパーカッシヴな演奏と歌には、“ジャスト”ではない音楽の魅力が詰まっている。

そしてセットリストが決まっていても、曲間のブリッジは音源にはないもので毎回変わる。スキャットもそう。歌詞、言葉がないパートに発せられるその声は、既存の楽曲からみるみると新しい音楽が生まれてくるさまを見せてくれる。ひとつの曲には無限の可能性がある。それを気付かせてくれる。

アーティストの健康に正解なんてないのかもしれない。身体が頑丈であることと、メンタルが安定していることが全てではない。気持ちよく演奏出来ることは勿論ですが、環境に応じて違うものをどうにでも鳴らせるという意味では、近年の小林さんのライヴはヘルシーな状態のように思えます。いやいやそれでも心身ともにお気を付けて! 元気でいてください!

といえば、前回の感想でタバコやめてたのね、「禁園」を唄ってたひとが〜なんて書きましたが、この日「禁園」やったんですよ。おお〜煙草やめてても演奏は聴けた、うれしい。やめて7年くらいになるそうです。「全然平気。呑み屋とかで傍で吸われても平気」(禁断症状も出ないし吸いたくもならない)とのこと。凝視の曲が俯瞰の曲になったといえばいいだろうか。人生という旅とともにある音楽も、また旅をしている。

当時の環境が「ミモザ」を生み、それが普遍なものとなり現在に響く。つらい出来事が暴力的といっていい程に次々と可視化される今、この歌は世界の悲しみと向き合う術を教えてくれる。社会への不安が込められたような近作「魔術師」も、時代の変化とともに違う顔を見せてくれるのだろう。それを聴いていきたい。

(セットリストはツアー終了後転載予定)

(20240603追記)
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Setlist(オフィシャルサイトより

01. ふるえて眠れ(『Gift』)
02. 6月のマーチ(『Window』)
03. Sound Glider(『Golden Best』)
04. Sweet Rendez-Vous(『曖昧な引力』)
05. 青空(『Rare』)
06. 絵になる大人(『曖昧な引力』)
07. 魔術師(『Gift』)
08. ソングライター(『流れ星Tracks』)
09. ミモザ(『Music Man』)
10. 果実(『Emotion』)
11. 夜行虫(『Emotion』)
12. 魔女の夜間飛行(未発表曲)
13. 祈り(『Rare』)
14. 禁園(『Emotion』)
15. 満月(『曖昧な引力』)
16. ヘキサムーン(『Music Man』)
encore
17. ハルコイ(新曲)
18. Air(未発表曲)

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こうやって見ると、同じ25周年でも前回はやはり『Gift』レコ発の色が強かったですね。未発表曲が多いことも、これからを楽しみに出来る。うれしいことです。

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・ちなみに冒頭に書いたリクエスト、集計してベスト3を次回のライヴで演奏するそうです。次回がもう決まっているなんて、数年前からすると信じられん。うれしいことです。9月14日ですってよ!


ライヴ前のツイート。筆記用具の配慮、こういう気遣い素晴らしいよね! 余談ですが先日親戚が亡くなりまして、微妙に遠い関係だったので葬儀に来なくていいよといわれ香典だけ送ったんですが、葬儀に出たひとの半数以上がコロナに感染したって連絡がきた……クラスターじゃん! コロナ全然流行ってるよ! 皆気をつけて私も気をつける!

・帰宅してTVつけたら『アド街ック天国』が池尻大橋特集だったのでニコニコした

・「魔術師」のギター、すごいややこしくてよくあれ弾き乍ら唄えるなと思う。なんだろややこしいというか……弾くのかなり面倒くさいやつですよね。ザラッとしたアコギの音色でジャリジャリデケデケとリフを弾く、めちゃめちゃ格好いいです

・で、ふと思ったが、小林さんてギター弾くときは前方を睨むようにして唄うけどピアノだとほぼ目を閉じてますよね。何故だろう。まあギターは客席と真正面から対峙するし、目を閉じっぱなしというのも違和感あるのかもしれないですね

・化学調味料と料理家のリュウジさん、ラーメン店でバイトしていた後輩の話から昔やってたバイトの話面白かったなー。阿川弘之のエッセイ思い出した。食材が貧しかった戦後、阿川さんがおいしくないと家の料理に文句をいうと、ご母堂が「原子爆弾使おか」と味の素をドバッと入れた。すると見違えるようにおいしくなった、という話。焼け野原になった広島で、ですよ。この胆力! 今だったら炎上しそうなこの物言い、切り取りではなく全文読むのがお勧めです。文脈ってだいじ。中公文庫の『食味風々録』に収録されています



2024年05月18日(土)
『ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版』

『ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版』@シネマート新宿 スクリーン1


やっと観られた、というか、観られるとは! 1973年作品。1974年の日本初公開から半世紀を記念して(?)デジタル・リマスター版が公開です。以下ネタバレあります。ネタバレっていうか、ねえ……。

“ソイレント・グリーン”を知ったのは2006年。ドイツの劇作家兼演出家であるルネ・ポレシュが来日し、tptで『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』を上演したことからです。木内みどりさんや長谷川博己さんが出ていましたね。そこから『ソイレント・グリーン』という映画があることを知り、あらすじを読んだら「合成食品ソイレント・グリーンとは…? ある殺人事件をきっかけに、刑事はその秘密を追う!」とか書いてあって……ええ〜。『皆に伝えよ!〜』って、もうタイトルがネタバレじゃん。悪意あるよねこれー! ヒドいよ!!!

