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2013年05月11日(土) ■ |
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『アジア温泉』 |
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『アジア温泉』@新国立劇場 中劇場
『パーマ屋スミレ』がとても心に残る作品だったので、観に行くことにしました。鄭義信さんの新作(ベースは『青き美しきアジア』だそう)、演出はソン・ジンチェクさん、日韓合同公演。
と言う訳で『パーマ屋スミレ』と同じ劇場だよねと小劇場に行ったらなんかロビーがまっくらで、上演中のポスター見たら『SADAKO』だったので二重の意味でヒィッとなった…慌てて中劇場へ移動。入るとおおっ、ロビーに露店が連なっております。夢の温泉リゾート!足湯ならぬ手湯や射的、撮影コーナー、お菓子やお茶のお店も。おみやげコーナーもありました。「新国立劇場」と名前入りの法被をきた職員さん?たちが呼び込みをしております。開演前と休憩時間が楽しくすごせました。
しかし開演前と休憩中、そして終演後ではこれら露店を見る目が変わります。ああ、この温泉リゾートはまさしく夢だったのだ。これからもここは夢の場所でしかないのか、それとも?
アジアのどこかにある島に、温泉が湧くという噂。いろんなひとがやってくる。温泉リゾート開発でひとやまあてようと言うひと、故郷で人生をやりなおそうと全てを捨てて移住しようとするひと。しきたりを強く守る島のひとがいれば、その慣習を捨てようとする島のひともいる。セクションは大きく三つに分かれます。土地を断固として譲らないアジョシと彼をとりまくひとびと、土地を買い取ろうとやってくる兄弟。温泉を探してあちこちの土地を掘り続ける三人組。そして彼らを遠くから眺めているようで、実はどこに存在するか判らないリヤカーの男女ふたり組。土地や慣習を巡る対立に呑み込まれる恋人たちはロミオとジュリエットを連想させ、会津磐梯山を唄い乍ら明るい未来への希望を失わない三人組を見ていると、大きな爆発音は噴火ではなく「あの」事故によるものではないかと思い至る。「留守にしている」故郷へ帰ろうというリヤカーのふたり組は、『寿歌』の彼らを連想させます。さまざまなモチーフが鏤められ、生者と死者の心が通い、普遍的なテーマを浮かび上がらせます。
島はどこにあるものか、対立しているのはどこの国のひとたちか、と言うのは具体的に明らかにはされません。しかし、登場人物たちは日本語と韓国語をしゃべり、ひとによっては通訳を介せずともある程度お互いの言葉が解る。このお互いの国の言葉が「少しは解る」ことの意味にも、歴史が深く関係しています。そんな歴史の激流に溺れてしまった者、取り残された者たちを優しい目線で描く。終始笑い泣き。根っからの悪人はいないのです。ひとが悪人になるのはさまざまな問題によるもので、どこかにその問題を解決する方法がある筈だ。その方法を探して行こう。それがどんなに困難なことで、何度挫けても、何度打ちのめされても。志半ばで亡くなったひとのためにも。そんな決意も感じました。発展途上の印象もあり、ポイントになりそうな役が流れていきがちなシーンもあったのですが、これで終わり、ではなく経過として考えることは重要にも思えました。
