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2014年02月28日(金)
NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014(3日目)

NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014@STUDIO COAST

あっと言う間に最終日。そして思えばNINで「追加公演」が出たのって本邦初ですよね?そういうこともあってか、メンバーも客もリラックスしていたような感じでほっこりしました。

セットリストは見てのとおり三日間全部違い、最終日はいろいろとレアだった。やりなおしなんて初めて観たよ!そもそも前の曲「Copy of A」でトレントが歌の入りを間違えて(早く入った)残りのループを間奏にしちゃうと言うフォローで乗り切ったんだけど、次の「The Great Destroyer」では完全に演奏が止まりましたからね。いやー珍しい…トレントが「はーいとめまーす」てな感じで手を挙げたんだけど、機材トラブルと言う訳でもなかったのでこれもやはり何かのミスか。今迄だったら烈火の如く怒り狂いそうなイメージですが(…)なんだか和やかでした。客もそこんとこ長いつきあい(笑)のせいか、他のアーティストの公演だったらやんややんやと間違えたー!と騒ぎそうなところ「だ、大丈夫?どうしたの…?トラブルじゃなければいいけど……」って感じでなんかそよそよしてるの。そういうとこも微笑ましかったわ。

メンバー紹介にも驚いた。最近やってるそうですが、すっごい珍しいよね!「ひとに感謝するようになった!」なんて言ってたんですが(酷い…いや途中でフロアに水投げてよこしたときにも言ってた、気配りしてる!って・笑)。しかもえっここで?みたいなとこで始めたからロビンがおろってなってたよね…今迄散々痛めつけられてきた恐怖があるから優しくされるとえっこれから何されるの?ってビクビクしちゃうんじゃないのとまた酷いことを言う我々であった。おろっとするロビン、いろいろと不憫(韻を踏んだ)。マリス師曰く「はい、前に出て!って感じで先生みたいだったねー」。うんうん、ロビン授業で急にあてられた生徒みたいになってた…一瞬気をつけの姿勢になってた……(微笑)。そういえばロビンも終演後ぽんぽん水入りペットボトルを投げ配ってて、あなたピックとか投げれば充分なとこ何その気配りとここにもほっこりしましたわ。

いやはや充実の三日間でした。ホントNINのライヴはよい。ヘルシーになったよねえなんて話してたんですが、若さやドーピング(…)で押し切るのとは違うライヴにおける演奏や音作り、こういうのが近年のトレントの理想なんだろなと思いました。よきかなよきかな、いい歳の重ね方だね!一緒に歳を重ねられて嬉しいわ!

そしてなんだかんだでこのひと唄うの好きなんだろねーと話した。レコーディングだとサンプリングのループでやってるヴォーカルを人力で全部唄ってたりしてるとこもなんかかわいい。トレントの歌声大好き。映画音楽やインストアルバム、HTDAといろんなフォーマットがあるしどれも好きだけど、現在NINってトレントが唄うのを聴ける貴重さもあるなあ。なんだかんだでNINやってないときって、トレントの歌声に飢えてたんだわと思い至った。また来てねー!

おまけ:そういや三日目だけ下手側バルコニー前方に椅子席出来てたんだけど誰が来てたんだろ(一、二日目は下手側で観たけどこの日は上手側バルコニーで観た)。外国人集団だったそうなのでひょっとしてストーンズの関係者かなと思ったりしましたヨー。バルコニーに椅子設置されてるの初めて見た。

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セットリスト(setlist.fmより)

01. All Time Low(With "Closer" snippet)
02. Sanctified
03. Disappointed
04. The Beginning of the End
05. Came Back Haunted
06. Echoplex
07. Various Methods of Escape
08. Survivalism
09. Me, I'm Not
10. The Warning
11. Copy of A
12. The Great Destroyer
13. Find My Way
14. Only
15. Hand Covers Bruise
16. Beside You in Time
17. Gave Up
18. Hurt
19. 1,000,000
20. The Hand That Feeds
21. Head Like a Hole

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2014年02月26日(水)
NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014(2日目)

NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014@STUDIO COAST

へいへい二日目です。なあんと新譜から一曲もやらずにガラッとセットリスト変えてきた。いろいろ考え乍ら観ていたが、終盤の嫁登場でそういう一切がとんだ(笑)。以下おぼえがき。

・開演直前のSEがクリフ・マルティネス『ソラリス』OSTで、始まる前なのに涙ぐんだバカは私です
・てかなんでソラリス!しかも!クリスとレイアが初めて会うシーンのとこの!おまえ!私へのプレゼントか!(ちがう)アレさんのやるものとジャンルが近いから音響確認的な意味で鳴らしたのかな
・だってこの曲だけやたらボリュームあがったもの…誰が選んだのかなー
・いやーこれはふいうちだった。嬉しかった……本編と関係ないけど………
・ことあるごとに言いますがクリフ・マルティネスは初期RHCPのドラマーで、今ではすっかり売れっ子映画音楽家。『ソラリス』ostはホント名盤なので気になる方は是非にー。ここで試聴出来るよ!

・そして本編は泣くどころか終始えびす顔であった
・前述したように新譜から一曲もやらず、本領発揮と言うかベスト盤的選曲だったので演奏もこなれてる感じで
・音も今日のがよかった…と言うかセットリストに合わせたものにしてあるんだろうな。爆音の抜けがよかった。「Reptile」もおおっとなる鳴りだったし
・一日目はエレクトロ用に音圧高め、みっちみちって感じだった
・ロビンのギターもコーラスも結構クッキリ聴こえたし。てかロビンやっぱ昨日はコーラスちょっとさぼってただろう(笑)
・四人になってやること多くて忙しいしね…
・アイラン今日はほぼドラムに専念、あとはタンバリンと、「Hurt」でギター弾いたくらいかな
(追記:HTDAのときチェロ弾いてたそうです)
・ベースはアレさんが弾いてた。と言っても二曲くらいだったかな
・と言えば今日の「Head Like a Hole」終盤の間奏中、トレントがアレさんに話しかけてきて持ち場をちょっと離れたのね。間奏明けにロビンとアレさんでシャウトコーラスするんだけど、話してる間に間奏終わっちゃってロビンがひとりで「ヘラカホー!」て叫んだら音がスカスカで、えっ俺だけ?みたいに一瞬オロってなってませんでしたか(笑)

・来たよopの「Somewhat Damaged」からの〜「The Frail」〜「The Wretched」!
・予告通り『The Fragile』からのナンバーが増えてきた
・アレさんが結構音変えてるのも面白かったな。昔のアルバムは聴き込んでるし、当時のライヴ音源も長く聴いてるから違う音が鳴るとあれっとか思う
・どっちがいいとかじゃないんだけど、チャーリーの音の刷り込みっぷりに自分でも驚くことがあるわー

・鬼軍曹ゴキゲン。「昨日来てないひとー」(挙手するひと多数)「ええ〜?またまたあ〜。そこにいる何人か、昨日も見た顔だゾ?」
・……………
・「金曜日も来てネ!」つった
・まるくなったものです
・フロアにマイク向けて、皆がわーっと唄ってるのを聴いて満足気だったり
・てか鬼軍曹にマイク向けられたらそら必死で唄うわ
・楽器も壊さなくなったしねー。嫁が出来てものは大切になさい!壊しちゃダメ!子供が真似するでしょ!とか言われてんだよとレズナー家の事情などを終演後好き勝手に話してゲラゲラ笑いました(ひどい)
・昔は粉まぶしてライヴしてたよねー。今思えばあれ何だったの、中二病(笑)とか
・いやだってさ、出てきて唄うとは…トレントがステージにあげるとは!そういうまるいことをするようになったってやっぱ嫁の力は偉大だよね!