とはいうものの、今回SNSでひとの感想とか読んでみると、当時もバレバレだったそうで。この方のスレッドによると、ネタバレそのものが宣伝として使われていたみたいですね。もはやエンタメとして楽しんでしまおうという姿勢が見える。欧米では「なんてこと!」という拒否反応がかなり大きかったようです。嫌悪の度合いは倫理観というよりは宗教観の違いかなあ。土葬と火葬の違いというか。いや、こちらでもそりゃタブーだとは思いますが。

という訳で、秘密はもう判明しているので、人口が増えすぎて食糧難となった人類がどう生活しているか? というディテールを楽しむ(?)映画として観ました。50年前に描かれた2022年、つまり一昨年はどんな世界なのか。

人が多いので、食料だけでなく住居も足りていない。道端にも教会にもひとが溢れている。温暖化で気温は常に30度を超えている。富裕層は豊かな暮らしをしている。快適に暮らせる空間を持ち、勿論食べものにも困らない。人工食ではなく本物の野菜や肉を食べることが出来る。一方庶民は……この辺りはディストピアものとしてよくある風景です。「本物の野菜や肉はこんなに美しく、芳しく、美味しいんだ」「グレープフルーツの実物を見たことないくせに」「熱いシャワーを使えるのか」「石鹸で顔を洗えるなんて」(そう、作中の2022年でこれらは超高級品なのです)といった場面は、役者の演技の確かさで感動的でもある。レトロフューチャーは過去か未来か? 懐かしさを感じつつ、現実の未来を想像して身震いする。

ほほう、と興味深く感じたのは、「Book」と呼ばれる老人と、「Furniture」と呼ばれる女性が一定数いること。老人は知識としての「本」とわかりやすいんですが、女性が「家具」とは。最初台詞を聞いたときは「うわっ(エグい)」となったんですが、ストーリーが進むにつれ、これはこれでアリなのではなんて考えも浮かんできてしまう。

「家具」は文字通り家にいて、住人を待っている。賃貸なんですね。作品中の「家具」たちは、優しい主人たちからだいじにされている。石鹸も清潔な水も自由に使え、綺麗な服、綺麗な調度品に囲まれ暮らす。人工物ではない、新鮮な食材も用意出来る。しかし「家具」は、自分の意志で家から出ることは叶わない。入居希望者がいない場合は「空き家」となる。寂しくて部屋にともだちの「家具」を呼ぶと管理人に酷く叱られ、殴られることもある。

「家具」たちのお茶会にはアンニュイな心地よさがあった。彼女たちには外の恐ろしさを知らないまま暮らしていってほしいなんて願ってしまう。「あなたたちは自由を知らない」なんて、誰が彼女たちを責められようか。知らんけど優しいおっさんに賃貸されて何不自由なく暮らすのと、自由に動けるけど衣食住が圧倒的に不足した不衛生な場所で暮らす生活と、どっちがいい? でも、作中描かれてなかったけど、この「家具」たちもやがて歳をとるわけじゃん。そしたらどうなるの……「本」になれるの? その「本」だって「ホーム」へ行きたいとか思うようになるし! そもそも自由って? 裕福って? 豊かさって? 幸せって何ーー!!! 刑事が「家具」に“Just Live.”という場面が沁みました。ただ生きる、この世界でそれがどれだけ困難なことか。

刑事役は往年のスター、チャールトン・ヘストン。モテモテ。女性と老人にやさしく、正義の人。かと思えば捜査に入った豪邸からいろいろとちょろまかして帰っちゃう茶目っ気もあり。それも自分ちにいる「本」へのお土産だもんね。てか父子という訳でもないのに同居しているこの「本」のことを、仕事上の必要もあれど上司から「そろそろ新しい本にしろ」っていわれてんのに拒否する辺りも人情派。こりゃモテる。その「本」を演じたエドワード・G・ロビンソンは今作が遺作。自ら「ホーム」へ向かい、ベートーベンの交響曲第6番『田園』が流れるなか、かつての美しい地球を眺め乍ら眠りにつく。胸を打つ臨終の場面でした。これはスクリーンで観られてよかった。

原作はハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』というSF小説とのこと。ハヤカワ文庫で邦訳が出ていたそうなんだけど絶版。読んでみたいけど結構なプレミアがついています。これを機に復刊しないかなー。ちなみに「皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと」は、刑事の最後の台詞だったのでした。20年近く経ってやっと知る。

50年前にもうダメだー! と思われていた世界は、ヨタヨタしつつも人間が生きていける環境ではある。地球の寿命は宇宙の摂理なれど、それ迄この星の美しさは維持していきたいものですよ……。

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こまごまメモ。

・溢れる人、人、人。人とゴミの山、美しい自然と破壊される自然などのコラージュによるオープニング。これらは実際の映像で、日本の満員電車に押し込まれる乗客の様子もありました。当時から名物(?)だったんですね

・丁度一年前にKAATで上演された、タニノクロウ演出作品『虹む街の果て』に「これ、ソイレント・グリーンがモチーフだよなあ」と思うものが出てきてたんですよね。ずっと気になってた。今回答え合わせが出来た感じ

それにしてもこの映画、宣伝がうまかった。




こんなん気になるやん!



