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2019年07月13日(土)
東京成人演劇部 vol.1『命、ギガ長ス』

東京成人演劇部 vol.1『命、ギガ長ス』@ザ・スズナリ

松尾スズキが立ち上げた大人の演劇部、旗揚げ公演。何故か指定席があると気が付かず「そうかー、初心に立ち返って整理番号付チケットか」なんて思って自由席をとっており、しかも整理番号1番だったんで意気込んで開場時間に行ったら自由席は前三列のベンチ席だけだったというね……。いやー、スズナリのベンチ席久々。当日券のひとが自分の椅子を持って順番に入ってくるのも久々。舞台美術は松尾さん、小道具製作(パンケチ! あれかわいい! 物販にあったら買った!)は庭劇団ペニノから玉置潤一郎が参加と、家内制手工業な趣もあり。一応書いておくと、安藤玉恵の夫君はペニノのタニノクロウです。

そして近しいひとといえば、目から鱗の人選が。開演前、終演後のカゲアナと劇中の「効果音」に吹越満! おおうこれ、事前に発表になってましたっけ…知らなかった……。これがまた凄くいい効果で。考えれば考える程出口なしの憂鬱な問題を、ちょっと突き放して観ることが出来る。

かつて「死んじまえ」でなく「生きちまえ」を呪いの言葉として使った松尾さんは、人生の過酷さをどこ迄オモシロに出来るかというのをずっと書いている。今回はいよいよもうダメだと思ったときの対処法としても観られる。「生きちまえ」といわれてしまったなら、何が何でも生きてやろう。というか、死ぬのも面倒くさいのね。『欲望という名の電車』でブランチも言っていたじゃない、「死ぬのって、お金がかかるのよ」。8050問題、捏造されたドキュメンタリー、死に際してのちょっとしたトリビア。いやあ、献体は視野に入れてたけどそこでも競争があるってのは知らなかった。ためになる(?)。そういう意味では松尾さんの演出は観察者、同時に身を以ての実験、実演者だなー。それでいっぺん疲弊しきって休業もしてる訳で、何故そこ迄、とも思うがそれが松尾さんだといわれれば頷くばかりです。そして、そこ迄身を削って描く作品は「面白い」。作劇の巧さに唸る。とにかく会話のリズムがよくて、ここでそれをいう! とかその固有名詞ここでブッ込んでくる?! という組み立て方が見事。そしてあらゆるところにキラーフレーズ。「私、活発なんですよ!」「シャンパン飲みたい、って思ったんです」とか脳内に残ってしょうがない。『マシーン日記』の「紙が余ったのでUAの似顔絵を描いてみました」とかも、未だに急に浮かぶことがあるもんな……。イタさだけを売りにしているひとたちとはそこが違う。

で、松尾さんの書く言葉ってのはある種経験を積んだ巧さを持つ演者でないと語りこなせない。リズムを失ったら伝わらないニュアンスが沢山ある。松尾さんと安藤さんはその辺り安心で、とはいえ安藤さんのコメディエンヌっぷりを拝見したのは初めてでしたので感嘆しきり。認知症の母とアルコール依存症でひきこもりの息子の罵りあいが、落語、漫才へと移行していくさまの鮮やかなことといったら。この日は収録用のカメラが入っており、ドキュメンタリーを撮られている母子の芝居をまた撮っているカメラが真横にあり、このカメラも芝居の一部なのか、それとも舞台というリアルを撮っているのか……という奇妙な感覚に陥る。撮られた映像は編集され、何かしらの媒体に使われる。そのときこの作品はどんなふうに伝わるだろう。映画祭に行けるかな? 「出来過ぎ」は作品としては使えないのだ。

とりあえず帰宅技調べたのはセ◯ミンのCMと(笑・知らなかったわこれ。昨年のことだったんですね)あの電話番号って何だったっけかということでした。あのメロディが聴こえたら自動的に電話番号が思い出せた! 刷り込み怖い。このふたつはちゃんと出版された戯曲にも記されているのでしょう。

記憶の断片、認知症の人物が見る夢、アルコール依存症が見る幻覚。朦朧とした意識から顔を出す感覚の鋭さ。「あらっ、あなた妊娠してる?」「漬物はないんだよ」。寂寞な思いとともに、これらの台詞は記憶に刻まれる。