・嫁が出てくる前トレントがリサ・フィッシャーの話を始めたので、ストーンズ来てるからまさか?と思ったけど、同日同時刻にライヴやってるから出る訳がなかった
・リサはストーンズのコーラスで有名。昨年NINのツアーに参加していたのです
・今回のストーンズツアーにも参加しているので、ストーンズのライヴが休みの28日に…何か…ないかな……とヒソカに期待しておく
・出なくても観にきたりとか、ないかなー

・そんなこんなで一部が騒然となった(笑)嫁、マリクィーン・マーンディグ登場。How to Destroy Angelsのナンバーを二曲
・いやさ、来日前、HTDAがOAすればいいんじゃねと話してたんですよね…ファミリーでかためればいいやん、単独だと動員的に厳しそうだから来日はあまり望めないし、トレントフェスでさなんて言ってたの
・むしろ前座だったらこんなにもやもやしなかったと…(苦笑)
・位置がなあ。「Hurt」の前に二曲ぶっこんできたのが……
・近くのひと「誰?誰?」と言ってたし、結構コアなファンじゃないとHTDAとか知らないだろうし
・あんな半笑いで「Hurt」を聴いたことはかつてなかった、これからもないであろう

・しかしHTDAの曲をライヴで聴けたのはよかった
・NINのメンバーも、一所懸命演奏してますって感じでかわいかった
・いつやるって決めたのかな、来日してからってことも有り得るよね。二曲くらいなら当日リハでもイケるんではないか
・嫁を気遣うトレントが見られたのもよかった。退場時肩抱いてだいじそーにしまってた(笑)ジェントル〜
・初めて実物見たマリクィーン、ほんと小柄でかわいくて、でもすっごいプロポーションよくってゴージャス。声がすごいクリアで綺麗!
・いいもん見ました(笑)

・や〜演奏の違いとか、音の違いとかいろいろ思うところあったのに嫁サプライズで皆忘れてしまったわ
・今日の名言「わたしは20数年かけて鬱男子が音楽で天下をとり嫁をもらいリアになるのを見届けた」(どるさん)
・笑い死にそうになった
・最終日も楽しみデス!

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セットリスト(setlist.fmより)

01. Somewhat Damaged
02. 1,000,000
03. Letting You
04. Terrible Lie
05. March of the Pigs
06. Piggy
07. Reptile
08. The Frail
09. The Wretched
10. Vessel
11. Survivalism
12. Wish
13. 31 Ghosts IV
14. Burn
15. Gave Up
16. The Hand That Feeds
17. Head Like a Hole
18. Ice Age(How to Destroy Angels cover with Mariqueen Maandig)
19. BBB(How to Destroy Angels cover with Mariqueen Maandig)
20. Hurt

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2014年02月25日(火)
NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014(1日目)

NINE INCH NAILS JAPAN TOUR 2014@STUDIO COAST

はーい単独ですヨー!おぼえがきですヨー。セットリストまるっと書いてますがきっと三日間違うから!

・OAアレッサンドロのソロはエレクトロ、アンビエント
・音圧のあげさげがビートになってて気持ちよい
・床に座って演奏してたので全く見えず(笑)
・アレッサンドロ終了後殆ど間を入れずトレントたちが入って来て「Me, I'm Not」ってオープニングよかった!
・あれよね、冒頭でスモークたかれるとこれを思い出すよね……
・スモークのなかからトレントが!いつの間にかメンバーが!グリズリーインザミスト!

・四人編成になり音数は少なくなったけど音圧は高かったなー!そんではかない感じがしましたよ
・シンセのベースがブリッブリ、ブッチブチでした。
・弦ベースは結局アイランが弾いてました。他にも誰か弾いてたかな?四人編成になってアイランちょー忙しそう。エレピ、ベース、ドラムだもんよ
・一曲で何度もパート替えしたりするしね
・NINのベースはそんなに難しいフレーズないけど、やっぱりプレイヤーによって全然違う
・フジのときアレッサンドロのパーカッション聴いたときにも思った。決して悪くはないけどエキスパートがやったら全然また違うんだよね
・まあそれはそれでいい味です

・音量はそれなり。あれだ、フジのPAてホント規模がデカいんだなと思いました改めて。あれの感触が未だ残っているので、フジでもやった曲は音が小さく聴こえてしまったよ
・「Reptile」とかは特に。フジのはホントエグかった…
・そんな「Reptile」の照明は必ず緑。トレント緑好きだよねー
・セットは昨年のフェスツアーやこないだの八人編成で使ってた大掛かりなものは一切持ってきてなくて、基本スモークと照明でショウアップ
・しかしありもんでもいいもんみせるよねー。世界観がやっぱり確立してる。オペレーターとかはちゃんとつれてきてるのでしょうが
・てかNINはスタッフが本当に優秀
・トレントがそういうとこもきちっと目を配ってるからだろうな

・そんなこんなでまだちょっと不安定なところはあった。四人用に結構アレンジ変えてたし、サンプリングネタも変わってたし
・なので曲間に妙な間が空いたりするとこがあって
・でもその危うさがよかったりもしましたね!
・で、その不安定さにトレントのはかない(マジで)歌声が非常にマッチしてて
・や、アグレッシヴな曲はそりゃもうマッチョなんですが、静かな曲で声が映えるんだ
・ちょっと以前と声が違う感じに聴こえたと言うのもあるかも。マイク?音響?エフェクト?
・見かけはかわってもトレントは震える惑星(@高橋幸宏)にひとりたたずむ怒れる繊細ちゃんだよね(真顔で言う)
・それにしても体力ある。曲間殆ど空かないし、MCもすっくないし、とにかく休まない
・新譜ではエレクトロ色が強まってる感じがあるけど、ライヴでやるとほんとフィジカル

・それにしてもTF以降の曲もホントいいものが多いよねと今更乍ら思ったりして
・や、好きなアルバムばっかですけどなんて言うか…一本のライヴで並べてもやっぱり芯がある
・サプライズとしては「Hand Covers Bruise」(『ソーシャル・ネットワーク』のメインテーマ)と「Beside You in Time」。しかも続けて
・「Hand Covers Bruise」は本邦初披露!てかsetlist.fm見るとLive debutとなってるな。てことは全くの初演?
・「Beside You in Time」は2006年以来とのこと

・半袖→ノースリーブ(まくった?)→長袖ジャケット→半袖
・ロビン…(笑)
・もはや中盤の「Copy of A」で長袖着たのにはウケたわ…寒いか、寒かったのか
・ロビンのギターの音もうちょっと大きくしてあげて
・コーラスもちょっと少なめになってたような。妖怪声がもっと聴きたい!
・そ、それとも…さぼっ……(略)
・トレントにどやされるで!
・とは言うものの、やはり長年やってるからトレントとの阿吽の呼吸が見事ですね
・毎回言うがなんでロビンはNINやってるときおかしな髪型になるんだ
・自分のなかで確固としたものがあるのかしら…NINの世界観に合う髪型はコレ!みたいな
・今回も大五郎でした

・と言えばトレントが遠目だと妙に長いTシャツ着てるように見えて「幅は合うけと丈が長いTシャツじゃね?」「チュニックじゃね?」「ワンピ?」「Tシャツドレスじゃね?」とか言ってたんだけどスカートだったようです…
昨年のフェスツアーのとき着てたあれか?

