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2023年11月08日(水)
『ザ・キラー』

『ザ・キラー』@シネマート新宿 スクリーン1


Netflix製作につき、一週間限定の劇場公開後は配信のみ。FRUEに行く週で諦めていたのですが、好評につき上映延長とのこと。いやあNetflix入ってませんで。家でそんなに過ごさないので観る暇がない。というか配信ならいつでも観られるしとなって結局観ずに終わりがちな性分なもので。音がすごいので劇場公開があるならそっちで観るべし! との情報も結構目にしたので、劇場好きはいそいそと出かけます。というか新宿でかかってくれて有難う。喜び勇んでシネマートへ。客入れがNINの「コピオバ(Copy Of A)」、客出しがThe Smithの「ゼアイズアライト(There Is a Light That Never Goes Out)」。劇場のこういうところが好き〜! シネマートさんのアテンドはいつもホントに素晴らしい。平日(サービスデーの水曜日ではあるが)レイトにも関わらず結構な入りでした。

いやはやホントに音が凄かった。シネマート自慢のサウンドシステム、「ブーストサウンド」の威力よ。そもそも本編の音響設計がめちゃくちゃ緻密で、それが文字通りブーストされるもんだから正直酔いかけた(笑・三半規管弱り中)。冒頭にも書いてるけど、音設定がめちゃくちゃ細かい。全編通して使用されているスミスの楽曲にしても、“ザ・キラー”がイヤフォンを通して聴いている音、それを外から聴く音(所謂シャカシャカ音)、カーステから流す音(車内/車外)、倉庫での音(屋内/屋外)と全部違う。というか、自然音と録っているのではなく、「設定」として手を加えている。それらに加えホテル、ジム、レストラン等の建物で流れているBGMと劇伴、雑踏音、生活音の音を人物の動きとともに細かく切り替えているし、全部クリアにしてる。なんなら本来クリアではない箇所にはわざわざノイズを(手作りして)加えている。

逆に、映画やドラマの音設計って、視聴者が快適に聴けるように音を均質にしているんだと思った(笑)。やさしさ……。家でヘッドフォンで聴いたらそれはそれで酔いそうだなー。映画館での鑑賞はハコ自体の鳴りも含まれるので、まだ逃げ場があるというか快適ではあるのかも。

トレント&アッティカスの劇伴もブリブリビチビチで最高でした。電子音がブーストされると脳天にキますね!という訳でとにかく音がすごく、劇場で観てよかったなあと思いました。

で、お話と演出。こ、コントかな? 最初の仕事の顛末とか、あらすじにあったのについ笑ってしまったよね……。スミスが大好きな殺し屋さんがスミスを聴きつつすんごい緻密に決めたルーティンを守りつつ、それをモノローグですんごい丁寧に説明しつつ任務を遂行する。几帳面が過ぎる。字幕で見てても相当だったんだけど、Netflixの吹き替えで観た方によるともーーーっと細かくてもはやうざいくらいだそうで。わかる。で、そこ迄丁寧に進めといて……失敗するんかーい! という膝カックンっぷりがすごい。これ演出の緩急というかリズムが素晴らしいのです。待ちに待ったターゲットが現れる迄の長い時間、詰めに詰め緊張感を高める狙撃の準備、突然の来訪者に狼狽しつつ息を潜める数分、狙いに狙って…失敗して(!?)……そこから慌てて、しかし冷静に逃げる描写。その後の殺し屋の移動と滞留、そしてまた移動。これがまた順番! て感じでめちゃめちゃ几帳面にひとつずつ証拠を集め、エージェントとその依頼人を探し当てていくんですね。クイック、クイック、スロー、といいたくなるようなリズムのよさよ……。

まあそっからは失敗しなかったよね。えらいね! と背中をバンバン叩きたくなるような殺し屋ちゃんでした。殆どのシーンをひとり芝居で演じたマイケル・ファスベンダー素晴らしい。ここも膨大なモノローグと会話の相手が現れたときのリズムがよく、ファスベンダーとティルダ・スウィントンのダイアローグの心地よさといったらなかったです。ちなみにスウィントンが出てくる迄相当焦らされる。それも情報を小出しにされて、いちいち笑えるんだよね……「綿棒のような女」って喩えが秀逸。「スウィントンのことだ!」って観てる側はすぐ解るじゃないですか。綿棒のような女…綿棒のような女……いつ出てくる……と待つじゃないですか。で、ようやく彼女が姿を現すさまを遠景で捉え、そのすらりとした長身とちいさな頭、ブリーチしたプラチナブロンドを眺め、綿棒だーーー!!! てなるじゃないですか。巧い…巧すぎる……まんまと乗せられる……。

そうそう音楽についてもうひとつ。見事にシーンとスミスの歌詞が紐付けられている。たまたまスミスリスナーだったから気づいたってところもあるが(というかスミスがいっぱい流れるってんで観に行ったところもあるんだが)、英語が母語でヒアリングがスムースなひとからすればこれもうざいくらいだったのでは(笑)。ニヤニヤして聴いていましたが、エンドロールに入った瞬間には泣きそうになっちゃった。あんなにドタバタだったのに最後、あの、あの歌詞から連想される結末ってーーー! Netflixは本編終了前に広告が入る仕様があるそうで、邪魔されないように設定変更をしておこうと注意喚起されてる方がいらっしゃいました。ホントその通りよ! あのタイミングで広告入っちゃったら気分台無しだよ!!!

音も映像も解像度がたけーよ! 画素数多いよ! 錯覚だとしてもそう思わせる力が強く、デヴィッド・フィンチャー監督やっぱ大好きと思いました。フィンチャーの映画を観続けるためにも身体を鍛えよう! 三半規管はどうやって鍛えればいいの! ていうかフィンチャー、『ゴーン・ガール』以降は劇場公開作品ないんだよね確か。『Mank/マンク』もNetflixだし……今回劇場で観られてホントよかったです!

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・The Killer Soundtrack Guide: Every Song & When It Plays┃Screen Rant
使用曲と、どの場面でどの部分が流れるかのリスト。そうそうポーティスヘッドもあったのよ〜

・ザ・スミスがかかりまくる映画、『ザ・キラー』(“The Killer”)を観て - Action is my middle name┃かいなってぃーのMorrisseyブログ
スミスといえば、モリッシーといえばのかいなってぃーさんによる、微に入り細を穿つ解説。有難く拝読

・あと最後のターゲット(てか依頼人)の着てるTシャツがSUB POP。ウケる

・余談。狙撃のために潜んでいた場所がWeWorkだったんですが、経営破綻のニュースが出た翌日に観たのでセキュリティに問題があったからじゃないかと思った(ヒドい)


犬猫は無事でした。個人的には昨今の「犬は無事です」ムーブは苦手だけどな。というかネタバレにはすんごく厳しいのに犬だけどうだったか教えろとかムニャムニャ