コメント依頼の人選もよい……面白いツイートばっかなんで是非アカウントから直に見るのをお勧めします。

しかも上映館はシネマート。もともとその傾向はあったけど、コロナ禍の頃から「映画館に来てほしい」と館内装飾にものっそ力入れるようになったところです。オリジナルのグッズにフード、ドリンクといつもすごく凝ってる。


クラフト魂。行った日はお客さんから「すごいねえ、これ何で出来てるの?」と訊かれて「ベニヤ板です!」と素直に答えていた。そこは「い、いえません!」といっとかんと。


行ったの公開二日目だったんですが、「初日には間に合わなかったベルトコンベアーが入りましたー!」って呼び込みしてた(笑)。


おいしかったでーす!


ヘストンは公民権運動家でもあったんですよね。『ソイレント・グリーン〜』は白人も黒人もアジア系も出演している。このバランス、当時の精一杯だったのかなと思いつつ、なかなか頑張った配慮なのではないかと思います。その辺ヘストンも噛んでたのかもなと思ったりもし、人間とは多面体なものよのうとしみじみ。
マッドボンバーことチャック・コナーズは過去シネマートで『マッドボンバー』をリバイバル上映した後、何故かずっとトイレにいるんです……。



2024年05月17日(金)
Loraine James Japan Tour 2024

Loraine James Japan Tour 2024@CIRCUS Tokyo


隣のお兄さんは「すごい、最高、天才」とかいいつつさめざめと涙ぐんでおりました。そしてその後眠りに落ちてた(笑)ホント気持ちよかったからね……。

一昨年の初来日公演には行けず(単独はオールナイトだったので躊躇してしまい〜)、ヨダレをたらしつつSNSで様子を眺めておりました。ライヴ自体も評判よく、ご本人もすごく日本を楽しんでる様子が伝わってきて、次は行きたいな、オールじゃないと助かる(…)と思っていたら丁度よい時間帯で公演が。やったね!

それにしてもこんなに早く再来日が決まるとは。そもそもロレインに興味を持ったのは、日本のマスロックが好きで、mouse on the keysのロンドン公演にも行ったという話をしていたele-kingのインタヴュー記事。それを読んだ新留さんが驚いて、motkのアカウントに転載していたのです。ご本人のSNSをチェックしてるとしょっちゅう日本の話題が出てくるし、行きたいなあといってるし、そして何より日本の音楽めちゃ聴いてる。今回も、来日直前のNTS liveで日本の音楽特集を組んでいました。


・Loraine James - Japan Special 9th May 2024 | Listen on NTS←今も聴けます
このトラックリストですもん。ヨコタさん入ってるのが激熱なんですけど! スケッチショウも…そして〆がハラカミくん……!


来日したら早速タワレコに行ってお買い物。DOUBLEも買ってるしー。ハラカミくんの音源を管理して(るのかな?)没後も定期的にリイシューしてくれている原雅明さんが、このツイートを見て「CDでリイシューして良かった」といっていてほろり。

今回も、前回同様日替わりでロレイン名義の作品とWhatever The Weather名義の作品のライヴを披露するという形(ツアータイトルは『Loraine James // Whatever The Weather Japan Tour 2024』)。東京公演ではロレイン名義の方はソールドアウトしていたんですが、Whatever The Weatherの方はちょっとチケット余っていたみたいんですね。そしたらご本人が「お金のない子はメッセージをください。ゲストリストに入れておくから」とツイートしてました。太っ腹!!!

さて当日。小箱のクラブなんで全然段差ない+激混みで視界はゼロ。前にいたふたりづれが「場所変わりましょうか? 私たちの方が身長高いんで」といってくれたのですが、一列前に行ったとて見えないのは変わらないので丁重にお断り。てか親切…なんていいひとたち……暴れるひともおらず、アーティストがいいひとだと聴き手もいいひとたちという美しいフロアでした。全体的に聴き入るオーディエンスが多かった。というかフロアが文字通りすし詰めなので動けない(笑)ので、身体を揺らすときもちいさくちいさく。


これですもん、階段迄ビッシリ。といえば階段上にちゃんと車椅子用のスペースが用意されててよかったな。ちゃんと見えてるといいが。

アンビエントな流れから徐々にビートが動き、BPMはゆったりめなのに低音のブレイクビーツがめちゃめちゃ効く。この低音がなんてえの、低周波治療器みたいな圧があって。ツボに! 入る! ビートが続くとこないだのcontact Gonzoみたく具合悪くなる! けどそうなる前に展開があるので、気持ち悪くなる寸前でまた気持ちよくなる、その繰り返し。女声ヴォーカルチョップもあり、とにかく気持ちいいのです。どうせ視界は前のひとの背中だし、目を閉じて聴いてました。あまりの気持ちよさに眠くなる。隣のお兄さんが寝るのわかる(笑)。

……とうっとりしているうちに終了、1時間ちょっとくらいのセット。アンコールは1曲。この音が聴けただけでもいいか…いやでもちょっとは見たかった……と思っていたら、ここ所謂舞台袖がないんかな? なんとフロアを縫って退場。すぐ横を通ったのでめちゃ間近でお姿見られました。ここで初めてどんな服着てたかを知る(笑)。ニコニコのロレインを見られて嬉しかった!

