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2023年12月21日(木)
『à la carte 35th Anniversary 僕のフレンチ — special menu —』

『à la carte 35th Anniversary 僕のフレンチ — special menu —』@I'M A SHOW


“有楽町で逢いましょう”! 劇場入口のサイネージは高橋、フライヤーはドレスアップした高泉さん。『ア・ラ・カルト』の真骨頂ないいヴィジュアルですね。

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構成・台本・演出:高泉淳子
音楽監修:中西俊博
役者:高泉淳子、山本光洋、釆澤靖起(文学座)、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)
音楽家:竹中俊二(music director / G)、佐藤芳明(Acod)、Brent Nussey(B)、中西俊博(Vn)
ゲスト:尾上流四代家元 尾上菊之丞
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35回目の『ア・ラ・カルト』、おめでとうございます! 青山円形劇場(1989〜2014)、モーション・ブルー・ヨコハマ(2015、2017)、東京芸術劇場 シアターイースト(2016、2018)、eplus LIVING ROOM CAFE & DINING(2019〜2022)……私が観るようになったのは2年目(1990)からですが、皆勤は出来ていない。コロナ禍により、配信のみの年もありました。35年も続けるのって、本当にすごいこと。

という訳で2019年以来の参加です。4年の間にまたちょっと座組が変わっていました。演出も高泉さんが手掛け、竹中さんが音楽監督、中西さんは監修に。佐藤芳明さんは2021年から参加されているそうで、私はお初です。

後述インタヴューで高泉さんが「プロセニアムの劇場というのが、『ア・ラ・カルト』にとって初めて」と仰ってますが、いわれてみればそうなのです。2016年2018年は所謂劇場での上演でしたが、シアターイーストのステージはエンド(2面客席)、スラスト(3面客席)、センター(4面客席)と可動式。『ア・ラ・カルト』での客席は3面だったと記憶しています。

今回のI'M A SHOWは、もともとは映画館。日劇〜丸の内ルーブルからオルタナティブシアターになり、昨年からI'M A SHOWになったところです。ややこしいな! すぐ運営やら劇場名やら変わるな! CBGKシブゲキ!!(元シネセゾン渋谷)みたいな感じですね。かつての日劇で音楽とお芝居のショウが観られる、なんて素敵なこと!

……だがしかし、客席に辿り着く迄はなかなかの混乱ぶりでした。えーと先に正直に書いとくか。ロビー大混雑。別途ドリンク代というのが観劇人には慣れないのかコイン交換所も大混雑。物販コーナーとドリンクバーが近すぎて大混雑。休憩中のトイレの列が大渋滞。動線大混乱。冬ということもありコートや荷物と一緒にドリンクの入ったカップを持ち歩くので、カップを取り落としたり中味を零すひと続出。モップと雑巾を持ったスタッフさんが走り回っておりました。3日目でこれでしたから、初日はさぞや……(微笑)。

あとやっぱクロークやロッカーがないのは厳しいですね。元映画館だから仕方ないが。しかしスタッフ同士の連携が出来ていなかったのはいただけない。「ロッカーはありますか?」「奥にあります」奥に行って「ないですよ、どこですか?」「ロッカーはありません」「さっき入口であるっていわれたんですが」「えっ、誰がそんなこといいました?」なんてやり取りを見てしまったよ。今回はホント急に決まったようなので仕方がないのか……? ここでの上演が続くなら改善が進むといい! 個人的には青山円形劇場の面影を残すここでやってほしい……↓
・南青山BAROOM
でもキャパ100だから厳しいよなあ。本当は青山円形がいい。閉館じゃなくて休館だと解釈している。青山円形に関してはしつこかろうがずっという。

しかしその思いは分かっているとでもいうように、高泉さんは「青山のあとは移動レストランとして池袋に行ったり、横浜に行ったり、そして実際にレストランである渋谷でやったりしましたが……」今回は久しぶりの劇場ということで「かつて使っていた椅子やテーブル、あとこれ!(とバックドロップを見上げる)見つけて持ってきたんです!」と、今回のステージを紹介してくれたのです。これにはグッときた。終わりの方では「レストランだと(演技)スペースがあまりないので、菊之丞さんとはもう出来ないかなと思ったんです。でも菊之丞さんは『これくらいのスペース(一畳分くらい)があれば、僕、踊れます。また誘ってください』といってくれたんです」と感極まっておられました。

という訳で本日のゲストは尾上菊之丞さん。『NINAGAWA十二夜』や『阿弖流為』、『ワンピース』『オグリ』と振付師としてのお仕事は拝見していたのですが、実際のお姿を観るのは初めて。いやはやすごい出会いになりました。

