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2023年09月08日(金)
『復讐の記憶』

『復讐の記憶』@シネマート新宿 スクリーン1


原題『리멤버(リメンバー)』、英題『Remember』。2022年、イ・イルヒョン監督作品。『華麗なるリベンジ』の監督第2作、ということだったので、社会問題を提示しつつも軽やかに復讐を描くエンタメ作品再び? くらいに思っていた。とはいえ宣美や惹句は不気味なトーンに満ちている。そもそも『華麗なるリベンジ』の原題は『検事外伝』で、“リベンジ”というワードは原題に入っていない。日本の配給会社が、同じ監督の作品だと連想しやすいように邦題をつけたのだろう。

そして冒頭にも書いた通り、今作は2015年のカナダ、ドイツ映画『手紙は憶えている』のリメイク。家族を殺されたアウシュビッツ収容所からの生還者が、今ものうのうと暮らしている元ナチス兵に復讐するストーリーとのこと。観終わってからそのことを知り、あー、となる。そりゃ舞台を韓国に置き換えればこうなるわ。主人公が復讐するのは、元関東軍の軍人と親日派(当時のあっちでいえば売国奴と同じくらいの意味)の関係者だ。

イ・ソンミン演じるおじいちゃんにはとにかく時間がない。癌は末期。認知症も進んでいる。何故この年齢になる迄待っていたかというと、資金を貯めるため、妻が亡くなるのを待つため、子どもたちが新しい家庭を持ち、幸せに暮らしているのを見届けるため。気の遠くなるような時間を、彼は復讐の準備に費やしてきた。想像を絶する精神力だ。その間ベトナム戦争にも出征している。

悲しいのはその、ベトナムで培ったノウハウが役に立っていることだ。施錠された建物に侵入する。音を立てずにひとを殺す。生き残るため身体に叩き込まれたことは、記憶が薄れていく今もなお有効なのだ。復讐する相手の名前を手に刻み、薄れていく記憶を何度も呼び起こし、おじいちゃんは着々と計画を進める。『殺人者の記憶法』や『メメント』でもあったこの「実用としてのタトゥー」描写は、恐らく『手紙〜』にもあるのだろうと想像する。強制収容所に連れてこられた者たちは、名前を奪われ、刺青された鑑識番号で呼ばれた。この「奪われた名前」は、朝鮮総督府の創氏改名に繋がり、物語の謎を解く大きなカギとなる。5人目の標的はどこにいる? 巧いアレンジだ。

監督と共同脚本を手がけたのはユン・ジョンビン(今作の企画・製作も)。『工作 黒金星と呼ばれた男』の脚本・監督を務めた人物でもある。史実に基づいたフィクションをエンタメに仕上げ、爽やかであると同時に重い余韻を残すという離れ技をまたも見せてくれた。そうなのだ、良質のエンタメだった。人間食べ食べカエルさんが「ジジイ同士の取っ組み合い」と書いてて大笑いしたが、いやホントジジイが取っ組み合いまくるし、普段はボンヤリな感じのおじいちゃんが突如覚醒して殺し屋ばりの銃使いを見せるし、凄惨な場面も非常に見応えがあった。あと韓国映画の交通事故のシーンてどうしてこうも怖いのか。車道が広いからめちゃめちゃスピード出せるしすごい迫力。

ソンミンさんの実年齢は54歳なので、キレの良いアクションがまだまだ出来る。むしろお年寄りの演技の方が大変だったかもしれない。常に猫背で動作もゆっくり。手の動きもぎこちなく、しわがれた声で話す。見事でした。

ナム・ジュヒョク演じる若者とおじいちゃんのバディっぷりもよかった。お互いをフレディ(おじいちゃん)とジェイソン(若者)って呼び合っているのがもうおかしい、よりにもよってこの名前。バイト先(後述)でのニックネームなのだが、ふたりが楽しそうに働く描写はこの映画に不可欠なものだった。おじいちゃんが復讐心を隠してきたように、実は若者も自身の崩壊寸前の生活を隠している。本心を見せず、そつなく働いているだけな筈だった職場で、ふたりはひとときの安息を得ている。

終盤、おじいちゃんにある「習慣」が甦るシーンがある。ふたりは単なるバイト仲間ではなかった、確かに心が通った瞬間があった。おじいちゃんの記憶は、そして人生は、恨みと悲しみだけではなかったのだ。やるせない話だがちょっとだけ救われる思いだった。

しかし終わってみればかなりのおおごと、スケールのデカすぎる復讐になった。子どもたちが独立してたってどんだけ余波が……とは思いました。しかも被害者の何人かは内密に処理されたようなので(今後の国交に影響するので、と両国の話し合いでもみ消されたっぽい)闇は深いなと改めてゾゾゾ。

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・輝国山人の韓国映画 復讐の記憶
いつもお世話になっております。音楽監督は『華麗なるリベンジ』に引き続きファン・サンジュン。ジョンミンさんの弟さんですね

・アルバイト募集 - アメリカンレストラン&バー TGIフライデーズ
仲間をニックネームで呼び合い、性別や年齢、国籍に関係なく、全員でお客様のハッピーの為に協力し合っています。個性はバラバラですが、チームワークは抜群です。「楽しいことが好き」「人を喜ばせることが好き」な方は特にウェルカムです。
おじいちゃんと若者のバイト先。最後の協力んとこに名前が出ていたので実在するんだ〜と調べてみたら日本にもあるんだ! 行ってみたい〜! ニックネームで呼び合うのはこのお店の慣例なんですね。楽しそうな職場だったよね……(涙)