いやーとてもいいライヴでしたがもうちょっと! 広いところで! 観られたらうれしい! というか次回はもっとデカいハコになるんじゃないかなー。やっぱ踊りたいじゃん……。フロントアクトの蓮沼執太ソロもめちゃよかったです! 蓮沼さんというとフィルのコンダクターというイメージだったので、ソロでエレクトロセットだとこういうのなんだ! と驚きが。人工音にフィールドレコーディングした自然音を織り交ぜる感じだったのかな……全然見えなかったけど、前で見たひとが「瓶に入った水をかき混ぜて音を出してた」と書いていたので、その場で作った生音もあったみたい。それは…見たかったな……。

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また来てねー!

CIRCUSの近所のジョナサンがなくなってた……嘆きつつストリーム迄歩きラストオーダー間際のレストランに駆け込みお茶。接客してくれたお兄さんが柿澤勇人さんに似てるな……と思っていたら、ポンチさんに「あのひと柿澤さんに似てない?」といわれる。先週見たばかりなのでそう思うのかなーと思ってたけど、やっぱ似てたよね! thee michelle gun elephant(TMGEではなく)とチバくんアベくんについてしみじみ語り帰宅。



2024年05月11日(土)
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』

彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール


フォーティンブラスの進軍を遠景に見るハムレットのシーンは作中最も好きな箇所なのだが、その後の独白がこんなに胸に迫ったのは初めてだった。音楽の力を借りず、衣裳の力を借りず。言葉、言葉、言葉だけで。

寂しさの在り処を知っている、孤独を愛するハムレットだった。そう見えた。この作品で、タイトルロールの人物にここ迄惹かれたことは過去ないかも知れない。観客は作中の民衆でもある。民衆がハムレットを敬愛し、クローディアスに不信感を抱く感覚を共有出来る。だが、民衆は城内で起こっていることを知らない。ハムレットがどんなに残酷な人物かを知らない。一方、観客には神の視点が与えられている。快活だった王子が変わり果て、自分の愛するものを悉く死に追いやってしまったことを目撃する。

しかしそれでもなお、観客は彼に惹かれてしまう。

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芸術監督に吉田鋼太郎を迎え、彩の国シェイクスピア・シリーズが「2nd」としてスタート。訳は小田島雄志版で、吉田さんが上演台本と演出を手掛ける。剪定された台詞群とミニマルな舞台美術(杉山至)に、思い切りと活きのよさ。音響(井上正弘)もミニマルで、“言葉、言葉、言葉”のバックグラウンドに流れる音楽は、香水のようにさりげなく、しかししっかりとその痕跡を残す。演者の美しさを引き立てる、バランスが良く機能性の高い衣裳(紅林美帆)と、そのシルエットを追う照明(原田保)も印象深い。さい芸大ホールの特徴である舞台の奥行きも活かされており、スモークが流れるほぼ素の舞台の奥から亡霊が現れる場面は、まさに「霧のなかから忽然と浮かび上がった」ように見えた。

“2nd”ならではのカラーとしては、台詞の扱いとキャスティングだろうか。長年シェイクスピア作品の舞台に立ち、台詞を口にしてきた吉田さんの手腕が光る。上演台本は中だるみがないスピード感あふれる構成になっており、話し言葉も明瞭。翻訳調子を違和感なく聴かせ、観客の理解と感銘を引き出す。オフィーリアが配るさまざまな草花も、それぞれの花言葉を語る台詞を信じているからこそ、象徴的に花束をミモザに統一したのではないだろうか。舞台で扱われる花はミモザのみ。他には王妃の部屋、幕切れに登場する。ちなみに黄色いミモザの花言葉は「秘密の恋」だが、これが白いミモザになると「死に勝る愛情」なのだという。なかなか意味深。美術の方のアイディアかもしれないが、このことを吉田さんが知った上でミモザをチョイスしたのであれば、ちょっと素敵な話でもある(と、ここ迄書いといてミモザに似た違う品種だったらどうしよう・笑)。

用意された場がミニマルな分、演者の言葉と身体が際立つ。言葉のやり取り、身のこなし。これらのリズム、テンポが素晴らしい。特にハムレットと亡霊、ハムレットとポローニアス、ハムレットとクローディアスのやりとりが見事で、ああいえばこういう的な演出によってシリアスにもコミカルにもなる台詞の応酬が、いい塩梅でシリアスとコミカルの両方に揺れる。心の中で拍手したのはハムレットと正名僕蔵演じるポローニアスの、「魚屋だろう」からのやりとりや「あの雲は〜」からのシーン。支離滅裂なハムレットの言葉にポローニアスが会話を合わせていくのだが、そのリズムとスピードが抜群。途中からキレ気味になってきて観客を笑わせる余裕もある。とにかく台詞が巧い。正名さんは墓掘りも演じていたが、人間の愚かさとしたたかさを悲哀とおかしみに転ずる瞬発力、それを破綻させず語り切る持久力に感嘆した。かなり早口の台詞があるにも関わらず、それを怒りの感情として見せてくれた渡部豪太のレアティーズも印象的。

北香那演じるオフィーリアは、狂乱の姿を自由になったものとして見せてくれた。ボンデージ&ディシプリンを感じさせる、首元や手首迄しっかり詰めた優雅な薄桃色のドレス(これがまた貞淑の権化のようだった)から、淡黄色の肌着へ。脚を露わにし、裸足で駆ける。これ迄の全てが拘束着だったかのように感じられた。そういえば芝居見物の場面、ハムレットがオフィーリアに膝枕をさせる演出が多いようにも思うのだが、今回それがなかった(20240517追記:公開されたゲネプロの映像を見たら、膝枕してたわ…起き上がってクローディアスの様子を凝視する時間が長いので見落としたのかも、失礼しました)。ハムレットが大きな声を出す度にびくびくと怯えるオフィーリアの姿を見ていたからこそ、狂気のなか声を限りに叫ぶオフィーリアに痛快さすら感じてしまった。こんな悲しい痛快というものもないのだが。

