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2021年12月04日(土) ■ |
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NYLON100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』 |
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NYLON100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』@本多劇場
大倉くん、元気になってほんとよかった。
大倉孝二が『フェイクスピア』を降板したとき、野田地図制作の対応にいや〜な気分になったものでした。SNS、特にinstaのアレな。で、今回の公演はケラリーノ・サンドロヴィッチ曰く「彼を元気づけるためというわけでもないが、ど真ん中でやらないかと伝えました」。常々思うがKERAさんいい上司。ホームがあるって素敵なことね。
という訳で大倉くんはナイロンでしか観られない大倉孝二を見せ、作品もナイロンでしか観られない作品になりました。以下ネタバレしてます。つってもKERAさんならではのナンセンスコメディなのでネタバレも何も……そしてコメディというには怖すぎたが……。
タモツ(この名前がもうね、『ヤマアラシとその他の変種』を思い出してニヤニヤしますよね)は勝ちまくる男。その腕を買われて世界的な大会に出ることになる。しかし世界的な大会は、そろそろとかいよいよとかそのうちとかいわれつついつ迄経っても開幕する様子がなく、人々は大会のこともタモツのことも忘れていく……という縦糸、タモツの母と姉の思い出を軸に描かれる家族の肖像という横糸。そもそも縦と横はあるのか。だいたいタモツ、勝ちまくってるか? ジャンケンには強いけど。そもそも勝負って何だ。イモンドって何よ、はともかく。「異モンド」には膝を打ったが。という話です。
登場人物が入り乱れて恐怖と笑いを行ったり来たり。タモツを殺そうとする両親。タモツが預けられた孤児院の院長と副院長。タモツの才能を見出す(?)会長。謎を追う良い探偵。タモツが通う病院で薬をくれるテロル婆さん。時折現れる姉はタモツの記憶の投影か、それとも実は姉は死んでいないのか……繋がりや謎解きを諦めて、場面場面を味わうことにする訳ですが、それが出来るのはとにかくリズムが良いから。リズムが良いのは役者が巧いから。そしてそのリズムは演出家が10いえば役者が10理解(1いえば10も、でも10いったのに1しか、でもない)し、その理解を劇作家がよしと野に放つ、長年の信頼関係から生まれるものだ。タモツを演じる大倉くんと長田奈麻演じる姉かもしれない女性が耽る一触即発のままごとなんて、ナイロンでしか観られない凄みに満ちている。
死にゆく母、勝っているのに負けていると言い張る父。家族の繋がりは頼りなく儚く覚束ず、そして常に漂うのは濃厚な死の香り。怖い、怖い、でも何故か心が安らぐ。そうして生まれた今作に、わからないわからないと笑い乍ら、死ぬまでの短い時間を過ごせる愉悦。これもナイロンならではだ。劇団の凄みと、それに寄り添う客演陣。『消失』といい、年末に観るナイロンは記憶の野原にしんしんと降り積もる雪のよう。いいもの観ました。
KERAさんは多作な分、昨年からのコロナ禍で中止になった公演が他の演出家よりズバ抜けて多い。劇作家でもあるので、一からつくりあげた作品全てが雲散霧消する辛さもきっと身に沁みている。KERAさんと同時代を過ごし、その作品に触れられることをうれしく思う。
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・B列、結構前だ〜と座ったが前には誰も座らず、実質最前であった。飛沫対策でA列は空けているんだった
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