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2016年02月19日(金)
『僕のリヴァ・る』

『僕のリヴァ・る』@新国立劇場 小劇場

スタッフクレジットの「票券」欄でよく目にしていた制作会社る・ひまわりが、タイトルに「る」を配したシリーズ作品の上演を始めたのは三年程前から。縁がないと思っていたが(それこそ本公演パンフレットで小林且弥さんが仰っていたように「交わることのない」ものだという印象を持っていた)、この度観劇する機会が巡ってきた。というのも、上演台本・演出が鈴木勝秀だったから。

タイトルと「三本の独立した兄弟の物語で構成されるオムニバス形式」というのは企画段階で決まっていたそうだ。オファーを受けた演出家がとりあげたのは、オリジナル短編「はじめてのおとうと」、三好十郎『炎の人』から構成した「フィンセントとセオ」、アルトゥール・シュニッツラー「盲目のジェロニモとその兄」(『花・死人に口なし』所収)から構成した「盲目の弟とその兄」。プロローグとして「前説」がつく。この前説、かなり親切なもの。事前情報だけでなく舞台上からも出典を明らかにする配慮がなされている。今ならではの過敏にも感じるが、ゲームをはじめるにあたってのルール紹介と考えると納得も出来る。先入観を持たせないことより、作品により早く馴染み、没入出来るようにすることこそ重要、という提示とも言える。鈴木拡樹と山下裕子は軽妙なトーク調で親しみやすい導入を用意してくれた。

さて始まってみればバリバリ鈴木勝秀印。四方を客席で囲む舞台はスズカツさんがホームと称していた青山円形劇場を思い出し懐かしくなる。しかしここは違う劇場、同じわけはない。舞台は対面式の客席を分断する形で中央に。客席二面は舞台と地続き、残り二面はバルコニー席から見下ろす形。この変則的な配置、観る方からするとかなり面白い。確実に死角が出来るからだ。その死角を想像するもどかしさと楽しさは、一度体験するとクセになる。やる方はどうだろう? 自分が意識していない箇所を観客に発見される緊張感は常にあるだろう。余談だが、青山円形劇場で一度でいいから体験したいと思っていた視点があった。スタッフや関係者がいる客席上のフロアは、完全に閉じられた円環を見下ろすことが出来る。役者がつくろうことは出来ない頭頂部を見ることが出来る。それはまた、客席とは違う登場人物の一面を見ることが出来ただろう、と羨ましく思っていたものだった。

閑話休題。舞台と対面式の客席はほぼ地続きだが、境界はある。演者は客席から入退場し、観客とコミュニケーションをとる。しかしその境界――コンテナを思わせるスケルトンをくぐると、演者のモードが変わる(ように見える)。演者に役が降りた、という錯覚に陥る。実際観客をいじり乍ら客席内を歩く役者はとても親しみやすく、愛らしさすら感じる若者そのものだ。しかしコンテナのなかに入った彼らは、自分の才能を信じきれず精神に異常を来していく画家として、あるいは負わされた傷により甘えたい気持ちを罵りでしか表現出来ない弟として生きている。兄弟は肉親であり、タイトルにあるようにリヴァルであり、お互いに損得、負い目、贖罪と言った複雑な感情を抱きつつ、他人に対するそれと同じように処することが出来ない。そのやりきれなさともどかしさがこの舞台にはあった。

照明の妙も活かしたモノトーンの装置(二村周作)と照明(倉本泰史)、ラインの美しい衣装(西原梨恵)、雨とホワイトノイズを思わせる音響(井上正弘)。「フィンセントとセオ」はゴッホとその弟の話だが、そのパートは一転色彩鮮やか。視覚的にいいアクセントになっていた。しかし舞台上にあるイーゼルにキャンバスはない。フィンセントが絵筆から咲かせた原色の世界に、観客は想像を巡らせる。そして音楽。oasisの「Champagne Supernova」、Louis Armstrongの「Hello Brother」の客入れにはじまり、大嶋吾郎によりアレンジ、リレコーディングされたPink Floyd「Wish You Were Here」。スズカツさんの世界だなあと思う。身長差のあるふたりの役者を向き合わせる、あるいは背中合わせのタブローとして見せる。観ると懐かしい気持ちにもなり、同時にほっとリラックス出来る。

四人の役者のコンビネーションも観ていて楽しかった。安西慎太郎、鈴木拡樹は確か舞台では初めて観るが、まずそのスキルの高さに唸る。翻訳調の整った言葉で書かれるスズカツさんの台詞に振りまわされない若手を見たのはほぼ初めてだったと言っていい。テンポ、リズムも自在で、ここぞという箇所での笑いも逃さない。常に舞台上での評価を求められる、プロ意識の高い現場にいるひとならではの強さと言おうか…しかしそれをガツガツ見せない大らかさ、度胸のよさも感じる。支持が高いのも納得。安西さんは春に『アルカディア』で観るのが楽しみになった。鈴木さんのゴッホは出色。

