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2018年12月15日(土)
『日本の歴史』

シス・カンパニー『日本の歴史』@世田谷パブリックシアター

観てから十日くらい経って今これを書いてるんですが、この間ずっと脳内で「I・N・G・A、因果♪」とか、「俺平清盛だ〜♪」とか、「なんとかなるもんだ〜♪」とか、歌が鳴っている。油断すると口ずさんですらいる……コワい!(笑)急遽CD化決定したとのことで、ロビーで購入受付が行われていました。あの楽曲たちを多くの観客が持ち帰り、何度となくメロディや歌詞を思い浮かべ、口ずさみ、やがて届いたCDを聴いて、一緒に唄うんだなあと想像する。すごい痛快、すごい楽しい。

そう、とにかく楽しかった! 卑弥呼の時代から大平洋戦争迄の1700年を約二時間半で。しかもミュージカルで。三谷幸喜の大胆な試みは、荻野清子という音楽家と七人の達者な役者を得て、日本どころかアメリカにも舞台を拡げる。幕開けはテキサス州のとある荒地。当然観客はあれっと思う。「日本の歴史」じゃなかったっけ? こういうところ、三谷さんらしい。疑問は「因果♪」というキーワードで繋がれる。アメリカのとある家族の年代記に、日本の1700年が交差していく。

場は3つ。日本の1700年、アメリカの100年、遠い未来のとある教室の数ヶ月。 日本の歴史を教える「先生」がいることで、舞台を楽しみつつも頭のどこかに「え〜と? この人物ってどの時代のひとで、誰とどういう関係にあって、どうなったんだっけ?」と浮かぶモヤモヤが見事に補足される。講義というテイでスクリーンに家系図や年代を映し、歴史上の有名人と無名のひと、差別する側される側、畜産、石油、ショウビズという資本の変遷を見せていく。なんとかなると唄ってもなんとかならないのが世界の因果。アメリカの兄弟が争うとき、日本では源氏の兄弟が争い、メキシコ系アメリカ人が素姓を隠してサクセスストーリーを駆け上がるとき、黒人武士の弥助は本能寺の変を知らせるために走る。芸術を愛するアメリカの少年は成長し、戦場へ送られる。「因果……か?」という部分はあれど、北京の蝶のように世界は繋がっており、死者に暖かい眼差しを向け、新しい命の誕生を祝福する。

登場人物は50人以上。それをとっかえひっかえ演じるのは七人の侍ならぬ七人の役者。人種も、性別も、年齢もあれよあれよと演じていきます。ときには息があがり、ときには転換幕からはみ出して、ちいさな声で「…つらい……」とぼそり。その度にどっと笑いが起き、観客を味方につける。誰が、とはいいがたいなあ、全員が素晴らしかった。シルビア・グラブはオープニングから観客を虜にし、川平慈英は近代アメリカを体現。秋元才加は現代を引き受ける力強さ、新納慎也は能天気であればあるほど哀愁が漂う。宮澤エマのキュートな歌声(そういえば彼女は人物ですらない役も演じた)! 中井貴一のコメディとシリアスのシームレスな表現、香取慎吾の抑圧と解放の表現。驚かされた、という意味では、初のミュージカルとは思えない歌声を聴かせてくれた中井さん。あの、なんていうんですか、ミュージカルの歌唱法って特徴があるじゃないですか。言葉をはっきり聴きとらせ、感情も込めるという。ちゃんとこれだったんですよ。いやービックリしたな……出落ちみたいな登場だったので(前の席だったので濃い〜舞台メイクに吹きだしてしまった)「これは中井さん、芝居メインでいくのかな」と思ったところがどっこいでしたよ。

オーケストラピットはなく、舞台上に役者とともにいる。ピアノ、ギター・バンジョー・マンドリン・ウクレレ、チューバ・ウッドベース、ドラム・パーカッション/ティンパニ。コンパクトな編成で、軽快な演奏で、ダイナミックな世界を描く。荻野さんの楽曲もキャッチーかつ過去のミュージカルの名作へのオマージュが感じられ、これはスタンダード化するのではと興奮しますよ。はあ、因果〜♪

これシス・カンパニーのレパートリー作品にならないかな。再演してほしいです、スケジュール揃えるの大変だろうけど、是非同じメンバーで!