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2018年12月14日(金)
移動レストラン『ア・ラ・カルト』〜美味しいものは心を動かすところにある〜30th anniversary

移動レストラン『ア・ラ・カルト』〜美味しいものは心を動かすところにある〜30th anniversary@東京芸術劇場 シアターイースト


勿論演者としても素晴らしいのだが、いうまでもなく。しかし彼女が描くものを観続けられることに、これ程感謝した年はないかもしれない。

30th anniversary、おめでとう! 自分は円形の二年目から、東京でやった公演は欠かさず行っているかな。しかし数え方がよく分からなくなっている。白井さんと陰山さんが離れたときとか、青山円形がクローズした前後に一年お休み、というのがちょこちょこあった記憶が……この日「29回来てます!」といっていたひとは、どういう数え方をしたんだろう? というのも今回、シリーズ皆勤またはそれに次ぐ出席率の方に大吟醸のプレゼント(高泉さんのご実家近所の酒蔵さんにつくって頂いたんですって。特製非売品!)コーナーがありまして、29で挙手した方全員が貰っておりましたの。自己申告制なので、これから来るひとにも知らせておいてくださいねとのこと。今年はやめとこうかな、というひともチケットとって行ってみるといいぞ(笑)。

いやいや、プレゼント関係なく今年の『ア・ラ・カルト』はとてもよいので、ブランクあるひとにも是非観てもらいたい。継続することで失ったものも多いが、得たものも多い。タカハシは婚約者を失ったが、ひとのいい後輩をつれてくるようになった。柳腰のベテランはレストランを去ってしまったが、生真面目さが笑いを醸し出す若手のギャルソンが入店した。無口で静かにダンスを踊る老夫婦と入れ違いに、愛すべき憎まれ口を叩き合う老夫婦が来店するようになった。最初の数年は痛みを感じることもあったが、傷はその痕を残し乍らも癒えていくものだ。新しい出会いを嬉しく思う気持ちは、年を重ねても消えないもの。レストランは移動式になり、禁煙(恐らく・苦笑)になり、時代とともに変化していく。その変遷は日本という国の時代も映し出す。ビターでスウィートな人生の数々。年を経るごとに、高泉さんの描く情景は深みを増す。観ている自分も歳をとり、そうした機微を感じとる力がついたのかもしれない。それもビターなものだが、スウィートなことでもありますね。

中山さんはすっかりこのレストランの住人。後輩も入って貫禄すらあるし(生来のふてぶてしさとデリカシーのなさが愛嬌になるよねーホント。ほめてる)、山本さんと高泉さんの老境パートは年々味わい深くなっているし、今年で三年目かな? の釆澤さんがすごくいいポジションとってます。いい座組。にっこりにっこり。

ゲストはROLLY! 団地妻三郎パートは観客揃って頭打ちの手拍子になるの笑った…わかってる……。なんでも今年は雪印コーヒー特需(同じ55周年でPRソングの依頼が。「歌詞、『ゴーゴー、ゴゴー!』だけなんですよ」)やQUEEN特需(言わずと知れた『ボヘミアン・ラプソディ』!)があり、充実した一年だったそうです。新車も買ったと(笑)。芝居もお笑いも達者でたよりになる。てか団妻とか、ちょっと変わっているけれど普通の…というかナチュラルメイクでスーツ着るようなキャラクターって『ア・ラ・カルト』でしか観られないのではなかろうか。そして何より、このひとの歌声で年末を迎えられる幸せ。いやホント彼がこのレストランの常連って心強い。

音楽家の方々も毎回素敵なアンサンブルを聴かせてくれます。二年ぶりに観た中西さんがモフモフになっててビックリしたが、渋くて格好よかったな。余談だが最近職場のおじさまが「俺はこれからエイジングを楽しむんだ」と白髪を染めるのをやめてロマンスグレーになったんですが、家族の大反対に遭って一ヶ月で断念することに…似合ってたんだけどなあ……ステキな歳のとりかたというものは、ひとそれぞれの解釈があるものだなとしみじみしたりしたのでした。

といえば、客席。しばらくは「もう管理職な世代だね〜」といってたけど、今や「もはや会社役員だね〜」な方々が大半を占めている。「おまえ百まで、わしゃ九十九まで、ともに白髪の生えるまで」が現実的になってきたな……それも素敵なことだけど、若い世代も入ってきてほしいなあとは思いますね。そうそう、釆澤さんが生まれた頃、高泉さんは劇団を旗揚げしていたんですって。演者側にも若い子がいることだし(笑)ご新規のお客さま、是非。音楽家と役者が繰り広げるレストランの光景。美味しいものと人生が、ショウタイムと沁み入るお芝居で描かれる。こういう舞台ってなかなかないと思いますよ。きっとまた来年、このレストランは現れます。