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2024年07月07日(日)
『THE MOON』

『THE MOON』@新宿バルト9 シアター5



ドローンにすっかり感情移入、タチコマみたいに喋ったりはしないんだけどね。だから尚更「が、がんばれ!」と拳を握る。お仕事を全うした最期にも涙。この子めちゃいい仕事したよね!

原題『더 문(ザ・ムーン)』英題『The Moon』。2023年、『神と共に』(『第一章:罪と罰』『第二章:因と縁』)のキム・ヨンファ監督作品。新人宇宙飛行士ソヌがひとり月に取り残され、無事帰ってくる迄の話です。こういう作品だから生還しますってのはお約束、ネタバレしてもいいよね……。しかし! その帰ってくる迄が!! めちゃくちゃたいへん!!! 大丈夫大丈夫帰れる、と信じていてもめちゃくちゃ怖い!

ひとりだけ助かったという宇宙空間事故って、実際にはないよね多分。全滅するよね……。ないないない! という場面は結構あるのです。宇宙飛行士あんなにエモくなっちゃいけない。落ちついて行動しないと死ぬ。ドア開けようとしちゃいけない(開かないけど)。開けたら死ぬ。その「ちょっとでも○○○したら死ぬ」度が地上の比じゃないので、観てるこっちはあかんあかんあかん! やめてやめてやめて! とずっとドキドキハラハラしっぱなしです。宇宙空間の事故ってどんなホラーよりも怖いわワタシは……脱出イコール無事じゃないもん、酸素ないもん。圧力で潰れるもん。『ハイ・ライフ』でミア・ゴスがブラックホールに持ってかれるシーンとか夢に出たもん。

NASAが怒るのもむべなるかな。国家案件ですし。巻き込まれてウチんとこに迄被害及んだらたまらんのに情報迄漏らされたらもうね。統括ディレクター(キム・ヒエが『ユンヒへ』とは全く違うキャラクターを演じていて驚いた。格好よかった)がそんなことしちゃっていいの!? 大団円によかったねえと涙しつつ、あーこりゃ月から持ち帰った氷とかデータ全部アメリカに持ってかれるな、とスレた大人は思ってしまうのでした。ここらへん、韓国とアメリカの微妙な関係をうまいこと描いているなと感心した。

でもなんというか、この作品は「心情的に」という面から想像出来る要素が多いのです。ジェグク(前任センター長)の罪は重すぎるけど、現センター長の彼への態度(パク・ピョンウンの物語る表情!)には敬意が感じられた。それは何故か? 明かされそうで明かされなかった天文台のインターン(ホン・スンヒが好演)の過去。彼女の肝の据わり具合の根拠は? そんなあれこれを想像する。そりゃやっちゃダメだし無理なんだけど、彼らを理解したいという“心”を失っちゃいけない。そこをだいじにしたいんだろうなあと思いました。最低限の素材は出しておきましたので、やっぱ赦せない! とかそれでも憎めない! とか、観客がそれぞれ考えようねという余白がはしばしに残されていたのがよかった。

そこで思い出すのは、過去実際に起こったふたつの出来事。東日本大震災時、ディズニーランドのキャストがとった行動とそれに従った来場者。今年初めの羽田空港地上衝突事故で、キャビンアテンダントがとった対応とその指示を守った乗客。上からの指示を待たずに自らの判断で行動することと、助かるために全員が守らねばならないルール。ペットを置いて事故機を離れざるを得なかった乗客と、仲間の形見を身体に縛り付けて脱出したソヌ。独断で月を探査すると決めたソヌと、それに協力すると決めた宇宙センター……どちらも悪くない、どちらも間違っていない。でも、と考える心は残しておきたい。

