I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME
|
|
2024年05月02日(木) ■ |
|
菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 結成20周年記念巡回公演『香水』 |
|
METROPOLITAN JAZZ vol.2 / 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 結成20周年記念巡回公演『香水』@東京芸術劇場 プレイハウス
菊地成孔AIが出現したら、なんてこともボンヤリ考えたのでした。身体が衰えず、歌のピッチが揺らがず、リードミスが全くなく、健康で、精神的にも安定していて、エレガントでワイルドな菊地成孔。技術的には可能な日が来るだろうし、楽曲制作に関してはご本人も肯定(推奨?)しているけれど、やっぱりそれは面白くなさそう。というか、むしろそのAIのバグを期待してしまいそう。で、バグったら喜んじゃいそう(ヒドい)。演者がAIならば聴き手もAIで代替したらどうか?……ヤダーッ(ちいかわ)こちとら会場へ移動してる最中も劇場に足を踏み込んだ瞬間も開演前にトイレに並ぶことすら高揚しとるんじゃーッ(笑)。いやあ、好きなんだよね開演前とか幕間にトイレ並んでるときの気分……もはやその感覚の再現もAIには可能なのだろうが〜、その楽しみを味わうのは一体誰なのか?
楽曲はずっと残るが、その身体で奏でられた演奏はどれも二度とないもの。「いい演奏」と「よくできましたという演奏」は違うものだ。対する聴衆にも、精巧と粗悪はあるのだろうか。AIの演者とAIの聴衆。不気味の谷が埋め立てられるのはいつのことだろう?
--- 菊地成孔(sax/vo/cond)・大儀見元(perc)・田中倫明(perc)・林正樹(pf)・鳥越啓介(cb)・早川純(bn)・堀米綾(hp)・牛山玲名(1st vln)・田島華乃(2nd vln)・舘泉礼一(vla)・関口将史(vc) ---
「ジャズのいまとこれから」を東京から世界に発信するシリーズ『METROPOLITAN JAZZ』のプログラムでもありました。芸劇での演奏はお初。所謂劇場では、2009年と2012年に東京グローブ座で演奏していますね。……って、これ読み返してて、すっかり忘れてて自分でもうまいこというなあと思ったんですが(笑)PTAって、菊地さんが抱える数多のプロジェクトのなかでいちばんストリップ感が強く、彼の抱えている情熱(としか言いようがない)がより素直に感じられる。手負いの獣の手触りを感じるんですよね。それを官能といえばいいのだろうか。聴き手は残酷なもので、そうした姿と囀りにすらどうにも快楽を感じてしまいます。
とかいいつつも、ウットリとハラハラは紙一重。一曲目の音響が中森明菜の『不思議』(大好き)かってくらいヴォーカルが奥に行っており、ううーむこのまま行くのか? 菊地さんの声が弱ってるのか? などと思う。2曲目の「Caravaggio」はMCからのリーディングという構成で声が先にあるので、そこでバランスをリカバリしたように感じた。以降は問題なし。冒頭の音響は意図的だったのだろうか。
そして考えてみれば、当方術後テナーを演奏するのを初めて聴いたのだった。テナーを手にとる度にドキドキする。ソプラノだと全然大丈夫なのだが……以前マウスピースがちいさい程演奏が難しい、サックスならテナーよりソプラノの方が音を外しやすいし、オーボエやファゴットとなるとダブルリードなのでもっと難しいと聞いたことがあるが、菊地さんの場合は逆なのだ。これが不思議。終演後「マウスピースが大きい分、咥えるのに力がいるんじゃないかな」「しっかり噛みしめる力の回復待ちなのかも」「歯茎がまだ安定していないか、今の感覚でどう鳴らせるか探っている途中なのかも」などと話す。あのねえ、それが嫌だっていうんじゃなくて、そのプロセスを観られる/聴けることもこちらとしては幸せだったりします。そういうところがストリップ的と感じる所以かな。ヒドいことばっかりいってますがすごく心配してるんですよ! おだいじにですよ! 元気でいて!
