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2013年02月20日(水) ■
『ゼロ・ダーク・サーティ』
『ゼロ・ダーク・サーティ』@TOHOシネマズ渋谷 スクリーン2『ハート・ロッカー』 がアカデミー賞を受賞したときの、キャスリン・ビグロー監督のスピーチを憶えている。VIDEO (ジェレミーとガッシと漢らしいハグするとこがいー!“三人のギャングたち”の喜びようにもジーンとくる) 日々命懸けの仕事に従事する、世界中の女性たちと男性たち。そんな彼らへの敬意に満ちたスピーチだった。ジャーナリスト出身の脚本家マーク・ボールと組んだ『ハート・ロッカー』では地雷撤去に従事する男性たちを描いた。同じコンビによる今作では、ビン・ラディンを追う女性たち、そして男性たちを描く。 乱れた走査線から始まるオープニングはパーフェクトピッチブラックな画面。本国上映では、勿論字幕もない。聴こえてくるのは9.11、ワールドトレードセンターにいるひとたちの通話記録。一瞬これが映画だと言うことを忘れ、当時のことがまざまざと思い出される。あれからたった十年なのか、もう十年なのか。絶妙な導入。 ビン・ラディン殺害に到る迄の経緯と作戦実行の様子が緊密に描かれます。爆発も銃撃戦もあるのに静かに感じた。途中音楽が邪魔に感じたくらいでした(アレクサンドル・デスプラすまん…ちなみにこのひと『アルゴ』の音楽も担当しています)。CIA局員の日常がちらちらと入るバランスもいい。最初はリフレッシュにと外食に出掛けることが出来る、本部での勤務時にはメイクもしている。任務が進むにつれ、後輩からの食事の誘いも断るようになる。前半多かった喫煙者がどんどん減っていく辺りにもこの十年の流れを感じました。CIA局内にもイスラム教徒がいることを示すシーンも印象的。 邸宅にDEVGRUが突入した瞬間、基地で作戦を見守るマヤが一瞬見上げる時計にその時間が表示される。0:30(ZERO DARK THIRTY)。ここからの三十数分はほぼ実際の時間経過だそうだ。男は心臓と頭に銃弾を撃ち込み確実に殺す、抵抗した女も殺す。抵抗しない女と子供は傷付けずひとところに集める。潜伏先にあったHDD、ファイルを回収し、証拠となるヘリを爆破し、あっと言う間に現場を去る。プロの仕事に舌を巻きつつ、“そういうプロ”がいることに改めて言葉を失う。 ハイスクールでのリクルートでCIAに入局、社会人として最初に与えられた仕事は「ビン・ラディンを探し出せ」。マヤはこの十年間、ひたすらこの仕事に打ち込む。同僚に「ともだちはいるの?」と訊かれた彼女は答えに詰まる。その同僚は自爆テロにより殺害される。マヤは監視チームのリーダーに「友人たちのために、私が決着を付ける」と言う。“友人”と呼べるようになった人物は既にいないのだ。チームを率いるようになり、男性同僚から「この指揮権を守り抜け」と声を掛けられ(この台詞にはシビれた!)、初対面時彼女に重きを置かなかった長官からは「適任だったんだな」と言われるようになる。高卒ルーキーのがむしゃら奮闘記でもあるが、その濃密さは想像を絶するものだ。作戦終了後の達成感はとてつもないものであっただろうが、そこに爽快感はなく、ひたすら苦さが残る。「どこへ行くんだ?」と声を掛けられた彼女の涙は、解放感からくるものか、虚脱感からくるものか。ジェシカ・チャステインの無表情はときに冷徹、ときにエモーショナル。 主人公マヤのモデルとなったCIA諜報員はその後昇格もせず、報償も与えられていないと言うニュースが最近話題になった。同シーズンの公開、CIAの活動を追った作品と言うことで比較されることも多いだろうが、『アルゴ』の主人公トニーも数十年功績を伏せられていた。ひと知れず業務を成功に導き、ただひたすらに、自分に課せられた任務を全うする責任感と情熱を持ち続ける人物たちをビグロー監督は撮る。そこに政治的見解はなく、ボールの緻密な取材から得られた状況をひたすら撮る。拷問があった事実を描くがそれの是非は問わない。諜報員たちの精神的疲弊は描くがその説明はしない。逡巡の表情も作戦の前には一瞬で通り過ぎてしまう、しかししっかりと捉え、余計な深追いはしない。終始緊張感に満ちた158分、非常に見応えがありました。 ビン・ラディンが殺害されたのは東日本大震災から二ヶ月弱のことで、正直それ程印象に残っていない。ああ、そうなのか…それ以上の感想を持てなかった。あのとき何があったのか。そこに到る迄、どんなひとたちが関わりどんな話し合いが持たれたのか。ビン・ラディンが死んだことによって、何が好転しただろう。数年後あるいは十数年後、あの邸宅に残された子供たちはどうするだろう。このテキストを思い出した。サリンジャーは2010年に亡くなった。・空中キャンプ『私たちまだ死んでない』 ----- ■ところで 字幕、CIA長官の台詞だけがべらんめえ調だったんですが何故だ…実際そういう喋り口調だったのだろうか、そこんとこ英語堪能なひとに教えてほしい(笑)