ラストシーンについて。戯曲のト書きには「ハムレットの亡骸を4人の隊長が運び退場、弔銃が響く」と書かれており、実際その通りに上演されることも多い。このシーンで吉田演出は、ハムレットをひとりきりにした。そこで「やっとひとりになれた」という、ハムレットの台詞を思い出す。

未来を担うノルウェー王子が去り、「おやすみなさい、優しい王子様(Good night sweet prince)」と呼びかけた最も信頼する友人も去り、舞台にひとり横たわるハムレット。そこへ花が降ってくる。オフィーリアが天上から投げたかのようだ。彼は死と引き換えに、孤独という自由を手に入れた。一国の王を切望された若者の、あまりにも寂しく幸せなラストシーンだった。「花が降ってくる」という演出は蜷川演出でも度々用いられたもの(『元録港歌』『近代能楽集』など)。命尽き地上へ落ちる花は、今回死者を祝福しているように見えた。

マイベストの『ハムレット』は、さいたまネクスト・シアターの『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』(感想はこちら→1回目2回目)。故人が演出したものという意味でも、もう存在しないカンパニーによって上演されたという意味でも思い入れが強く、これはもう死ぬ迄不動のNo.1だと思っている。なのでもう自分にとっての『ハムレット』観劇人生は余生みたいなものなのだが、それでも観続けているとこういう宝石のようなハムレットに出会える。

そしてこの作品には、古典であり乍ら常に現在──上演時の時代背景や社会のありよう──を映す鏡のように気づきをくれる。それが名作の所以なのだろうが、観る度新しい発見と、新しい感動がある。抑圧から解き放たれたオフィーリア。「タガが外れた世界」に抗うハムレット。このカンパニーは、そんな『ハムレット』を見せてくれた。

「あとは、沈黙」した彼のことを、観客は今、この世界でどう伝えてゆけばよいのだろう。

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・吉田鋼太郎が新たに演出する『ハムレット』について、ハムレット役・柿澤勇人とフォーティンブラス役・豊田裕大と共に意気込みを語る┃SPICE
吉田:(ハムレット役は)できる人とできない人、あるいはやりたい人とやりたくない人とに分かれる(略)最後までやり抜ける体力があるかどうか。その体力も単に力が強いとか筋肉があるというのではなく、俳優としてのブレスがきっちり取れるかどうかのほうが重要です。
吉田:『ハムレット』というこの芝居は、復讐を成し遂げるヒーローの話ではなくて、絶対に人を殺してはいけないよということを言い続けている話のような気がしてならない。逆説的な見方ですけどね。
柿澤さんは「できる人」でしたね。シェイクスピア作品に造詣の深い吉田さんの『ハムレット』解釈も興味深く読めるよい記事

・柿澤勇人「とにかく命懸けで舞台に立ちます」〜吉田鋼太郎演出・上演台本、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』が開幕┃SPICE
確かに命懸けを感じるハムレットだったな…優しい王子様、ご無事で……

・それにしても、『彩の国シェイクスピア・シリーズ』でシェイクスピア作品の殆ど(全部は観に行けていないので)を基本ノーカットで観ることが出来たのは財産だったなあとしみじみ

・よだん。亡霊がハムレットに自身の死の真相を伝えるシーンで、あまりにも激しく抱き合うので亡霊のヒゲが剥がれてしまい、落ちそうになっていた。ハラハラした

・そうそう、クローディアスの膝の話に共感したのは初めてだったわ。「頑固な膝を曲げるんだ」のとこね……わかる! 年取ると神の前であろうと跪くのたいへん! 観る度に新しい発見と実感があるものですね……


さい芸ではこの日が唯一のマチソワでしたが、いやホントこの作品、この演出でマチソワはきついって……。思わず調べてしまったが、あと愛知、大阪公演で1日ずつマチソワあるみたい。ご安全に〜!


4月に抽選販売されたものなんだけど、この日の会場でも売られていました。多分抽選は全部当たって、その上で余った分(笑)を売っていると思われる。
改修後大ホールに入ったのは初めて。席番プレートはプラ板(かな? 金属ではなさそうだった)になっていたので、次回改修があってもこういうキーホルダーはつくられないだろうなあ。貴重なものを有難うございます。数々の舞台の思い出とともに手元に残せてうれしいです



2024年05月03日(金)
contact Gonzo『my binta, your binta // lol ~ flying objects in the skinland ~』

contact Gonzo『my binta, your binta // lol ~ flying objects in the skinland ~』@SusHi Tech Square


いやー、ホントようやく。映像作品は追っていたけど、やはり実際に体験した衝撃は大きいな。

最初にその名を聴いたのは舞台芸術からだったか現代美術からだったか……無人島プロダクションとの絡みもなかったっけか。その名の通りコンタクト(取っ組み合い、殴り合い)により受けるあらゆる感覚──演者の肉体的な痛みや傷、それを目撃する鑑賞者が受ける精神的なショック等──をパフォーミングアートとして提出するユニットといえばよいか。観たい観たいと思いつつ、気づけば10数年経っていた。活動を続けていてくれて有難い。てかずっと進化していたのだろうなあ。