そうはいっても楽団のコンディションはよいのです。緊張と弛緩と、寄らば斬られるような恐怖と、ハグされるような安楽と。は〜素敵な旋律、とか聴いてると林さんがフリーダムなリフを弾いている(ソロじゃないところなんだなこれが)し、艶やかな歌声〜とか聴いてると大儀見さんと田中さんと鳥越さんがニコニコしてアタックずらしたリズムをブチ込んでくるし、そうリズムがより複雑になってて、というか起点が動くし揺れるし。半拍後ろにいってるなと思ってるとジャストにもなるし。目を瞠るし。凝視してると菊地さん、クラーベは右打ちでカウベルは左打ちだし。なんで? と思っているとどこかから水泡のような音が聴こえてくる。堀米さんと林さんとで何をどうやったらこんな音が(なんかコポコポいうのよ、打楽器じゃなくて弦を打つ音なのよ。林さんの場合プリペアド演奏じゃないのにそう聴こえるところがあるのよ。なんでよ)……と思う間もなく早川さんのソロに沁み入る。頭もパンパン。そして思えばこんなオケでよく旋律とって唄えるよなあ菊地さん。耳もヤられてるというのに。
と、ゆったり座っていても全く油断出来ない演奏なのでした。シッティングだとアーッ、アーッ、今何やった!? って考え通しでグッタリします(笑顔で)。「Killing Time」の田中、大儀見、菊地のブリッジなんて、DCPRG「Circle/Line〜Hard Core Peace」のブリッジくらい長くなっている。「踊りたいでしょ?」と菊地さん。そうですね……スタンディングでは踊り倒すというフィジカルとなになに何やってんの? と考えるサイコロジカルな忙しさがぐちゃぐちゃになるカオスが爽快ですよね。という訳でスタンディングのライヴが決まってうれしい。両方あるのがよい。
演奏とは裏腹に(演奏に集中するあまり?)バグった言動も、ハラハラしつつ楽しく拝聴しました。楽団結成時から不動のメンバーがふたりいる、元老院の〜という話からジョージ・クルーニーに似てると堀米さんを紹介したのだが、それは大儀見さんではないのか。あと桃太郎の話な……ワタシの周りには天才が集まってくる、ワタシの才能は天才が寄ってくること。みたいなことをいってたんだが、その喩えでいいのか。自分が桃太郎な訳でしょ…そういえば昨年のeastern youthでは救世主としての桃太郎(村岡さん)の話をしていたなあ……とひとりでニヤニヤしていました。
とはいうものの痛切な瞬間もやはりあり。一昨年の『菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、京都KBSホール公演〜ジャン・リュック・ゴダールに捧ぐ〜』に浅田彰氏が来場していたこと、そのとき終演後の楽屋で「来年はアルバムつくります!」と宣言している映像が残っていた(誰かがスマホで撮っていた)にも関わらず、昨年は体調を崩しスケジュールが狂いまくったこと、でも振り返ってみれば今年は楽団結成20周年、アニバーサリーの年に新譜をリリース出来ることになったのは結果オーライだったのではないか、という話をしたのだが、「本当にくたばりかけていたので、」といい、しばし絶句しておられた。口元を手で隠し、客席から顔をそらした。和やかな笑い声も上がっていた場内が、しん、と静まった。
彼のことはオレにワタシにしかわからないことがある。だから愛しい。だから憎い。そんな感情をあの場にいた全員が抱いたようにすら思う。彼はそんな音楽を聴かせてくれる。コレは他では得られない。
それが何かというと、抽象的ではあるが、死なのではないだろうか。PTAのステージには、いつも死が横たわっている。照明が素晴らしかった。ここ、という瞬間、ゆったりと立ち上がる光。その色の変化。PTAの照明は、今どなたが手掛けているのだろう、今回は芸劇の方だったのかどうか……。「我々は生まれ落ちた瞬間から、小柳の創作した光に、文字通り、護衛されて参りました」と、小柳衛氏を悼み「大空位時代」を演奏したのは2021年のオーチャードホール。その光景をまた、鮮やかに思い出した。
---
setlist
01. 闘争のエチカ 02. 京マチ子の夜 03. Caravaggio 04. 嵐が丘 05. 小鳥たちのために II 06. 色悪 07. Killing Time 08. ルぺ・べレスの葬儀 encore 09. 大空位時代のためのレチタティーヴォ 10. 大空位時代
---
プレイハウスを見渡して、「いいホールですよねえ」。なんだか自分のことのようにうれしかったな。またここでやってください。
-----
・菊地成孔とぺぺ オーチャードホール公演(2021年3月20日)┃堀米綾 ハープ奏者 オフィシャルサイト 菊地さんが黙祷の時間を作り、追悼として新曲「大空位時代」を演奏できて良かった。 小柳さんのお姿は、堀米さんのサイトで見ることが出来る
・ラニュイ パルファン×菊地成孔コラボ香水2種発表。梅田阪急、新宿伊勢丹でそれぞれ披露 「甘い混乱」30mLと「とても清らかで淫らな声」30mL。同名オリジナル楽曲が付録┃PR TIMES この日のタイトルにもなった“香水”もリリース。MCで紹介してて「すごくいいですよこれ」「すごく遠く迄届くんですよね」とシュッシュシュッシュふりまくる。客席のあちこちから、あ、きた、の声を聴いて「でしょ?」「(以前別の香水をふったとき)3階席迄届いたってメール来ましたもん。まあプラセボですねー」といってたのにすごくウケた。ちなみにI列でしたが届きました。いやホントに。よい香り
・以前はエンジェルをふってましたよね。グローブ座でもちゃんと香りは届いてたなあ。いやプラセボではなく。まあまあ前の席だったので
・そういえば林さん、私の席からは完全に顔が見えないピアノの配置だったので(ハープの方向いてる)楽しそうに演奏している様子は背中から感じておりました
・Fitzcarraldo (1982) ORIGINAL TRAILER [HD 1080p]
で、フジに…出るんですよ……「ハープを山に上げるのは悲願だったので」とのこと。グランドハープを山へ搬入する、ヘルツォークの『フィツカラルド』で船を川から陸に上げて山越えるでしょ、あれですよ、とかいっててウケた
・はーどうするフジ。行く気はかなりある。しかし昨年のような発作が出たらマジで困る。バスがダメなんだよね……行きたいよおおおお
・SHINJUKU BLAZE LIVE SERIES 結成20周年記念イベント「ダンスフロアのペペ・トルメント・アスカラール」┃Shinjuku BLAZE ・新宿BLAZEが来年7月で閉館┃音楽ナタリー スタンディングのクラブ公演は7月末でクローズが決まっている新宿BLAZE。千秋楽ですがな。引導を渡すのかな(にっこり)
|
|