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2016年02月13日(土)
『同じ夢』

『同じ夢』@シアタートラム

個人的には待ってました赤堀さん、という思い。ひとりの劇作家の作品を観続けていると、その作品を通して作家自身の内的世界に迄想像を巡らせることがある。何を思って今これを書いたのか。どういう環境にいるからこう書いたのか。扱われるモチーフ、書かれた台詞と、その奥にある語られなかった言葉。作家自身への興味とも言えるが、結局それは作品への興味に尽きる。描かれる世界が拡がり、劇場のサイズが大きくなる、それに応じて演出手法が変わる。技術があるので「見せられる」ものは書ける。出演者やスタッフとのコミュニケーションもとれる。観てよかった、と思わせられて劇場をあとにする。それでもときどき思う。このひとが書きたいものは何だろう? 見つめていたいものは何だろう?

積み重ねられる会話によって、登場人物の背景が少しずつ明らかになっていく。説明をいかに説明とせず台詞に織り込ませるか。舞台上には現れない人物、ものごとがいかに彼らに影を落としているか。ひとはどこ迄寛容になれるか、あるいは優しくなれるか。許せるか、あるいは、諦められるか。ときに重大な告白がもたらされるが、彼らはそれに応えることが出来ない。波風は静かに起こり、時間は漫然と過ぎる。それでもその波は、彼らにちいさな決意をもたらす。赤堀さんの作品を観ると必ず思う。正しいことって何だろう? そして、正しいといわれることはそんなにだいじなことだろうか? 正論を、正義をふりかざす人間を前にすればする程、心が閉じていく感覚を、どのくらいのひとが葬り去ろうとしているのだろう?

時間が解決することと、時間を経たからこそこじれてしまったことと。被害者と加害者の関係はグズグズで、タチの悪い従業員は居着いたままで、ホームヘルパーは老人の悪癖を拒絶出来ない。全てが「仕方がない」。では何故ヘルパーは飲み会に出席したのだろう? 従業員は老人の部屋で何をしているのだろう? 来客にふるまわれるコロッケやケーキ、肉屋の店主が特別につくったポテトサラダ。場をもたせる、時間を稼ぐためだけに用意されたちいさなものに、ある一瞬心が宿る。そして最後に判明する靴下の行方。救いにすらならないが、それはちいさな光だ。赤堀さんが描くものにはそれがある、と久しぶりに感じた作品だった。

役者の力も大きい。麻生久美子は低めの声で、受け応えのバリエーションも豊富だ。その声には常に影があり、心に溜め込んだ鬱屈がにじみ出る。声の魅力といえば田中哲司。気のいい文房具屋がときおり見せる冥い穴。他の登場人物が知らないこのふたりのやりとりは共犯関係でもあり、危うい支配・非支配の関係になりうる。綱渡りのようなバランスを見せきる、髪の毛一本ほどのニュアンスが素晴らしい。ふたりのシーンは息もつけない緊張感。一方麻生さんと大森南朋のやりとりは弛緩で見せる。あのだらしなさ、おーもりさんの地なの? と思わせられるくらいでこれまた素晴らしい(笑)。なんていうかああいうの絶妙ですよねおーもりさんて。仕事きちんとやってるのにやる気なさそうに見えるっていう…ある意味損かもしれないが、こういう役を演じるときにはドンピシャですわ。

光石研は不器用な男の純情をこれ以上ないさじ加減で演じる。決死の告白の腰を折られ、直面した深刻な事態に立ち向かえない、表情と仕草。忘れられない。赤堀さんは社会にいなくていい人間が生きていく根拠を探し続けているように感じられる。そしてそれは、必ず肯定へと着地する。意地とも矜持ともいえる、ダメなひとへのとことん優しい視線。あと食事を餌に見せる能力がズバ抜けてる(ほめてる)。このカンパニー唯一といっていい「若者」木下あかりは大人をふりまわしたいのに踏ん切れない、あるいは抑圧されてきたからこそ爆発してしまう思いをまっすぐ演じていてとても素敵だった。杉山至の美術、坂東智代の衣裳も見事なうらぶれ感っぷり。最高。

単に「自分の好みだった」というだけかもしれない。それでも自分はこういう赤堀雅秋の作品が観たかった。このキャストが揃うからこそ、こういう作品が観たかった。とても嬉しい。千秋楽にもう一度観られる。待ち遠しい。

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その他。

・哲司さんがはりきってる。というかやっぱり頼りになる
・てか哲司さんと光石さんが舞台で共演するのってスズカツさんの『動物園物語』(初日楽日)以来だったのね。うわー感慨深い……
・というのも、今回哲司さんの長台詞にジェリーのそれを思い出したりもしたのです。明るくいい加減に世間話をしていて、突然「殺しちゃうから」という言葉が出てきたときのゾクッと感
・登場人物のなかでいちばん理屈がたってて、ひとあたりよくて、おせっかいで、仲介者としての能力が高い文房具屋。「見たことを見なかったこと」にして、それをナイフのようにちらつかせる怖さも持っている

・自作に役者として出演する赤堀さんを、THE SHAMPOO HAT以外で観られたことも収穫
・これも哲司さんからの言葉が大きかったようで、そういう意味でもこの座組に哲司さんがいたことはデカい

・歌。皆さんどこ迄下手に唄おうとしているのか、それともホントにいまいちなのか測りかねる…そういう意味でもあの歌は素晴らしい(笑)

(20160224追記:使用曲について新たに分かったことなどを、こちらに書きました→『同じ夢』2回目

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