我が家は絵に描いたような狭小住宅で、土地いっぱいに家が建っているのだけれど、隣との境目には法律上、ほんの少しだけ余裕がある。人1人が通れるくらいの幅で、電気やガスのメーターがあって、水道の蛇口があって、奥には物置の扉がある。
ある日、ふとそこに目をやるとその狭いスペースに大人の腕くらいの大きさの木の枝が2本転がっていた。
木の枝…と言っても我が家には庭などあるはずもなく、隣接しているお宅にも裏のお宅にも庭はなくて、自然に木の枝が入ってくるとは考え難い。ちなみに、向かいのお宅や斜め向かいのお宅には広いお庭があるのだけれど、大人の腕くらいの木の枝が折れて飛んできたとも考え難い。
その枝はクスノキのようだった。ちなみに…ご近所にお庭にクスノキのあるお宅は無い。我が家から1番近くにあるクスノキは1つ向こうの筋にある公園のクスノキだ。
クスノキの枝を拾い上げて思わずニンマリと笑ってしまった。たぶん、近所の小学生が運んできたのだろう。春休みに突入して彼らは秘密基地を作ったに違いない。我が家の狭いスペースは道に面していて誰でも入ることが出来る上に、ちょっと奥まって狭い感じが子供心をくすぐるらしく、娘をはじめ近所の子供達が「ちょっと寄っていって遊んでいく」スペースでもあるのだ。
せっせとクスノキの枝を運んできたであろう子供には申し訳なかったけれど、こちらにも大人の事情というものがあり、クスノキの枝は片付けさせてもらった。
春は秘密基地を作るにはもってこいの季節だ。
私もかつては秘密基地を作ったことがある。仲間だけ…子供だけの秘密基地。「秘密基地」という言葉を口にしただけでも、胸がキュウッっとしてしまう。秘密基地ってのは永遠のものじゃない。「大人に潰されてオシマイ」という末路をたどった秘密基地は星の数ほどあるんじゃなかろうか。私も秘密基地を潰す立場になってしまったのかと思うと感慨深い。
公園から大きなクスノキの枝を2本も運んできた子は、きっとガッカリするのだろうなぁ。私はその子の顔を知らないけれど、逞しく遊んで欲しいなぁ……なんて思いつつ、今日の日記はこれにてオシマイ。