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2015年02月10日(火)
『NICK CAVE/20,000 DAYS ON EARTH』

『NICK CAVE/20,000 DAYS ON EARTH』@シネマカリテ スクリーン2

休日前とは言え平日レイトが盛況。根強いファンはまだまだいる…わたくしもそのひとりです。

「ニック・ケイヴの生誕20,000日目」を描くメタ・ドキュメンタリーと言えばいいのだろうか。朝目覚め、タイプを打つ。「起きて書いて食べて書いてテレビを見る」。精神科のセッションを受け、レコーディング(『Push The Sky Away』時のもの)に励み、自身の“記録保管所”を訪れる。各所を車で移動する間、助手席や後部座席にかつて交流があった人物が乗り込んでくる。彼らはニックの深層心理に答えるかのように語り出す。

ニックが対話をするのは精神科医のダリアン・リーダー、記録保管所の面々、長年のバンドメイトであるウォーレン・エリス。そして車に乗り込んでくるのは、『プロポジション 血の誓約』に出演したレイ・ウィンストン、“魂のあざみ”ブリクサ・バーゲルド、そしてカイリー・ミノーグ。ウォーレンの自宅は実際の彼の家ではなく、記録保管所も架空の場所。しかしダリアンとの対話はニックが率直に語るインタヴューでもあるし、メルボルンには“ニック・ケイヴ・コレクション”なるものが実在しているそうなのだ。冒頭と終盤に現れるニックの家族は実際の妻と息子たち。そして車中の対話は、脚本のない一発撮り。台詞ではない言葉に本音が紛れ込み、カメラの前にいる人物たちは何かを演じてもいる。パンクの出自を持つ者が地元の偉人としてコレクションされる皮肉。その状況を苦笑し乍らも楽しんでいるような客観、それらコレクションに宿る主観。

ニックが脚本を書いた『プロポジション』に出演したレイだけは、外部の色が濃い。虚構と現実の境界へ最初に乗り込んでくる人物として、役者でもある彼は適任だった。ブリクサの極めて現実的な脱退理由、ニックをカイリーと結びつけたマイケル・ハッチェンスのエピソードが心に残った。カイリーは「あのライヴで彼は私を見ていた、そう思った。それは観客皆が思うこと」と言い、ニックは「私はライヴ中、意図的にひとりの人物を選んで見つめる、そして唄う」と言う。マイケルは1997年に亡くなった。

ステージに立つニーナ・シモンが変貌するさまを少年のような表情で語るニック、妻よりおまえと食事している回数の方が多いとぼやくウォーレンに苦笑するニック、バンド脱退の理由を語るブリクサの言葉を拗ねた子供のような顔で聴くニック、華やかな時間を共にしたカイリーとの思い出を、懐かしむように聴くニック。セッションでは語る側、車中では聴く側。ステージであれだけ凶暴な姿を見せる彼が、母親へ「Mum! Our Single has been Reviewed!!!」と書いた無邪気な手紙(ちなみにレヴューを掲載したのはNMEだったそう)。この手紙は実際母親に送られたのだろうか? と思うのも束の間、映し出される幼少の写真(これがまたかわいらしく今とのギャップがすごい)に客席から笑い声が漏れる。虚構が現実を侵食していく。或いは現実が虚構へと歩み寄る。そうして積み重ねられたシーン群が、クライマックスのライヴシーンへと集約される。あの熱狂の、創造的な世界へ。

終映後しばらく呆然とし、席を立てなかった。そしてすぐに、またこの体験がしたいと思う。この映画をまた観たいと言う思いと、ニックのライヴをまた観たいと言う思いと。ニックが最後に日本でライヴをしてから(あのフジね……)十七年(!)経つ。今回この映画が日本で公開されたことは、どんな意味を持つのだろうなどと考える。正直、DVDスルーだと思っていたのだ。非常にチャーミングな映画ではあるが、近年の映画脚本/音楽家としてのニックを知りたくて来たひとには不親切なつくりだ。一方、アーティストとしての彼を長年愛してきたひとには感涙ものの内容だ。今、日本で彼の認知度はどうなっているのだろう? しかし映画は公開された。入りもいい。再び彼が日本にやってくることを祈り、彼の作品を愛し続けよう。

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その他。

・ライヴシーンは勿論、レコーディング風景がよかったわー。普段見られない光景だもの。邸宅でピアノを弾き乍らメンバーに指示を出すニック、慣れないこどもたちの指導(?)をウォーレンに任せるニック。格好いいやらかわいいやら
・こどもと言えば、双子とテレビを見乍らピザを食べるニック…何故かぎこちなく見えてしまいこれまたかわいいやらなんやら。そしてルークのことを思い出すやら
・あのー強烈に憶えてることがありまして、幼少のルークがおしりを犬に噛まれたときのニックの様子がロキノンのインタヴュー頁に書かれてたことがあってね……

・ポスターやらフライヤーやら散々見て楽しみにしてたのに、本編始まってから初めてニックの車が右ハンドルだと気付いた
・「80年代のことはよく憶えてない」って言ってたのが然もありなん。おくすr(略)

・ミック・ハーヴェイとのことも突っ込んでほしかったけど、まだ時間が必要なのかな。でもスペシャルサンクス欄にしっかり名前入ってて(そりゃチェックしますわよ!)嬉しかった。と言えばPJハーヴェイのこともな…ふたりのハーヴェイ
・車、カイリーとくると映画としてはやはり『ホーリー・モーターズ』を思い出しちゃったり。しかしカイリーとの共演ってやっぱりエポックだったんだなあ…しみじみ

・GrindermanのギタリストWarren Ellisの嫁はDelphine Ciampi (岸恵子の娘)なんだって。ヤマ
当時は驚いたものだった。しかもその情報をヤマジのツイートで知るとは(笑)

・ウォーレン・エリスは(中略)パリジェンヌの嫁とパリ住まいですw
と言うわけで作中出てくるウォーレンの家は、シーフォードの沿岸警備隊員のおうちだそうです(笑)このロケーションよかったねえ