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2024年11月04日(月)
『ゴンドラ』

『ゴンドラ』@シネマカリテ シアター1


ヘルマー監督は「死ぬまでの短い時間」を捉える名手。社会は厳しく人生は寂しい、でも人生は素晴らしい。それにつけてもロケハンの鬼。

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台詞がほぼなく(しかしサイレントではない)、時代にも場所にも縛られない映画を撮り続けているファイト・ヘルマー。今回は辺境で暮らすひとびとが交通に利用するロープウェイが舞台。日々のルーティンのなかで人生の楽しみを見つけていく女性ふたりと、周辺の人々が描かれます。台詞は万国共通の「OK!」というひとことだけ。

村人を運び、棺を運び、牛を運ぶ。駅長から搭乗拒否されていた車椅子の男性を運ぶ。ロープウェイですれ違う乗務員の女性たちは、折り返しの駅でチェスを指す。いつしか恋に落ちたふたりはゴンドラを装飾し、制服をアレンジし、楽器を持ち寄りセッションをする。駅長の目を欺き、いたずらっ子のようにクスクス笑う。

冒頭ツイートにも書きましたが、結構やらかしているのです。覗きでしょ、窃盗でしょ、空き巣でしょ。駅長の末路も可哀相っちゃ可哀相ですし、それはあかんやろと顔をしかめてしまう瞬間が随所にある。それでも、意地悪な駅長の鼻を明かす場面には爽快な気分になり、空中散歩をする車椅子を見て快哉を叫ぶ。考えてみれば童話って、ノワールと紙一重で残酷なものですよね。ちなみにこのロープウェイ、全長1700mで途中に支柱がありません。設備も古いし、途中で停まったら…ワイヤーが切れたら……想像しただけで鳥肌が立ちますが、あの映像美には抗えない。薄く靄のかかった緑深い山あいを、ゆっくり走行するゴンドラ。外灯もない闇のなか、ちいさな光を帯びて浮かぶゴンドラ。幻想的な風景を目に出来る幸せと、映画というものの力をひしと感じる。

前作『ブラ!ブラ!ブラ!』の撮影地は再開発により消え、今作のゴンドラも既に新しい筐体になっている。「なくなっていくもの」を残すことの美徳を、この作品は持っている。

『ブラ!ブラ!ブラ!』の撮影地となったアゼルバイジャンも、今作のアジャリア(後述)も、政治的な理由で表現に規制がかかり、締め付けは年々厳しくなっているという。今作は意図せずしてクィア作品になったそうだが、現地ではそのことを公表せずに撮影を進めたとのこと。恋人たちがこの地を去ったかのような幕切れに、幸せな未来を願わずにはいられない。彼女たちの笑顔が曇ることのない時代や場所が、幻想のなかだけではなく「今、ここ」にあることをひたすら祈る。そして、ヘルマー監督がこうした映画を撮り続けられる世界であってほしいと思う。

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もう予告編だけで胸がいっぱいになる〜ロケーション、小道具、衣裳の拘りよ。繊細な音があちこちに配されているので、可能な方は是非劇場で



『ゴンドラ』の作品紹介を目にした瞬間「あのロープウェイだ!」と公開を楽しみにしていたのでした。実際には同じ場所のものではありませんでしたが、逆にチアトゥラ以外にもこんなロープウェイがあるのかと驚いた。コーカサス山脈に囲まれている地域のため、欠かせない交通機関なのだそう

・どの国からも承認されていない国家「アジャリア」に行く┃デイリーポータルZ
「アメリカのパスポートを持ったわたしは、イランに入国することが難しい。でもこうしてバトゥミに来て、あなたと話をする機会を偶然に得た。
歳をとると、人生には悲しいことしか起こらない。でも旅をしていると、それが少しだけ覆る。ごくたまに善きことが起こる。それはたとえば、このロープウェイで、イラン人のあなたに会えたことだ」

2019年の記事。今作の舞台であるフロ村は、“ジョージアの支配下にある”自治共和国アジャリアにあります。アジャリアには首都バトゥミにもロープウェイがあり、観光客の人気スポットだそう


ぎゅうぎゅうでしたがいい撮影スポットになっていました