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2010年12月27日(月)
『乾いた花』『30th Anniversary<おメトロ祭り>オーラス2010』

『乾いた花』@新文芸坐

『さらば、二枚目スター 池部良さん お別れ上映会』の中の一本。先日武満徹トリビュートで聴いた音楽が凄まじかった『乾いた花』が上映されると言う絶好のタイミング。これを映画館で観られる機会はなかなかないでしょう!

と言う訳で出掛けていくと激混み。平均年齢60歳↑かな…立ち見も出ていました。ロビーには献花台も用意されており、往年の池部さんファン、映画ファンが押し寄せた感じ。すごいー。早めに行ってよかった…。

かなり傷んだフィルムですと断りがあったのですが、それがまた1960年代のモノクロ映画を今観てる!とテンションあがる要素になったりして。いやしかし格好いい映画だった…池部さんも加賀まりこさんも格好よかった……。池部さんはすごいメイク濃かったんですが、モノクロ撮影のためそうしたのか、ご自分の演技プランのうちだったのか?この時40代半ばだったそうですが、役の年齢は30代だったそうなので。

あたりまえなのだが、自分が知っているその姿よりも皆さん若い。そして粋。加賀さんがもう!ちょー美しい!小悪魔!当時のファッション、ヘアメイクも堪能。佐々木功さんがチンピラの役で出ていたんだけどちょーかわいかった…ハーフの子みたい。このひとがその後宇宙戦艦ヤマトのうたを……。そして竹脇無我さんがワンシーンくらいのちょい役で出ていた。モノクロならではの陰影と、撮影アングルに凝った映像美も素晴らしかったー。

で、音!花札をカチカチと切る音からタップ音に移行しホーンが炸裂する。うわーこれかー!先日オーチャードで聴いたものは木板のタップボードでしたが(熊谷さんは基本木板の上で踊りますし)こちらは多分リノリウム。花札のトーンと合わせてあるのでしょうが、効果音と音楽の自然な融合であり乍らちょーアヴァンギャルド。ストーリーに並走し、要所要所で爆発を起こすその緊張感!いやあすごかった…大友さん有難う、すごいもの聴かせてもらいました。

そして驚いたのが、終盤の見せ場で「ディドとエネアス」のアリアが使われていたこと。これ、菊地さんがPTAでもやってるオペラです。知らなかったのでビックリした!こんなところでも繋がっていたのか。

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上映後に篠田正浩監督のトークショウ。進行も立てずおひとりで話されたので講演会のよう。どこ迄書いていいかな…(苦笑)政治的な話も盛り沢山。以下大丈夫そうなところを箇条書き。

・原作は石原慎太郎の短編。今石原はマンガにおけるセックス、過激な描写を取り締まろうなんてことしてますがね(笑)これ(『乾いた花』)なんか、当時映倫にひっかかってお蔵入りになっちゃったんだよ(8ヶ月干された後に公開され、ヒットしたそうです)。博打のシーンばっかりで、背徳的だとか言われて

・これは成人指定だろう、上映出来ないって言われた。そしたら石原が「篠田を叱る会」って題した試写をやろう、マスコミに見てもらおうと言い出して、上映会をやることになった。1963年12月12日。開始後数分もしないうちに記者がどんどん出て行く。なんだよ観てくれよとひとりを捕まえると、「小津安二郎監督が亡くなったそうなんです」……忘れもしない

・池部さんは舞台『敦煌』で失敗して休んでいたところだった。プロンプがついていたのに台詞につまって立ち往生してしまうことがあって、降板して落ち込んでいた。そこに私が『乾いた花』に出演してくれないかと交渉に出掛けて行った。池部さんは「皆俺のこと何て言ってるか知ってるか?」と言い、私は「はい、池部は三行以上の台詞は憶えられない、と」と答えた(笑)「そんな俺に何で出演依頼に来るんだ、ひやかしか?」「映画監督は出演者と心中するつもりでいつも撮っています。ダメな映画になるような俳優に出演を依頼するなんてことは有り得ません」