・トレントの最新のコメントによると、この編成でのツアーは「The Fragile」と「Year Zero」のナンバーを増やしていくとのこと。これは明日以降のセットリスト変えてくると思われる
・普段から何パターンかいつもあるもんね。特に今回は大掛かりなセットもないから細かい段取り(動きの制限)がないし、柔軟に変更が利くからね
・楽しみです!

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セットリスト(setlist.fmより)

01. Me, I'm Not
02. Survivalism
03. Terrible Lie
04. March of the Pigs
05. Piggy
06. Sanctified
07. Disappointed
08. Came Back Haunted
09. Find My Way
10. Reptile
11. Hand Covers Bruise("The Social Network" Main Title Sequence)
12. Beside You in Time
13. Copy of A
14. All Time Low
15. Gave Up
16. The Hand That Feeds
17. Only
18. Wish
19. Head Like a Hole
20. Hurt

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2014年02月23日(日)
『サニーサイドアップ』

M&Oplaysプロデュース『サニーサイドアップ』@本多劇場

お初のノゾエ征爾作品。予備知識全くなしで行ったんですが、こ、こんな話とは(笑)。

荒川良々の一生。と言うか荒川さん演じるたいくんの一生、だそうです。皆さん当て書きだわあ〜と感じさせる箇所がもーありありで!ありありで!いろんな!邪念が!あかほりさんの役とか…ね……。

しかし当然そのまんまではない訳で。離婚後慰謝料やらなんやらで住むとこなくして居候してる先輩、虚言癖と盗み癖がある付き人、エポックごとに何故か遭遇する同級生、田舎から出てくる父親。幼いころ失くした(亡くした…ではない、と言うことが後に判明)母親。壁の隙間に挟まったたいくんが救出される迄の時間、或いは救出されたあとの時間が描かれます。意外と短い人生。

あるあるとないない、虚実入り乱れた彼の人生は、人生泣き笑いの様相。滑稽だけどなんだかほろ苦い。たいくんが自分の人生を語ったり振り返ったりしているようで、本人が知り得ない光景が次々と出てくる。それをたいくんが見ているかは実のところ判らない。大きな存在が壁に挟まった彼を見下ろし、彼の周囲のひとたちを見下ろし、そして何もしない。見ている視点は観客にもおすそわけ。各々の役者のおかしみがじわりじわり。小野寺さんが台詞話すの初めて聴いたので新鮮だったわー。彼の奥さんは実在したのか、そしてこどもは?飾ってあるのは遺影なのかそうでないのか。架空の?現実の?家族三人で食べる目玉焼きの味を思う。虚言は想像で、想像力はひとを生かすことが出来る。なんだか『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を思い出してしまってほろりときそうになりました。

ボードをスライドさせての場面転換は、その板の陰に登場人物が隠れて移動するトリッキーさも含め、抽象的なのに実用的で面白かったです。端っこ前方の席だったので、隠れて移動するあかほりさんのおしりとか見えておかしかった。小野寺さんはちっこいし身体もキレるのでこういうとこ流石の身のこなし。皆のダンスもかわいかった。鹿児島ネタやラグビーネタが多かったのも楽しかったです。

ミスターオカモトってなんか元ネタあったのかな、あれだ、あれ、「ヤッター!」のひと?なんだっけ名前!とか話してたんだが、帰って検索してみたらそれはヒロ・ナカムラ演じるマシ・オカで(『HEROES』)、ぜんっぜん関係なかった。かけらも合ってなかった。名前すらかすってない。



2014年02月22日(土)
『国民の映画』

『国民の映画』@PARCO劇場

再演。初演は三年前の3月12日に観た(その日の感想はこちら)。今読み返してみると、務めて落ち着いて観ようとしている意識…と言うか意地がありありですな。

今回、三谷さん言うところの「ちゃんときちんとした形で、平常な状態で」観ることが出来た。平常の状態で観て、作品に対する印象は変わらなかった。あの日を境にこの国で起こっていることについて、時代と照らし合わせて観ることも出来た。そしてそれが、より身近に感じられたことがとても恐ろしかった。改めて、傑作だと思う。

とは言うものの、見逃し、聞き逃している箇所があることにも気が付いた。集中力はあったと思うが、それでも余震があったとき等は注意が逸れていたのだろうなあ。それは普段の観劇と同じと言えば同じだが。と言う訳で、新たに気付いたことを中心に。

台詞の端々に、その後を生きる者でなければ気付かないことが織り込まれている。些細な言葉だが、それにはいろんな意味がある。ドイツ国家の繁栄について、レニが「少なくとも私が生きている間は変わることがない」と言う。彼女は2003年、101歳の生涯を閉じる。「こんな時代にはコメディがいちばんだ」と言うゲッベルス。農薬に詳しいヒムラー。いちばんはっとしたのは、ゲーリングの「芸術を愛する権利を持たない者はいない。しかし、芸術は決して罪深き人を愛しはしない」と言う台詞だ(記憶で書いているので正確ではないですがこういったニュアンス)。ゲッベルスがどんなに映画を愛していても、映画は決して彼に愛情を向けることがない。映画への愛を語るゲッベルスの言葉に、客人たちは感銘を受ける。その後それらはゲーリングやフリッツの受け売りであることが明かされる。ゲッベルスに映画を語る才能がないことが残酷にも露になっていくが、彼には演説の才能はあったのではないか。三谷さんが「持たざる者」へ突きつける現実はいつも容赦がないが、同時にその人物に注がれる視線はあくまでも優しい。その優しい視線は、ゲーリングが体現していたように思う。再演から加わった渡辺徹さんは、愛嬌ある容貌と台詞まわしで、持たざる者である息子を憐れむ父のようなゲーリングを演じていた。

エルザもやはり「持たざる者」だ。彼女の焦燥を、同じく再演から参加の秋元才加さんは確実に表現。時折見せる粗野なふるまいは、小悪魔的なかわいらしさすら感じさせた。

そして終盤マグダが口にする、非常に重く恐ろしいひとこと。初演でエルザを演じた吉田羊さんが今回マグダを演じている。彼女が冷たく言い放ったこの言葉は、何も疑いなくそうであると育ってきてしまったマグダの背景を感じさせた。同じ作品の再演で違う役を演じるのはとても大変だったと思うが、彼女のマグダはこの台詞の恐ろしさを多層的にした。ここで気付いたのはツァラのことで、フリッツがユダヤ人だと発覚したのは彼女の「やっぱり執事はユダヤ人がいちばんね」と言うひとことからだ。悪意はない。彼女は民族の資質としての向き不向きから(例えば日本人は繊細な仕事が出来るイメージと言ったような)、フリッツの仕事ぶりを賞賛する意味で言った可能性も決して否定出来ない。どちらが罪深いのだろうと考えてしまう。

ここで、初演後から始まったある動きのことを考える。身近なことだ。ウチの隣町でヘイトスピーチに興ずるひとたちとそのカウンターは、住人からすればどちらもいやがらせにしか感じない。時間が過ぎるのをひたすら待つか、そっとその場を離れるかしかない。隣町で自分が接するのは明るく暖かく、気のいいひとたちだ。ごはんもおいしい。二十年以上住んでいるが、こんな状態になるのは知る限り初めてのことだ。レニの言葉が違う意味を持って思い出される。「自分が生きている間は変わることがない」のか?

