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2002年06月14日(金)
『KT』

『KT』@シネマスクエアとうきゅう


重量級。組織、時代に翻弄される個人の無念さと断念。カタルシスはあまり感じられない。多分狙っての事だと思う。派手ではない。だからこそ観終わった時の言い様のない息苦しさはデカい。デカ過ぎる相手に抗えないちっぽけな個人。金車雲がヘリコプターに向かって発砲するシーン、解放された金大中が、とぼとぼと家路を行く後ろ姿はあまりにも象徴的だった。

物語が収束しない。「国ヲ 愛スル心ガ 人ヲ 殺ス」「独裁者ハ ナゼ KTヲ 怖レタカ」と言う宣伝文句の根拠が見えてこない。KCIAのメンバー(特に行動隊長・金車雲)は国への忠誠心よりも、従わねば家族もろとも殺されると言う恐怖感と、家族を不自由なく養いたいから金がほしいと言う至極自然な欲が強調されている。母国語を喋れない在日二世の金甲寿の悔恨、甲寿の恋人で、彼との交際を反対した両親を捨てた俊子の物語をあれで終わらせてしまったのは残念だ。富田の恋人・政美がKCIAに受けた拷問にしても、序盤の説明だけで終わらせてしまっている。登場人物の背景がとても綿密に存在しているのに、それをもてあまし気味に終わってしまうのが惜しいと言うか…勿体ない。

しかしそういう箇所も含めて、この物語のとてつもないスケール、重さが半端じゃない。出演陣の面構えも最高。阪本監督にしか撮れない作品だと思います。これは、キます。尾をひきます。

母国語を理解出来ずに金大中のボディーガードを任された甲寿の悔しさと悲しさを筒井道隆さんが好演。だからこそもうちょっと突っ込んだ所も観たかったんだよね…。取り調べを受けている彼を迎えに来た在日韓国青年同盟の先輩・金君雄を演じた木下ほうかさんも印象的でした。優しいおにいさんて感じでな…迎えに来て、あのほわんとした声で話しかけられたらそら泣くわ!大泣きするわ!実は******だったKCIAの二等書記官・柳春成役の光石研さん、一等書記官・洪性震役の利重剛さんも、少ない台詞で(利重さんは台詞はなかった、確か)多くを語る表情がよかった。夕刊トーキョー記者・神川を演じた原田芳雄さんも、諦めからノンポリへの道を歩みつつあるのに、それを何だか輝かしいものに感じさせてしまう不思議な魅力がありました。そして金車雲役のキム・ガプスさん!任務への緊張感を漲らせた序盤、計画が失敗した時の動揺と行き場のない怒りの中盤、焦燥を背負い込んだ終盤。初見の役者さんでしたが素晴らしかったです。瞳の色が綺麗。中盤、神川が金大中に取材したホテルを張っていた時に着ていた白いシャツの襟の形が独特で綺麗だったんだけど、これが凄く似合っていました。

ウチは「コーイチ(佐藤浩市さん)が幸せになる話を観たい部」と言うのがありまして(笑)姉妹揃って佐藤さん大好きなんですよ!でも佐藤さんて幸せになる話少ないじゃん!死んじゃう話多いじゃん!た、たまには幸せになってくださいよ…。しかしこういう役柄をやればやる程生き生きしてるような気がするな、このひとは…ああいい男だよー。このひとが牛乳買ってくれるんならいくらでも自転車で転ぶね!なんて不謹慎な事を考える程格好よくてなあ。

そういえば、幸せにならない・死ぬ役が多い、インな着こなし(シャツをボトムに入れている)…これはベニシオと共通するじゃないか!と今になって気付く。ああそういう事か…(どういう事だよ)。