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2023年09月15日(金)
LÄ-PPISCH『CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ〜動〜』

LÄ-PPISCH『CLUB CITTA' 35th Anniversary レピッシュ〜動〜』@CLUB CITTA'


彼らは「ストリッパーズ」の歌詞そのもの。もらう方にも勇気がいる「プレゼント」を、闇のなかから差し出してくる。受け取らない理由は何もない。

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MAGUMI(Vo, Tp)/ 杉本恭一(G)/ tatsu(B)
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奥野真哉(Key, Sx / SOUL FLOWER UNION)
増井朗人(Tb, Perc / Codex Barbès)
矢野一成(Drs / MOON・BEAM)
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DJ ISHIKAWA
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「ヒデキ還暦ィ!」なんていってたマグミが還暦か……あれ、これそもそもこれいったのマグミだっけ? こんなこというのマグミ以外にいないだろ、でも元ネタってあるのかななんてなんとなく検索してみたら、出てきたのは西城秀樹さんご本人が実際に還暦を迎えたときの記事ばかりだった。そしてマグミはやっぱりいってた。しかもこれ今年7月のことじゃん……ずーっといってるんだな(にっこり)。

という訳で、マグミが還暦を迎えるというのと、バンドと縁の深いCLUB CITTA'が35周年、というお祝い。マグミ曰く「25周年からのベストメンバー」で臨むという。和やかにお祝いするかな〜そんなワケないだろ〜ンナコッタァイイヤそこにあるのは楽しみだけだ。

とはいうものの、20周年のときの上田現のことを思い出す訳です。アナウンス通り、重い腰痛だと信じていた。あれが最後のステージになった。今回はどうだろう? 同じようなことがいずれ起こってしまうんだろうか? それは誰に? 大丈夫だ、そんなことはないと自分にいい聞かせつつ、それでも注意深くステージに目を向ける。まあ、お互いこの歳になれば、いつだってこれが最後かもと思いつつ観ていくしかないのだろう。もはや年齢も関係ないかも知れないが。

だいたいこの日を迎えられたのは奇跡に近い。矢野くんは福岡から来てくれた。増井くんは死にかけてた。闘病を続けていた洋一は亡くなった。そして松本大英はぶどう園を始めた。大英のはちょっと意味がわからない、と思いつつなんか和むというか救いだわね。メンバーや関係者が無事揃うというのは当たり前のことではないのだ。揃ったとして、ライヴが無事終えられるという保証もない。

そんな不安も若干あったのだが。ちょっと見てくださいよこのセットリスト。

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setlist(公式より

01. 美代ちゃんの×××
02. サイクリング
03. F5
04. タンポポ
05. 楽園
06. ハーメルン
07. Mad Girls
08. Good dog
09. Second Wind
10. room
11. party
12. 柘榴
13. miracle
14. 東京ドッカーン
15. 胡蝶の夢
16. リックサック
17. プレゼント
18. VIRUS PANIC(90's TERRORIST)
19. LOVE SONGS
20. Magic Blue Case
encore1
21. Hard Life
22. CONTROL
23. ANIMAL BEAT
encore2
24. パヤパヤ
25. KUMAMOTO

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これで3時間。バカなの? マグミがセットリスト組んだそうですが、自分で自分の首を絞めるようなセトリを自分で組んで結果ヘロヘロ(というかアニキが「ボロボロ」つっててそっちのがしっくりくると思った。ホントボロボロ)になりつつもやり切る、これぞレピッシュのフロントマン。正直encore1ではゲラゲラ笑いつつおいおい大丈夫かと真顔になり、encore2ではおいまだやるんかやれるんかうれしいけど、と鬼の形相になってた。私が。観る側も呑気に観てられない。

いやだってさ、ヴォーカル〜ホーン〜アクション(彼の場合歌の世界を伝えるためのジェスチャーでもある)〜ヴォーカルそんでホーン、みたいなアッパーな曲をこんな終盤に固めて…ずっとそういう構成でやってきてるけど……いつ息吸うねん。以前酸素(ボンベ)吸ってる時期もあったけど今回はどうだったんだろう、見えなかったけど。声はよりハスキーになり、ますますヒデキに似てきたなあと途中で気づき、以降ずっと「ヒデキ……」と含み笑いをしつつ聴いてたとこもあります。何が呑気で観てられないだ、充分呑気じゃないか。いやさ、シリアスとバカは紙一重というのはレピッシュに不可欠な要素であり、だから自分もずっと聴いているんだなと思った次第です。最高。まだまだ元気でいて。

で、仕事で30分遅刻したんですよ(…)。「ハーメルン」の後半に入場したんですが、ソールドアウトしたというだけありフロアはパンパン。前に行く余地がない。でもチッタは、最後列からでもステージがちゃんと見える。ホントいいハコよな、35周年おめでとうと思いつつ上手側壁沿いを確保しひとごこちつくと、マグミが「現ちゃんがtatsuの脳に入ったからな」とかいう。「ホントはやる予定じゃなかったんだけどね」といって「Mad Girls」が始まった。何? 何したの上田!? またか! キエーなんだったのと終演後に訊くと、なんでもtatsuが曲順を間違え「楽園」の前に「Mad Girls」のイントロを弾いちゃったとのこと。あれベースから始まるからね…にしてもtatsuがそんなミスをするのはとても珍しいので、上田のせいになったと(笑)。いいぞ、これからも何かハプニングがあったら全部上田のせいにしよう。何せ自分が脱退してから初めてレピッシュがライヴやるとき「大丈夫か? 俺行かんでいいか?」といったひとですからね。呼ばれなくてもきっと来てる。前日、阪神タイガースが18年ぶりにセ・リーグ優勝したのできっと浮かれてる。