美術を筆頭に画面づくりのクオリティが素晴らしく、没入度は抜群でした。月から見る地球のシーンとか、映像美だけで涙ぐんだ。登場人物の言動にえっと我に返ることはあっても、映像に引っかかるところはなかった。その辺はVFXを駆使して地獄巡りを描いた『神と共に』の監督の腕ですね。とはいうものの、ハリウッドに比べれば決して多くはなかったであろう制作費。無重力中での動きはゆっくり歩くなどの工夫で特殊効果費を抑えた(! 後述リンク参照)というエピソードには驚きました。ド・ギョンスの筋力に瞠目。てかギョンス、ほぼひとり芝居だった訳で、それであの演技! 素晴らしかったです。

『罪深き少年たち』ではナラスーパーがウリスーパーになっていたけど、今回はロケットの名前がナレ号とウリ号だった。軍事政権から民主主義を勝ち取った韓国で、ウリ(우리)=「私たち」というのは重要なキーワードなのだろうな。どちらの作品にもソル・ギョングが出ていることも印象深い。そして『1987、ある闘いの真実』を思い出すのでした。ギョングさん、ちょっとしか出ないんだけど象徴的な役だったよね……。ちなみにナラ(나라)は「国」、ナレ(날개)は「翼」。

最後のシーンは、屈託ないこどもたちのふるまいとその笑顔。どんな夢へも羽ばたける「翼」をこどもたちには持っていてほしい、彼らが怖いとか見捨てていいとか思わないでいい「私たち」の世の中であってほしい。そう強く感じた幕切れでした。

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・THE MOON┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。ヒエさんとイ・ソンミンは特別出演だったのね。てかソンミンさん、ファーストカットが遺影だったもんでショックだった……

・ハーバード卒、NASAの宇宙飛行士候補になったネイビーシールズ隊員が明かす、子どもへのシンプルなアドバイス┃Business Insider Japan
子どもたちには、わたしを喜ばせるためにはシールズの隊員になったり、医学の道に進んだり、宇宙飛行士になる必要があるなどと感じてほしくありません。それはフェアじゃないと思うからです。子どもたちには自分の人生を生きてほしい。わたしはあらゆる機会をとらえて、これを子どもたちにためらうことなく伝えていくつもりです
ソヌの人物像のモデルとなった、ジョニー・キム(Jonny Kim)。かつて仲間を失った過去、こどもたちへの視線

・EXO ディオ、映画「THE MOON」を観たメンバーの反応は?インスタを始めた理由も語る┃Kstyle
制作費を抑えることができたのは、宇宙にいる瞬間を表現する時、無重力の状態に置かれたようにゆっくり歩いたからです(笑)。その時はCGの力を借りていない状況でした。でも、重い宇宙服を着てゆっくり歩くのは本当に大変でした
ヒェー

・「THE MOON」ソル・ギョング“EXO ディオの役割が大きかった作品”┃Kstyle
『ゼロ・グラビティ』の予算が、韓国ウォンで1000億(約100億円)かかったと言いますが、それが10年前の話ですから、『THE MOON』の場合は10分の1にあたる制作費をかけたのと同じです
ディオがあまりにも苦労したので、僕は遊んでいたとまで思えました
「THE MOON」の制作費は、280億ウォン(約28億円)だったとのこと。『ゴジラ-1.0』の製作費は15億円くらいでしたっけ……どこもたいへん。アイディアがあれば低予算でいいよね! じゃなくて、潤沢な資金があればもっと負担が減るよね! と考えたいものです



バルト9に展示されていた宇宙服は、本国から輸送されてきたギョンス着用衣装なのでした。よう運んだな! 運搬や開封の様子(楽しい)は公式twitterで是非

・片道切符だった、宇宙で死んだ犬の話┃VAIENCE
・60年代、ソ連が闇に葬った女性宇宙飛行士がいた? いまも残るSOSの音声記録┃Pen Online
宇宙関連の作品に接する度思い出すおはなしふたつ。ライカはロケットの発射直後に死んでいた説と、しばらくは生きていた説がある。ソ連の女性宇宙飛行士の交信記録は陰謀論めいているが、競争が激化する過程でこうやって闇に葬られた案件は数多あるだろうなあ。成功の陰には犠牲がある、ということは忘れないでおきたいところ


おまけ。アクスタに惹かれて特典付ムビチケ買ったのでした。かわいいのよこれ