かつて無印良品があり、Rugby World Cup 2019のファンゾーン(このときは東京スポーツスクエアという名称だったな)になり、その後しばらく空き家(だと思う)になっていた場所がいつの間にやらSusHi Tech Squareという東京都の施設になっていた。で、その『SusHi Tech Tokyo 2024』内の、『CCBT COMPASS 2024』中のプログラム……ということか? 流石公的機関のやることはいろんなものが絡んでいるのでややこしい。ええと正直にいうとサイトのUIもなんでこんなにややこしくするのかという……どこに何があるのか探すのたいへんです。とはいうものの、興味深い催しを開いてくれて有難うございますという気持ち。


参加申込頁にも、開演前にも「ウーファー(重低音スピーカー)8台を使用した100dBを超える大きな重低音(低周波)を公演中継続して使用します。心臓の弱い方やペースメーカーをご使用の方、妊娠中の方、小さなお子様など、身体的な影響が懸念される方は参加をご遠慮ください」というなんとも奇っ怪な注意があり、入口には自由に使えるよう耳栓が用意されていた。パフォーマンスを始める前には塚原悠也自ら「スピーカー前にいるひとはかなりキますんで、やばいと思ったら楽なところへ行ってください。立ち見じゃなくて椅子に座ってるから躊躇するかもしれないけど、自由に動いてください」と重ねてアナウンス。いやはや、ナメてました。「低音も爆音も大好物だし〜」と楽しく鑑賞していたんだが、ホントにすごい音圧でだんだん気持ち悪くなってくる。そういえば今三半規管弱ってるんだった…やばい……。慌てて普段から持ち歩いているライヴ用耳栓を装着、その後は安泰。いやー音に酔うとは!

身体に感圧パッドとマイクを装着した3人のプレイヤー。彼らが接触する度、その音と圧力が像を結ぶ。スピーカーから塊となって飛んでくる音と振動と、ペットボトルを投げ合ったり、ぐしゃりと握り潰したりする素の音のギャップ。ハードなビートとは裏腹に、軽やかに跳躍し、互いをリフトするプレイヤーたちの動きはダンスのよう。しかし摑み合い打ち合う皮膚は紅潮し、次第に打ち身や引っかき傷が見えるようになる。静まり返り、喰い入るようにプレイヤーを見守る観客。緊張感が持続する前半。

「こっから後半ですよー」。塚原さんの声でこちらも若干リラックス。プレイヤーにも笑顔が見え始める。というか前半も、誰が最初に笑い出すか、笑ったら負けみたいな緊張感もあったのでした(笑)。前半から解説として参加していた教授(細胞学だったか、行動学だったか失念)のトボけた口調にも笑いが起こる。真剣な話してるんだけどどうにもおかしみが……前述のクリスピー・クリーム・ドーナツの画像は、細胞分裂について解説するときに使われたもの。近所のイトシアで買ってきただろこれ(笑・テナントに入ってる)!

開演前、「ここら辺、果汁が飛ぶかもしれませんので来そうだったら逃げてくださいね」とこれまた奇っ怪な注意があった。手作りピッチングマシーンで果物を飛ばし身体にぶつけるコーナーが始まり、これかーと思う。身体に当たった果物は破裂し、確かに果汁が飛び散ります。潰れたみかんやぶどうをつまみ食べ乍ら、なおもコンタクトは続きます。誰がどんだけ至近距離で受けられるかの競い合いも始まる。関西のノリってやはり独特でオモロい。そうはいいつつ身体にはますます傷が増え、終盤では「あ、血が出てる!」なんて声も飛び、戯れるプレイヤーたちなのでした。塚原さんの「これで終わりでーす」でゆるりと終演。いやはや面白かった。



会場はいろんな催しで盛りだくさんでした。パフォーマンス観覧は事前申し込み制。無料です、太っ腹。アフタートークでは「これって税金でやってるんですか? 国の? 都の?」という思わず身構える質問が。塚原さんが丁寧に、応募から審査、採用の流れを説明してらっしゃいました。「募集もしていますので、どうですか」と呼びかけられた質問者、「え、お腹に果物をぶつけられる人を……?」と答えて大ウケ。ボケたのではなく本気でそう思ったらしい。それはイヤだな(笑)。

質問者の方は追及したいという訳ではなく、単にどういうところからお金が出ているのか知りたかったようでした。社会に余裕がなくなると、こういうことに税金を使うなんてけしからんと怒るひともいる訳でな……。活動資金が中抜きされず、アーティストに還元されるといいなと思いました。



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塚原さんはデザイナーでもあります。この『石のような水』の演出は松本雄吉だった。関西パフォーミングアートシーンの繋がりとかあったのかなと勝手に想像して幾星霜。松本さんが鬼籍に入られてもうすぐ8年。などと思っていたら……

・塚原悠也 接触を遊ぶ contactGonzo┃Performing Arts Network Japan
審査員のひとり、維新派主宰の松本雄吉さんが僕らの映像を見て「ええやんけ」と言ってくれたことを人づてに聞いて、それだけで十分だと思いました。
2011年の記事で松本さんとのことを話していた

・コンタクト・ゴンゾ 塚原悠也氏にインタビュー┃SHIFT
身体表現そのものへの興味は「それが誰の手にも入らない」ということにあります。
ルールがあるとすれば「顔面を拳で殴らない」ということでしょうか。予想外のことが起こっても、その事実をそのまま認識できるような「瞬発力のある脳」があることを願っています。



