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2018年03月21日(水)
高橋徹也『REFLECTIONS 2018』

高橋徹也『REFLECTIONS 2018』@風知空知


このあとふたりしてはあああ〜と感嘆のため息つきましたよね。いーやーここのバンドいつもすごいんだけど、その日の状況や環境、メンバーのコンディションから当日の天気迄“ライヴ”という作品にしてしまう力を持っている。

2004年にリリースされ、現在入手困難のアルバム『REFLECTIONS』。遅れてきたリスナーである当方、何度かAmazonで購入を試みるも入手出来ないままです。アラートも設定していて、「ご注文いただけるようになりました、在庫があるうちに是非☆」という通知がある度手続きしても「発送までしばらくお待ちください」というお知らせが何度か届いたあと、結局「やっぱり用意出来ませんでしたテヘ☆」みたいなお詫びが届くあのシステム、なんなんだろう…何度ぬか喜びしたことか……。タッチの差で他の誰かが先に買ったのなら購入手続き迄いかないと思うんだよねえ。

それはともかく。何故今? と思いつつも、『REFLECTIONS』の楽曲がライヴで聴ける機会が唐突に訪れたものだから、とても楽しみにしていたのでした。成熟どころかそのポテンシャルは天井知らず、コンビネーションの充実ぶりを見せつけてくれるバンドが演奏するわけで、所謂記念碑的な「再現」だけでは終わらないだろうという期待もありました。季節外れの冷たい雨のなか(昼過ぎ迄雪だった!)ウキウキ下北沢へ。

収録楽曲は全て演奏されました。ライヴで初めて聴く曲も多かったんだけど、発表された時代が反映されているなあという印象が結構あった。フュージョンやフューチャージャズ、クラブ/ビートミュージックの影響も感じられる。人力ブレイクビーツみたいなリズム展開のものもあってたまげた。勿論初めて聴いたのでタイトルが判らず、いつかアルバムを聴ける日がきたときのためにと必死に歌詞を追っていたんですが、これがまた奇跡のように「流石、音と言葉で絵を描く高橋徹也だぜ!」といいたくなるシチュエーションを呼び込みましたよ。風知空知にきたことがある方はご存知でしょうが、ここはサンルームのようなスペースがあるのです。後方に席をとると、所謂フロア部分とそのサンルームの境目の位置になるのですが、そこがまあ雨の音がすごい(笑)。雨の日にきたのが多分初めてだったもので、開演迄これはどうなるかなと不安に思っていたのです。幸いバンドセットの音は後方迄しっかり届いてくれました。そこへ件のブレイクビーツの曲。うわっ、こんなアレンジの曲があったんだ。脇山さんのドラムすごいな、スネアの残響が気持ちいい、なんて思っていたところ耳に飛び込んできた高橋さんの声、「窓の外は雨」。

もともと雨も冬も大好きだがこういうことがあるともーギャッハーとなりますわ。ちっちゃい声で「ぅぇ」くらいは口に出してたかもしれん。風知空知以外のライヴスペースで、バンドの音と、雨の情景を唄う高橋さんの声と、雨の音をいっぺんに聴ける機会はそうそうなかろう。サマソニでNINが演奏してるときどしゃ降りになって、ステージ後方で稲光が閃いたときくらいアガったな!

セットリスト(後述)からするとこの「ストレンジャー」と、その次に演奏した「夜の亡霊、夜の国境」がまーすっさまじかった。「ストレンジャー」のアウトロにあっけにとられ、拍手することにすら戸惑っていると間髪入れずに次曲のイントロへ。ここが最高到達点だ、と思ったときにはもうそこにいないよね…もっと先に行ってますね……このバンドが「新しい世界」や、この日演奏された「ユニバース」をレパートリーに持っているのって象徴的だ。上昇が続く。ようやく終わりが見えてきた、という気配とともに、弾けるように歓声と拍手が起こった。この二曲の流れは圧巻だった。

