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2010年12月18日(土) ■ |
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『美しきものの伝説』 |
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さいたまネクストシアター『美しきものの伝説』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター
第一回公演同様、大劇場のステージ上に作られたインサイド・シアター。演技スペースをコの字型に客席が囲みます。一列目は舞台と同じ高さで、以降結構な段差で客席が組まれているので、後ろの席から観ると舞台を見下ろす形になる。思えばこの、狭い空間で縦に積む客席と言うのは、かつて蜷川カンパニーの若手が拠点にしていたベニサン・ピットがそうだった。
今回は『真田風雲録』のような、泥と言う仕掛けはない。これは演者の動きを封じると言う意味での枷ではあったが、その分役者の身体の力量不足を隠し補う仕掛けでもあった。今回はそういった手助けがないので、やはり役者の動きと言うものが気になる。和物なのでちょっとした所作も目につく。それにつられて台詞回しにもなかなか厳しい部分もあったが、この発展途上も、このカンパニーを見ていく楽しみでもある。
蜷川さんによると、リストラを敢行したとのこと(鈴木裕美さんが以前このことを“大量虐殺”と称していたなあ・苦笑)。確かにこの若いカンパニー、環境としてはとてつもなく恵まれているのだ。技術的に巧い役者は確かにいたのだが、それだけでは歯痒い。前回に続き、1960年代の名作を上演するにあたって、“ヒリツク”ような緊張感がほしい。熱を持った演者を、静謐な演出が捉える関係は、観ていてとても視界が晴れ渡るような気分でした。いいものを観た。
大正デモクラシー真っ只中の時代、赤旗事件と大逆事件から連なる“美しきものの伝説”。時代背景が頭に入っていないと苦戦します(泣)。モデルとなった実際の人物からちょっと名前を変えている上、あだ名で呼び合う場面も多いので、登場人物を把握するのにちょっと時間がかかった。あとあれだ、恋愛事情がややこしい(笑)。誰が誰と出奔したとか誰が誰と同時につきあってて刺されたとか誰と誰が離婚して誰とくっついたんだっけかーと言う…休憩時間に配布されたパンフを読みふける(笑)。
大杉栄とともに虐殺された妻・野枝の役はなかなか難しかったと思います。ちょっとした違いで、この女、アホかも知れん…となるか、まっすぐに生き、自分の感覚をいかに大事にしていたかとなるか。松井須磨子も、平塚らいてうも、神近市子も。こうやりたい、と言う意気込みは伝わりました。
客演の四分六役・飯田邦博さんが素晴らしかったなあ。多くの同志を見送り、弔った堺利彦にあたる人物。美しい言葉に溢れる戯曲ですが、希望を踏みにじられても悲しさを湛え闘い続ける彼の台詞がいちばん響きました。
蜷川演出は、ツカミは勿論のこと、ラストシーンが素晴らしかった。知らずのうちに死へと近付いている、あの日の栄と野枝。眩しく輝く白い衣裳のふたりの背後に迫る影は、最初は憲兵隊に見える。奥行きを活かしたこの演出には恐怖で身震いしました(比喩でなく)。しかし近付くにつれ、彼らは革命途中で死んでいった同志たちであることが判る。死に魅入られた光景を描かせたら、蜷川さんの右に出るひとはいないと思う。
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