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2018年05月23日(水)
『市ヶ尾の坂 ─伝説の虹の三兄弟─』

M&Oplays プロデュース『市ヶ尾の坂 ─伝説の虹の三兄弟─』@本多劇場

竹中直人の会による初演は映像で観ました。スズナリから本多へ、まず舞台空間が大きくなったので、その分家に奥行きが出た。ほどなく取り壊されるであろう古い家屋の哀愁に、入場するなり魅入られる。季節や時間帯を的確に示す、窓から射し入る陽光も美しい(美術:長田佳代子、照明:沢田祐二)。暗転も心地よい。

現代劇のつもりで観ていたら、「道玄坂の麺道場」という台詞。おお、初演と同じだ。プライムの地下にあった麺道場、当時よく行った。今はユニクロになっている……ということは、これは初演と同じ1992年が舞台だ。当時は現代の物語。今は26年前の物語。というこちは、もうこの家はなくなっており、三兄弟も別々に暮らしているのかもしれない。市ヶ尾の景色も、劇中語られる「田園都市開発」とやらによって景色も変わっているのだろう。そう思うと、追憶の劇として見方も変わる。四半世紀も前のことか。

奥の奥迄噛みしめられる、岩松了の台詞を堪能。舐めつくしたい欲求に駆られるくらいだ。言葉そのものの意味と、話し手が意図するところと状況を読みとって初めて気づく意味。時間の経過とともに真意が明らかになる、音楽と同じ時間の芸術だ。窓から見える坂道、二階から見える花火。ミニーズハウスへ向かう並木道。その描写の美しさはまるで絵画のよう。話したことが嘘でも本当でも構わないと、麻生久美子の声をうっとりと聴き、その表情と容姿をうっとりと眺める。おそらく三兄弟と同じような惚けた顔で見ていただろう(笑)。気味の悪い(ほめてる。初演では竹中直人が演じた役ですよ!)大森南朋、次男ならではのバランス感覚三浦貴大、ひねくれ末っ子森優作。とってもいやらしくてかわいかった。そんな彼らを池津祥子のような姐さんがどっしりしっかり支えたりイジったりしてくれたのは頼もしい。

舌を巻くのは、三兄弟の狂態の真意が明かされるラストシーンに言葉を使わないところだ。人妻に対して一種異様な態度をとる彼らは、彼女に何を映しているのか。ナイロン100°Cの『わが闇』で三姉妹がダバダをハモる名シーンを思い出したが、同じ時代を同じ環境ですごした者たちの間合いは、はたから見るとグロテスクに感じることもある。彼らのはしゃぎぶりは謎ですらあるが、台詞の端々に布石がある。それが、台詞の一切ないラストシーンで明言される。この気持ちの悪い鮮やかさ! 岩松了だいすき!(笑顔で)

生脚堪能の舞台でもあった。屋内の一場ものなので、登場人物はまず靴を履いていない。部屋着だったり、ジョギングウェアだったり(笑)。無防備な状態でいる住人たち=三兄弟のもとへ、清潔でよそいきな身なりをした人妻が訪問する。家政婦はご近所さんのうえ買いもの帰りだったりするのでストッキング等履いていない。日常にぱっと咲く花、口を開ける闇。その目まぐるしさに翻弄される快感に身悶えしつつ劇場を出ました。

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・朝倉の揚水車群│福岡県朝倉市
三連水車の里はこちら。かわいい。人妻が語る水車の様子は三兄弟が聴き惚れるほど瑞々しいものだが、この彼女の思い出にも疑惑が生じる。彼女は見ていない、体験していないことを美しく描写する術に長けている

・福岡・朝倉の「三連水車」、1カ月ぶり通水再開│日本経済新聞
2017年8月2日の記事、再開してよかったね。初演から再演の間に起こったこと。次男はあのあと水車を見に行けたのだろうか

・岩松作品の再演といえば『鳩を飼う姉妹』が観たーい

・観劇前にYOUNGでカレー食べたんですが(ウマイウマイ)、そこを出たとこで「本多劇場はどこですか…」とスーツケースをひいたひとに声をかけられた。まるっきり反対方向ですがな。しかも遠い。一緒に行ってあげられたらよかったんだけど、劇場行く前に寄るとこがあったのでなんとか口頭で説明したけど無事に辿り着けただろうか。駅周辺が変わってしまっているから道に迷うひとも多そうだな