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2023年07月31日(月) ■ |
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『FUJI ROCK FESTIVAL '23』2日目 その3 |
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『FUJI ROCK FESTIVAL '23』2日目 その3
■FOO FIGHTERS(GREEN STAGE)
フーファイがフジにやってくるのは2015年以来のこと。骨折したデイヴが自家製(つっても本気のプロ仕様のやつ。プロ仕様…? 何の……?)玉座に座ってやりきった。このセットを日本に持ってきただけでもウケるんだが、何が何でも面白い(?)ものにする、バンドのアクシデントも観客には楽しめるものにしてやるというデイヴのショウマンシップに脱帽したものだった。
このときソニーの法被を着てとても楽しそうだった(そして演奏しづらいと気付いてすぐ脱いだが、自宅に持って帰って自撮りするくらいには気に入ったようだった)テイラーは、2017年のサマソニで、バスドラムヘッドを前年亡くなったクリス・コーネルの肖像写真で飾ってくれていた。これがテイラーの最後の来日となるなんて、誰も想像していなかった。きっと、ただのひとりも。
このバンドには何故か死がついてまわる。ひとは必ず死ぬものなので、総じてどのバンドもそうなのかも知れないが、それにしたって別れは突然で、しかも最悪のシチュエーションで起こる。何度乗り越えてもそうだ。しかしその度、彼らは戻ってきた。デイヴはファイターだ。そしてこのバンドは、文字通りファイターズなんだ。
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フジの週はヴァイオレットたちのinstaをチェックするのが日課になった(笑)。彼らは水曜日にはもう来日していた。その翌日、シネイド・オコナーの訃報が届く。ストーリーズに涙と悼みの声が溢れる。アラニスもtwitterにシネイドの画像を、instaにメッセージをアップしていた。金曜日にはシフティがFender Flagship Tokyoのイヴェント〈Fender Flagship Tokyo Special Event with Chris Shiflett〉に出演。慌ただしくやってきてすぐ帰るいつもと違って、余裕のある滞在だった様子。
しかしその間、リハはやっていたらしい。木曜日にあったタワレコ/ソニーのイヴェントで「サプライズゲストがあるかも」という話をスタッフの方がされていたそうで、こりゃ絶対アラニスだろ! 会場到着前にきっと合流している筈だと確信。当日も朝8時前からグリーンでのリハが聴こえる! という情報が流れてきていた。マジかよ、早起きだな。勤勉というか、ヘッドライナークラスは当然そういうところしっかりしてる。しかしここでは、もうひとりゲストがいるとは予想出来なかった。
前置きが長いよ! 始まるよ!
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大歓声で迎えられたメンバー。オープンコードを掻き鳴らし乍らステージの端から端迄歩き、クラウドを見渡し手を振るデイヴ。聴こえてきたリフは「All My Life」、おちつけという方が無理な話。
アラニスでエモが尽きたか憑き物が落ちたか、騒ぎつつも落ち着いてはいて、頭の隅には注意喚起があった。レコーディングではデイヴが叩いた『But Here We Are』のナンバーをジョシュがどう料理するか、そして長年テイラーのドラムで演奏されてきた定番のナンバーはどうなるか、というところを注意して聴いていこうと思っていた(ジョシュが参加してからのライヴは数々の動画で確認済ではあったが)。しかし、デイヴが連呼していた「For FUJI!」なセットリストはそういう雑念を吹き飛ばすものだった。
前者に関しては、新譜からは2曲しか演奏されなかったので、アルバム全体の演奏と比較して云々ということにはならなかった。後者に関しては、あまりにも演奏スタイルが違うので比較しようがなかった。ハードヒッターだがテクニカル、手数も多く華やか。その上ツーバス。フーファイのドラマーとして初お披露目された5月の『Preparing Music For Concerts』で「ツーバスならここにカメラ置けば映えるね」、なんてことをデイヴがジョシュに話していたが、その案もしっかり採用されている。ソロの見せ場も多く、ドラムセット真上にあるカメラからの映像が、しつこいくらい(笑)何度もズームアップ/バックされる。いやあ、こりゃ映えるわ。ハイタムやシンバルの数も多く、ハードロックの最適解ともいえるセットだ。
そしてアホ巧い。知ってた。テイラーと全然違う。知ってた。もともとフーファイは、一蓮托生とメンバーが集ったバンドではない。そもそも最初はバンドですらなかった。デビューして28年、ロックの殿堂入りも果たすくらいにはキャリアを積んだ。幾度かのメンバーチェンジを経て、試行錯誤し、出来るところ迄進む。彼らもそうやって長く続けていくバンドの仲間入りをしたのだ。こちらもいい歳なので、こういうバンドが沢山あることを知っている。
しかし、今回のメンバーチェンジはこれ迄とは全く異なる事情によるものだ。こんなことが起こるのは想像より早いことだったに違いないし、彼らが描いていた未来では決してなかった筈だ。それでも彼らは、だいじなひとりを失ってなお、バンドを続けていく選択をした。そしてツアーを始め、日本に来てくれた。
……と、考えることはいろいろあれど、ジョシュのタンクトップに釘付けなのだった。デイヴの要請によるものか本人のアイディアかはわからないが、フーファイに参加してからのジョシュはいつもネタ衣装を着ている。先述の『Preparing Music For Concerts』では名札をつけ、The Churnupsとしてサプライズ出演した6月のグランストンベリーでは「MY POODLE IS CALLING AND I MUST GO」と書かれたプードルの絵入りタンクトップ。今回は…何だよ……「MY POODLE IS」迄は見える、しかし座っているので下が見えない。マイプードルイズ何! 何だよ!!! 続きが見えたのは終盤だった。「MY THERAPY」。「MY POODLE IS MY THERAPY」。マイプードルイズマイセラピー……重いな!!!