・そして池部さんは台本7ページ分の長回しを一発で決めた。台詞がふたことみことの加賀まりこの方が噛んじゃったんだよ。緊張していたんだね。しかし二回目にOKを出した

・池部さんはいろいろとプレッシャーもあったのか、撮影中どんどん痩せていった。「映画は疲れるねえ、俺痩せちゃったよ。ベルトがこんなにあまってる」と言う池部さんの前に跪いて、衣裳部から持ってきた裁ちバサミであまった部分を切ってやった。あれはホモセクシュアルのような気持ちだったな(笑)でもそれくらい信頼関係と言うか絆があった

・池部さんは「いるだけでいい」俳優。脚は長いし立ち姿もいい、絵になった。この才能は努力して得られるものじゃない。台詞は練習すればいいけど、あの存在感はね。彼は最初東宝のシナリオ部にいたんですよ。でもあの姿、ほっとける訳がない。俳優になれと引き抜かれた。彼が来ると、撮影所の女性が皆見学に来ちゃうんだよ

・音楽は武満徹と高橋悠治。花札の表面にはロウを塗ってあるので、切るとカチカチ音が鳴る。そこから映画が始まる……武満はクセナキスの作曲法をやってた高橋と組んだ。高橋は数学で作曲するんです。ドレミで表現出来ない音楽をやりたかった。読売交響楽団で、芥川也寸志の指揮で録音した。芥川は東京芸大(当時は東京音楽学校)出でガチガチのクラシック畑の人間だったが、やりたいと言ってきた。譜面に起こせない曲をどう指揮して録音したか?ストップウォッチを持って時間を計り乍ら、腕を時計の針に見立てて0秒、15秒、30秒、45秒…とカウントしていったんだ(笑)

・この話はこの夏にボストン大学の映画芸術のクラスで話してきたばかり。あの花札、任天堂が作ったんだって話した(笑・冗談かと思ったけど、任天堂は実際に花札も作ってるそうなので本当の話かな?)こんなに年数が経っても、彼らの音楽は外国でも興味を持たれ研究されている

・池部さんと原さんのディープキスのシーンね、実相寺監督に「篠田…てめえこのやろう」って言われたよ(笑)と言う訳で原さんがいらしてます

原知佐子さん(実相寺昭雄監督夫人)が飛び入り、会場がどよめく。

篠田●実相寺監督はTBSのもうエラいさんなのに、松竹ヌーヴェルバーグにすごく興味を示してましたね。それで僕らとも交流があった。しかしあのシーンのことは(笑)言われたなあ
原●まあ、暗くて殆ど映ってませんけどねっ。まーそれにしても今観ると自分でも気持ち悪いくらい声が高いわね(笑)でも、池部さんはねえ、本当に素敵な方で
篠田●あらっ。(実相寺監督に)言いつけちゃうぞ
原●もういないから…
篠田●いや、俺ももうすぐ行くからあっちで
原●あら、それでは宜しくお願いします(笑)
篠田●あの頃一緒に映画を作ってた連中は皆死んじゃったなあ。私も来年80ですからね(どよめき)

人生の先輩方の粋な会話ににっこり。こういうふうにカラッと自分の行く末を話せるようになりたいものです。いやでも篠田さんも原さんもまだまだお元気でいてくださいね。ふたりとも実年齢聞くとビックリするくらいシャキッとされていて格好よかったです。

その他、東宝と松竹のスタジオの違いとか、五社協定、文芸プロダクションにんじんくらぶ等当時の話が沢山聴けました。面白かった!