ゲストが役者だろうが音楽家だろうが参加させられる(笑)恒例お芝居のパートは、メニュー+ワインリストがカンペ。ここいつもリハどれくらいやってるんだろうと思う。観客からするとしどろもどろになってる(あるいはそう演じている)ゲストを観るのが楽しみでもあります。当て書きというかアドリブであろう、七味のくだりはあちこちからクスクスと笑い声。高泉さん演じる麻丘めぐみ(この名前・笑)に「めんどくさそう…」といわれて大ウケ。お芝居も達者〜(何様)なんて感心していたのですが……。各々の本領を発揮するショウタイムで衝撃がやってきました。メニューを模した進行表には“♪Merry Christmas, Mr. Lawrence/尾上菊之丞”とある。唄うの? でもこの曲、唄うなら「Forbidden Colours」ってタイトルになるよなあ、と思っていたら。

お芝居パートで困ったような表情を浮かべていた、物静かなスーツ姿の男性は何処へやら。紋付袴で登場し、素踊りが始まりました。摺り足の音、扇を開くパン! という響き。流し目、伏し目、遠くを見やる目。息を呑む気迫と美しさでした。

このプログラムは昨年の『ア・ラ・カルト』でも披露されたそうなのですが、教授が亡くなってから初めて、余所でしかもライヴでこの曲を聴いた(こ、心の準備が)こともあり、ドバーと泣いてしまった。アレンジも演奏も素晴らしかった。中西さんとブレントが奏でる弦のトレモロが、竹中さんのエレクトリックギターとともに電子音のような音響を生み出す。佐藤さんのアコースティックな鍵盤がその場の空気を揺らす。音が空気を震わせる様が、目に見えるようだった。音を見る、姿を聴く。時間も場所も別次元に連れて行ってもらったかのような数分間。

しかしそれだけでは終わらなかった。そりゃそうか舞踊家だもの、舞でこそ魅せるのだなと思っていたら、その後の歌に度肝を抜かれる。高泉さんとのデュエット「Winter Wonderland」、めっっっっっちゃ巧い。ミュージカル俳優ですか? というくらいの声量、ピッチ、表現力。なんなのーーーーー!!! ……いやはや恐れ入りました。しかしその後高泉さんに「北別府(学)に似てますよね」といわれていて大笑いする。何をいいだす……高泉さん、ファンだったんですって。

お父さんに口の中を見せる少女やマダムジュジュはいなくなり、高橋が典子さんと来店することはなくなった。しかしここには独立した大人の女性がいて、宇野千代子がいて、高橋はレストラン存続のために奮闘している。高泉さんは唄い、踊り、笑って泣く。『ア・ラ・カルト』には人生の甘いも苦いもある。観続けることが出来て幸せだと思う。パンフレットによると、「35周年で『ア・ラ・カルト』が終わってもいいかな、って」「このカンパニーで、違うお話やってみたらどうだろう、なんて思いも出てきてね」とのこと。劇場、出演者、タイトル、上演方式……変わらず、変わり続けるこのシリーズの次を、楽しみにしています。

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・高泉淳子に聞く〜「クリスマス時期に気軽に見られる芝居があったらいいな」で始まり今年で35年目の『ア・ラ・カルト』を『僕のフレンチ』として上演┃SPICE
お芝居ってなぜだか、見に行くと絶対に「良い作品だった」と思えないと嫌だ、という気持ちがあるような気がするんです。
例えばクラシックのコンサートを聴きに行ったとき、日常とは違った空間で演奏を聴きながら、なぜか違うことがフッて頭をよぎることがあって、何で今こんなことを思い出すんだろう、という感じなんですけど、そういうのが私は好きなんです。真剣に集中して聴くのも素晴らしいことですが、もっといろんな聴き方があっていいと思いますし、それは演劇にも当てはまることだと思います。
「損したくない」という思いが観客側に強くなっているのかもしれないな。社会に対する不安が反映されているようにも思います

尾上菊之丞さんは『ア・ラ・カルト』における理想のカラーなんです。舞踊家だけどお芝居も歌も素晴らしくて、菊之丞さんをこれまでご存じなかった人が「この人は何者なんだろう?」と思ってくれたらしめたものだなと(笑)。
まんまとその通りになりました。恐れ入りました!

・ア・ラ・カルトSpecial! 今年も高橋が美味しいお話と音楽をお届けします!!┃CAMPFIRE(2021)
『ア・ラ・カルト』の上演記録を網羅しているところを探したんですが、今ないみたいで……(ホントwebって儚い。今回物販のパンフレットには掲載されてた)。高泉さんご本人がテキストを書いていると思われる、2021年に実施されたこのクラウドファンディングのページが現時点ではいちばん詳しいかな。高泉さんのバイタリティに脱帽するばかり

・そうそうシロさんからお花来てました(微笑。『きのう何食べた?』の大先生!)。そして『ア・ラ・カルト』ってイースタンユースと同期なんだなとふと気づく