作家、三浦哲郎氏が亡くなられた。残念でならない。
三浦哲郎氏は好きな作家さんなのだけど中でも『白夜を旅する人々』は私にとって特別な作品だ。はじめて読んだのは高校生の頃だった。文庫本のカバーが手ずれして擦り切れるほど再読した作品で、今でもたまに読み返すことがある。『白夜を旅する人々』は魂の1冊と言ってもいいくらいだ。
作品の中に「れん」と言う名の少女が登場するのだけれど、当時私は彼女に自分を重ねて読んでいた。生真面目で良い子なのだけど、吃驚するほど要領が悪い。私は「れん」のように出来た子では無かったけれど、どこか共感するところがあり、彼女の生きざまに涙したものだった。
そんな私も38歳になった。「れん」の年齢を遥かに追い越した私は、結婚して、出産もした。今では立派な「おばちゃん」だ。馬鹿がつくほど真面目で要領の悪かった私も、今じゃすっかり、ふてぶてしくなった。いまだに要領の良い方ではないけれど、それでも上手くやり過ごしたり受け流したりする処世術も身につけて、当時では想像出来ないほど逞しく生きている。
若い頃に「魂の1冊」と思えるような作品に出会えるのは幸せなことだ。本はあくまでも本に過ぎない。何か大変なことがあった時、自分に手を差し伸べてくれる訳ではないけれど、心のつっかえ棒にはなってくれる。たぶん今後も何度となく『白夜を旅する人々』を読み続けていくと思う。
三浦哲郎氏の御冥福をお祈りしつつ、今日の日記はこれにてオシマイ。