映画への造詣深く、仕事を確実にこなす愛すべきフリッツ。彼個人の資質は、時代の流れのなかでは何の意味も持たなかった。自分がフリッツ側の人間になる(される)可能性を、この作品の登場人物たちはひとりとして露程も思っていないだろう。その根拠はどこにあるのだろう。

「持てる者」はどこにいるのだろうか。罪のない人物はどこにいるのだろう。罪深き者はそれに気付き、悔い改めることは出来る。芸術はそれに気付き、振り向いてくれるのだろうか。ヒムラーたちの語る「最終解決」に反発し出て行った映画人たちのその後を思うと胸がつまる。死者となったフリッツが、自分を死に追いやった人物の行く末を語るラストシーン。彼が決して知り得なかったそれらを語ることに、演劇の力を感じた。

その他。

・「Zucker Zucker」の場面、初演ではツァラとレニが唄ったのは憶えているけど、ゲーリングも加わってたっけ?思い出せない!
・初演の白井さんも唄えるひとなので、一緒に唄っててもおかしくはないんだけどどうだったかなあ
・あのシーン、初演では本当に救われた気持ちになったものだった。音楽って素晴らしいなと身体が素直に反応した感じだったなー
・そして翌週DCPRGを聴いて、ああ音楽に飢えていたんだなあと思ったんだ

・ゲーリングは薬物依存と食通のため太っていると言う設定。白井さんはぬいぐるみのような衣裳だったが、渡辺さんも同様。そうですよ渡辺さん、今は印象より太ってないんだよね実際……
・風間さんのヤニングス、べらんめえ調が増した気がする(笑)
・平さんのフレーリヒ、アホの子度が増し(以下同)
・(大根だけど)「輝いてみせます!」の台詞にときめいた。かわいいそう
・平さんね、この初演のあと数作観てすっかりお気に入りの役者さんです。ねこ好きなとこもよいです(笑)

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初演の日に寄ったお店でおひるごはんを食べてから行きました。ちょくちょく行くお店なのだけど、この日はちょっと意識した。お店のひとたちはやっぱり笑顔。そういえば三年前は、ご近所に住んでいるらしきおばあさんが来ていたのだった。話がしたかったのだと思う。変わらずこのお店、続いてほしいなと思いました。



2014年02月16日(日)
『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』

さいたまネクスト・シアター『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター

この難物をやりきるのがすごい、台詞がちゃんと身体を通って聴こえるのがすごい。スタッフワークも素晴らしい。明け方のスキージャンプ中継を最後迄観て行ったんで(+雪で埼京線がどうなるか判らないのでかなり早めに家を出た)、ユルい出来だったらこりゃ寝るな…と思ってたんだけど、三時間半喰い入るように観たなあ。

エモいシーンは決して多くない。カリギュラと彼をとりまくひとたちとの静かな対話シーンが多い。しかし、その場面が言葉とともにしっかりと画になり立ち上がってくる。激情と諦観は内外どちらに向かうか。狂気と正気はどのように表現されるか。時代と状況により、悩める若者の姿は変化する。蜷川作品における激する若者の代表とも言える『ハムレット』とはまるで違うベクトルだ。表裏一体とも言える。諦観に満ちたカリギュラは、冷笑と皮肉を自らにも向け、破滅へと進んでいく。

とはいえ、蜷川さんが「鉛筆少年」と呼ぶ痩躯の若者たちは、実は相当タフなのだ。『蒼白の少年少女たち』シリーズは三作目になるが、彼らのスキルは年々あがり、それと反するようにセットはシンプルになり、役者たちのギラギラとした生命力が物語を凌駕する瞬間が増えている。段差の大きなコの字型の客席はステージから遠いようで近い。最後列から観ていても、時折役者から顔を覗き込まれているかのような気分になることがある。

カリギュラは『ヴォルフガング・ボルヒェルトの作品からの九章』でも印象的だった内田健司、エリコン小久保寿人、ケレア川口覚。ダブルキャストのシピオンは砂原健佑、セゾニアは周本絵梨香。日替わりキャストのミュシスの妻は長内映里香。『ボルヒェルト』でも見せた内田さんの青白い裸体が巧く活かされている。細くて薄いが均整のとれた身体。ハイヒールがデカかったのはご愛嬌(笑・ここは我に返った)。退廃のなかにひとすじの芯が通り、その揺らぎがローマ帝国を恐怖に陥れる。愛人セゾニアと奴隷から掬い上げられたエリコンは彼を支え、父を殺されてなおも彼への理解を深めるシピオンは苦悩し、ケレアはクーデターの機会を窺い乍ら彼を観察し続ける。彼らの対話シーンの耐久性は強力だ。砂原さんの演技が印象に残った。

主役級の役者が作品ごとに変わって行くのも健全で、過去作品で主役を張った役者が巧者として芝居を支える側にまわっているのも興味深い。劇団の実力が底上げされていくのが目に見える。『美しきものの伝説』で主役だった松田慎也がすっかりベテランの風格です。あと手打隆盛がいることの安心感と言うか心強さ!老貴族たちは白塗りの老人メイクで、もとの役者の顔を思い出しづらいものだったのですが、それでも個々の丁寧な演技により「集団の無能さ」が際立つものになっていました。

あと新規加入のおデブちゃん(ごめん!でもかわいいよ!)ふたり(鈴木真之介、松崎浩太郎)が、唐十郎言うところの“特権的肉体”を連想せずにはいられない存在感。彼らと鈴木彰紀(美しい身体と言えばこのひともだなー)、竪山隼太(名字がつくようになったのね)による『四羽の白鳥』はとてもチャーミングでした。それにしてもこのおデブちゃん、劇団と言う集団にはとても使いでがあるなあと思ったり…飽食の貴族、コメディアンとしてのダンサーと、要所要所でポイント高い。あらゆる容姿が存在する舞台と言うものは、より身近に感じられるものです。それがはるか昔のローマ帝国の物語であろうとも。

あと新訳だったのかな?言葉遣いが今ドキな感じになってて、それも頭に入りやすかった要因かも。詩と死、知と血、と一発音の単語の意味が二重に聴こえるところも面白かったです。岩切正一郎さんの訳で、2007年版『カリギュラ』とは違うバージョンの台本だったとのこと(さい芸のtwitter参照)。カリギュラの背後に迫る暗殺団の光景は、『美しきものの伝説』で大杉栄に歩み寄る死者たちのようにも映った。この劇場の奥行きと暗闇、大好き。

・e+ Theatrix! Pick Up: 蜷川幸雄が成長著しい若手俳優たちと新演出で挑む、さいたまネクスト・シアター最新作『カリギュラ』!
・「暴君」現代の若者と重ねて ネクスト公演:朝日新聞デジタル

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・さい芸近所のビストロやまのデリが閉店していた。製造に専念しますだって…うわーん芝居帰りにここのデリ買うの楽しみだったのにー
・楽天で通販はしている→【楽天市場】フランス料理 ビストロやま

・劇場施設内のビストロやまとカフェペペロネはちゃんとやってた。芝居前にランチ、芝居後お茶で二回行った(笑)ごはんもケーキ相変わらずおいしい
・テレビ番組で勝村さんに紹介されたと張り紙があった



2014年02月14日(金)
『新しき世界』

『新しき世界』@シネマート新宿 スクリーン2

twitterのTLであまりにも評判で……新宿の金券ショップで前売り券が800円で叩き売りされてるよと言う情報もtwitterで教えてもらった。感謝だわ……。しかもこれ、初日開いてからやたらと売れだしたのに店側があれっと思ったのか、しばらくして値上げされると言う珍事が(笑)。口コミってすごいですねえ。と言う訳でチケットも購入し、いつ行けるかとやきもきしていたところ、大雪で仕事早くあがっていいよ〜となったので喜びいさんで出掛けて行きました。早く帰ることの意味を履き違えている。

フロント企業化した大型犯罪組織の会長が不可解な交通事故死を遂げ、後継者争いが勃発する。組織に送り込まれて八年、ナンバー2のひとりに絶大な信頼を得る迄になった潜入捜査官に新たな指令がくだる。その作戦“新世界プロジェクト”は、当人たちを予想もつかない新しき世界へと導くことになる……。

いや、これは………口コミに感謝だわ!!!!!韓国ノワールにはてんで疎かったのですが、これにはヤラれた。シビれた。ひとの感想(皆熱い!下にリンク張っておきます)読むのが楽しくてもう私が何書いてもなって気分になっておる程ですが、備忘録としても書いておく。以下ネタバレ全開です。ヤー!