2024年05月02日(木)
菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 結成20周年記念巡回公演『香水』

METROPOLITAN JAZZ vol.2 / 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 結成20周年記念巡回公演『香水』@東京芸術劇場 プレイハウス


菊地成孔AIが出現したら、なんてこともボンヤリ考えたのでした。身体が衰えず、歌のピッチが揺らがず、リードミスが全くなく、健康で、精神的にも安定していて、エレガントでワイルドな菊地成孔。技術的には可能な日が来るだろうし、楽曲制作に関してはご本人も肯定(推奨?)しているけれど、やっぱりそれは面白くなさそう。というか、むしろそのAIのバグを期待してしまいそう。で、バグったら喜んじゃいそう(ヒドい)。演者がAIならば聴き手もAIで代替したらどうか?……ヤダーッ(ちいかわ)こちとら会場へ移動してる最中も劇場に足を踏み込んだ瞬間も開演前にトイレに並ぶことすら高揚しとるんじゃーッ(笑)。いやあ、好きなんだよね開演前とか幕間にトイレ並んでるときの気分……もはやその感覚の再現もAIには可能なのだろうが〜、その楽しみを味わうのは一体誰なのか?

楽曲はずっと残るが、その身体で奏でられた演奏はどれも二度とないもの。「いい演奏」と「よくできましたという演奏」は違うものだ。対する聴衆にも、精巧と粗悪はあるのだろうか。AIの演者とAIの聴衆。不気味の谷が埋め立てられるのはいつのことだろう?

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菊地成孔(sax/vo/cond)・大儀見元(perc)・田中倫明(perc)・林正樹(pf)・鳥越啓介(cb)・早川純(bn)・堀米綾(hp)・牛山玲名(1st vln)・田島華乃(2nd vln)・舘泉礼一(vla)・関口将史(vc)
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「ジャズのいまとこれから」を東京から世界に発信するシリーズ『METROPOLITAN JAZZ』のプログラムでもありました。芸劇での演奏はお初。所謂劇場では、2009年2012年に東京グローブ座で演奏していますね。……って、これ読み返してて、すっかり忘れてて自分でもうまいこというなあと思ったんですが(笑)PTAって、菊地さんが抱える数多のプロジェクトのなかでいちばんストリップ感が強く、彼の抱えている情熱(としか言いようがない)がより素直に感じられる。手負いの獣の手触りを感じるんですよね。それを官能といえばいいのだろうか。聴き手は残酷なもので、そうした姿と囀りにすらどうにも快楽を感じてしまいます。

とかいいつつも、ウットリとハラハラは紙一重。一曲目の音響が中森明菜の『不思議』(大好き)かってくらいヴォーカルが奥に行っており、ううーむこのまま行くのか? 菊地さんの声が弱ってるのか? などと思う。2曲目の「Caravaggio」はMCからのリーディングという構成で声が先にあるので、そこでバランスをリカバリしたように感じた。以降は問題なし。冒頭の音響は意図的だったのだろうか。

そして考えてみれば、当方術後テナーを演奏するのを初めて聴いたのだった。テナーを手にとる度にドキドキする。ソプラノだと全然大丈夫なのだが……以前マウスピースがちいさい程演奏が難しい、サックスならテナーよりソプラノの方が音を外しやすいし、オーボエやファゴットとなるとダブルリードなのでもっと難しいと聞いたことがあるが、菊地さんの場合は逆なのだ。これが不思議。終演後「マウスピースが大きい分、咥えるのに力がいるんじゃないかな」「しっかり噛みしめる力の回復待ちなのかも」「歯茎がまだ安定していないか、今の感覚でどう鳴らせるか探っている途中なのかも」などと話す。あのねえ、それが嫌だっていうんじゃなくて、そのプロセスを観られる/聴けることもこちらとしては幸せだったりします。そういうところがストリップ的と感じる所以かな。ヒドいことばっかりいってますがすごく心配してるんですよ! おだいじにですよ! 元気でいて!

そうはいっても楽団のコンディションはよいのです。緊張と弛緩と、寄らば斬られるような恐怖と、ハグされるような安楽と。は〜素敵な旋律、とか聴いてると林さんがフリーダムなリフを弾いている(ソロじゃないところなんだなこれが)し、艶やかな歌声〜とか聴いてると大儀見さんと田中さんと鳥越さんがニコニコしてアタックずらしたリズムをブチ込んでくるし、そうリズムがより複雑になってて、というか起点が動くし揺れるし。半拍後ろにいってるなと思ってるとジャストにもなるし。目を瞠るし。凝視してると菊地さん、クラーベは右打ちでカウベルは左打ちだし。なんで? と思っているとどこかから水泡のような音が聴こえてくる。堀米さんと林さんとで何をどうやったらこんな音が(なんかコポコポいうのよ、打楽器じゃなくて弦を打つ音なのよ。林さんの場合プリペアド演奏じゃないのにそう聴こえるところがあるのよ。なんでよ)……と思う間もなく早川さんのソロに沁み入る。頭もパンパン。そして思えばこんなオケでよく旋律とって唄えるよなあ菊地さん。耳もヤられてるというのに。

