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2016年12月17日(土)
『ワレワレのモロモロ 東京編』『毛美子不毛話』

ハイバイ『ワレワレのモロモロ 東京編』@アトリエヘリコプター

出演者が体験した「こいつはヒデーぜ!」というできごとをお芝居にしちゃいましょう。岩井秀人が全国各地で「私演劇作家」を育成するワークショップを行っているシリーズが東京にやってきました。作り、演じるのはハイバイの面々とゲスト出演者。8本のヒデー話。

ひとつひとつのお話は、もーつらいやらしんどいやらでも笑えるやら、いや、笑わないとやってられないやらといったテイで描かれる。心にしまっておきたい、他人に話すにはつらい、恥ずかしいともいえるそれらの体験を表に出し、観客とともに笑う作品でもある。セラピーともいえるし、昇華ともいえる。自分のことを考える。話して笑えるところ迄持っていけるだろうか。話したことで楽になるだろうか。

そして鷺沢萠のことを思い出す。祖母に「おばあちゃんのことは、もうよしとくれね」と言われ、そのことをまた書き、書いたことで苦しみぬいた彼女のことを。表現は諸刃の剣だ。

ハイバイの面々は笑えるところ迄もっていく。辛抱強さすら感じる。勿論作者本人の強さもあろうが、ここ迄もっていけるひとが周りにいることは劇団、集団の強みでもある。言葉にすると陳腐かもしれないが、仲間がいるっていいなとも思った。しかし仲間だからこその過酷さが現れたのが永井若葉の作品。ハイバイはこういう演出家を否定するところから始まっているのだと勝手に思っていたので衝撃だった。

何故そう思っていたかというと、このインタヴューを読んでいたから。岩井さんはこの教授のことをあらゆるところで話しているし、この記事でも「アイツの罪を知らしめることができたし、笑わせることもできた」ことがうれしかったと話しているのだが、その矛先を今回自分に向けている。「アイツ」が岩井さんなのだ。そしてハイバイを観てきているひとで、「アイツ」に岩井さんの「あの父親」を連想するひとも多いだろう。そこ迄ぐるりと見越している。怖いし、すごいなあと思う。

岩井さん自身の作品は、本人ではなくどなたかの体験を聞くか知るかして、岩井さんが「こいつはヒデーぜ!」と思ったものであるようでした。それもあってか8本のなかでは異質であり、しかし最も作家の力量が出るものでもあった。見せる。演出でいちばん感銘を受けたのは上田遥の作品。理不尽な旅の最終日、タイをドライヴするあの色彩。バイクのヘッドライト、街の灯り。ハイバイの真骨頂ともいえる、幻想的なのに悪夢のような光景。

漫画喫茶の「人間の部分が殆どない」ひとを観て、「売れて“は”いない」役者を観て、大笑いし乍ら、ひたすら祈るような気持ちになる。オモシロの追究が集団を破壊しませんように、彼らの心身を破壊することがありませんように。そして、それを観たいと思う自分に罪悪感を覚える。何故自分は笑えるのだろう。当事者ではないから? 客席が安全圏だと思っているから? 直接引導を渡すのが自分ではないから? ハイバイの作品を観るとき、いつもそれを考えている。

余談。『クレシダ』が上演されたとき、平幹二朗演じる指導者が若手役者に「(語尾を)下げるな、上げろ!」と指導するシーンがあった。それを観た蜷川幸雄に近しいひとや、ネクストシアターの役者たちが口々に蜷川さんを思い出して……と語っていた。岩井さんが「上じゃなくて下に向けるんだよ!」「母音で勝負しろよ!」と指導するシーンに笑ってしまいつつ、これはどこかに対するめくばせなのかしらねーと思いもしました(苦笑)。

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Q『毛美子不毛話』@新宿眼科画廊 スペース地下

合皮のパンプスばかり履いているワタシは、本革のパンプスを買おうと出かけた街でワタシに出会う。そのワタシは裸足、本革とは自分の皮膚のことだという。ワタシとワタシは思春期に、腋毛を永久脱毛したワタシとしなかったワタシに分裂していたのだった。ワタシは巨乳を願い、ワタシの巨根は胸の高さに迄屹立し、ふたりのワタシは街をさまよう。

武谷公雄vs永山由里恵、ゴジラ対モスラか。ワタシとねんごろになる上司、裸足のワタシ、巨根のワタシ、ワタシにパンプスを売りつける中国人、その中国人がマネジメントしている(?)歌手。なんかこんがらがってますが武谷さんはめくるめく万華鏡な七変化で永山さん演じるワタシを翻弄します。とはいうものの、永山さんもそれにツッコむこともなく対抗することもなく、ひたすら武谷さんの怪演を呑んで呑んで呑み込みまくるという怒涛の吸収率。地獄かここは。Qの主宰、作・演出は市原佐都子。次作も是非観たい。

平行線のふたりは、やがて分裂したまま街にまぎれていく。シーンごとに語られるワタシのリフレインが、催眠術のようにも聴こえてくる。そうやって都会で生きていく。

いやー、いいもの観た……(呆然)。そして以前「武谷さんてヨシダ朝さんに似てる、私服のセンスも」と話したことがあるんだけど、今回の怪演を観てますますその思いを強くした次第。本名の吉田紀之時代ね。武谷さんはそれプラス、下ネタの生々しいエグみが宇宙へ突き抜けていくような素晴らしさでした。

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ハイバイもQも青年団が源流だからか、もらったチラシの被ってること被ってること やー、濃い二本でございました。