とにかくホンが面白い。構成が見事。物語の余白と、その余白を埋めるほんの少しの情報、登場人物たちの語らぬ胸の内と、それが明かされるタイミング。手札の出し順が絶妙です。捜査官、その上司、ナンバー2である“ブラザー”。彼らの出自や出会いは時間通りには出てきません。彼らはどういう人物なのか?何故そんな言動をするのか?その冷酷さの裏には何があるのか、彼らがこういう関係になる迄、どんなことがあったのか。物語が進む途中で、或いは物語の終わりにするりと滑り込むほんの少しのエピソードにより、それらはある種の回答と、新しい謎を呼ぶ。監督・脚本を手掛けたパク・フンジョンによるとこの作品は三部構成の第二部にあたるものだそうで、残りの二部も映画化したいと言うヴィジョンはあるとのこと。うわー、観たい!観たいです!

事故は仕組まれたものかそうでないか、遂に明かされることはないのですが、個人的には(そして現時点では)チョンチョンが仕組んだものだと判断しました。警察の可能性も消せないが……。でも、あの最後のシーン。六年前の彼(チョンチョン)ってアホの子チンピラみたいだったじゃないですか…それが六年と言う短期間でナンバー2の地位に迄上り詰めるって、実は相当立ち回れる人物の筈。余程の才と野望、非情さがないと…警察(カン課長)との取引や、スパイや裏切り者への仕打ち等、そう思わせられるところはあるにはあったけど、確信に到った要因はこの最後のシーンに依るところが大きい。で、そんな非情なチョンチョンがジャソンに対してはああいう選択をしたってところがまたグッと来る訳です。ジャソンが潜入捜査官だったと知ったときのチョンチョンを思うと胸が潰れるわ。

てかあのシーンを最後に持ってくるって構成がな!ジャソンがあんなに屈託なく笑ってるの、あのシーンだけじゃないか…どんだけ遠いとこに来てしまったかって話ですよ……。

こういった「ヒントの出し方」が絶妙なのです。韓国華僑であるチョンチョンとジャソンの関係性、厳しい儒教思想、「韓国では目上のひとの前では煙草を吸わない」と言った(TLで知った。有難い)礼儀…知れば知る程、気付けば気付く程膝を打つ場面が増える。チョンチョンが自分のルーツを誇りにしているのだろうなと思わせられる、食事のシーンもよかったなあ。抗争も銃はあんま使わなくて刃物(ドス?ドスなの?柳包丁みたいなの。怖い!)と金属バットなんですよね…これもお国柄か。ハリウッドリメイク決まってるそうだけど、ここ銃になっちゃうだろうだな〜金属バットってのがいいんだよ!

そうそうバイオレンス描写がめちゃドンズバだったことも記しておきます。あのエレベーターのシーン!逃げ場なし!銃なし!刃物あり!建設中のビルから転落する死体の風景!釣り堀沼にうつ伏せで浮かぶ死体の風景!あと死体をドラム缶にセメント詰めする際、死体にもセメント呑ませておけば海に沈めても浮かんでこないんだねって要らぬ知識も増えたわ…あの海いくつのドラム缶が沈んでるのかしら……(しろめ)。ちなみにPG12だったけど本国ではR19だそう。この差は何。

そうなのよ、チョンチョン刺されるだけ刺されて即死出来ずにしばらく生きてるってのも巧い演出だと思ったよ…酷い。で、病室での様子がさ!ちっちゃい切り傷がいーっっっぱい手や顔についてるってのがまたさ!ああ!辛い!と言いつつ微笑しているような自覚はある。映画だからこそ味わえる倒錯ですね!リアルではイヤです。フィクションって素晴らしい。そして葬式の様子からしてチョンチョンて身寄りないんじゃないのと言う…だって喪主がジャソンだったじゃないの……。

チョンチョンの病室で呆然とするジャソンの、アップから退きのロングショットが素晴らしかった。カメラ目線と言うフィクションでの違和を逆手にとる演出。

それにしてもジャソン…TLで小藪小藪言われてたけど(…)(追記:小薮と呼ばれていたのはジュング役のパク・ソンウンだったことが後に判明)個人的には京さん(ex.第三舞台)に似てると思い、そうなるともういろんな意味でヒヤヒヤしていつバレるかと気が気じゃなかったですね…いつボロが出るかと(京さんは屈託なくやらかすと言うイメージ刷り込み)。それがあんなことになろうとは。と言うか、あんな道を選ぶとは。しかし他の選択はなかったよな…これチョンチョンだけでなく、カン課長も背中を押したと思うなあ。そうして自分の出自を知る人物がこの世にひとりもいなくなる(ここでまた謎があって、奥さんは彼のことをホントにヤクザだと思っているのか実は捜査官と気付いているのか微妙なとこなんだよなー。何せカン課長からの差し金ですし)ことの孤独よ。会長になってもちっとも嬉しくない!だいたい会長になるために任務を果たして来たんじゃない!疲弊と悔しさしかない!これからどうすんの!続編あったら奥さんも死んじゃう気がする…それはあまりにも辛い…しかしそうなるのがノワールですよ!

あああ、落ち着いて書こうとしてたのにこの有様。もう無理だー!(投げた)以下おぼえがき。

・まずは感想リンク。素晴らしい!読めば読む程漲ります
 A Smoke After The War - IT GETS BETTER
・こちらはtwitterのまとめ。いや今回ホントtwitterのいいとこ再確認した
 映画『新しき世界』の感想をまとめてみました - NAVER まとめ

・それにしてもあのチョンチョン役のひと(ファン・ジョンミン)が〜うわーん!私はこっちの沼におちましたね(今いろんなことが頭でうずまいている)
・アホの子と残忍なナンバー2の二面性…うわあああん
・しかも何よあのプレゼント!バカー!(泣)
・どこそこで言われてるけど貴乃花に見えるときがあり…あの髪型と言い。そしてときどき中村獅童や山本太郎にも見える。特に六年前のチンピラ時代
・そのうえ左利き。このままでは中のひとにもハマってしまいそうな恐れが

・そしてジュング役のひとはアリキリの石井正則に似ていた
・しかしなんだかんだでジュング、素直って言うか貧乏くじって言うかで憎めなかったわ…最期の腹据えた態度にも高感度アップですよ
・そしてあの小沢一郎に似てるおっちゃんどっかで…て思ってたら『KT』で金大中役だったひとね!パンフ見てあああ!と
(追記:その後いろいろ調べてたらジュング役のパク・ソンウンも『KT』に出演してたとのこと。ど、どの役!)

