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2018年06月15日(金)
mouse on the keys tres Japan Tour 2018

mouse on the keys tres Japan Tour 2018@UNIT



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drs, syn:川昭
key:清田敦
key, syn, g:新留大介
tp, f.hr:佐々木大輔
s & t-sax:本澤賢士
g:飛田雅弘
vo:稲泉りん
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『tres』レコ発。長く聴いているとあたりまえみたいになってたが、実は(実はも何も)むちゃくちゃ難しい曲を演奏してるんだったと思い出させられた……緻密という意味でも。過去最大にスリリング、チャレンジングかつエキサイティングなライヴでした。

フロアに降りてまず目についたのはセッティング。上手清田、中央新留、下手川というここ数年固定されていた配置ではなく、新留さんと川さんの位置が入れ替わっている。正確には中央は飛田さんで、これ迄とそう変わらない下手側に川さん、最下手に新留さん。『tres』でいちばん驚かされたのは新留さんの楽曲が多かったことと、そのどれもが従来のmotkのイメージを覆すものであり乍ら今後のmotkを大いに期待させるものだったことだ。ライヴにおいてもそれは展開される筈で、それがこの配置換えに繋がったのかなと思う。

飛田さんの掌から鈴の音が静かに響く。一曲目はアルバム最終曲である「Shapeless Man」。オープニングの出音が飛田さんというのも新鮮。Jordan Dreyerのポエトリーリーディングはサンプリングで。テキストはスクリーンにVJで。瞬時にフロアはmotkカラーに染まるも、なかなかライヴ招聘が難しいゲストが多い今回のアルバムの楽曲をどう表現するのかなという興味も膨らむ。

初披露の曲も多く、いつにも増して緊張度が高い。二曲目の「spectres de mouse」 では清田さんが些細なミスタッチをきっかけにリズムから弾きとばされてしまった。なんとかもちなおすも中盤の「最後の晩餐」で同様のズレが生じ、清田さんがしばらくおいてけぼり状態になるというかなり危うい演奏になった。清田さんは(ちょ、待って)(どうしよう)といった表情であとのふたりを見やるが、川さんは鬼の形相、新留さんは目を閉じて演奏に没入しているので気が付いていない。気付いていたとしても走り出した曲をとめることはしない(笑)。……まあ、ほらこのひとら出身がハードコアだから。徹底した個人主義に拠るパンクですからして、各々が自力でなんとかするしかありませんね。いつもなら心地よくすらあるmotkのテンションに、こんなにヒヤヒヤしたことはなかったわ……。

一方川さんがシンセのパターンにドラムを合わせる導入の「Clarity」(音源にはない佐々木さんのソロが素晴らしかった)では頭出しが合わず、最初からやりなおす場面も。普段ならどうした的な歓声がとぶところだが、川さんがクスリともせずラップトップを操作しているので、とてもじゃないが誰も茶化せない。フロアは固唾を呑んで様子を見守っている。「Time」ではなんと新留さんがギターを演奏、フロアの視線が一気に下手側へ。音源ではCHONのMario Camarenaがフィーチャーされた楽曲です。そのマリオのギターを完コピ……いうのは簡単だが、フィーチャーされるようなギタリストのそれをそうやすやすと完コピ出来るわけないだろう! しかしちゃんと形になってたところは流石です。もともとドラマーのとこ鍵盤にコンバートして、今度はギターかよ。すげえな新留さん。終わったあと頭から湯気が出てそうな風貌になってました。「ギターうまいよー!」とヤジがとび、ここでフロアもステージ側もちょっとひと息つけた感じか。このときばかりはヤジに感謝したよ。

ちなみにLITE井澤さんのinstaによると、この日新留さんが使ったギターは楠本さんのものだったとのこと。ギター持ってないところから(いやまあバンドマンですから心得はあったかも知れないが)あそこ迄弾けるようになってたところに、新留さん本人の努力と川さんの特訓というかシゴ以下略の程が窺えます……いやはや。

新曲と既発曲が混在する内容に、フロアは聴き入ったり盛り上がったり。打てば響くような流れが生まれては消えの繰り返し。途中ケンジーくんが、その空気を打破しようとしてか何度か雄叫びをあげました。ステージの緊張感がフロアに伝播していたようにも感じ、ライヴとしてはかなり面白い空間と時間が続きました。これはライヴの出来が悪かったという意味ではないのです。リカバリは早く、ミスを引きずったりはしない。その分「今夜のライヴの展開」というものが見えなくて、聴き入っちゃうのよ、見入っちゃうのよ。プレイヤーの方はといえば、イヤモニをしていない楽曲の方がのびのび演奏出来ているようには感じました。