と、ゆったり座っていても全く油断出来ない演奏なのでした。シッティングだとアーッ、アーッ、今何やった!? って考え通しでグッタリします(笑顔で)。「Killing Time」の田中、大儀見、菊地のブリッジなんて、DCPRG「Circle/Line〜Hard Core Peace」のブリッジくらい長くなっている。「踊りたいでしょ?」と菊地さん。そうですね……スタンディングでは踊り倒すというフィジカルとなになに何やってんの? と考えるサイコロジカルな忙しさがぐちゃぐちゃになるカオスが爽快ですよね。という訳でスタンディングのライヴが決まってうれしい。両方あるのがよい。

演奏とは裏腹に(演奏に集中するあまり?)バグった言動も、ハラハラしつつ楽しく拝聴しました。楽団結成時から不動のメンバーがふたりいる、元老院の〜という話からジョージ・クルーニーに似てると堀米さんを紹介したのだが、それは大儀見さんではないのか。あと桃太郎の話な……ワタシの周りには天才が集まってくる、ワタシの才能は天才が寄ってくること。みたいなことをいってたんだが、その喩えでいいのか。自分が桃太郎な訳でしょ…そういえば昨年のeastern youthでは救世主としての桃太郎(村岡さん)の話をしていたなあ……とひとりでニヤニヤしていました。

とはいうものの痛切な瞬間もやはりあり。一昨年の『菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、京都KBSホール公演〜ジャン・リュック・ゴダールに捧ぐ〜』に浅田彰氏が来場していたこと、そのとき終演後の楽屋で「来年はアルバムつくります!」と宣言している映像が残っていた(誰かがスマホで撮っていた)にも関わらず、昨年は体調を崩しスケジュールが狂いまくったこと、でも振り返ってみれば今年は楽団結成20周年、アニバーサリーの年に新譜をリリース出来ることになったのは結果オーライだったのではないか、という話をしたのだが、「本当にくたばりかけていたので、」といい、しばし絶句しておられた。口元を手で隠し、客席から顔をそらした。和やかな笑い声も上がっていた場内が、しん、と静まった。

彼のことはオレにワタシにしかわからないことがある。だから愛しい。だから憎い。そんな感情をあの場にいた全員が抱いたようにすら思う。彼はそんな音楽を聴かせてくれる。コレは他では得られない。

それが何かというと、抽象的ではあるが、死なのではないだろうか。PTAのステージには、いつも死が横たわっている。照明が素晴らしかった。ここ、という瞬間、ゆったりと立ち上がる光。その色の変化。PTAの照明は、今どなたが手掛けているのだろう、今回は芸劇の方だったのかどうか……。「我々は生まれ落ちた瞬間から、小柳の創作した光に、文字通り、護衛されて参りました」と、小柳衛氏を悼み「大空位時代」を演奏したのは2021年のオーチャードホール。その光景をまた、鮮やかに思い出した。

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setlist

01. 闘争のエチカ
02. 京マチ子の夜
03. Caravaggio
04. 嵐が丘
05. 小鳥たちのために II
06. 色悪
07. Killing Time
08. ルぺ・べレスの葬儀
encore
09. 大空位時代のためのレチタティーヴォ
10. 大空位時代

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プレイハウスを見渡して、「いいホールですよねえ」。なんだか自分のことのようにうれしかったな。またここでやってください。

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・菊地成孔とぺぺ オーチャードホール公演(2021年3月20日)┃堀米綾 ハープ奏者 オフィシャルサイト
菊地さんが黙祷の時間を作り、追悼として新曲「大空位時代」を演奏できて良かった。
小柳さんのお姿は、堀米さんのサイトで見ることが出来る

・ラニュイ パルファン×菊地成孔コラボ香水2種発表。梅田阪急、新宿伊勢丹でそれぞれ披露 「甘い混乱」30mLと「とても清らかで淫らな声」30mL。同名オリジナル楽曲が付録┃PR TIMES
この日のタイトルにもなった“香水”もリリース。MCで紹介してて「すごくいいですよこれ」「すごく遠く迄届くんですよね」とシュッシュシュッシュふりまくる。客席のあちこちから、あ、きた、の声を聴いて「でしょ?」「(以前別の香水をふったとき)3階席迄届いたってメール来ましたもん。まあプラセボですねー」といってたのにすごくウケた。ちなみにI列でしたが届きました。いやホントに。よい香り

・以前はエンジェルをふってましたよね。グローブ座でもちゃんと香りは届いてたなあ。いやプラセボではなく。まあまあ前の席だったので

・そういえば林さん、私の席からは完全に顔が見えないピアノの配置だったので(ハープの方向いてる)楽しそうに演奏している様子は背中から感じておりました

・Fitzcarraldo (1982) ORIGINAL TRAILER [HD 1080p]

で、フジに…出るんですよ……「ハープを山に上げるのは悲願だったので」とのこと。グランドハープを山へ搬入する、ヘルツォークの『フィツカラルド』で船を川から陸に上げて山越えるでしょ、あれですよ、とかいっててウケた

・はーどうするフジ。行く気はかなりある。しかし昨年のような発作が出たらマジで困る。バスがダメなんだよね……行きたいよおおおお

・SHINJUKU BLAZE LIVE SERIES 結成20周年記念イベント「ダンスフロアのペペ・トルメント・アスカラール」┃Shinjuku BLAZE
・新宿BLAZEが来年7月で閉館┃音楽ナタリー
スタンディングのクラブ公演は7月末でクローズが決まっている新宿BLAZE。千秋楽ですがな。引導を渡すのかな(にっこり)