・しかし私しばらく囲碁の先生と奥さんの区別がついてなくて え?え?てなってたからあーやっぱもう一度観直したい……

・それにしてもハリウッドリメイク決まってるって、誰が撮るんだろう+誰が出るんだろう
・TLや上記感想リンクでも言われてたが確かにベンアフ撮ったら面白そう!『ゴーン・ベイビー・ゴーン』『ザ・タウン』を撮った彼なら…ジェレミー・レナーがチョンチョン役やればいいじゃーん
・あっそうだよジェレミーも左利きだもんね!ああ楽しい妄想
・いや左利きってのは私の趣味で、ストーリー上は右利きでも全然問題ありません……
・舞台はボストン!移民はアイルランド!スタジアムはフェンウェイパーク!
・それまんま『ザ・タウン』やん!
・やだどんどんベンアフ監督で観たい思いが膨らむわ
・ジョソン役は誰がいいか……たたずまい+顔だけならJGLか(笑)

しかし雪なのに結構ひとおったで…皆ひとり客でな……(笑)男7女3くらいの割合であった。休日や時間帯によっては変わるかも知れない。終映後余韻に浸ったまま他の客の様子を眺めていたのだが、ポワーとした表情で席を立ち、ロビーにある映画評の切り抜きが張ってあるボードに群がるひと多数。パンフ買うひと多数。



2014年02月09日(日)
齋藤陽道 写真展『宝箱』

齋藤陽道 写真展『宝箱』@WATARI-UM

先日はイヴェント『銀河系の果てを聴く』のみを観たので、改めて。大雪の翌朝、千駄ヶ谷から雪をざくざく踏んで歩く。雪だるまやかまくらがあちこちに出来ている。ちなみに投票は土曜日、いちばん雪の酷いときに行きました(大雪とか台風が来ると出歩きたがる)。

館内はいつにも増して静かに感じる。そおっとそおっと観てまわる。音を逃さないように歩く。被写体はマイノリティに属するひとたちだ。亡骸もある。逆光で顔が隠れているものも多い。それでも光は柔らかく、澄んでいる。画面から何か聴こえるのではないかとも思う。音は気配と言ってもいい。光はやがて陰になり、風船はふわふわと遠ざかって見えなくなり、シャボン玉はやがて弾けて消える。その一瞬前を捉える。普段目にしているものを違う気持ちで眺めると、そこに宇宙が存在することに気付く。

それはいつもどこにでもある。自分が気付かないだけなのだ。どれだけ目を凝らすことが出来るか、どれだけ耳を澄ますことが出来るか。耳は肌でもいい。齋藤さんはどうやって目を凝らし、その気配を感じ取り、シャッターを切っているのだろう。冬の夜は静かで、雪は音を吸収する。館内に雪はなく、ワタリウムは壁の反響が大きいところだが、とてもとても静かだった。冬に観ることが出来てよかった写真展。

ON SUNDAYS CAFEで休憩していたらスミスがかかってうううとなる。何故スミスと聴くと後ろめたい気持ちになるのか(笑)。



2014年02月07日(金)
『高橋徹也と鹿島達也』

高橋徹也 デュオ・ワンマン『高橋徹也と鹿島達也』@SARAVAH Tokyo

ベスト盤が再販になったばかりで、初心者には嬉しいタイミング。ちなみにこのベスト盤、菊地成孔が参加している楽曲も入ってておおうとなりましたよね…なんだかんだで自分の嗜好が判ると言うか(笑)。しかしこの時期の菊地さん、鬼のようなスタジオ仕事量だったそうだからなあ。窪田晴男もだけど、彼らのスタジオ仕事を網羅するのは気が遠くなる話。逆に言えば、こうやって偶然出くわすこともあり、嬉しい驚きも味わえる。ベスト盤は90年代をひしひしと感じるミックスで、うわあこの質感懐かしいと思うと同時に、それと相反する楽曲の瑞々しさにはっとさせられることしきり。そしてこのヴェルヴェットヴォイス!すっかり愛聴盤です。廃盤になっている過去作品も集められるといいな。

閑話休題。本日のライヴはVo、G:高橋徹也、B:鹿島達也のデュオ。ライヴに行き始めたのは昨年から、今回で三本目ですが、その三本とも編成が違い、興味は募る一方です。そして高橋さんのレコーディング作品にも数多く参加している鹿島さんは、当時オリジナルラヴのサポートでよく聴いていたベーシスト。ううむこの人脈、自分の嗜好が(略)

オープニングは「ブラックバード」。第一声で場の風景をがらりと変える、これには毎回鳥肌がたつ。高橋さんはエレクトリックとアコースティックギター、鹿島さんはエレキとアップライトベース、弓弾きする場面も。フローリングのフロアが程よく音を吸収し、柔らかい響きで場を満たす。寒空のなか尋ねた家で、暖かい飲み物をいただいたような気分。

音源を入手してタイトルを憶えたものも増えてきているのだけど、ライヴで一度聴いただけの曲がこれだけ記憶に残るってこと、なかなかない。特に今となっては(笑)。いや、この歳にもなると「あ〜、このバンドはあのバンドの影響を受けているのだなあ」とか、余計なことを考え乍ら聴いてしまいがちなのだ。それがないと言うか…ルーツはジョニ・ミッチェルと聞き成程とは思うものの、あの歌声を前にすると、そういうルーツ云々の分析は後でよい、と言う気分になる。メロディラインが自分の好みだと言うこともあるのだろうが、あの声で奏でられるメロディと言うものがいかに強烈か、に尽きる。格別です。

そこに言葉がぴたりとついてくる。登場する人物、その人物がいる場所、見ている風景が、鮮やかに眼前に浮かび上がる。タイトルが判る前は歌詞のセンテンス込みで歌を憶えていた。詞、曲、声が、他には有り得ないと感じるようなかたちで肌を合わせる。身体の相性、と言う言葉が浮かぶ程。セクシュアルでもあるのだ。

レコーディング作品には饒舌なテキストも掲載されているのですが、頭のなかで描かれた風景が曲になるプロセスを読ませてもらっているようで興味深いものがあります。

若干緊張していたらしく(本人が珍しく緊張して…と言っていた)魅力である声が上擦る場面もありましたが、その危うさすらも色気になるなあ。そして演奏と歌に集中するためか、MCがぐだぐだです(笑)。「海パンを履いたのは中学校の授業以来かな…」とか言い出すのでいきなり何だと思えば、直前にやった曲が「太平洋」だったからでした。カセット作品に収録されていたと言うちょうレアな曲で、ライヴで演奏するのは初めてかも、とのこと。鹿島さんについての話も面白かった。デビュー前、レコード会社のお偉方にこういう子がデビューしまーすとプレゼンテーションをする機会があり、そのライヴ用のバンドメンバーとして紹介されてからのつきあいだそうです。そのバンドには加藤隆志さんもいたそうで、「彼は今東京スカパラダイスオーケストラのメンバーで、こないだ一緒に焼き肉食べに行ったらいい焼き肉屋になってた」だって(笑)。

鹿島さんは、MCでこんがらがってる高橋さんをニコニコ見ているようなほんわかしたひとですが、ひとたび演奏が始まるとどんな些細な音にも即反応し、演奏を柔軟に変えてくる。今この曲には何が必要かを瞬時に察知する嗅覚の鋭さも感じました。途中観客を煽るふうでもなく手拍子を始める様子がとても自然で、信頼する相手―高橋さんと言うプレイヤーでもあり、音楽そのものでもあり―に身を任せているかのよう。この自意識の稀薄さも魅力。

