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2014年03月16日(日) ■ |
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『シフト』 |
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サンプル『シフト』@東京芸術劇場 シアターイースト
初演は2007年、サンプルの旗揚げ作品でもある。2009年のさいたまゴールド・シアター『聖地』から松井周〜サンプルへの興味が決定的になり、ずっと気になっていた作品をやっと観られた。青年団周りは場所を変えつつ細やかに再演を繰り返してくれるので有難い。
と言う訳で…いーやー面白かった。田舎の慣習ホラー!なんでこー後味悪いのに救済感があるのか。こんなえぐい爽快感あるかー!しかしこの救済感こそが、サンプル作品が神話的だと言われる所以か…あるいは「自然現象」に人間が後から意味付けする、と言った意味での伝承・民話。特に今回は、長女が創作した物語と言う挿話があったので、今迄観たサンプル作品のなかではその要素が明確だった。旗揚げ作品だと言うこともあるのだろう。
人間のブリーディングやリデザインを、土俗的視点から考える。当代の繁栄をもぎとりたいと言う欲深さが、神聖な血を絶やさないためと言う一族の意義にすり替えられる。何世代にもわたり純化させたつもりの血はバグを抱え、さまざまな不良品を作りだす。不良品はゴミとなる。最終的にはあっけなく、一族が不遇となった原因だと信じて(思い込んで)いた資本に再び屈すると言う皮肉。外部からやってきてその慣習に困惑と拒絶を表していた婿が、嫁、叔母、自称ペドフィリアの上司とからみあいはじめる。衣擦れと吐息、喘ぎ声が続く…その「相撲」の幕切れは、外部との接触を断ち自分の世界に引きこもる者たちの安息の光景にも映る。
裏返せばこの「優れた人間を作る」と言う考えは土俗から程遠いバイオサイエンス分野の問題でもある。質のいい生物を作るためのあらゆる試み。それは進化としての現象か、よりよいライフのための手段か。そしてそれらは、突き詰めれば個人の欲望でしかないようにも思える。人間の営みってこんなもの、そのサンプルを観察するかのような体験。
役を自分に当てはめて行くかのような巧みさを持つ役者陣。女優陣がすごくてな…オスをつかまえたメスの行動原理を見るようで肝が冷えた。人間にあって他の動物にないものって理性なんだろうけど、それも所詮後付けだわ…ううう(震える)。そして一見本編から逸脱しているようで、思い返すとその状況の異様さを強化するポイントとなっていた役者の「芸」が、役柄を凌駕する気持ち悪さ。人間の得体の知れなさをより多層的にしていた。古屋さんと奥田さんのキャラクター化はすごかったわ(また震える)。
美術(杉山至+鴉屋)もよかった。センターステージと対面式の客席。客席の後ろの何列かにはぬいぐるみや人形が並べられている。この「後ろに観客以外の何かがいる」感覚は、なんとも言えない居心地の悪さ。人形だと理解していてもなんだか落ち着かないんだよね…向かいの客席にも勿論いて、客席エリアだから照明も殆どあたらないもんだから尚更うすら寒い。動員が増えると使えなくなる手法ではある。空間を贅沢に使える(=客席を潰せる)劇場との相性について考えさせられる。多数の小道具が天井からぶら下がっており、シーンによってそれを外して使う。家庭で使われる日用品、ショッピングモールで販売されている商品の両方を表現する機能的な美術。
いやーホントえぐい話書くわ…上演中ずっと息をつめて観ていたようだ。客電が灯り、ふううと息を吐いてふと横を見る。空席ひとつ挟んだ隣に松井さん本人が座っていた。ヒイーとなった(笑)。
・松井周ロングインタビュー(1) ・松井周ロングインタビュー(2)
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