土地を「札束でひっぱたいて」買い取ろうとする兄カケルに勝村さん、島のひとたちと仲良くやっていきたいと奔走する弟アユムに成河くん。アユムと恋に落ちるひばりにイ・ボンリョンさん。島のひとたちが言ってたようにアユムはひばりを利用しているのではないかと言う疑いをしばらく消せなかった残念な自分。汚れた大人だわ……。そんな汚れた大人たちにもまっすぐ向かって行く訳ですよアユムは!ごめんよ悪かった!死んでから悔いても遅いってのを痛感したよ!あれよねやっぱ周囲の雑音に惑わされず、アユムのキラキラしたまっすぐな瞳をただ信じればよかったのよね!ごめんよおおおおおとアジョシのように反省しました。そしてこの反省は活かさなあかんで…とも思いましたほろり。それにしてもアユムとひばりのカップルかわいくてねえ。ひばりは最初アユムを警戒してるんだけど、アユムのまっすぐさに心を開いていくのよーラブラブになってからのふたりの微笑ましいこと!でも絶対この幸せは続かないよ〜て予感がありありなのでもうその時点でせつない。ああ、かわいかった…かわいそうだった……かわいいそう………。
勝村さんは何が話し合いだよ何が仲良くだよ〜金で言うこと聞かせるんだよ〜てなごうくつばりのヤな人物で、それがまたなんてえの、相手の感情逆なでするのが巧くて巧くてホンット憎たらしくて、うわあある意味損な役回り…役だと思っててもイラッとする…巧いわ……とヘンなとこで感心するくらいだったんですが、後半アユムを亡くしてからの表現が素晴らしくてですね。ああっこれのための前半か!てなくらい。ヘヴィーな場面に笑いをバンバン持ち込む自在っぷりも見事。勝村さんは蜷川さんの懐刀なので(微笑)蜷川さん演出以外で見るのも久々…『ビリーバー』以来で、新国立劇場の作品に出るのも初めてだったとのこと。新鮮に思える箇所も多々ありました。
舞台両袖に衣裳を掛けるハンガーラックと椅子が置いてあり、出番を終えた役者はそこから舞台の進行を見守ると言う構造だったのですが、そこにいるときの勝村さんの姿がとても印象的でした。前半は演技エリアを出ると即ニヤニヤして舞台を見ていて「ああこういうとこ勝村さんっぽい、どんなに極端な役やってても平熱のもうひとりの自分が頭の上から見てそうな感じ」と思っていたのですが、アユムへの思いをアジョシにぶつけて退場したあとはしばらくハンガーラックの陰から出てこなかった。やっと戻ってきて椅子に座ったけど、しばらく顔を覆ったり、俯いて床を見つめたりしていた。それもプランの一部なのかも知れないが(汚れた疑い深い大人再び)、あらゆる人間のあらゆる感情を表現する役者、そして役者という人間というものについていろいろ考えさせられました。…いやその、舞台袖ばっか見てた訳ではないですよ、勝村さんロックオンだった訳では……。
コリアンキャストは多分初見の方ばかりだったと思います。悲しいユーモアをまとったかささぎ役チョン・ジュンテさんが印象的でした。この手の役柄には惹かれる…献身的で自分の感情を押し殺す、人魚姫みたいな人物(涙)。
劇中歌含め舞台には音楽が溢れ、出演者が演奏にも参加します。勝村さんはドラム。中央にセット持ってきてドカドカ叩くシーンがあるのですが、衣裳からしてもう『嵐を呼ぶ男』でした(笑)。成河くんはギター弾いたり太鼓を叩いたりしていましたが、驚いたのは歌がすごく巧い!そういえば最近ミュージカルにも出演していたものなあ。山中崇さんがTp吹けるのにもびっくりしたー。そして朝鮮民謡かな?巫女さんのひとの歌がすごかったな!チョン・エヒョンさん。役名もうぐいす、ぴったり。森下さん(でへへおかきもらった〜)、酒向さん(『パーマ屋スミレ』の大大吉!)、谷川さん(谷川さん!笑)の温泉掘り三人組による客いじりも楽しく、祝祭感覚溢れる音楽劇としても楽しめました。舞台と地続きの客席にもそれは拡がっていく。
千葉さんとちすんさん演じるリヤカーのふたり組の会話。「故郷に帰ったら『おかえり』って言うんだ」「『ただいま』じゃないの?」「『故郷が留守にしていたんだ、だから俺が故郷に『おかえり』って言ってやるんだ」。あの土地のことを思う。いつか帰れること、いつかまたひとびとが集まり、故郷で暮らしていけること。
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