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2019年09月07日(土)
サエボーグ『House of L』(『あいちトリエンナーレ 2019』)

サエボーグ『House of L』@愛知県美術館 大リハーサル室

『あいちトリエンナーレ 2019』の他展示については翌日のエントリーで。


スローターハウスは1945年のドレスデンから2019年の名古屋へやってきたのだった、なんてな。



14時からの空プロ、15時からの桜プロを続けて観ました(それぞれのタイトルがわからないので、便宜上色で)。どちらも約一時間のパフォーマンス。一日のスタートが桜からだったので、順番としては桜→空で観るのが作者の意図だったかも知れません。



入場するとそこは牧場? 外観は畜舎、内装はドールハウスなかわいらしい建物。入り口をおおきないぬが塞いでいる。いびきをかいて寝ています。ときどきぶーぶーおならもする。片目が白濁していて、あちこちにおできが出来ている。リビング調の室内を眺めつつ、開演を待ちます。



「摩擦! 屠殺! 悩殺!」リビングに置かれていたお品書き。

ぶたちゃんたちが入ってきました。手を振り乍ら寄ってきます。わーかわいいなー。なでたりハイタッチしたり。乳を揉めと要求してくる子もいたので揉ませていただきました。うしちゃん、ひつじちゃんやにわとりちゃんもやってきた。うしちゃんはボール遊びが好き。ひつじちゃんはちょっとシャイ。なんとなく個性がわかってきました。ひとなつっこい子ばかり。彼らのガワはラテックス製。ゴムの触感はフェティッシュな気持ちよさ。ガワ一枚を隔てるだけで、初対面の相手に警戒心なく接することが出来る不思議。ぶたちゃんと遊んでいると、ガワの隙間から汗がパタパタパターッと落ちてきました。なかのひと重労働だな! お元気で! と親愛の情もわいたりして。

にわとりの造形が見事でした。この動画だとわかりやすいかな、尾っぽの部分がなかのひとの頭なのです。にわとりが前進する場合、なかのひとは後ずさるんですね。スーツアクターの仕事人ぶりを見た思い。

カラオケ大会が始まります。マイクの前につれてこられて島倉千代子の「人生いろいろ」を唄わされる観客(笑)、手拍子する観客。すっかり場がハッピーになった頃、農婦がやってきます。そうだったここ畜舎だった。ということは……搾取が始まるよー! 牛は種付けされ、豚は解体され、鶏は卵を持ってかれ。楽しかった場は一転、タイミングよくこどもが泣いたりしてこう…なんていうの……異様という言葉しか浮かばない。しかしそれが搾取というもの。いただきますは感謝の言葉。ひと仕事して汗をかいたのか、農婦ちゃんのストリップが始まります。そこに流れてくるのはa-haの「Take on Me」。最高か。マッパになった人間と、腸が丸見えのどうぶつたちが踊り狂う。なんだかんだで結局ハッピーに。ハッピーなのか。



一方で、おうちに鎮座しているいぬの姿には悲哀が感じられます。片目が白濁していて、あちこちにおできが出来ている。シモもゆるくなっていて、おならぶーぶー、おもらしもしちゃう。フレッシュな状態でスパッと殺される家畜とは違い、ペット=人間の友、家族としてのいぬは恐らく延命=介護されている。おうちの外には「LIFE ISN'T CHEAP」の落書き。真理だわ……。

桜プロはぶたさんのお産ですよ! 生まれた子たちもやはりにんげんになつきダンスを踊る。





空プロと違い、こちらのぶたちゃんたちはもう立ち上がることがありません。せつない。『銀の匙』を読み返したくなっちゃった。最新刊はまだかしら。おにくをいただいて生きている立場なので、自分が食べられる側になったらどうぞどうぞと提供しようと日頃から心がけています(ドナーカードも全部チェック済よ)。

自分が食べているものの仕組みを知る。といったこどもへの情操教育としても有効で、かつフェティッシュな欲望も満たされる。目覚めちゃうこどももいるかもね。四半世紀以上(!)続いているフェティッシュパーティ、Department-Hのショウでも活躍しているサエボーグ嬢の作品が、こうして昼間の美術館で観られたという意義は大きい。またこどもたちが結構すぐ順応するんですよ。観た日は出演者か? と思っちゃうくらいなじんでる子がいて、一度ぶたちゃんと激突してひっくりかえっちゃった(ぶたちゃんめっちゃ謝ってた)んだけどそれでもずっとエリア中央で遊んでいた。

大人たちには躊躇があった。パフォーマンスの妨げにならなければどこで観てもよく、移動もOKだったんだけど、殆ど動かず遠巻きに観る感じだった。どうぶつたちが積極的に絡んできてもまだ距離感がありました。事態が大きく動いたのは、いぬのお腹がいよいよやばくなってきたところから。おならがブーブー。おならだけじゃない、何かが出てる音がする。でもリビング側からでは何が起こっているのか判らない。若い女の子たちが「なになに?」といぬの背後に駆けていきました。これをきっかけに腰が重かったひとたちも立ち上がり、あちこちで起こる営みを観てまわる寛ぎが生まれました。同時多発的にハプニングが起こる、混沌としたクラブの空気が美術館に持ち込まれたようで痛快でした。

美術はDepartment-Hのオーガナイザーでもあるゴッホ今泉、楽曲提供はDJ TKD。サエボーグ嬢は今回いぬのなかのひとだったそうです。愛知県美術館の地下で、アンダーグラウンドなパーティが行われている。ポップでスウィートでビターな捕食と被食の関係を目撃出来たのは、たった8日間。

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・Saeborg | サエボーグ 公式サイト
・インタビュー サエボーグ『情動資本主義モンスターと愛の戦士』(PDF)
聴き手はセバスチャン
とてもよいインタヴュー。そうかー、House of LはHouse of Mからインスパイアされたネーミングなのか。ミュータントも歳をとり、ボケたり“おもらし”したりする。生物である限り、身体(脳も身体の器官だ)が古くなっていくのは避けられない