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2013年12月14日(土) ■ |
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『マクベス』 |
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『マクベス』@シアターコクーン
意欲的な試みに満ちた長塚版『マクベス』でした。好みで言えば好き。しかしその好きと言う思いと同じくらいモヤモヤしたのも事実です。以下ネタバレあります。
センターステージを囲む客席配置、その観客たちを作品中に巻き込む演出。それによって生まれる光景。それはどれも楽しく高揚するものでした。幻影が述べる口上を楽しく聴き、観客が掲げる緑の傘が「バーナムの森の進撃」に変わる光景はとても美しかった。これを舞台写真等で観たひとはなんて素敵なアイディアだと思い、素晴らしい劇空間がそこにはあったのだなと思うだろう。
しかし、その場ではどうだろう。観客たちはクスクスと笑い乍ら、あるいは半笑いでもたもたと傘を掲げる。面白いね、と囁き合う。ドナルベインに席を奪われた観客は、通路に取り残されスポットライトを浴びる。上演中やむなく席を立たねばならない観客は指定された通路を使わないと「うっかりご出演」することになる、と幻影が説明していたが、彼女は「意図的に出演させられた」ことになる。
何が残念だったかって、傘が緑だったこと、冒頭の口上で、傘はあとで使いますよ、例のものを用意しろって言いますから、と言われた時点で「ああ、森か」と気付いてしまったのですよ……。そりゃ『マクベス』で森が動くってのはよく知られている重要なシーンで、でも知ってはいても、それをどう見せるのかなって楽しみにしているとこでもあるんですよね…それを、事前に盛大に説明された感じがしてガーンとね、したんですよね……。
物語は分断され、段取りが常に意識される。作品世界に惹き付けられたのではなく、作品に参加させられたと言う心象が残る。記憶としては、『マクベス』を観たなあではなく、傘を差したなあ、すぐ近くに出演者が座ったなあ(池谷さんがいらっしゃいました。ずーっっと座ったままで、一幕終わりの終わり迄席を立たなかったので「こんな格好してこんなメイクしているけどひょっとして出演者じゃないの?ただの観客だったら何のコスプレ?怖い!」と不安になる程であった)と言う印象の方が強い。これはこれで面白かった。ただ、それ程信用されてないのかなと落胆もする。こういう手練手管を用いないと観客は飽きてしまうだろうと思われているような気すらしてしまう。『LAST SHOW』のとき、長塚くんは「観客を巻き込むプロレスのような舞台」について言及していた。それがこれらのフックを指しているとすれば?これも好みだろうが、『南部高速道路』のフックはとても効果的だった。今回はオーバーワークだったように思う。そういえば『南部〜』でも傘は印象的な使われ方をしていたな。
マクベス夫人に葬られるバンクォーと彼女を看取る医者を同じ風間さんが、魔女たちの主人であるヘカテとマクダフ夫人を同じ池谷さんが演じる仕掛けは面白かったなあ。小松さんのマルカムもよかった。堤さんは自意識過剰な凡人が王になっちゃった感溢れており、魔女に遭わなければよかったのにねと同情してしまいそうなマクベスでした。しかし反面殺陣がやはり見事で、明らかにやる気ない(闘いたくない)態でマクダフと闘ってるのに全くマクダフが勝てる気がしないように見えると言う矛盾がすごく気になりました(笑)ここは意図的なのかどうなのか、観ていて迷った。
実は横田さんと白井さんの役を入れ替えて観たかったところもある。白井さんとてもよかったんですけども、怒りに荒ぶるマクダフよりも思慮深くもの静かなロスで観てみたかった。そしてなんと言うか数多くのシェイクスピア作品に出演している横田さんの実力をひしひしと感じる場面が多かったので…台詞回し、身のこなし。それが逆に浮いて見えてしまう箇所があったのも事実で、これは今回の演出との相性だよなあ。
少しの出番にも関わらず台詞にあっぷあっぷな役者もいた。その都度我に返った。テンパってろれつが回らないと言う演技と、リアルで台詞に振り回されてる様子ってハッキリ区別がつくものですよ……。この辺りは技巧の問題で、巧い役者は逆に噛んでも「役が」噛んだ印象を観ている側に残す。シェイクスピア、翻訳ものの難物っぷりをしみじみ思い知りました。総じて物語には入り込めなかった。でも、こういう形式の公演を観たと言う体験自体は面白かった。
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