ここで我に返る訳だが、タイガースが前回セ・リーグを制覇したのは2005年だった。そのとき上田はまだ生きてた。ということは(も何も)、上田の死後初めてのVだったのね。もうそんなに時間が経ったのかというのと、タイガースそんなに優勝出来なかったんかというのでしみじみする。そりゃ恭一も浮かれる。


この絵、現ちゃんも洋一もいるのよ。

マグミがいうには「昨日決まってくれてよかった。今日になってたら恭一がどうなってたか…」。応えて恭一「ここ(マイク前)にiPadおいて試合見とる」。やりかねん。そこで昔話になり、当時はスマホちゅうか携帯もなかった、テレビやラジオの実況しかなかった、ツアー先でライヴ終わると打ち上げにも出ず即ホテルに戻ってテレビ見てた、地方だとテレビもやってなかったり……という話からtatsuが「現ちゃんとふたりでタクシー乗りに行ってたよね」とツッコむ。前日のアニキのツイートを思い出して文字通りブフォッと吹きましたよね。


これな。よりにもよってtatsuがこの話出してくるとは。この日tatsuはマグミに「還暦のこといってないけどいいの?」と話を回そうとしたりしててニコニコした。こんな光景を観られるなんて、歳とってよかったーと思うことのひとつだね。

それにしてもこの日のライヴは良かった。いつもそういってる気もするが。佐々木美夏さんがレピッシユの音楽は見事な発明品だったギリギリのところでいろんなものが成り立っていたと書かれていて、その通りだと改めて実感するライヴだった。スカからニューウェイヴ、DJ不在のヒップホップ、郷愁のなかに寂しさや恐ろしさが潜む風景や、非現実的な世界を描く歌詞。ポエトリーリーディングでもラップでもないアジテーション、唱歌にすらなり得る美しいメロディ。そしてパンクとハードコアのアティテュード。これぞ本来の意味でのミクスチャー、としかいいようがない。

ピースは欠けていき、バランスも危うい。かつての姿ではない。それでもこのバンドは生きている。「柘榴」に涙し、「Tears」のエピソードに笑う。「歌詞書くとき、現ちゃんに曲渡されて『熊本の歌にするなよ』っていわれたんだけど最後に『あんたがたどこさ』って(入れちゃった)」「『Tears』は最初女性ヴォーカルに提供する話があったんだけど、俺にしか唄えん歌詞を書いたった」。これ私初耳だったと思う……有名な話なのかな。このマグミの「現ちゃんの楽曲は渡さん、俺がいちばん唄える」というような発言は以前からある。頑固さは変わらない。そのことをうれしく思う。

しっかしその、今月還暦になる頑固な男がチッタにタッチ☆やると迄は予想してなかった。「LOVE SONGS」恒例、ステージ〜フロア最後方を往復するクラウドサーフ。イントロドンでトリハダ立ちましたよ、あの蒸し暑いフロアにい乍ら。いやでもまさか、いくらなんでもと思っているうちにマグミがいそいそと服を脱ぎはじめ、体型の変わらなさに感心し、いやそれでも…と思ってる間に飛び込んでしまった。待ってましたと腕まくり(比喩)のひと、えっやんの!? と大慌てのひとが、マグミをサポートするため走っていく。落ち着いて(心配そうにも見えたけど)フロアに目をやるtatsu、復路で「がんばれー!!!」と連呼しギターを弾き続ける恭一。あそこで泣くとは思わんかったと毎回いってる気もするが、やっぱり泣いた。やるといったらボロボロになってもやるんだな。感動的な光景ではあるが、いつ迄これがやれるんだろうと思いもする。かつて「この身体が使えるかどうかなんだ」といったマグミ。やっている限りは観ていきたい。

「25周年からのベストメンバー」、奥野さんには感謝ばかり。当時も思ったけどホント有難うだよ…Saxも吹けるようになってさ……先日話題になってたインタヴュー(後述)によると、もともと全くの鍵盤未経験者だったのに弾けますつってキャリアが始まったそうなのでSaxも吹けますいうたら吹けるんだな。普通は吹けない。西の子で、寅キチで、キャラクターもどっかおかしくて(失礼)、この気難しいバンドにするりと馴染んで。彼がやってきたとき、マグミは「思ったよりすごい風を持ってきた」といった。「ラルゴ」じゃないけど、10ルピー払って待っていた風がきたんだ。あるいは「Second Wind」か。これからも宜しくね。

件の心霊現象もとい上田現象は後日配信のアーカイヴで観ました。上田が映ってそうでちょっと怖かったけど。ホントのところ全然怖くないけど、全然映ってていいけど。『パンドラの鐘』じゃないけど、「化けて出てこい」よ。奥野さんと共演してみたくない? てか配信でチッタにタッチ観られるのすごいいいですね、フロアにいてはこのアングルでは観られない訳で。そしてこのとき、フロアを泳ぐマグミを見つめる恭一の優しい笑顔が胸に迫った。こんな表情をしていたのか……。この日マグミは恭一のことを「幼なじみ」といった。

終わってみれば充実、だけでなく、やっぱりマグミのいう通り「何だコイツら」と畏怖さえ感じる内容。結果だけを見せる、これがレピッシュというバンド。来年はツアーがあるそうです。やったね、待ってる。