初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2021年11月29日(月)
『はやし祭り 2021〜SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA番外編〜』Day 2 林正樹 × 徳澤青弦

『はやし祭り 2021〜SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA番外編〜』Day 2 林正樹 × 徳澤青弦@渋谷 公園通りクラシックス


前回来たときこの場所はジァン・ジァンでしたわ……21年ぶりに山手教会の地下へ降りた。入口変わっててあたふた、間取りが変わって視界が開けててどぎまぎ。

-----
pf:林正樹
vc:徳澤青弦
-----

『SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA』は、「ホームとして長い間出演している」公園通りクラシックを守りたい、と林さんが昨年7月から主催しているシリーズ公演。vol.1〜3は無観客のオンライン配信、vol.4は有観客ライヴで開催されました。

・vol.1
・vol.2
・vol.3
・vol.4 林正樹出突っ張りフェス

見ての通りすごいメンツで、林さんの人望と公園通りクラシックスの存続を願うひとたちの思いが窺えますね。今回は“番外編”、文化庁『ARTS for the future!』の採択公演とのこと。申請が通ってよかったよかった。


CM(?)かわいいので転載しちゃう。

この提灯は会場の入口にも灯され、あたたかい光で聴衆を迎えてくれました。入場してカルチャーショック、広ーい! あの柱がない! てか観やすい!(笑)客席と同じフロアにグランドピアノとチェロが置かれています。フロアの隅にもう一台グランドピアノが置かれている。広い(笑)。ドリンクやちょっとしたお菓子が買え、ワイン片手に演奏を楽しんでいるひともいました。いやー、配信で観ていたとはいえ、実際に足を踏み入れると雰囲気の違いにうろたえますね。ジァン・ジァン時代はアンダーグラウンドの香り漂う怪しさが魅力だったけど、公園通りクラシックスは暖色の照明が心地よい、そして地下なのに開放感あふれる空間でした。教会の地下にこんなところが、というギャップもいいですね。

Day 2のこの日は実質『Drift』リリースパーティ。昨年春にスタートした『Drift』ツアーはコロナの影響で二転三転、sonoriumで行われる予定だった東京公演は延期となり、そのままになっていた。徳澤さん曰く「すごくいいホール見つけたって、予約して……」「キャンセルしたときもすごく親身になって相談に乗ってくれた」。「いつかやりたいね」とふたり。ほんと、いつか実現してほしい。

『Drift』のナンバーを中心に、1st Setは林さんと徳澤さんの曲を1〜2曲ごと交互に。音源で何度も聴いていた曲が今ここで、といううれしさに加え、おお、この音初めて気づいた! このフレーズはこういうニュアンスで弾いていたのか! という発見がいくつも。ペダルを踏む音、指と手首の力で弾き出される和音、弓を縦に弾きおろす和音のトレモロ。アコースティックの楽器の生音を、その場にいるひと(聴き手)の気配ごと感じられることは格別の悦びです。そういう意味でも公園通りクラシックスは素晴らしい空間でした。

リラックスした(?)おふたりの会話も楽しかった。祭り、提灯から徳澤さんが「屋台は出ないの?」「焼きそばはないの?」。「神輿担ぐんでしょ」「ピアノを?」「そう、ピアノ神輿」「重いよ(笑)」。「出来るか不安だったんでいってなかったけど、実は五日間毎日新曲を発表するつもりなの」「でも明日の曲まだ出来てないの」という林さんに、「じゃあ5曲で組曲になるんだね」とにっこりの徳澤さん。ふたりで演奏するのは「今年初めてじゃない?」「前回って一年前の池袋(『Tokyo Music Evening Yube』)だよね」(こちらに映像アーカイヴ)「ちょっと寒かったよね」「ちょっと……? シビれましたよね……」「主催の豊島区はSDGsに力を入れていて、ステージでいわなきゃいけないメッセージがあったんです。豊島区はこういうことをしてSDGsに貢献していますよ的な。なれないMCを一所懸命して、ふと青弦さんを見たらニヤニヤしていて……」独特な間合いの会話でウケたウケた、和んだ。

けれど、ソワソワと時間を気にする徳澤さん。「換気しないと……」「身に沁みてるんでね」とポツリ。笑顔で穏やかにお話されていたけれど、昨年からのコロナ禍、そしてこの夏の仕事に対する過熱したSNS、それを煽ったマスコミによって受けた傷はこちらの想像も及ばぬ程大きいのだと感じました。林さんは静かにうん、うんと話を聞き、ときにはユーモアあふれる受け答えで場を和ませてくれました。

それにしてもこのふたり、真顔でおかしいことをいうので面白い。ときには互いに翻弄されてニヤニヤしていた。

2nd Setは現代音楽の楽曲やカヴァーを。「僕は専門的な教育を受けていないから、青弦さんが見つけてくる現代音楽を演奏出来るのが楽しい」と林さん、「最近誰も知らないような作曲家の作品を発掘するのが楽しくて」と徳澤さん。一曲目の作曲家は「知ってるひといますか?」とフロアに問うたら手を挙げた方がひとりいて、おふたりから驚かれていた。もう一曲はエストニアの作曲家で……というので今度はどんなのだろうと身構えていたら、おお、これ、知ってる! アルヴォ・ペルトの「Spiegel im Spiegel」でした。ピアノとチェロがまるで連弾しているかのようにフレーズをリレーする、あるいは同じフレーズを奏でる。アイコンタクトで発音タイミングだけでなく、タッチのニュアンスをも共有する。まさに鏡のよう。

『Drift』に興味を持ったきっかけというのが、林 × 徳澤の作品というだけでなくSquarepusher「Iambic 9 Poetry」のカヴァーが収録されていたからなのですが、同じく『Drift』収録のThe Velvet Underground「Venus in Furs」カヴァーも出色。謳うチェロとピアノ、ハコと楽器の残響が伝わる空間。妖艶で憂鬱で美しい。自宅のリスニング環境のショボさも思い知りましたわ……。

「Iambic 9 Poetry」はアンコール(オーラス)。ここ数年の定番のようです。演奏者の微笑とともにふわりとはじまり、線香花火のような激しさと儚さを数分で音にしてくれました。まるで命が生まれて消える迄のよう。一曲のなかに全てがある。矢野顕子の演奏する「いもむしごろごろ」や「ちいさい秋みつけた」を思い出しました。

最後の響きが消える。楽器からそっと手を離し、ふたりでにっこり。暖かい拍手とともにおひらきとなりました。


丁度譜面が見える位置だったのでした。林さんは紙、徳澤さんはiPadの楽譜を使っていて、その違いも楽しく拝見。

この夏は多くのひとが傷つけられた。傷はなくならないけど、少しずつ癒していくしかない。「前を向いていこうと思います」と徳澤さん。音楽はいつも傍にある。

-----

・小劇場 渋谷ジァン・ジァン
ジァン・ジァンについて振り返っていたらこんな素晴らしいサイトが! スケジュール表の画像がアップされていて、思わず声が出た。そう、これこれ!
ZAZOUS THEATERやミヤギサトシショー、山の手事情社を観に何度も足を運びました。美輪明宏や矢野顕子、イッセー尾形の公演は憧れだったなあ。最後に観たのは2000年3月の『授業』でした