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2020年09月12日(土)
『九月大歌舞伎 第四部』

『九月大歌舞伎 第四部』@歌舞伎座


ニューキャッスルもやっててよかったよかったウマイウマイ。

「映像×舞踊 特別公演」として、坂東玉三郎による口上と『鷺娘』。玉三郎丈は『鷺娘』を「高度な技術に加え、数10kgにも及ぶ衣装・鬘をつけ踊り続ける体力を要するため」2009年に踊り納めているのですが(参照:坂東玉三郎伝説のシネマ歌舞伎『鷺娘』。┃madame FIGARO.jp)、残された映像とのコラボ作品を披露しています。歌舞伎座での上演は初。

「何卒、皆様ご寛容の御見物の程、お願い申し上げます。」

まず口上。このような状況のなか来場してくださり……と観客への謝辞(観る側としてはとんでもない、お礼をいうのはこちらの方ですよおと恐縮)から、歌舞伎座の思い出語りへ。七年前この五期歌舞伎座が開き……というところでえええなななななねんまえ!? もうそんなに経つ!? と狼狽しましたが、そういえば勘三郎丈の七回忌が一昨年だったものね、と我に返る。この状況、勘三郎丈が生きていたらどんなことをしただろうな。どうやって劇場にひとがきてくれるか、どうやって観客を楽しませようか、さぞかし思案したに違いない。などと数秒のうちに思いを巡らせる。

こういう機会ですから歌舞伎座の舞台裏へご招待します、という言葉とともに、舞台いっぱいに映像が映し出される。それぞれ松竹梅と名付けられたセリ、優雅にまわる(といいつつ実際のスピードは相当なもの)盆、その半面に設えられた大ゼリ。舞台上のセリに乗って消えた玉三郎丈が、映像の舞台下に現れる。紹介された揚幕があがると、花道に現れる。んん? 映像パートはリアルタイム? それとも収録したものでタイミング合わせてる? どちらにしてもよく出来ていて楽しめる。虚構と現実の境目が曖昧になっていく。

そうして舞台機構を玉三郎丈が案内してくれるのですが、まあ普段は見えていない裏方の世界の壮大なこと。物理的にも広い広い、奈落深い深い。目がくらむ。以前は階段だったんですけど今はエレベーターになりましただなんて、当時は早替えのときどんだけ走ったんだっていう……運動会ひらけそうだ(笑)。心身ともに強靭でなければ歌舞伎役者は務まりませんね。「だいぶ事故が少なくなりました」という言葉に、そうだ、あそこで猿之助さんが……と血の気が引く一瞬もありました。事故は0になるとよい、と切に願う。

楽しいヴァーチャル遠足ですが、玉三郎丈の「この歌舞伎座を愛してほしい、かわいがってほしい」という思いが伝わってくるようでジーンときた。いつか歌舞伎座は六期を迎えるだろう、でもそのときには自分はいない。それでも歌舞伎座は、歌舞伎は続くのだから、という、伝統芸能に携わる者の矜持を見た思いでした。

やがて舞台は『鷺娘』へ。大まかに分けると鷺の精が恋に躍動する場面は主に映像、恋を振り返りやがて死を迎える場面を実演。ひとりの演者がふたつの時間を行き来するような錯覚にとらわれる。虚構と、虚構を演じる現実の肉体がシームレスに、美しくはかない命の灯を燃やす。失われていく体力をこんなふうに見せることが出来るのだな……と感嘆。四期歌舞伎座のさよなら公演で踊り納められた『鷺娘』は、こうして五期に引き継がれたのだ。

足元がよく見える席だった。ぱたり、ぱたりと跳ねる白い足袋。まさしく鷺、鷺だった。鳥肌が立った、いや、駄洒落ではなく。

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・坂東玉三郎が「口上」で歌舞伎座の舞台機構を紹介「九月大歌舞伎」コメント映像┃ステージナタリー