グッと惹かれたのは小林且弥。巧さもさること乍らなんというか、一見して「あっこのひとのたたずまいスズカツさん好きそう」と思った(笑)。前述したスズカツさんの整った言葉を、こう語ると面白いんだなと新しい発見もさせてくれた。日常会話ではおおよそ使わないであろう「俺を辱めるのはやめろ」なんて言葉を赤子が滑舌良くいうとこんなに笑えるんだな、とかね。声のトーンがまたいい。他の舞台でも観てみたい、と思わせられた。「交わることのない」がチャラになったことは、自分にとってもラッキーなことだ。またスズカツさんと組んでほしいな。おたくなことを言うと彼の演じるエンドウを観てみたい。そしてそんな身長188cmが着るロンパース(風衣装)はみものであった(笑)。

そして山下さん! スズカツ作品で観るのはそれこそ『祈る女』以来で、演出作品で観るのは初めて。長生きしてみるもんだ。同じ釜の飯を食った仲ともいえる間柄のやりとりが想像されて勝手に感慨深くなる。まっとうな優しい言葉をうさんくさくならず聴かせるその声に魅了された。このカンパニーに彼女がいてよかった。

カルテットで奏でたトリロジーのあたたかさ、だいじに憶えておきたい作品。シリーズ化される可能性もあることなので、またの機会を期待して。以前スズカツさんが企画したリーディング『シスターズ』を、役柄は変えずに男優で演じても面白いだろうな。

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その他。

・パンフレット掲載の座談会、山下さんがバラす(笑)劇研時代のスズカツさんの話が面白くてなあ……有難う山下さん!
・山下さん以外の出演者三人が揃って「スズカツさんは怖いイメージ」「大御所だと…」と言っていたのも面白かった…そう思われているのか……
・当方のスズカツさんの怖いイメージって2000年くらい迄なんだけど、若手には何か伝説でもひろがってるんだろうか。蜷川さんみたいに灰皿投げるイメージがどこかからついてるんだろうか

・客入れからしてノエルとリアムのことも考えましたよね! 特に「盲目の弟とその兄」、お兄ちゃんの堪忍袋の緒はいつ切れるのか的な……そこにつけこむ弟の甘え上手と言おうか試してる感と言おうか
・そんなこんなで(?)oasisはお兄ちゃん次第だろうと思っているが、実はギャラガーさんとこは三兄弟なのだよ。「あの『バス』に乗ろうとは思わなかった」長兄がいてこれまた複雑なのよね
・まあ、ここは、いろいろと傷が深い…思うところありすぎてせつなくてのたうちまわりたい……

・「はじめてのおとうと」で使われた人形、私の席の位置からは開いた口の形がマズルに見えてですね。ぼのぼの……? と思っていた。リバイバルきてるしタイムリ〜なんて思っていた
・帰宅後舞台写真を見て口だったと知る(リンク記事参照)
・この辺りの演出は『偶然の男』を思い出してしみじみしてました。『偶然の男』好きだった〜また観たいよ〜

・余談。昨年スズカツさんの演出作品は全部ではないけど観てはいるんです。しかし感想一本も書いてないんですね。深い意味はないんですが、上演台本が、とか演出が、とかとは関係ない、制作面についていろいろ考えることもあり
・今回の公演は話題性も注目度も高い公演だったようで、前売り完売後に追加公演が続々発表になったり、初日前にチケットの転売や譲渡に関して注意のメールが届く程でした。自分よくチケットとれたなとビビった……
・で、まあ、KERAさんの言葉を思い出した。公演を観たいという動機はさまざま、その全員が公平にチケットをとれるシステムとは、という。観ることが出来てよかった

・『僕のリヴァ・る』スズカツ×安西×鈴木&more 鼎談+稽古場レポ Theater letter 03/最善席
・公開舞台稽古フォト&キャストコメント|観劇予報
・公開ゲネプロ動画 | エンタステージ

・舞台稽古|THEATERCLIP
・兄?弟?思わず混乱!安西慎太郎、小林且弥、鈴木拡樹の兄弟関係『僕のリヴァ・る』インタビュー<PART 1>|THEATERCLIP
・安西慎太郎、小林且弥、鈴木拡樹、兄弟という「血」を考える『僕のリヴァ・る』インタビュー<PART 2>|THEATERCLIP
・安西慎太郎×鈴木拡樹×小林且弥インタビュー<ダイジェスト動画>|THEATERCLIP