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2023年12月28日(木) ■ |
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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』 |
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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』@ヒューマントラスト渋谷 シアター1
注意深く観なければ危ういところもあった。
昔原作をうっすら読んだことがあるくらい、アニメは観たことがないこのシリーズ。今作はタイトル通り鬼太郎誕生の経緯と、鬼太郎の父である目玉おやじが何故目玉のみの姿になったのかを描くもの、というので興味が湧いたのだが、それ以上に、公開されてからというものSNSでの評判が鰻登りというか、日に日に口コミで動員が伸びていくのを目の当たりにし、その内容を知ってこれは今観ておいた方がよい、という気持ちになったのだった。しかし年末進行につき全く時間がとれず、ようやく休みに入って観に行けた次第。いや、これは今観てよかった。
舞台は、朝鮮戦争特需により「もはや戦後ではない」と宣言された昭和31年(1956年)。経済復興の鍵となった出来事について、売血、ヒロポン、731部隊、M資金といったモチーフが散りばめられている。日本の戦争加害と搾取について、戦後復興において何が犠牲になったのか、それは現代にどんな影響をもたらしているのかが描かれていた。NODA・MAPの『エッグ』(初演(2012)、再演(2015))を思い出す。「記録に残らない」「知った気になっている過去」を、どうやって後世に伝えていくか。最初と最後では全く違う印象になった、記者の存在に光を見る。彼は伝える存在なのだ。
注意深く見ないと、と感じたのは“狂骨”の正体。搾取され死んでいった者たちと、戦場で死んでいった水木の同僚たちが混同されてしまうのではないか、というところ。彼らが水木を守ろうとしたかどうかは怪しい。東京に夢を持つ娘の存在も、現在から見ると儚いものとして映る。それが歯痒い。
鬼太郎の育ての親である水木に、作者である水木しげるが反映されているのは明らかだ。彼の諦観や淡白さに胸を衝かれる思いだった。同時に、水木(先生の方)が戦後歩んだ人生を思うと、よくあの地獄を自分の中に封じ込められたものだと畏れのような気持ちも抱く。というのも、ここ最近戦争PTSDの父親を持った家族の証言集を読み、その惨状に戦慄していたからだ。
・連載「戦争トラウマ 連鎖する心の傷」┃A-stories 朝日新聞デジタル(会員でないと読めない記事も多いのですが、各記事の表題だけでもその異様さが伝わると思うので参考としてリンクを張っておきます)
PTSDという概念がなかった時代に生き、破滅していった父親たち。その原因も理由もわからないまま苦しめられた家族たち。復員してきた彼らがこうなることは理解出来る、それだけの地獄を見たのだから。しかし、水木先生は家族にこうした面を見せなかった。娘たちは口を揃えて、優しいお父ちゃんだったという。その強さはどうやって身につけたのか……作品に全てを注ぎ込めたからなのか。妖怪も幽霊も、人間と共に存在している。そう知ったからなのだろうか。そう、知ったのだ。もはやこれは、想像という次元を超えている。
幽霊族に愛想を尽かされないように。人間族が彼らから見捨てられないように。再びNODA・MAP、『ロープ』のことを思い出してしまった。リングの下に棲んでいる彼らは、いつ迄人類を見放さず、ここにいてくれるのだろう? 『総員玉砕せよ!』を読みなおそうと思った。文庫で持っているのだが、この作品は今となってはお守りだ。
それにしてもおやじ、目玉だけになる前ってあんなに格好よかったのか(笑)。いやあ、素敵だった。優しい、いいお父ちゃんだね……。odessaシアターの鑑賞につき音響バキバキ、川井憲次のサントラもよかった。
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・『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想┃UNITAMENTE 水木作品に精通している方による解説、めちゃくちゃ参考になりました。おやじが目玉だけになったのって原作では病気が原因だったよなあくらいには憶えていましたが、それがハンセン病だったということはすっかり失念していた。というか気づいてもいなかったな……水木先生の思いをしっかり汲んで、後世に伝えるべくアップデートを施す制作チームの方針が伝わりました
・「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」ネタバレレビュー 「戦後」と「血」への鎮魂歌┃ねとらぼ そう、希望が持てる結末だったし、なんというか観た側が襟を正すような作品だった
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