過去作品を現在の制作方法と照らし合わせているような様子も見せつつ、創作欲求は尽きない様子。熱のこもった演奏はダブルアンコールを呼び起こす。出てきた鹿島さんがぼそっと「本当のアンコールだね」。一気に和むフロア。「予定している曲がない…」と言いつつ演奏されたのは「夜明けのフリーウェイ」。余韻の残る、場を去り難くなるライヴでした。

いいライヴのあとは頭が冴えて目も冴える。帰宅しソチオリンピックの開会式を観て、明け方降り出した雪を眺める。愛して止まない、冷たい空気と白い風景。

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セットリスト:
01. ブラックバード
02. ハリケーン・ビューティ
03. ドライブ
04. チャイナ・カフェ
05. 真夜中のメリーゴーランド
06. サマーピープル
07. 夜の亡霊 夜の国境
08. ヒッチハイカー
09. 雪原のコヨーテ
10. 真夜中のドライブイン
11. 太平洋
12. 星空ギター
13. 大統領夫人と棺
14. 真っ赤な車
15. バタフライナイト

アンコール:
16. 帰り道の途中
17. ユニバース
18. 夜明けのフリーウェイ

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それにしてもサラヴァ東京のラインナップはいいですな。ライヴも芝居もトークイヴェントも出来るスペースはジァン・ジァン的でもあり、自分の好みでもあり(笑)。しかし田中さんは孝順じゃなくて教順なの、間違えないであげて(泣)。てか小林建樹さんここでライヴやってくれないかなあ、とっても似合うと思うの。



2014年02月03日(月)
ブス会*『男たらし』

ブス会*『男たらし』@ザ・スズナリ

お初のブス会*。今回のお話はブス女とゲス男が対峙すると言うものなのかー、とチラシを見ていたら出演者のなかに大窪人衛くんの名前を発見…「ええ?あのかわいい子が?高校生とかの役ばっかやってる子が!?」と思ったのがきっかけです。24歳と実年齢も若いが、並外れた童顔とカストラートヴォイスの持ち主で、イキウメではこどもの役を数多く演じている役者さんです。『暗いところからやってくる』なんて13歳の役でしたよ……。近作の『片鱗』は、高校生乍らも色っぽいところがある役柄で、これは劇団の方でも役の幅をひろげて育てていこうとしているのかなーと思っていたのでした。そこへゲス役。これは新境地が見られるかも?大人な大窪くんが見られるかも?てな動機だったのですが。

大窪くんの役、とってもいい子やった…そしてまた高校生役だった……。

いやしかし、いい子なんだけどそれは丸出駄目男な父親(古屋隆太さん最高。このひとホント面白い……)の姿を見ている反動で、ああはなるまいと懸命に自制しているんだけど実のところ父親と同じ資質を持っている…と言う田中慎弥『共喰い』を思い出させるような子でして。この子がこのままいい子でいるのか、ゲスへと育ってしまうのか、それは今後の心掛け次第ですねー。いい子に育てよ…厳しいかもしれんが……。

この高校生はDVの父親から母親を守れなかったと言う悔いがあり、家を出て行ってしまった母親あるいは母親のような存在を追い求めている。そんな経緯を抱えて父親の新しい彼女と打ち解けていきます。ところがやっと仲良くなってきたふたりは、ちょっとした誤解で言い争いになってしまう。そのとき彼女に「マザコン」と言われちゃう…あーそれ言っちゃあかん……その途端、父親と同じ顔がその子に現れてしまう。

そのあと彼は父親に優しくなる。と言うか、反発から憐れみへと態度が変わる。ああどうなってもこのひとは自分の父親だ、と言う諦めと、あんなに嫌っていたけど自分も同じ火種を抱えていた、と言う自覚と。しかしその憐れみが、これはやばいな〜ってな施しへと向かっていっているところが一筋縄ではいきません。父親と別れた彼女とも関係が軟化する。彼女も言っちゃいけないこと言っちゃったなーって負い目があるんですね。しかし、その軟化も泥沼系へとズブズブズブ。

男の業も女の業も面倒なもので、どっちもどっちと言えばそうなのよってなシチュエーションがどかどか迫ってくる。古屋さん、大窪くん以外の男優さんは初見でしたが皆ゲスで素晴らしかった…カタログのように各種ゲス取り揃えてあった。そして皆さん当て書き?と思わせられてしまうくらい達者…作・演出のペヤンヌマキさんによるモデリングが素晴らしいと言うこともあるのでしょう、おそろしや〜。ペヤンヌさんが実際言われたことあるのかなーってな台詞もドカドカ。私にもありましたわよ!どれかは書きたくないわ(笑)ああつらい。

五人のゲス男とただひとり対峙する、内田慈さん演じる女性は仕事でどんどん成果をあげていく。成長しとるがな!しかしここであーやっぱ女はつえーなーって言われても全然嬉しくないっつうか、おめーらがダメだからこっちが死にものぐるいでがんばったんだろーがよおおお!あああめんどうくせえ!と言い放ちたくなる成長なのですよオホホホホ、トホホホホ。話が進むにつれ服の趣味が変わっていくのが面白かったわ…荷物運ぶときはめくれたシャツからパンツをチラ見せ、取材のときは関西か?てな派手柄プリントワンピ、ラストシーンは背中がばっくり開いた白のワンピ。シチュエーションによっていろんな衣裳が見られて眼福でございました。マーメイドラインの美しいこと!

まあ女も女でいろいろダメです。男も女も、あの高校生のように「許し」の心をお互いに持ちたいものだと思いました。それが諦めでもな!寛容ってだいじ!そこにつけこむひともいるけど!ただ、施しはねー。貢ぐ女と紙一重なところがあるので、気をつけた方がいいと思うよ…と言いつつ、私大窪くんに騙されているのかしらと不安にもなっている。これで素の大窪くんが女たらしだったら、末恐ろしい役者さんだわ……カーテンコールではほっぺが赤くなってて、肌の綺麗さが羨ましかったです(笑)。

と言う訳で(?)、主人公の女性とあの高校生のように、ひとは自分の力で変われる!と思いたい!と言う幕切れ乍らもああああのふたりの仲はどうなっちゃうの、と言うもや〜んとした煩悩を存分に楽しめるお芝居でした。会社での呑み会のつまみがハッピーターンとか、そういうちょっとしたところも丁寧でよかった。



2014年02月01日(土)
『アメリカン・ハッスル』『銀河系の果てを聴く』

『アメリカン・ハッスル』@新宿武蔵野館 1

いんや面白かった…んが〜じわじわ苦い!せつない!やっぱりねえ、ひとを騙したら騙した分の何かを受け取らねばならんのよ…受け取るってのは喪失も含めてですよ。因果応報ってことかも知れんが、それにしても苦いわ…デヴィッド・O・ラッセルの厳しさと優しさよ。ある側面から見るとハッピーエンドだけど、違う側面から見ると皆一生消えない傷を負ってる。

し〜か〜し〜個人的にはジェレミー・レナー目当てで観に行っているので、ジェレミー(の役)の肩を持ちたいわけですよ。ジェレミー騙すのやめて!可哀相だから!(泣)いやだって、いちばん善人じゃありませんでしたか…ってか別に悪徳政治家じゃないじゃない!汚職に手を染めるって言葉で片付けられない!ひと騙してないの彼だけじゃーん!ちょういいやつじゃーん!騙してないのにあんな目に遭うじゃーん!何それあんまりだよ!感嘆符もいっぱいつけるよ。か・わ・い・そ・う!!!!!かわいそう!!!!!しかも騙されっぷりがあまりにも素直ちゃんでかわいくてますますかわいそう。ああジェレミー戻っちゃダメ!その話にのっちゃダメ!と思っても何も出来ない観客のつらさよ。シークから宝物でーすって贈られた短剣を受け取るときパッと花が咲くような笑顔を見せる、この表情がまたすんごいよくてさ!スピードある展開で、具体的な言葉も少ないけど、アーヴィン(クリスチャン)と明け方迄語り合ったあの夜の描写とかさ…アーヴィンのことほんとに友達だと思ってたんだよ!あああもうかわいそう!!!!!

