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2013年02月23日(土) ■ |
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『ホロヴィッツとの会話〼』 |
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『ホロヴィッツとの会話〼』@PARCO劇場
オープニングの映像や宣材でタイトルの後についていた「〼」がかわいかったのでこっちでもつけちゃう。しみじみよかった〜。いいホンを巧い役者が乗りこなしたときのドライヴ感!
歴史上よく知られている人物と、その人物の陰で忠実に働いた人物の間にはどんな言葉が交わされたのか?当事者しか知り得ないあんなこと、こんなこと。会話によって浮かび上がる不在の人物。その姿、その人生。史実から想像力を膨らませ描かれたある一日を、観客にもおすそわけ。三谷さんが得意とする作劇法ですね。
天才ならではの感覚の鋭さがハッタリではないことを示し(水のこともそうだし、近所でピアノを練習している子の特徴を言い当てるくだり、性別以外はドンピシャに違いないよね)、あ〜このヘンクツっぷりはホンモノならではだな〜と思わせられるホロヴィッツ。実際彼にとって、音楽以外の生活は妥協だらけ、本人の言葉を借りれば「私が我慢すればいい」ことだらけで、生きにくいことこの上ないのでしょう。そうやって一所懸命生きている姿が垣間見られて憎めない。妻ワンダはそんな扱いにくい夫をたしなめ、律し、おだてて叱る。どんなにダンナに毒づいても、その言葉の裏には「このダンナにこれだけ向き合えるのは私だけだ」と言う確固とした誇りを持っている。周囲はそんなふたりに気を遣い、ときにはハンマーで殴りたくなりつつも、敬意と愛情を持って接していく。
このホロヴィッツ夫婦を演じる段田さんと高泉さんがもー、もー。ぴーとさんの「ハブ対マングース」と言う表現に大ウケしたんですが、ホントすごかったわー。高泉さん、音楽活動もあるし、ご本人のポリシーか、特殊過ぎて(誉めてる)キャスティングが難しいのか判らないけど(いや両方だろう)なかなか客演で観る機会がない気がするのね。ご本人主宰以外の公演で観たのって多分『エレファント・バニッシュ』以来だし…これからどんどんいろんなところで観たいなあ。誰か!演出家の方!お願いしますよ!って、それは高泉さんが決めることだが。
和久井映見さんは普段聴いている声とは全く違う発声で一瞬戸惑ったのだけど、舞台として、翻訳ものとしての声と了解出来てからはとても魅力的な耳馴染みになりました。また舞台で観たい!そして渡辺謙さん。妻やマエストロへの受け答えで兄のようになったり、父のようになったり。信頼出来るパートナーでもある相手との関係性を浮かび上がらせ、終盤のモノローグでその人物像が育まれた過程を見せる。この告白のくだりはちょっとだけとってつけた感が否めなかったのですが、そう感じさせない渡辺さんの「聴かせる力」は素晴らしかったです。
偉業と名声の裏で、当事者たちの心にそっとしまわれた悲しい出来事、当事者にだけしか理解し得ない幸福なやりとり。心がじわりと温かくなる終幕を噛み締めつつ、足取り軽く劇場を後にしました。
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