その苦闘…というと語弊があるな……楽曲と演奏力のとっくみあいが見られたのはある意味貴重だった。ライヴを体験すると多少印象が変わるが、スタイリッシュなアートワーク等から受けるクールなイメージから、このバンドは演奏すらもサラリとやっているという誤認識をしてしまいがちだ。そもそもは川さんが頭のなかに描いた楽曲と演奏を具体化するため、メンバーを特訓するところから始めたプロジェクトなので、手癖や自分の得意技に安住することはない。曲のための演奏はあるが、演奏のための曲はないともいえる。常に挑戦ですね……安藤忠雄展のタイトルも『挑戦』だったしな! スタイリッシュと破天荒は両立出来るのだというのを見せてくれる面白いバンドです。

さて、ライヴでどう披露するのかいちばん気になっていた、Dominique Fils-Aiméが唄った二曲。稲泉りんさんというヴォーカリストがゲストでいらっしゃいました。Massive Attack形式ですね。といえば「Stars Down」は、マッシヴの「Angel」のベースラインに通じるものがある。ブリストル/トリップホップ的、motkの新局面である楽曲を、稲泉さんのクリアな声が彩りました。男臭い(笑)motkのステージに女性が! という意味でも新局面。彼女がステージに現れた途端空気変わったもんなー。失礼乍ら存じあげなかったのですが、『ペルソナ5』の主題歌やサポート仕事などで広く知られている方とのこと(まとめ有難い)。川さんに「ここからエモタイムだから。エモーショナルにねっ」とふられて「ハードルあげないでください」なんておっしゃってましたがエモとクールを自在に操る最高っぷりでしたよ。また唄いにきてほしいなー。このエモタイムというMCがあってからは随分リラックスした感じになったかな。ギターと管の入ったエモい「Dark Light」は盛り上がった!

rokapenisHello1103によるVJも冴えてました。バックドロップだけでなくフロア壁面も使っていたのが格好よかった。楽曲にリリックがある、それはメッセージになる。オープニングでは「Shapeless Man」の“days of disappearance”、「Stars Down」のときには“Where the hell were you?”。言葉がスクリーンに現れる。おまえは何を考えてこの曲を聴いている? と問われたようでドキリとする。二列目にいたため映像の全景は観られなかったのですが、UNITの空間が美術作品になっていたのではと思います。こういうのはひきで観たいよね。motkのライヴは視点がふたつほしくなる(笑)。

川さんと新留さん、ふたりの作曲家の色がハッキリ出てきたことで楽曲の幅が拡がった。清田さんはそれを体現する演奏家。といいつつも、前回同様アルバムに一曲だけ提供される清田さんの楽曲はとても印象に残る。ふたりからスタートし、映像のチームも含めてmotkだといっていた時期もあった。「(川崎、清田、新留)この3人でmouse on the keysです」と名乗ったのは2009年のO-EAST。そこからここ迄きたのだなあと勝手にジーンとしてしまった。なんかmotkのライヴは毎回感慨深くなっている。父兄か。

オーラスはときどき恒例、Napalm Deathの「You Suffer」。ウケるー。帰っていく三人が三人とも上気して、髪の毛が膨らんでいたのが印象的でした。今夜のライヴはすごくよかった。でも、この三人にはまだいくらでものびしろありそうな気がします。それは楽曲も同様で、演奏によってきっと無限に可能性が拡がる。新譜の曲がもうちょっとライヴでこなれた頃にもう一度聴きたい。今夜のは今夜のでとても貴重なものを聴けてよかったけど! よかったんだよ!!!

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・mouse on the keys『tres』で見せた成熟の新たな美学│OTOTOY
「Clarity」のクワイアは、motkが新しいフェイズに入った!(そういえば今回のアルバムには「Phases」という曲が入っているではないか)という衝撃を与えるに充分なものだった。この声の主の正体、そして彼らがmotkとコラボするに至った経緯が知りたかった。彼ら以外のゲストについても、この記事で詳細を知ることが出来た。リリックとメロディは歌い手におまかせだったというのも驚き。
ギターもヴォーカルも「反則技」。本人たちもこれ迄のmotkとは違う楽曲の仕上がりに「吹いた」「爆笑した」そうだが、ここで笑えるところがたのもしい(笑)。「変プラス変がポップになる」、それを恐れず楽しめる。
webというツールをフルに使い、音楽制作における物理的距離と時間を短縮する。同時に過酷な移動距離とスケジュールの海外ツアーを積極的に行う。webでは見つけられないシーンの動きは現地で直接体感する。ものごとを実現するためフットワークの軽さと思いきり、これからの動きも楽しみです