14年前の楽曲? 今のバンドのために用意されたかのようじゃないか。この編成で演奏されるのを待っていたかのよう……というか、高橋さんが「今のこのバンドで当時の曲をやったら面白いことになる」と判断したうえでの今日のライヴだったのだろう。MCで当時聴いてたジャズとかフュージョンに影響があると話していたが、『REFLECTIONS』収録曲は難物が多い印象だった。相当なスキルとジャンルレスな感覚を持ち合わせていないと、楽曲に演奏がふりまわされてしまうのではないだろうか。緊迫感あふれる演奏が続きましたが、面白いことにそういう展開になればなる程プレイヤーたちはリラックスしていくようで、笑顔も見られる。「おお、すごいな」と互いに思っているのだろうなあ。すると高橋さん曰く「見惚れて(聴き惚れて)しまってミスをする」(笑)。「おお、今日すごいな、って思った瞬間間違える」だって。皆さんすごかったのですが、レコーディングの際いなかったメンバー、イコール当時は存在していなかったパートでもある宮下さんの「曲が出来たときからいますけど何か?」とでもいうようなピースの埋まりっぷりったらありませんでした。普段はのばす音をカッティングにしたりして、本人も楽しみながらいろいろ仕掛けているよう。その度高橋さんがおっ、っとした表情になり、宮下さんに笑顔を向けるいい光景。

ちなみに「メンバーのクレジットはバンドに入った順なんです。だから年齢は脇山くんの方が上なんだけど、佐藤くん(sugarbeans)よりあとなんです」とのこと。「宮下くんのあとに誰も入らなかったら、ずっと球拾いだね」だって(笑)。うふふウチのバンドすごいでしょ〜もう大好き〜ってな様子が全開で、「脇山くんはほんとかっこいい」「佐藤くんは新しい風を吹き込んでくれて(これよくいってますね)」「俺鹿島さんの女性の好みとか服の好みがわかる、オリンピック見てるだろうな、カーリング見てるだろうな、あのーちなみさん?(吉田知那美選手)好きだろうなって訊いたらやっぱりそうで。服買いに行ってもこの服鹿島さん好きだろうなあ、この靴似合うだろうなあなんて思ってる」。もはやノロケですがな。

その鹿島さん、演奏の手応えが率直に挙動に顕れるひとのようにお見受けしますが、この日の後半は飛んだり跳ねたりノリノリであった。高橋さんが「春になるとおかしなひとが……調子に乗ったひとが出てきますけど、僕もそうで、足を怪我しちゃって」とのことで1〜2割は座奏だったのですが(控室からステージへの移動もたいへんなのでアンコールは本編からそのまま続けてやった)、その高橋さんの分迄と思ってのことかは判らないが、普段よりアクションが激しく感じられたのは気のせいか。佐藤さんも演奏を放棄して手拍子しまくったりしてましたが、その放棄も演奏の一部だわねえ。高橋さんも長い腕を拡げる、手をかざす。長身の彼が腕を伸ばすと、決して高くはない風知空知の天井に届きそう。夜空が近い。雨降りでも、その上には星空がある。バンドの現状を目(耳?)のあたりにしたよい夜でした。

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その他。

・『REFLECTIONS』が再発されないのは、通常のCDと8cmCDとの二枚組という仕様と、仮に一枚にまとめたとしても、曲目クレジットの印刷含めパッケージを流用出来ないからとのこと。印刷物のデータも残っていないそうで、やるなら一から作りなおさねばならないようです。権利云々ではなくコストの問題だとしたら、配信のみでもいいのでリリースしてほしいなあ

・控室にカポを忘れてきた高橋さん。「ギターケースのなかに……」との声を聞いてスタッフが慌ててとりにいく。何故か佐藤さんがカポを持っており、「さっすがあ」と受けとる高橋さん。控室からガタガタガサガサ音が聞こえる。あーまだ探してるよ……ようやくカポを手に戻ってきたスタッフ、「あ、大丈夫ですよー」と返されて事情が分からず困惑顔。「使わないの? 使わないでやるのかな?」と話してました(苦笑)

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・窓の外は雨 窓の外はスペイン│夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
そうか、ステージからだと雨の風景が見えたんだなあ



ちょっと! 動画公開! えらいこっちゃ。chinacafeさんのツイートにもあるように、現在ブートでもないと聴ける環境がない楽曲なのです。仮にブートがあったとしても、そういうのをわざわざ探して聴くような輩は既に高橋徹也を知っているひとでしょうしね……これをきっかけに彼を知るひと、楽曲に興味を持つひとが増えるといいな

よだん。動画でもちょっと映ってますが、この日の衣装はパリッとした白いシャツ。たいそうお似合いだったのですが、隣のひとが「ユニクロの店員さんみたい」といっててウケた