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2015年01月03日(土)
『私の生涯で最も美しい一週間』

『私の生涯で最も美しい一週間』(DVD)

ファン・ジョンミン出演作。原題は『내생애 가장 아름다운 일주일(私の生涯で最も美しい一週間)』、英題は『All For Love』。監督は『20のアイデンティティ』の「秘密と嘘」(これ面白かった!)を手掛けたミン・ギュドン。2005年作品で日本未公開(ソフトリリースもなし)なのですが、福岡市総合図書館フィルムアーカイヴに所蔵されているそうです。福岡か…と思っていたところ(笑)、運良く本国盤のデラックスエディションを入手出来ました。英語字幕で鑑賞。

六組のカップルの一週間。曜日ごとに映し出される縺れた毛糸のアイコンのように、それぞれがそれぞれにちょっとずつ関わっている。それを当人たちは知らないまま。楽しいことがあり、悲しいことがあり、週末に笑顔が訪れる。カップルは男女であったり、男同士であったり、大人の男と少女であったり。新婚だったり、恋愛に発展するのか微妙な間柄であったり、お互いを理解しあえる孤独な人物同士であったり、と関係もさまざま。豪華キャストによる多重ストーリーで、宣美を見ても『ラブ・アクチュアリー』からインスパイアされた企画なのだろうと思われますが、これがよく出来ている。オムニバス形式にはせず、登場人物たちの交差点をストーリーにさりげなく組み込んでいくテンポがよく、全く時間の長さを感じませんでした。最後がちょっと駆け足に感じたので、もっと長くてもいいくらい。

共通するのは、皆が不器用なところ。週の前半は、登場人物同士の反発と、彼らが直面する苦難が描かれます。フェミニストの精神科医とマッチョな刑事は惹かれ合っているのにすぐケンカになっちゃう。映画館のオーナーは付属施設の喫茶店主と仲良くなりたいけど、彼女を解雇しなければならない。ラブラブだけど経済的に追いつめられている夫婦。元バスケットボール選手のでっちあげドキュメンタリーを制作し、再起へとハッパをかける放送作家。精神科医の勤める病院には心に傷を負ったアイドル歌手とシスター見習い、バスケット選手の娘とされる難病の少女が入院している。精神科医の元夫はやり手の実業家。息子とうまく関係を築けず、ハウスキーパーに来てもらうことにする。

精神科医と刑事がデートに出掛けるのは映画館。バスケット選手は現在サラ金会社に勤めていて、貧乏夫婦に取り立ての電話をかけている。実業家はフラジャイルな心を持ち、薬物を常用している(恐らくその流れで精神科医と出会ったと思われる)。彼はハウスキーパーにある感情を抱き、それに困惑もしている。シスター見習いは信仰と恋愛の挟間で罪悪感に苛まれる。

週の後半は彼らが新しく踏み出す一歩を描きます。登場人物たちは言葉も交わさず、顔も知らないままの誰かにちいさな影響を与えることになります。幕切れ、彼らに浮かぶ表情は笑顔。しかしその笑顔にはさまざまな心情が込められている。生きることの愛おしさに満ちた作品でした。やー、『ゴーン・ガール』のあとに観たから「人間っていいとこもあるよネ! 生きるって素敵なことネ!」て思えてよかったわ(笑)。オードリー・ヘプバーン主演作の数々、『風と共に去りぬ』と、往年のハリウッド映画への愛と憧れが滲んだエピソードにもにっこり。映画館主が喫茶店主に思いを伝える方法には、ベタだわあと思いつつもほろりときてしまった。

アイドル歌手とシスター見習いのエピソードに、グレアム・グリーンとよしながふみ作品がモチーフかなと言うものがあってほおおとなりました。アレンジが巧いと言うか…グリーンはともかく、よしながさんの方は『西洋骨董洋菓子店』の単行本がわざわざ? 映る場面もあるから意識的ではないかなあ。気になって調べてみたら、ギュドン監督はこの作品の三年後『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』映画化を手掛けていたので、縁があったのかも(後述のリンク参照)。

ちょっと気になったのが実業家とハウスキーパーの関係。ハウスキーパーは男性です。実業家がハウスキーパーに好意を持っているのは間違いないのですが、それは恋愛感情なのか? 描写がすごく微妙なんです。最初はスキンシップが濃いお国柄だからかなとは思っていたのですが、それにしては…と言うシーンが結構あって。全編通して台詞が多く、英語字幕を追いきれなかったので、会話には出ていたのかなー。特典ディスクに収録されていたカット場面には、ふたりのキスシーンがありました。監督のインタヴューも収録されていて、このシーンについての言及もあるようなんですが、特典映像には英語字幕がついておらずお手上げ(…)。恋愛感情抜きでも成立するエピソードではあるのですが、ゲイカップルは物語に組み込みづらいと判断され、何らかの変更が加えられたのだとしたら残念。ポスター等の宣美もこのふたりだけ蚊帳の外って感じになっているし、舞台挨拶や関連イヴェントにも出てないのが気になるなー。

と言えばバスケット選手と放送作家の仲も、途中から選手と娘の関係に重点が置かれる流れになっていた。エピソード同士の影響を考えてなのか、たまたまそうなったのかは判らないけれど、最終的には恋だけでない愛情のかたちを描くところに着地したのかな。そうそう、子役ふたりが鬼かわいく鬼巧くて唸りました。

ジョンミンさんはマッチョ刑事の役。『ユア・マイ・サンシャイン』『浮気な家族』ネタが盛り込まれた(ような)シーンがあってウケた。デートで観てるのは自分も出てる『甘い人生』だし、その映画館には『チャーミング・ガール』のポスター張ってあるし(笑・本編では気付かなかったけどメイキングで確認)。精神科医役のオム・ジョンファさんとは『ダンシング・クィーン』での共演が記憶に新しいところですが、いいコンビですよねえ。こういう、他出演作のモチーフが盛り込まれたり、本人が本人役(名)の作品作っちゃったりと、映画産業が盛んな国ならではなのかなと思いました。

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その他メモ。

・輝国山人の韓国映画 ミン・ギュドン 私の生涯で最も美しい一週間
データベース等。いつもお世話になっております……

・177.私の生涯で最も美しい一週間 : なめ犬のとことん韓国映画
人物相関図や各ストーリーの紹介もある素晴らしいレヴュー

・「アンティーク」のミン・ギュドン監督 インタビュー - TacoToma
『西洋骨董洋菓子店』の単行本を映した経緯について答えています。本の選別にもやはり意味があったんですね