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2010年12月14日(火)
『武満徹トリビュート〜映画音楽を中心に〜』続き

『武満徹トリビュート〜映画音楽を中心に〜』@オーチャードホール

15分の休憩を挟み、片山さん、大友さん、菊地さんのトークショー。大友さん、やりきった!って感じでぼんやり気味でした。いい顔してらっしゃいました。で、トークの方はと言うとこれまたピットイン仕様で、もう脱線脱線、誰か仕切ってくれ!(笑)しかしその脱線話が面白いんだよね…片山さんがなんとか修正、ハタと菊地さんが進行役を。

菊地●おおともっちは武満作品、何が最初だった?
大友●僕はよくある、NHK-FMの『現代音楽のゆうべ』(『現代の音楽』のことらしい)
菊地●それ全然普通じゃないよ(笑)
大友●えっ、そうかな?
菊地●普通じゃない(笑)片山さんは?
片山●それこそ『怪談』なんだけど、音にやられてだんだん具合悪くなっちゃって、まさにさっき演奏された「耳無し芳一の話」の前辺りで卒倒しちゃって担ぎ出されちゃったの(大笑)。ちゃんと聴けたのは数年後ですね
菊地●武満作品って、ドラマや映画の音楽もいろいろやっていたから、知らないうちに聴いてるよねきっと。俺は実家の近所に映画館があったから、それかな。ビートルズ前夜だよね。ビートルズ以降、ロックはこどもが自分のお小遣いとかでドーナツ盤を買いにいける、直接音楽にアクセス出来るようになった。でもそれ以外は映画音楽を通してアクセスしてた。映画音楽が全て。現代音楽、ラテン、ジャズ、歌謡曲……そういうのがごちゃっといっぺんに入ってくる。その原風景みたいなものが、今回のトリビュートの自分のパートには反映されていると思う

とまあこんな感じ。他にもいろいろ面白かったんだけど何せ脱線が多いのでまとまらん…大友さんと菊地さんが話すと男子中学生のヨタ話と妙齢の女性の井戸端トークみたいになるよねー(笑)。

さて第二部、菊地セット。本人曰く「黛敏郎の『題名のない音楽会』」な趣。それにしても…初心者を連発して謙遜しておられましたが、あの編集力は流石です。武満作品への敬意が伝わる、刺激的なステージになりました。曲毎の解説も気が利いていて、前述の「原風景」をマッシュアップと言う形で表現したのだとすんなり受け取ることが出来ます。力業のようでいて見事に武満トリビュートに昇華されており、菊地作品の秘密を探るヒントにもなる。「菊地成孔を通した武満徹作品」と言うプレゼンテーションとして成立しており、非常に興味深いものでした。

「クロス・トーク」でのバンドネオン譜がプレイヤーからしても無理がない運指になっていることから、ちゃんとバンドネオンに触った上で作曲しているのだろうとか、「コロナ」の図形楽譜(この日使われた図形楽譜は、こちらで紹介されているものとちょっと違うもので、長方形で1枚1色、5枚分でした)を「戦隊ものみたいなんですよね…ブルー、レッド、イエロー、グレー、ホワイト…」とか、お話も面白い。難解にもとられそうな武満作品に楽しく接することが出来て、こちらもニコニコ。テープ演奏のパートをCDに焼いてCDJで操作したり(「クロス・トーク」)、「これをエレクトリックピアノで演奏するのって、多分初めての試みではないでしょうか」(「ピアニストのためのコロナ」)と、アップデートにもそつがない。

お話と言えば、『怪談』とマッシュアップした『砂の女』のストーリー説明がふるってたよ。「砂丘がアリ地獄みたいになってて、滑り落ちちゃうんです。落ちた底には家があって、な〜んと岸田今日子さんが住んでるんですよ!で、岸田今日子さんと一緒に暮らさなきゃならなくなるの!こわいでしょ〜っ?」…いや、菊地さんが言うとすごく楽しい映画に聞こえるよ……。

武満さんが最初に感銘を受けた音楽ジャンルはシャンソン、と言うところからの「枯葉」や、武満さんとおない歳のゴダール(『アルファビル』)、エッセイに登場した映画(『8 1/2』)、武満作品(『他人の顔』)とワルツ3曲の再構成は一見混沌としているけれど、そこから浮かび上がるのはどーしよーもなく菊地成孔。楽曲だけでなく武満さんのバイオ、著作にも及ぶこの探求+まとめっぷりを一ヶ月でって…逆にすごいわ。それがPTAメンバーの演奏で聴けるってのも嬉しい!

本編最後に演奏された「L.A., New York, Paris, Rome, Helsinki」はもともと『ナイト・オン・ザ・プラネット』のために作られたものの、ジャームッシュ監督に却下された曰く付きの曲。「ジャームッシュの公式な声明は出ていませんが、『映画が負ける』と言ったって話もあるとか。晩年の曲ですが…まるでこどもに返ったような無邪気さを感じますね」。ハープとマリンバが交互に響き、美しいメロディがゆったりと流れる。降るような星空を眺めているみたいな気分(外は雨だったけどね)。そんでその星空って冬の夜空なんだけど、心のなかはあったかーくなるような曲と演奏。いい夜。

大友セットの「乾いた花」にもA-Saxで参加した菊地さんのことや、かつて「コロナ」を演奏、発表したジム・オルーク(このインタヴュー面白い)が大友セットに参加していたことや、ストリングスアレンジを手掛けた江藤直子さん(大友セット)と中島ノブユキさん(菊地セット)の仕事っぷり等、ホンット豪華メンバーの盛り沢山の内容だった故言及しきれてない箇所がいっぱいありますが勘弁してー。きっとどこかに詳しいひとがもっとちゃんとしたレポートを書いてる筈!探してください。私も探します。ひとの感想が読みたい。

あーホント面白かった。何度も言うが再演の機会があるといいなー。