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2011年05月28日(土) ■ |
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『藤城清治 自宅スタジオ展』 |
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『藤城清治 自宅スタジオ展 ―生きるよろこびと幸せの展覧会』
洗足駅から、ひと通りの殆どない静かな住宅街をてくてく歩く。雨だけど気持ちがよい。ぽつぽつすれ違うひとの手にはあの小人のシルエットが描かれた紙バッグやビニールバッグ。最後の角を曲がってしばらく行くと、穏やかなひとだかりが出来ていた。自宅スタジオ展は二十年振りとのこと。
入場すると即左手にふくろうがいて驚いた。藤城さんが沢山のどうぶつを飼っていることはよく知られていますが、そのどうぶつたちが普通にいてビックリ。ぎゃ、ぎゃわゆい……いぬ(サルキー犬)とか、階段の下にべろーんとへばりついてくつろいでいて、二階から下りてきたとき踏んづけそうになったよ!ふくろうとねこ、ブルーボタンインコはケージに入っていましたが、ワライカワセミといぬは部屋のなかに普通にいてさわれる。かわせみは止まり木に繋いであったのかなあ。あんなに近くで見たの初めて。思ったよりおおきい、羽毛ふわふわ。途中あの独特の声でワカカカカ!と鳴き出して、絵を観ていたひとたちがすっとんで行ってた(笑)。
そのどうぶつたちの歓迎に加え、チケットには撮影禁止とあったのにいざ入場してみれば撮影オッケー、ふるまいカルピス等もありとてもオープンな雰囲気。自宅でもあるので、ところどころに仕事や生活の名残が見える。「自分が住み、使いなれた自宅スタジオでなければ出来ないことや見せられないものもあると思った」と言うコメント通り、ある種の生々しさも感じました。展覧会のサブタイトルにある「よろこびと幸せ」。それと表裏一体の、作品を生み出す凄絶さ、真摯さがぽんと置かれているかのよう。どちらも地続きで、どちらが欠けても嘘。だからどちらも隠さない。全部見せる、それが自然、と言う感じ。
代表作60点に新作40点以上。太田光さんの小説『マボロシの鳥』を絵本化した原画は、展覧会が幕を開ける四日前に完成したとのこと。このサイズの絵を、三ヶ月で、40点。「制作途中で日課だった朝夕の血圧測定を止めた。体調に気を遣っていたらいいものが作れないと感じた」と言うコメントがありました。そ、それは……と心配になる反面、この87歳とは思えない創作意欲と、作品制作へ心身ともに注ぎ込むパワーには圧倒されるばかり。実際その過程が目に見える。剥き身のカミソリを素手で持って、厚手の紙をザクザクと切っていく。結構な力仕事だ。若い頃の作品とはその線の切れが違うのが見て判るのだ。スパッと切る、と言うより、紙をひきちぎらんばかりにカミソリをひいたかのような毛羽立ちが目立つ。それでも絵の緻密さ、豊穣な色使いは以前と変わっていない。荒々しさと瑞々しさが同居する今の作品には、まだまだ先があると感じさせられるものばかり。
以前展覧会で観たものもかなりあったが、それでも原画を目に出来る嬉しさはいつでも新鮮。いつになっても新作が楽しみ。いつになっても過去の作品の輝きが失われない。光と影のなかで小人たちが、ねこが、少女があの印象的なまっすぐな黒目でこちらを見詰めている。その目にやはりまっすぐ対峙出来るような人間でいたいと思う。
自画像やペットたちを描いたデッサンや水彩、油彩画もあり、藤城さんの暮らしが透けて見えたのもなんだか楽しかったです。いやはやホント、ここ迄見せてもらえるなんて。行ってよかったなあ。
自宅故ハッキリとした順路がある訳ではなく、しかも激混みだった(物販コーナーはラッシュ時の山手線みたいになっていた。諦めた……泣)ので狭い通路が埋まってたりして、入り損ねた部屋があるのに後で気付く。ガーン軍艦島や桜島のセクション観てない…あったんだ……ショック。平日にまたゆっくり行けないかなあ。
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