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『30th Anniversary<おメトロ祭り>オーラス2010』@O-EAST

『PAST FUTURE ANIMATORS STANDS ON GAIA』CAPTAIN YEARS ANTHOLOGY BOX発売記念、30周年記念のしめくくり。いやはや4時間やりました。それでもずっと通して瑞々しいヨタロウさんの声、素晴らしい!七色の声とよく言われますがその表情の変化も衰え知らずです、ホントすごいわ…今回の一連のリイシュー作業やら何やら大変だったでしょうに、ライヴの進行もざんざか務めて文字通り八面六臂の活躍。メリィさんが「今年の活動はひとえにヨタロウ氏のがんばりです」と仰ってましたよ。そういうメリィさんも『STANDS』ジャケ写の衣裳とか着てんだよ!何それおなおしなし?すげー!「でもきっと脱ぐのが大変」だって(大笑)

OAにはお祝いに駆けつけてくれたいろいろな方たち。GUNちゃんと西村さんによる面影兄弟「おみそしるあっためてのみなね」も聴けました(笑)一色さん率いるジャック達のMCのユルさと演奏のギャップに驚いたりしつつ、青山さんがグランドファーザーズで出たのにキャーとなり、さあいよいよ本編です。

「30周年を迎えますます混迷を極めるメトロファルス、どんなバンドなんでしょうねまったく」。ホントにね…こうやって新旧曲一挙に聴くとわけわかんなくなるよ(笑)チャバネ(かわってねー。てかライヴで叩くの観られたの初めて!すっごい歓声飛んでたよ)とバカボン(バリバリトニー・レヴィンルックで来たよ!)のリズム隊を聴けたのも嬉しかった。彼らが加わってやった「Beating Drum」「Harvest Moon」辺りはもーバリバリのどプログレですんごい格好いい!「こんな曲をね、バンドブーム真っ只中にやってた訳ですよ。誰もついてこないよね」なんて言うヨタロウさんに「ずっとついてきてるよ!」とフロアから声が飛んだのも微笑ましい。

ニューウェイヴ時代あり、プログレ時代あり、ケルティック時代あり、ヨタロウさんの演劇仕事(松尾スズキ、井上ひさし)の曲もあり。それらが同列で演奏されても違和感がないメトロファルスマジック。4時間で網羅出来る筈ないわな、あっと言う間に時間は過ぎた。ホント唯一無二のバンドだわ…ヨタロウさんの声の力は勿論大きいけど、それをメリィさんとGUNちゃんの柔軟な演奏力がバッチリ支えているからと言うのもあるだろうな。そして当時ならではのシンセの音も、今鳴ると懐かしいと思いはすれど古いとは感じない。しかしAKIさんも仰ってたけどバカボンが入った時の安定感は半端なかったですわ…この時はGUNちゃんもギターに戻ってのびのび弾いてたような感じがしました。うーん、いいもの観た。バカボンヴォーカルの「ですぺらWALK」も聴けたし!(泣)

ゲストは続々、良明さんも上野洋子さん(今回は本人名義で来たね・笑)も!音楽を手掛けたアニメ『それでも町は廻っている』からも紺先輩(矢澤りえかさん)が駆けつけて、唄うわ演奏するわ、カオスのステージ上。ヨタロウさん気配りの鬼と化し皆の見せ場を作る。BOSSIさんの娘さんもコーラスで登場、「小学生の頃から知ってるよ」。バンドに歴史あり。「宵闇峠地五郎変化」恒例闇鍋アドリブ合戦では、初参加の青山さん目が泳ぎまくり顔がちょー真顔になる(笑)しかし弾き出せばもーそりゃ格好いい演奏。ここらへん年季と言うかどんだけ場数を踏んでるかがものを言いますね。メリィさんなんかワンコーラス毎に新旧ロックその他の名曲フレーズを織り込みまくり、それがスムーズに音に融け込んでいく。引き出しの多さとスキルの高さに脱帽。サラッとこんなんやられた日にゃあ…ああなんて贅沢なんだ!

アンコールになってからも、コクーンでのリハを終えたくものすカルテットの面々の飛び入りが。ここらへんステージでヨタロウさん「来たの!?」みたく驚いていた(笑)長年やってるからこその人脈と人徳ですなあ。昔からの友人たちもいれば、最近参加するようになったひとたちも。愛されてるなー。ここにHONZIもいてほしかったな。きっとあっちから観てくれて、ヴァイオリンを弾いてくれてたよねと夢想するくらいは許してもらおう。いつかは皆あっちに行くけど、まだまだメトロのひとたちにはこっちにいてほしい。もうちょっと待っててね。

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