初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2018年02月17日(土)
ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』

ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』@東京芸術劇場 シアターイースト

やあやあ、これを観た翌日に喪服で飛行機乗って(日帰りだったんで)父親の五十日祭というなんともハイバイめいた休日でした。法事〜納骨がまたなかなか面白く(とかいうな)…骨壷が大きかったのか墓に入らなくて、神主さんが「入りませえん!」とあたふたしたりな……その後叔父たちが手伝ってなんとか入れた。いい天気で、翌日は土砂降りだったとのことで「一日遅れてたら神主さんの装束が汚れちゃっただろうねえ、昨日でよかった」などと話したり。というわけで(?)虚構と現実が入りまじるあまり(劇中お父さんがいくクラブのシーンを連想してください)自動書記になり、思いつくままつらつら書きますのでご了承ください。

そんなこんなでなんというかいろいろと実感が伴いすぎて地獄であった。ひきこもりという言葉も、もう珍しくないというよりもはや聞かない。外の世界に出ていくということは? 家族の庇護とは、ひとが生きていける社会とは? 2012年の初演も相当なヘヴィー級だったが、そこには「PARCOでこれを?!」という驚きも含まれていた。よそいきの服を着たハイバイが、街とひとに馴染めず、それこそ数年ぶりに外出した主人公のように吐きそうになっている…ようにも見えた。今回の上演の方がハイバイのホームに近いかな……とは思うものの、今だからそういえること。どちらの公演も忘れがたいし、今後もずっと頭のなかにあるだろう。たとえばよそいきの服で出かけたPARCO劇場があの暗闇で満たされたとき、どれだけ寒々しくぞっとしたか。初演ではそれなりにウケていたタンコブの表現やロン毛にパンツ一丁の姿に、クスリとも笑えないグロテスクさを感じたか。

肯定と否定と。そのどちらを選択するかは自分が決めること。助言、提案、停滞、さまざまな援助がある。外に出ることが果たして前進か、あるいは後退になるか。どちらにしろ、もう戻れない。ただ、そこには可能性がある。外に出ないまま、停滞を選んでいても時間は流れる。現状維持は永遠ではない。いずれ保護者はいなくなる。そのときどうする?

可能性を信じてみよう、とこの作品は示す。選択肢が増えるよ。ただ、自分に合うかはわからないということも並列に示す。隠さない。ごまかさない。そこに誠実さを感じる。再演にあたってそのやりきれなさは、より強くなっている。当日パンフレットに記された岩井さんの言葉によると「こんなに本番に向かってもんやりしているのは初めて」とのこと。それ程、この五年半の間に世の中(日本が? 世界が?)の流れが決してよい方へ向かっているとは思えないということか。大きくくくれば人類の未来はひたすら暗いわけだが、それを嘆いてばかりもいられないのだ。同じく忘れがたい岩井さんの言葉。「僕は幸福だと言わなくちゃ『いけない』ので幸福だと言います」。答えは出ない。出せない。ただ、停滞をよしとしない。それは自分たちが、どうやっても人間社会から離れて生きていけることは不可能だからだ。

なんだか90年代の鈴木勝秀作品を思い出してしまった。物理的な孤独はあり得ない。ジャングルの奥でひとりでくらしますか。どこ迄ドライに、そしてシンプルに表現するかということでもあり、それは誤解を生みやすい。描き方の違いだ。観たばかりだからというのもあるけど、『スリー・ビルボード』に通じるものも感じた。ものごとにはさまざまな側面がある。どちらから見るか、どの面が自分にとっての正解か。そもそも万能の正解なんてものはどこにもない。

暗闇の使い方は岩井演出の専売特許といいたい程に雄弁。今自分が生きているこの世界自体がホラーなのだと感じさせる。そうなると面白いことに、こんな世界で生き抜いている自分って結構タフじゃね? と力が湧いてきたりもするのです。同時に、どうしようもなくなったらあの暗闇に足を踏み入れていけばいいんだとも思える。なんだかワクワクするじゃないか。演者も素晴らしかった。古舘寛治、チャン・リーメイ。何公演か古舘さんの役を松井周が演じたそうですが、それも観てみたかったな。

-----

よだん。

・この日は平昌オリンピック、男子フィギュアスケートのフリーが行われる日。羽生選手の出番が13:45くらいから、とのことだったので、Wi-Fiが通っている芸劇の地下広場で中継を観てから入場、14時開演のマチネを観ました。丁度いいタイミングだったよな…そして便利な世の中に……他にもそういうひとが何人かいたようでしたよ

・ちなみに法事で帰るときの飛行機、サンドウィッチマンと一緒だった。こういうとこもなんかハイバイめいてる……。日向市のお笑いフェスにご出演だったようです。ちなみに飛行機は整備不備のため遅れに遅れ、宮崎着は11時を過ぎていたので第一部には間に合わなかったのではないかと思われる。こんな遠いところ迄来てくれて有難う、地元の子たちうれしかったろうなあ。なんか感激した……