しかしこれはバンド側の気配りというか、ジョシュが居心地悪くならないように、そしてメンバーチェンジに際し、ファンたちにコンフリクトが起きないようにという気持ちの顕れのように思う。てかジョシュ、付き合ってくれて有難うとすら思うが、彼はDEVOにもいた方ですからね。こういう茶目っ気は楽しんでくれそう。というか楽しんでくれ。
「The Pretender」では、テイラーが唄っていたサビの上ハモり(というかこっちがサビメロ)をネイトとシフティが唄う。負けじとクラウドも上を唄う。改めての一歩を踏み出したバンドを歓迎するんだ、サポートするんだという気持ちが声に載る。応えるようにペットボトルの水を被ったデイヴは、まだ序盤も序盤なのにまるで2時間のショウを終えたかのように濡れねずみになっている。ねずみというか犬っぽかった。続いてMetallica「Enter Sandman」、Black Sabbath「Paranoid」のリフを挟んでくる「No Son of Mine」(日本初お披露目、待ってました!)。ギャワー! と、ここ迄がツカミ。尾を引くような歓声の中聴こえてきたリフは最新作『But Here We Are』から「Rescued」。そして『Wasting Light』から「Walk」。聴き入る。死と別れが降りてくる。いつもそうではあるものの、今日のライヴは特別なものなのだと知らせてくれる2曲。
ギャンワギャンワとなってるクラウドにハ〜イと手を振るデイヴ。キャハ☆てなペコちゃんペロリなポーズも見せ、恒例の1997年のフジに来てたひと〜、俺たちを初めて観るひと〜てな挙手タイム。この辺りから「For FUJI!」を連呼し始める。これいうと無条件に盛り上がるので楽しくなっちゃったのか、MCの度にいってた。たまに「Mt. FUJI!」もまざる。完全に遊んでいる。
今夜はスペシャルなんだ、古い友人だよ、とアラニスが呼び込まれる。汗とペットボトルの水でべしょべしょのデイヴとアラニスがハグをして、「きゃー何よあなたべしょべしょじゃない!」「テヘ☆ごめんなー!」みたいにギャハハと笑いあう。昨年のテイラートリビュートのときは言葉を交わさず、固く長い(本当に長い間だった)ハグをして離れたふたりのことを思い出してしまった。笑顔があったことにホッとしたしうれしかった。素敵な光景だった。「この世を去った美しい彼女にこの曲を」とアラニス。
一緒に何かやるということは決めていたのだろうが、予定されていた曲は他にあったのかもしれない。シネイド・オコナーの曲をやろうというのは、日本入りしてから決めたのだろう。最後に映し出されたシネイドの画像も、数日で用意されたのだろう。バンドとアラニス、そしてスタッフが用意してくれた「For FUJI!」だ。歌詞は厳しいものだが、曲調は明るい。笑顔でアラニスは唄う。バンドの皆も笑顔でそれを見守り、演奏する。長い闘いを終えたシネイドを労い、「よくがんばった、おつかれさま」と送り出すかのようだった。シネイド、どうか安らかに。
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・フー・ファイターズ&アラニス・モリセット、フジロックでシネイド・オコナーをカヴァー┃MUSIC LIFE CLUB 「高い知性と深い共感力があり、時代を遥かに先取りしていた、もうこの世にはいない美しい女性に捧げます」
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