もうね、あの髪型も見慣れてくるともうかわいく見えるよ…撮影当時流れてきた現場の画像見て散々笑ったけど悪かったよ。まあそれは皆さんそうで、クリスチャンの1:9分けもブラッドリーのパンチパーマ(カーリーってことらしいがもうパンチにしか見えない。パンチって日本にしかないの?ってそもそもなんでパンチって言うの?…と思わず検索したらこんな由来だった。ある意味まんまだった)もジェニファーの似合わない盛り髪も、話が進むにつれそういうことなのか…と感じる部分が出てきてそれがまたせつないのな。オープニングで髪型を懸命に丁寧に丁寧に整えるアーヴィン、母親と同居してる家でホームパーマ(この言葉ももうあまり聞かないな)巻いてるリッチー(ブラッドリー)。リッチーに髪をぐちゃぐちゃ〜てされたときのアーヴィンの顔!ショックと怒りで泣く寸前みたいになって言葉も出ないあの顔!それを見て「とても時間がかかるの」とだけ言うシドニー(エイミー)…もうここで「この映画、……好き!」と思いましたよ。滑稽やらつらいやら。

て言うかブラッドリーも可哀相だったよ…アホでかわいそうな子のことが気になりますね……。まあ皆可哀相と言えば可哀相なんだが、どこでストーリーを切るかってとこですよね。今作はアーヴィンとシドニーと言う人生でもビジネスでも最高のパートナーを見付けたふたりが穏やかな幸せを手に入れる迄、と言うのがひとつの流れなので、カーマイン(ジェレミー)やリッチーのその後に焦点は合わない。それが余韻にもなるんだけど、どの人物に肩入れするかってとこですよね。ジェニファー演じるロザリンも、いちばんひとたらしだったけどいちばん生きるのがつらい人物なんじゃないかなと思える。ロザリンほんとうざくて面倒くさくて近くにいてほしくないけど、全く憎めない人物だった。カーマインがくれた電子レンジを即ぶっ壊したときはちょっと憎しみ湧いたけど(笑)。キッチンの黒焦げ壁紙がずっとそのまんまで(ロザリンの無頓着さが現れてるよ…)キッチンが映るたんびにせつなおかしかったわ…何日経ってもあのまんま……。

いんやそれにしても試合巧者の役者陣素晴らしかった。ブラッド・ピットばりに八時二十分眉になってるクリスチャンをあんなに沢山見たのも初めてだ(笑)。ノンクレジットで出てた彼にもビックリ、知らなかったよ!そしてサントラ、70年代コンピとしても素晴らしい。ロザリンが「死ぬのは奴らだ」を絶唱するシーン、すごくよかった。

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『銀河系の果てを聴く』@WATARI-UM

齋藤陽道『宝箱』展のライヴイヴェント。山川冬樹さんが聴覚以外の器官へと奏でる音楽。

数日前からワタリウムのtwitterに仕込みの様子が載っていて、この機材は何だろう?と思っていた。入場するとスタッフの方が「どう伝わるか読めないので、なるべく前の方、あるいはスピーカーの近くにいるといいと思います」と言う。床には振動式スピーカーらしきものが一定距離で設置されている。山川さんがライヴでよく使う白熱灯や、変わった形のスピーカーがスタンドに設置されている。プレイエリアはフロアの中心と壁面そばの二箇所あるようだ。

照明が落とされ、しばらく何も起こらない。まずは静寂を“聴く”。やがて上空からドン、ドンと言う音と振動。見上げると、吹き抜けから見える上階に山川さんがいる。ガラス窓を殴っている。吹き抜けになっていない場所にいた観客は、何が起こっているか判らなかっただろう。フロアに降りてきた山川さんは、出てきたもうひとりの人物と向き合う。暗くてよく見えないが、齋藤さんのようだ。グローブを装着したふたりのどつきあい、殴り合いが始まる。衝撃音と振動が床から、スピーカーから伝わり出す。

上半身裸になり、集音マイクを胸につけた山川さんの心臓の音が空気を震わせる。鼓動に同期して白熱灯が点滅する。齋藤さんが山川さんの腕を接写していく。プロジェクターを通じて、壁面スクリーンに動画が映し出される。手首の動脈が一定のリズムで動いているのがハッキリ見える。山川さんが心臓の鼓動をコントロールすると、動脈の動きも止まる。その動きと振動を“聴く”。聴くとは振動を感じることでもあるのだなと思う。

マーカーに集音マイクを装着しての筆談。このときには齋藤さんも上半身裸になっており、そのままの姿で筆談。ちょっとシュール。寒くないのかな?「音楽ってなーに?」と書く齋藤さんに、山川さんはいろいろな言葉とアクションで応える。力が入るあまりマーカーが潰れ、交換する。△でワルツを奏で、□、☆(一筆書きの五芒星)と図形を描き拍子をとる。マーカーのセッションが始まる。ギュッ、キュッ、キシー、ジジーと鳴るマーカーの軌跡が床を震わせる。・・○は「We Will Rock You」なリズム。ドンドン、シャーッ、ドンドン、キャーッ。赤と青の線が紙面を走り回り、みるみるノイズに染まっていく。フロアに笑い声が起こる。筆談エキサイトが続き(筆談、ワイ談の韻を踏む話面白かった。血流でダンスする身体のいち器官のことも)、やがて山川さんが書く。「さいとう君の心臓きいてみたいです。」齋藤さんが書く、「とまってるかも…。」力強く山川さんが断言する。「生きてるからうごいてる、ぜったい、うごいてる。」

集音マイクから流れてくる齋藤さんの鼓動。骨伝導マイクを装着した山川さんが齋藤さんの写真集からのテキストを朗読し、ホーメイを唄いギターを鳴らす。その間ずっと齋藤さんとスタッフ?が手話で会話している。あれは山川さんの朗読を訳しているのだろうか、それとも何か他のことを話している?手話が読めない私には判らない。耳で聴く音楽、目に映る音楽。内臓を震わせる音楽、肌をなでる音楽。

終演後「体験していってください」と山川さんが挨拶。こどもたちがマイク付きマーカーで絵を描き始める。そこに飴屋さんも混ざっている。床のスピーカーを触ってみた。ビリビリと絵描きの音楽が伝わる。いつの間にか山川さんと観客のひとりのセッションが始まっていた。馬頭琴、ホーメイとジャンベ、団扇太鼓。初対面のようで、セッションのあと山川さんが名前を訊いていた。リョウタさんと言う方だった。こどもたちがシャボン玉を膨らませる。浮かぶ、弾ける。歓声があがる。光景が奏でる音楽。